第36話 月夜に釜を抜かれる
日は流れ、筆記試験10日前、つまり実技試験の役職指定締切3日前となった。
最初はこのメンバーでどうなるのかと思っていたものの、今や1つのチームとして強い結束力を感じている。
アルマもルイの成長も順調の一言。魔法の扱いは2人とも予想以上の成長を見せてくれた。特にアルマの魔弾魔法は命中率と共に、威力も格段に上昇。
ルイも魔眼による魔法は然る事乍ら、防御魔法は著しく成長。鉄壁と言って差し支えないほど、強靭な防御魔法に変化しつつある。
あの入学試験を突破するだけはあるってことか。
やはり魔法の才能は、原石の塊だ。
勉学もかなり苦労しているようではあったものの、過去問を解いてみても2割は確実に取れるようになっている。目標の3割…いや4割には届かないものの、すでにその学力はEクラスのレベルなどとうに超えている。
順調だ。
順調すぎると言ってもいい。
2人とも俺の期待通り、いやそれ以上に努力してくれている。ここまで頑張ってくれるとは正直思ってなかった。ありがたい……。
これだけの実力をつけてくれた2人なら、俺の背中を任せるのは十分。
これでやっと実技試験に安心して挑めるってものだ。
良かった。良かった。
ただ……順風満帆と言う言葉は、案外コロッと風向きを返してしまうものだと……俺は知らなかったのだ。
異変……
それは前ぶれなく、唐突に起こった。
毎日練習に使用している学園内の魔術練習場。
既に午後の授業が終了し、時刻はいつもの集合時間となる。普通であれば俺が待っていると、競うようにしてアルマとルイが走って来るのだが……
その日はアルマの姿がなかった。
「ルイ、アルマ…遅いみたいだけど、何かあったのか?」
「ふ、ははっ、我が知っているわけないだろう。普段は一言も会話をしないのだからな!がーはっはっは!」
「会話しろよ。同じチームの仲間だろ?」
「ふっ、何を言っているのだ!同じチームである友であり、同時にライバル!話す必要などないわ!」
何を言っているかよく分からないが、一応友達って言う認識はあるらしい。
あれか……、複数の人といるときは会話するけど、2人になった時は会話しない関係…みたいなやつか。
俺的にはもっと2人には親しくなって欲しいんだがな……。
まあ、逆にその距離感だからこそ2人は上手くいっていると言えるのかもしれない。
互いにライバル視しながら、競い合う関係。
今までその片鱗を何度も見てきたが、利点はきっと多い。
「とりあえず…ルイはアルマがどこに居るか分からないんだな」
「左様。どうせ用を足しにでも行っているのであろう。ちょっと遅刻したくらいで、気にすることではないわ!」
「それはそうだな」
「うむ。それより我の魔法を見て欲しいのだ。その名も陽炎座!我が魔眼の陽炎を利用し、神に到達せんとする防御魔法!」
ルイはグッと胸を張ると、新しく開発したであろう防御魔法を展開し俺に見せつけてきた。
……なるほど。魔眼の魔法を防御魔法に応用したのか。面白い。
ホント……成長は留まるところをしらないな。
ただ……
それから何分…何時間……経とうと
アルマは姿を表さなかった。
★
次の日、試験練習時間開始時刻。
やはりそこにアルマの姿はなく、ルイだけがいつも通り僕のそばでストレッチしている。
やはり…これはおかしい。
アルマは遅刻するような人間では今までなかったし、ズル休みをするような人間柄でもない。丸一日休むならば、事前に言っておくか、今日すぐにでもこの場所に駆けつけて謝りそうなものだ。そのくらいの人としての道理は通す人間である。
まだ互いを深く知るような関係ではないものの……
それだけは分かる。
「ルイ、アルマ今日も来ないと思うか?」
「むぅ……何とも言えぬな。全く…役職決定の締切日も近いと言うのに、あやつは何をしているのだ?」
「教室で変わった様子とかはなかったのか?」
「いや……我にはいつも通りに見えたな。何ら変わらず低能そうな愚民集団に混ざって談笑している様子であった」
どうやら、明らかな変化などはなかったらしい。
う~ん、困った。
役職の決定を行うために、今すぐにでもアルマとルイの現状の実力を正確に把握しておきたかったのだが……来てくれないのでは計りようがない。これで更に勉学を疎かにされたらたまったものじゃないぞ。
アルマにはまだまだ成長してくれないと困る。
それに役職が決まれば、その役職としてどう動くか、どう魔法のタイミングを合わせるか、どうチームメンバーと連携するのか……などなどこれから打ち合わせをしなければいけない点は多い。
むしろ役職を決めてからが実技試験の本番であると言ってもおかしくない。
締め切りまであと二日。
今日は来ると信じてルイと二人で、魔術の勉強に励むのもいいが……
来なかった時の痛手が大きすぎる。
今日を逃せば、あと1日しかないのだ。
一日で魔法の実力を見て、筆記試験の実力を計って……
と悠長にしている時間などない。
くっ……まさかこんな状況になるとは思ってもいなかった。
役職決定を締め切りギリギリまで、行わなかった俺にも非はある。もちろんこのリスクを考慮していなかった訳じゃないし、デメリットも重々承知していた。
すぐに役職を決めたグループは、実技試験までの時間を全てチーム練習の時間に削くことができる。
それに比べ俺らは役職決定を最後まで引き伸ばしていた分、個の練習しかできていない。
これからチームとして、全体として、学び練習を重ねる必要性が非常に高いのだ。
これからの練習の質が、実技試験に直結する。
それだというのにアルマの練習離脱。
これはあまりにもデカすぎる痛手だ。
原因はなんだ?
体調不良?
いやそれはルイがいつも通りの様子と言っていた以上、あり得ない。
何か練習を休まなければならないほどの用事があった?
いやそれなら、一言あってもおかしくない
練習する気力が無くなった?
それなら予兆の一つあってもおかしくない。前日まであんなにも共に必死で、魔法練習を頑張っていたんだぞ。
本当に何なんだ?
こんなことになるだなんてまったく……チームメンバーへの注意が足らなかったってことなのか?
リーダーとして失格じゃないか。
とにかく……
待ってる時間はなさそうだな……
「よし、ルイ。残念だけど今日の魔法練習は中止だ」
「なぬ!?」
「今からアルマを探しに行く」
その言葉を聞いたルイは驚きの表情を浮かべながらも、どこか納得している様子であった。




