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第2話 月に叢雲、花に風

ガララと虚しい音が教室に響く。

それと共に一人の女性が、教室の中に入ってきた。


身長は180程と高く、長い黒髪を後ろで縛っている。

目付きは鋭く、雰囲気だけで威圧感を心做しか感じた。


彼女は表情一つ変えずに鋭いヒールをカツカツ響かせながら、黒板の前に足を運ぶ。

そして持っていた分厚い魔術本と思われるものを、勢いよく教壇に叩きつけた。

教室は静かなこともあり、その音は妙に大きく聞こえる。



「まずは入学おめでとう。私がこれから君たち『S』クラスを担当することになった、ヨイだ。ヨイ・シェアト。以後よろしく頼む」


彼女ははっきりとした口調で言うと、俺たちに頭を下げた。


シェアト……!?


俺はその名を知っていた。

と言うか知らない奴など、この学園にはいないだろう。


シェアト家と言えば、国王の側近を務めている魔術師の名家中の名家。

そして今目の前にいるのは、その現シェアト家、当主ヨイ。

超が着くほどの大物だ。


まさかこれほどの存在がクラスの担任を行うとは……さすが帝国立魔術学園。

次元がちげぇや。


だが…そんな大物の登場にも関わらず、他の生徒は一切の反応を見せない。

まるでそれが当たり前かと言うかのような様子。

目を合わせることさえしていない生徒すらいる。


なんだこの空気感の差は……。

もしかしてこれが田舎と都会の差なのか!?

それとも凡人とエリート魔術師たちの差!?



「さて既に知っていると思うがこの学園は、入試の成績順に6クラスに分類されている。下からE、D、C、B、Aそしてこの『S』クラスである」


え?


「つまり君たち『S』クラスの生徒は入学試験において特に優秀と判断され、これからの魔術の発展において大きな影響を及ぼすと認められたと言うこと。よって『S』クラスが創設されたのは、実に50年ぶりの快挙だ。加えてこれほどの才能のある魔術師が一度の年度に二十人もいることなど……歴史に類を見ない。私もこのクラスの担当となれたことを嬉しく思う」


ん?ちょっと待て……は?


聞いてないぞ。


つまりこの『S』クラスには試験に合格しただけでなく、その中でも飛び切り優秀な奴しかいない!?

さらに50年『S』クラス自体無かっただと!?


つまり『S』クラスレベルの魔術師は、50年出ていなかったと言うこと……。

もうエリートとか、そう言うレベルじゃねぇじゃねぇか!


あれ俺、クラス間違えた?

俺がそんなクラスに入ってる訳ないだろ!


いや、けど確かに、何度確認しても俺はこのクラスらしい。


何でだ……入学試験、俺全然解けなかったんだぞ!

少なくとも『S』クラスではないだろ、おかしい。

絶対おかしい。


ただ俺の思考が追いつくのを待ってくれる訳でもなくて、女性は淡々と言葉を続ける。


「ただ『S』クラスだからと言って、努力を怠らないように。3ヶ月毎に行われる試験の点数によって、実力に見合ったクラスへと編入が行われる。次のテストで『S』クラスに満たない実力であると判断された者は、他クラスへの編入というわけだ。また赤点は即退学。この学園の試験は特殊だから、舐めてたら『S』クラスだろうとすぐに退学になる。気を付けておくように」


は?赤点は退学?

マジかよ……怖っ。

あんなに村全員に送られたのに、退学で村に帰るとか地獄だぞ。


あとなんでこんな恐ろしいことをベラベラ喋られてるのに、誰一人動揺してねぇんだよ!

感情ねぇのか!


「そして、この学園にもう1つの制度が存在する。君たちに配当された学生証には、ある番号が記載されているはずだ。これは君たちがこの学園の同学年において、魔術の実力が上から数えて何番目であるかが示されてる。この『S』クラスの生徒たちにも例外なく1〜20の順位が記載されているはずだ」


へぇ……順位が書かれてるのか。

まあそういうことなら俺は間違いなく20だな。


奇跡で合格した俺は、200とかそこら辺のはずなのだが、何かのバグで『S』クラスになった。

とりあえずそう言うことにするなら、そういうことなのだろう。

見る意味もない。



……とそのとき、唐突に


ガシャン


と大きな音が教室に響いた。


何事かと見ると、机が床に転がっている。

その机を蹴ったと思われる一人の少女が、肉食獣のような険しさでヨイを睨んでいた。


「なんで私が8位なのかしら?納得できないのだけれど?」


明らかにその語気には、怒りの感情が含まれている。

雪のように白く長い髪の間から、鋭い牙のようなギザ歯が見えた。


いきなり机蹴り飛ばすとかヤンキーかよ。

興奮しすぎでしょ。順位とか、どうでも良くね。

ま、それは俺みたいな凡人の考えか。


魔術師とかは血統とか、プライドとか拘るからなぁ。

めんど。


ただヨイは一切の変化なく、淡々とした口調で返答する。


「シャウラ・ムリフェンだったか?私も君の名前は聞いたことがある。ムリフェン家千年に一人の逸材と、そう呼ばれてるそうじゃないか。けれど残念ながら、この順位は正当なものだ」


「つまりこの部屋の中に、私より優秀な魔術師が7人もいると?冗談でしょ。笑わせないでくれる?」


「冗談を言ったつもりはないが……ただこの順位はあくまで入学試験での結果だ。そこまで文句があるのなら、次の試験で実力を示すことだな」


「試験の結果によって、順位は変動すると?」


「当然そうだ。これからの試験において、クラスと同様にこの順位も変動する。また他に手立てによって、順位を変更することも可能。生徒手帳にかじりついてよく読んでおくことだな。そしてこの順位とクラスは、これからの学園生活に大きな影響を与える。全員、この黒板を見ろ」


そう促され黒板を見ると、瞬く間に文字が浮かび上がってきた。



Sクラス生徒の所有する権利


・一人に対し一つの研究室を与え、自由にその室内での魔術研究を許可する。研究室には顧問が一人、配属されるものとする。

・研究における費用はその学生の順位によって、順当に振り分けられる。

・学園内のあらゆる施設は、顧問の監視の元であれば自由な利用を許可する。

・研究員や実験体として、学園内の学生を本人の承諾の元で利用することを許可する。



「この4つの権利は、『S』クラスの生徒のみにしか与えられていない特別なものだ。順位が高ければ高いほど、研究資金も多くなり、君たちの研究はより進展していくことだろう。全員、精進するように。以上が入学説明となる。質問があるものはいるか?」


ヨイが教室を見渡すも、手を上げている生徒はいなかった。

つかこんな空気で手を上げられる訳ないだろ。

舐めるなよ、陰キャを。


極めすぎて手を挙げても、気付かれないぐらいだぞ。


気付けば机を蹴った少女も、とりあえず落ち着いてくれたらしい。

机はそのまんまだが。


「では今日の授業は終わりとなる。研究室への見学は明日となるから、忘れないように。解散」


ヨイの言葉を合図のようにして、皆一斉に席から動き出す。



これから寮への移動なのだ。


帝国立魔術学園は、全生徒寮生活となる。

何でもクラスによって寮も変わるようで、『S』クラスとなればそれはそれは豪華なのだろう。

何かの間違いで『S』クラスになった以上、話を聞けば次の試験でクラスが落とされるのは明白。


俺が『S』クラスの寮を楽しめるのも、今から3ヶ月までの短い期間だけ。

精一杯楽しむべきだ。



ただ……今目の前に広がる光景は、俺の予想を遥かに超えるものだった。


「は?マジで……」


俺は『S』クラス寮を前にして、そう言葉をこぼし立ち尽くすしか無かった。

何故なら寮なんて言葉で表してはいけないような豪華で大きな建物が、俺を出迎えていたのだから……。


読んでくれた方全員に感謝を。

評価、ブックマーク登録、イイね等、よろしくお願い申し上げます。

次話は4時投稿予定

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