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ハイエルフの墓参り

 長身痩躯(そうく)の麗人が墓の前で酒を飲んでいる。


「よう、未来。今月もまた来たぜ。……これでお前の葬式から百十年か。」


 墓に話しかける麗人の横顔は息を呑むほどの美貌(びぼう)である。しかしその顔立ちからは、およそ表情というものが欠落していた。感情らしいものは見当たらず、ただ人形のように無感動なだけである。目だけが光り輝いているように見えるほど強い輝きを帯びて、どこか超然として見えるのだ。しかしよく見れば彼の手にしたカップは空に——足下の酒瓶も空っぽのようだ——なっている。つまり彼はもう飲み終わってしまったということだ。それなのにまだそこに居る。


「あぁ、また飲みきっちまった。ほんとうに未来がいなくなってからおれは悪い子になっちゃったなあ。ここ十年なんて酒以外飲んでないな、ははは。」


 まるで墓石に寄りかかるようにして、じっとしているだけだ。そして時折思いだしたように空を見上げて呟くばかり。この墓地に来るまで誰からも声を掛けられなかったし、掛けなかった。だから今日、ここに来る前にも飲んだのだが。誰も(とが)めてくれなかったのでそのまま来てしまった。

 そうして晴れていた空にすこし雲が出てきたころになって、誰かがやってきた。ロザケスト工房の丁稚(でっち)である。


「魔女さまぁ~!」


 ぼんやりとした顔のまま紙月は立ち上がった。


「魔女さま、もうすぐ今日も寒いですね! もうすぐ夕方になっちゃいますよ! 寒いです!」

「……あぁ、お前か。なあ未来、お前といっしょに着せ替え人形にされたあの工房だけどさ、いまでもちゃんと約束通りによくしてくれてるんだぜ。毎週好みの屋台のチラシとか持ってきてくれて」

「魔女さま魔女さま、寒いです!!」

「わかったわかった。もう帰るよ。」

 

 丁稚がすぐ側にやってきていたことにいま気づいたようである。さっさと帰ろうと荷物をまとめると、「また来月も来るよ、未来。じゃあまたな」と言い残して去って行った。


***


「魔女さま、もうすぐ二百歳になるって本当ですか!」

(落ち着きがねえなぁ……。)

「あっ、もうすぐ魔女さまのおうちですねっ。じゃあわたしは工房の寮に戻りますね!」

「お疲れさん。小遣いでもやるから待ってろ」

「わーい!」


 元気よく返事する丁稚を見て苦笑しつつ、どうも最近は自分のことを話しすぎているという気がする。


(……そうだな。そろそろ俺も次のことを考えるか。未来とも話さないといけねぇな。)


【登場人物紹介】

紙月:森の魔女と呼ばれる凄腕の魔法使いにして、男物を着ても女性に見られる美貌の女装男子。隠居したような生活を送っている。

未来:生前においては紙月を相棒に名うての冒険屋だった。百十余年前に亡くなっている。

丁稚:幼い風貌がコンプレックスな下積み生活をしている少女。末代まで魔女をご贔屓にすることを宿命付けられた八代目ロザケスト工房の下っ端。

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