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死へのパスポート  作者: 早瀬 渚
一人ぼっちの高校生
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高校生の男の子6

「出来れば、手短にお願いします。」



 青年はそう言って軽くお辞儀をした。ただ、眼光は鋭いままだった。



「そのつもりです。では、何からお話しましょうか。」



 営業マンはそれでもペースは崩れない。淡々とゆったりしたペースを維持していた。



「死への手助けってどういうことですか?」



「ああ、そこからいきましょうか。そのままの意味です。私はあなたが望むのなら、死に向かわせることが出来ます。」



「……全く意味が分からないんですが。」



 そんな説明で理解しろと言うほうがおかしい、と青年は思う。何せ、常識的に考えれば、不可能に近いことを言っているからだ。

 そんな青年の物言いに営業マンはふむ……と手であごを触った。



「そうですね。例えば、ビルの屋上から落ちたい。首をつりたい。車にひかれたい。病気で死にたい。……痛みを感じることなく死にたい。などなど、その願いを叶えられるということです。」



「……そんなこと不可能では。」



 青年はやはり理解出来ないなと思った。そんなこと出来るはずもない。



「不可能ではありません。この世界で毎年、多数の自殺者が出ているじゃありませんか。それはほとんど私たちの仕業と言ったら?」



「……え?」



 青年は間抜け顔になっていた。営業マンはその顔を見て、口角をつり上げる。



「不思議じゃありませんか。こんなに毎年、自殺者が多いのが。確かに、死にたいと思うほど思い詰める人もいるでしょう。でも、本当に死へと向かえる人ってほとんどいません。痛みがいやだったり、少なからず将来への希望を持っていたりして……、今とは別の世界へ行くということですからね、それへの恐怖もあるでしょうし。」



「それは、確かにそうかもしれないが……。」



 青年は恐怖からか敬語を使うことを忘れていた。そこに気が回せるほど、心に余裕を持てなくなっていた。



「だから、私はその死への恐怖などを取り除くお手伝いをしているんです。何の未練もなく安心して死ぬことができるように。」



 青年はその話を信じるかどうか、判断に迷っていた。……そう考えてしまうほどに営業マンは堂々とその話をしていたということだ。普通なら、こんなあり得ない話、信じるはずないだろう。



「話し合うってことか……。」



 青年は出来るだけ、常識に照らしあわせて営業マンの話を考えていた。



「いえいえ、そんな不確かなものでは解決しません。……それに、そんなことしたら、死んでくれないかもしれないじゃないですか。」



「は?」



 この男、胡散臭いなんてものではなく、確実に一般の考え方から逸脱している……、と青年は思った。そのことに恐怖を感じていた。



「私の役目は一人でも多くの死者を出すことなんですから。」



「な、何言って……。」



 青年には意味が分からなかった。一人でも多くの人に死んで欲しい、こいつはそう言ったのか?



「だから、私はあなたに死んで頂きたい。」



 その営業マンはそう言って、満面の笑みを浮かべた。


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