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仲間と珍道中1

少し読みづらいと思いますが、区切りごとに過去編を入れさせていただきます。

ある程度出来て、やはり難しいと感じたら過去編を最初に置いて時系列のストーリーに変更したいと思います。

勝手ですが、作者の実験にお付き合いいただけたなら幸いです。




 ヴァールは着くなり、心配そうに春馬の顔や体を確かめるソフィアを見て呆れた顔になり、壁を背もたれにして座り込む。


「俺が悪いわけでも無いのに、首を掴むわ振り回すわ……挙句にハルマが戦ったと聞けば突き倒されるわ……」


 ヴァールが愚痴を漏らすようにぶつぶつと呟くと、ソフィアが目を細めて小首を傾げた。


「まぁ、ヴァールったら……そんな嘘ばかり言わないで? 確かに気が動転したのは本当だけど、そんな酷いことするわけないじゃない」


 ソフィアが見た目通りの優しげな声でそう訂正すると、ヴァールの眉間に皺が寄った。


「そうだよ、ヴァール。ソフィアがそんなことするわけないじゃないか。こんなに細いのにヴァールを投げるなんて無理だよ」


「そうよ。ねぇ、ハルマ?」


 と、春馬がフォローするとソフィアが嬉しそうに同意する。それにヴァールはこの世の終わりのような顔で項垂れた。


「……ハルマ。まさか、ソフィアーナと結婚して……? いや、まさか、そんなことは……」


 一方、いまだ混乱中のエステルヘルが確認するように聞くと、ハルマが照れながら片手で頭をかいた。


「いや、まぁ……私には過ぎた妻ですが……」


 と、春馬が答えた直後、ソフィアが奇声を上げて顔を両手で覆った。可愛らしい反応を示すソフィアを春馬はホンワカした様子で眺めて、ヴァールはうんざりした様子で鼻を鳴らした。


 そして、エステルヘルはギルド長の顔を覗かせる。


「……Aランク冒険者二人とBランク冒険者……いや、ハルマはあの黒髪の災害だ。被害さえ出さなければ間違いなくAランクと呼ばれている。実質Aランク冒険者三人が揃っているのか……」


 色々と考えたエステルヘルは、鋭い視線を春馬に向け、口を開く。


「良かったら、この街に住まないか。今、この街には高ランクの冒険者が足りない。もし拠点にしてくれるなら、最大限の優遇措置を行うぞ」


 そう言われ、春馬達は顔を見合わせた。だが、すぐに春馬が首を左右に振る。


「……申し訳ありません。今はまだ何処かに定住する気はなくて……」


 心から申し訳なさそうに断られ、エステルヘルは唸りながら腕を組む。


 数秒間近く悩み、ちらりと春馬の顔を見るエステルヘルに、ヴァールが口を開いた。


「もしかして、街が受けた被害を盾にもう一度交渉しようなんて考えてないか?」


 ヴァールがそう口にすると、エステルヘルはギョッとした目で顔を上げたが、やがて俯く。


「む……いや、確かに一瞬よぎった考えだが、あの戦いの原因は誰かと言えばダレムだろう。そして、これまでダレムを放置していた力のある者達だ。その中には私も含まれる。お前達に責任を問うつもりは無い」


 エステルヘルがそう断言すると、ヴァールが口の端を上げた。


「男気があるな。流石は珍しい狼の獣人だ。じゃあ、俺達はこの辺で……」


 そう言って立ち上がるヴァールだったが、春馬はソファーに座ったまま首を左右に振る。


「いえ、ギルド長。街を水浸しにしたのは私です。せめて、出来るだけの慰謝料を払います。建物に住めなくなってしまった方がいたら、その人達を優先的に助けてあげてください」


 春馬はそう言うと、ビジネスコートの内ポケットに手を入れ、革の小袋を取り出した。


 金属の擦れ合う軽い音がして、テーブルの上に置かれる。


「……良いのかね? 領主が代行を含めて完全に不在の今、即金は確かに助かるが……」


 エステルヘルは悩みつつ、春馬の顔を見た。すると、春馬は困ったように笑い、ソフィアを見る。


「……良いかな?」


 聞かれたソフィアは満面の笑みで首肯した。


「当たり前じゃない。ハルマが望むなら私とヴァールの分も払うわよ」


「なんで俺の金まで払わないといけないんだ」


 思わずといった様子で文句を言うと、ソフィアの目が細くなる。殺人鬼のような目で睨まれ、ヴァールは視線を逸らす。


 ちょうど良い角度で春馬からはソフィアの顔が見えなかったが、二人のじゃれ合いに笑い、感謝する。


「ありがとう、二人とも」


 そんな様子に笑い、エステルヘルは春馬が出した小袋を持ち上げ、手のひらの上に中身を出した。


 口の小さな小袋を逆さにした状態で一振り二振りした瞬間、雪崩のような勢いで金貨が溢れたのだ。


 エステルヘルが驚愕して対応が遅れた間に、床が見えなくなるほどの金貨が出てきている。


「おっと」


 ちょっと驚いた顔を見せ、春馬が逆さにしたままのエステルヘルの手を握り、革袋の口を無理矢理閉じた。


「危ない危ない、床が抜けますよ。ギルド長?」


 笑いながらそう言った春馬に、エステルヘルは間の抜けた顔で室内を見回し、ようやく驚きの声をあげる。


「な、なんじゃああっ!?」


 吃驚して頭の上に獣の耳が出るエステルヘルに、ヴァールが嫌な顔をした。


「足りるよな、ギルド長? まさか、俺の分も出せなんて言わないよな、ギルド長?」


 威圧するように言うヴァールだったが、エステルヘルは唖然とした様子で山のようになった金貨を見た。


「いや、もう、じゅ、充分だ……むしろ、多いぐらい……」


 掠れた声でそう答えた直後、金貨の重みでテーブルが真ん中からへし折れ、床で音を立てた。


 目を剥くエステルヘルに、ヴァールが苦笑いで口を開く。


「……そのテーブル代はギルド長持ちだからな。俺たちのせいじゃ無いぞ、断じて」


「セコいわ、ヴァール。優しいハルマを見習いなさい」


「せっかくの稼ぎが右から左に流れてくのが一番嫌なんだよ」


「今日から貴方はセコールね。セコールと名乗りなさい」


「じゃあお前は腹黒エルフだ、この野郎」


「ハルマ! ヴァールが虐める……!」


「なんてことをするんだ、ヴァール。か弱い女性には優しく……」


「そいつ、Aランク冒険者だぞ。オーガの方がか弱いくらいだろ」


 ギャアギャアと子供のような言い合いが始まり、それまでただ混乱していたエステルヘルは背中を丸めて笑いだす。


「は、はっはははは! 本当に規格外な連中だのう! よし、分かった。無理は言わないでおこう。金貨もこの半分もいらん。後はこちらが処理するから、面倒になる前に街を出るのも許可しよう。恐らく、門番に街から出るのを止められるだろうが、その時はワシの名を出すが良い」


 楽しそうに笑い、エステルヘルはそんなことを言った。それに苦笑し、春馬が頭を下げる。


「ご配慮、ありがとうございます。ただ、この街を出てもどうせ公爵領の中心に行く予定でしたからね。ちょっと変装でもしてみましょう。この街を出るときバレなければ大丈夫そうですね」


「ギルドプレートがあるだろうが」


 春馬の台詞にヴァールが半眼で突っ込む。


「隠して入れば良いんじゃないか?」


 春馬が首を傾げると、ヴァールは溜め息混じりに春馬を指差す。


「俺もそうだが、冒険者以外に身分の証明が出来るのか?」


 そう言われ、春馬は肩を落とす。


「あ、そうか……門とか関所ではギルドプレートが無いと通れないんだったね……」


 がっかりした様子でそう言う春馬に、ソフィアが悲しそうに眉根を寄せた。


「私のを貸せたら良いのに」


 ソフィアが残念そうに言うと、エステルヘルは成る程と三人を眺める。


 国と国とが隣接する国境の街道は勿論、それぞれの街にも重要度に応じてそれぞれに兵士がおり、身分の確認をして取り締まっていた。


 貴族なら家紋の入った剣や盾が証明になり、その使用人や部下も家紋入りの腕輪などの品が証明となる。


 一般の民であれば商会所属の商人、鍛治ギルド、魔術師ギルド、冒険者ギルドなどのギルド員。後は町や村の長を務めている者などにもそれぞれ証明となる品があった。


 つまり、証明出来る何かが無い者は国を出るどころか、他の町や村にも行くことが出来ない。


 しかし、それにも例外はあった。


「仕方ないのう。なら、ワシが手を貸そう」


 エステルヘルはそう言うと、すっかり気に入ってしまった三人を見て笑った。

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