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公爵家4

 村を出て、春馬達はそのまま公爵領第一都市、クランティスに向かった。


「公爵家って言ったんだろ? しかし、実際に来たのは傭兵団だ。じゃあ、少なくとも公爵家で私兵を持ってる奴の命令じゃない」


「まぁ、ダレムみたいに公爵家の息子、娘、もしくはその部下や懇意にしてる商会とか?」


「商会ならAランク冒険者と敵対しないだろうな。高ランク冒険者が納品する素材は桁が違う。どちらかというと公爵家の裏で情報を流し、代わりに今後取引を、という感じで話を持ち掛けるだろう」


「じゃあ、公爵と直接会話してみて、上手くいけば全部解決かな」


 春馬が結論を出し、ヴァールとソフィアが目を瞬かせる。


「ハルマ、逆に言えば下手したら戦いだぞ」


「公爵の居城を見学したら、早めに避難したほうが良いんじゃないかしら?」


 そう言われ、春馬は難しい顔で唸った。


「でも、話はつけておかないと、ライサの村の人達に被害が出るかもしれないしね。それに、スラヴァの冒険者ギルドも心配だよ」


 と、春馬の主張に二人は似たような顔になって口を開く。


「まぁ、そりゃそうだが」


「公爵は体調を悪くしてると聞くわよ?」


「公爵が長く病に臥せっているなら、代理で公爵領を管理している人がいる筈でしょ? じゃあ、その人に会えば良いさ」


 春馬がそう言って笑うと、ソフィアは「そうね」と笑い返し、ヴァールは面倒くさそうに肩をすくめた。


「普通は会えないんだよ、簡単には」







 二週間ほどの旅路を終え、春馬達は平野からそれを見上げた。街道は徐々に下がっていくようななだらかな坂道で、その先には丘があり、ぐるりと巨大な城壁がそれを取り囲んでいる。


 城壁は赤茶けているが、古さは無く、力強さと荘厳さが満ちている。城壁の上には渡り廊下と物見小屋があり、そこには弓矢を手にした兵士が巡回していた。


 街道の正面には観音開きの巨大な城門があり、人や馬車が並んでいるのが見える。


 その列を遠目に見てヴァールが嫌そうな顔をした。


「これだから城塞都市とか王都ってのは嫌なんだ。城門は厳しく取り調べをするから時間かかるってのに、馬鹿みたいに人が集まるから更に混雑する……あれは二時間コースだな」


「二時間ならまだ良いじゃない。私の国は入ろうと思ったら一年以上かかるかもしれないわ」


「エルフの国なんか絶対行かないぞ、面倒くさい」


 二人のやり取りに微笑み、ハルマは口を開く。


「悪いね、ヴァール。あの城壁を見ちゃったらもっと中が見たくなっちゃって……あ、もし良かったらエルフの国に行くときは私が案内するよ?」


「行かない。興味が無い。エルフは人間を見下してるからな」


「ヴァール? 喧嘩売ってるのかしら?」


 ポロリと漏らした言葉にソフィアが敏感に反応した。二人が睨み合っていると、春馬が困ったように笑う。


「まぁまぁ、とりあえず列に並ぼう。ほら、二人とも仲良くね。仲良くしたらヴァールにはお肉とソフィアには甘いもの買ってあげるから」


「俺は子供じゃないぞ」


「一緒に食べてくれるなら仲良くするわよ?」


 春馬が間に入ると、二人の空気はふわりと軽くなる。良くも悪くも、春馬が入って初めて機能する三人であった。







 ようやく門を越えて中に入ると、ヴァールは思い切り背伸びをする。


「……やっと入れた」


 あくび混じりにそう呟くと、今度はソフィアが声を上げる。


「大きな街ね。露店がいっぱいあるのが良いわ」


 様々な屋台料理を眺め、ソフィアは嬉しそうにしていた。一方、春馬は目を輝かせて街並みを見ている。


 建物は赤茶けた石造りでどれも三階建てや四階建ての大きな建物ばかりである。建物と建物の間には紐が何本も繋がれており、そこには真っ白な布が干されている。


 片側の建物の窓部分から一人の女性が顔を出し、その紐を引く。すると、紐は離れた建物と輪を作るように往復しているらしく、スルスルと干された布が回収された。


「へぇ……こんなに広い都市なのに、平屋じゃ住居が確保出来ないくらい人口が多いのかな。でも、十分スペースを有効活用してるね。面白いなぁ。丘の上だから風が強いのかな? どこも窓には戸板があるし、扉も頑丈そうだね。国や領主の旗とかはあんまり見当たらないな」


 キョロキョロと景色を見ながら感想を呟く春馬に、ヴァールが眉根を寄せる。


「恥ずかしいからキョロキョロするな」


「良いじゃない。ケチール。新しい街だから誰でも興味が湧くでしょう?」


 二人の声を半ば聞き流しながら、春馬は更に街の作りに注目する。


「大通りは真っ直ぐだけど、左右には大きな通りが無いね。もし敵の軍か何かが攻めてきた時にルートを固定する為かな? 延々と坂道だから守りやすそうだね。多分、建物の上から攻撃も出来るようになってるんだろうな。あ、脇道の上には連絡通路とアーチもある。槍持ってたり馬乗ってたりしたら脇道は入れないね」


 などと言いながら大通りをふらふら歩く春馬に、二人は慌てて後を追った。


「ねぇ、あれは何?」


「あれは蜂蜜漬けの焼いた果物よ。色んな種類があって楽しいわよね。懐かしい味だし」


「それより串焼きの肉が良いぞ。この辺は甘辛い味付けが主流みたいだ。なかなかイケる」


「あ、良いな。もう食べてるのか」


「あれが一番旨かったな」


「いつの間に三本も買ってるのよ!?」


「先に注文だけしとくんだよ。そうすりゃ待たずにすぐ買える」


「慣れてるねぇ」


「そういう問題かしら……」


 三人はなんだかんだと観光気分で街を散策しつつ、城へと向かった。


 見上げるような城の前まで行くと、門番の兵士達にジロジロと見られながら春馬は観察する。


「ゴシックよりはロマネスク建築に近いかなぁ……モダンな感じで良いね。それにしても頑丈そうな造りだなぁ。あ、窓がステンドグラスみたいになってる! これは、ちょっと珍しいんじゃないかな? あんな大きな一枚窓で更にステンドグラスなんて」


 と、春馬がぶつぶつ言いながらウロウロしていると、兵士達の目が怪しく光った。春馬を不審者としてロックオンしたようである。


「悪いが、何を言ってるのか全然わからん」


 ヴァールが春馬の呟きをそう断ずると、ソフィアが失笑を返す。


「ハルマは芸術派なのよ。色々なもので感情を動かされるの。感受性が豊かなのは良いこと。ガサツなヴァールとは違うんだからね?」


「一言余計だ。まぁ、確かにこんな城見ても何とも思わんが」


「そうねぇ。残念ながら、私も見たことのある城の中では平均的としか評価しないわ。一番凄いのはやっぱりエルフの国よね」


「自画自賛してんじゃねぇ」


 と、気付けば二人も批判的な意見を発しており、門番の目つきはどんどん鋭くなっていく。


 ようやくそれに気が付いた春馬は慌てて二人の背中を手で押し、その場を離れる。


「よし。今日はとりあえず宿に泊まろうか。野宿が多かったから屋根のあるとこで休みたいし」


「お、そりゃ良いな。公爵とモメたりしたらすぐ街を出ないといけないんだ。一番良い宿に泊まってゆっくりしてからモメるぞ」


「い、いや、まだモメると決まったわけじゃ……」


「どの口が言ってるんだ?」


 そんな会話をしながら、三人はふらふらと適当に良さそうな宿を探し、一泊した。


 最後まで騒がしく、三人はクランティス最初の1日を終えたのだった。

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