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公爵家3

 石垣の上から村の前面に広がる景色を眺め、ヴァールが頬を引きつらせる。


「……大規模な盗賊には見えないな。鎧も剣も揃い過ぎている。まさかとは思うが、公爵の息子が雇った傭兵団とかじゃあるまいな?」


 ヴァールが低い声でそう言うと、春馬が苦笑いで頷いた。


「あ、はは……見てたみたいに当てるね。まさにその通りです、はい」


 春馬が答え、ヴァールのこめかみに血管が浮かぶ。


「何でお前らはその土地の権力者と敵対する道を選ぶんだ……打ち倒そうが逃げようが、結局その土地には近付き辛くなるだろうが……!」


 怒りの滲む声を聞き、春馬は苦笑いを深めたがソフィアは胸を張ってヴァールに答える。


「だって、来た奴らが屑だったから」


「世渡りってのは我慢も大事なんだよ、おい!」


 ソフィアの回答にヴァールが頭を掻きむしりながら怒鳴った。


 それを下から眺めていた村人達が顔を見合わせ、長老が代表して口を開く。


「ひとまず、降りて話さんかの?」






 村の広場で地べたに座り込み、ヴァールが地面を殴る。


「だから、これでも世界一速いくらいのペースで狩りまくってきたってんだよ!」


「えー、本当? 隣の森のオーガ十三体でしょう? もうちょっと早く帰れたんじゃない?」


「ふざけんなよ、お前! 俺じゃなかったら二日ぐらい掛かるわ!」


 言い合いをする二人を見て、村人達は顔を見合わせる。


「お、オーガ十三体だとよ」


「危なかったな、この村……」


「というか、普通なら騎士団で対応する規模じゃねぇか」


 ヒソヒソと会話する村人達と、それを横目に春馬に頭を下げるジイダン。


「すまない……私達を助けたばかりに、公爵家と……」


 ジイダンが謝ると、隣に座っていた娘のリースと婚約者のディルも頭を下げた。


「いや、はは……多分どちらにしても敵対する結果になってたと思いますよ。まぁ、気になさらないでください。むしろ、畑を燃やしてしまったことが……」


「いやいや、そんな謝らんでください。幸いにも収穫が終わった畑だ。次の種蒔きまで二ヶ月ある。何とかなるさ」


「そうですよ。それよりも、皆さんがこれからどうされるのか……」


 良い人村の住人達は自分達の生活基盤よりも春馬達の心配をした。


「いや、本当に申し訳ない限りで……とりあえずで恐縮ですが、これを畑の再興費用に……」


 そう言って春馬が小さな革袋を置くと、リースが手を合わせて頭を下げる。


「良いんですか!? ありがとうございます!」


 と、嬉しそうに手を伸ばすリースの手をジイダンがパシンと叩いた。


「馬鹿、もらえるわけないだろう! 命を助けてもらって更に村まで……!」


「で、でも、村の財政はギリギリだし、助かるじゃない!」


 ジイダンとリースが言い合うと、ディルが項垂れる。


「貧乏な村ですまない」


「あ、いや、そういう意味じゃないよ? その、お金が無いのは仕方ないけど、畑を元に戻す間は内職できないでしょう? だから……」


「すまない……内職させないと食べていけない村で……」


「ど、どの村も同じだってば! 大丈夫だから、落ち込まないで!」


 どんどん凹んでいくディルに、リースが慌てふためく。その様子にジイダンは溜め息を吐き、春馬を見た。


「申し訳ない。ご厚意に甘えさせていただく。まぁ、本当に少しで大丈夫だ。何とか次の収穫まで乗り切れれば……」


「そうですか。これで何とかなると良いのですが……」


 申し訳なさそうにそう言う春馬に、ジイダンは笑って革袋を拾い上げた。


「なに、我々も何度も厳しい冬を乗り切ってきたのです。大丈夫ですよ」


 そう言って快活に笑い、ジイダンは自らの手のひらの上に革袋をひっくり返した。


 直後、金貨が溢れ出す。


 ジャラジャラと良い音を立てて革袋の中から金貨が湯水の如く溢れ出すのを見て、ジイダンやリース、ディルは呆然とした。


「あ、危ない危ない」


 慌てて春馬が革袋の口を塞ぐと、金貨の洪水は止まる。それでも数百枚はあるだろうか。


 山となった金貨を見て、ジイダン達のみならず他の村人達も唖然としている。


「私の全財産です。良かったら……」


「いやいやいや……っ! え、ちょ、ちょっとこれは……!?」


「む、村をそのまま買えそう……」


「う、受け取れません! 金貨なら二枚か三枚で十分です! 辛抱すれば十分食料は買うことが出来ますから!」


 ジイダン達が慌てた様子で受け取り拒否の言葉を発する。


「いや、そう言わず……せめて二、三十枚くらいは……」


「あ、それくらいなら……」


「こら、リース!」


 目を輝かせるリースをジイダンが怒鳴った。しかし、村人達もざわざわと浮かれてしまっている。


「い、いいのか?」


「いや、駄目だろ! 限度がある!」


「金貨なんてまずお目にかかれないぞ」


「一枚あったら服でも新しい農具でも何でも買える……」


 戸惑いの声が無数に上がる中、ヴァールとソフィアが春馬の方に顔を向けた。


「金貨ぶちまけるからこんなことになるんだよ」


「もう金貨全部置いて帰っちゃったら?」


「何でだよ!」


 物欲皆無のソフィアの言葉にヴァールが怒鳴る。それから二人はまた言い合いを始めた。


 その様子を苦笑交じりに眺め、春馬はジイダンとディルを見る。


「では、三十枚だけ置いていきます。使わなくとも一応持っておいてください。何かあった時にあると便利ですよ」


「それはそうでしょうが……」


 ディルが恐縮しつつ同意すると、リースは嬉しそうに金貨を拾う。


「わぁ、ありがとうございますー! 三十枚も貰えるなんて、畑が焼けて得してしまいました」


「こ、このバカ娘……!」


 ジイダンがリースに説教をし始めて、ヴァールとソフィアも言い合いを終えた。


「セコール」


「分からず屋エルフめ」


 二人は睨み合いながらも春馬に顔を向ける。


「ハルマ、まだ公爵領第一都市に行く? 危ないかもしれないわ」


「間違いなく危ないだろうよ。さすがに三人揃っても大規模な騎士団相手にすりゃあ負けるぞ?」


 そう言われ、春馬は困ったように笑った。


「王都に負けない、巨大な城塞都市。公爵の居城は大きさも機能性もさることながら、公爵自らデザインした見事な城であるという……こんな噂を聞くと、やっぱり一度見てみたいなぁ」


 春馬がそう言うと、ソフィアが頬を赤くして頷く。


「それなら仕方ないわね。私がハルマを守ってあげるから、安心してね? ハルマ」


「……どう考えても面倒くさい展開しか想像できない。くそ、二人がおとなしくなんか出来ないだろうし……」


 葛藤するヴァールだったが、村人達からは良い風に映ったのか、微笑みをもって眺められていた。


「なんか、ヴァールさんが保護者みたいです」


「確かにな。口は悪いが、ヴァール殿は面倒見が良さそうだ」


 そんな声が聞こえてきて、ヴァールは顔を真っ赤にしながら怒鳴った。


「うるせぇ! 俺は金はやらんぞ!」


 その叫びに、ソフィアが凍てつくような目を向ける。


「この、セコールが」


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