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仲間と珍道中5

 白い髭を撫でながら、小柄な老人が顔を挙げる。ライサの村の村長である。村長宅は他の建物の二倍ほどの敷地だった。一番大きな客間で輪になって床に座り、食事をしている。


 肉を焼いたり、果物を並べたりする程度の簡単なものだったが、外から買い求めた果実酒があり、ヴァールとソフィアはご機嫌である。春馬は仕事が終わるまでは呑みませんといって我慢していた。


「……オーガが出ましたのじゃ」


 村長がそう言うと、ソフィアが唇に人差し指を当てて唸る。


「うーん……オーガかぁ。一体二体ならBランクのソロでも何とか対処可能ね。でも、一般の人では難しいわね」


 と、ソフィアの戦力分析を聞いて頷き、村長は深く深く息を吐いた。


「オーガは、確認した限り十を超えますのじゃ。街の騎士団に頼んでみましたが、まだ被害が出てないことを理由に後回しにされましたのじゃ……しかし、被害が出た時は、この小さな村なぞ壊滅しておりますのじゃ」


 悲しげにそう口にする村長に、ヴァールは面倒くさそうに舌を出す。


「十体以上か。ちょい面倒だな。広い場所で魔術を使うのが楽だが」


「私の出番だね?」


 春馬が目を輝かせると、ヴァールは脊髄反射で否定する。


「馬鹿言え! 周り見たろうが! 草原、森! 被害甚大!」


 怒鳴るヴァールに、ソフィアが柔らかく微笑み、春馬の頭を撫でた。


「大丈夫よ、ハルマ? 全部、ヴァールが討伐してくれるから。さぁ、私達はゆっくりお食事をいただいて待ちましょう?」


「俺だけ働かせる気か、この性悪エルフ」


 不満を言うヴァールだったが、文句を言いながらも背伸びをして立ち上がった。


「まぁ、面倒だが、ハルマが出るより後は楽かもな」


 憎まれ口をわざと叩くと、ヴァールは欠伸をしながら剣を出した。


「場所を言え。ひとっ走り行ってくる」


「は?」


 常識外の一言に、長老が目を瞬かせて疑問符を浮かべる。


「いや、それは悪いよ。もしかしたらオーガはもっといるかもしれないし、それに他の魔獣だって……」


 春馬が言うと、ヴァールは肩を竦めて鼻を鳴らす。


「厳しそうならすぐに戻ってくる。いければ殲滅する。無茶はしない」


 そう言うと、ヴァールはさっさと場所を聞き出し、村を出たのだった。


「行動力の塊のような方ですな」


 長老が感心したように言い、春馬は苦笑する。


「腕は確かです。ご安心を」


「ああ、いや、信頼しておりますとも。ささ、こちらにどうぞ。泊まる場所へ案内します」


 そう言って、長老は自ら二人を案内し、村の外れの一軒家の前に来た。村の出入り口は一つしかないので、正真正銘最奥の建物である。その近くにはちょっと離れた場所にある長老の家だけだ。


 長老は頬を緩め、二人を見た。


「多少の大きな声も、ここなら大丈夫ですじゃ」


 それだけ言い残し、長老は去って行った。春馬が苦笑して隣を見ると、耳の先まで赤くしたソフィアがチラチラと春馬の横顔を見ている。


「……ヴァールが帰ってくるまでいつでも動けるように待機だよ? ほら、もしかしたらヴァールが助けを求めてくるかもしれないし」


「えー? ハルマ、ヴァールを信用してないの? あれで地味に凄いんだよ?」


 不満そうにそう言われ、ハルマは困ったように笑った。


「それはまぁ、十分に知ってるけどね」







 風が吹き、草花が揺れ、木の枝のしなりで葉が舞った。


 突風が吹いた。


 そう勘違いしてしまうような速度で、ヴァールが地を駆ける。木々は不規則に生えており、所々には根の一部が土の上に露出している。街道から外れた獣道だ。決して、歩きやすい道ではない。


 しかし、そんな道をヴァールは物ともせずに走破していく。するすると滑らかに、それでいて恐ろしい速さで走る灰色の風。


 たまたま前方に現れた小柄な人影は瞬く間に首を刈られた。毛のない、小さなツノがいくつか生えた頭部が地面に転がる。


 こういったゴブリンや狼などを一刀の元に斬り捨てていきながら、ヴァールは目的地へと走った。風に乗って、微かに鼻歌が聞こえてくる。


「たまには昔みたいに一人でやるのも良い。何も考えず、シンプルだ」


 ヴァールは独り言交じりに鼻歌を歌いながら、剣を振るう。


 疾駆、剣技、身のこなし。全てが異常な速度であり無駄も無い。それでいて気配を察知する能力が高い為、隙も無い。


 すでに、ヴァールは一人の剣士として完成していた。


 オーガの群れにいち早く気付き、すぐさま臨戦態勢をとる。この場所に到着するまでに要した時間は小一時間程度。本来ならば、森に慣れた現地の者が半日かけて歩いてくる場所である。


 それだけの距離を疾走してきたにも拘らず、ヴァールは休まずに仕事をこなすべく様子を窺った。


 三メートルを超す大きな人影だ。不自然なほどごつごつとした分厚い体は、殆どが筋肉である。赤黒い皮膚は不気味で、頭や肘などの体の一部からは骨が変化したツノが生えていた。


 蛇のように口は大きく裂けており、拳ほどの太い牙がある。


 地獄の鬼のような姿をしたそれこそがオーガであり、ゴブリンやトロールなどと同じく、武器を使うことが出来る厄介な魔獣だ。


 その場にいるオーガ達は、自分達が殺した冒険者や騎士団の大剣を手にしていた。


「剣持ちのオーガが、一、二、三、四……十三匹か。後は、周囲に弱い気配もあるが……」


 そう呟くと、音も無く移動し、邪魔になるかもしれない弱い魔獣を減らしていく。併せて、地形の確認と殲滅プランを練る。


 ヴァールは長く独りで戦っていた経験から、自身の実力を客観的に理解しており、無理はしない。囲まれることの脅威と、個で自らを上回る存在の認知。


 それらもヴァールの強さと生存率を大きく上げていた。


 一匹、二匹とゴブリンを狩り、回り込むようにして群れの端にいる一体のオーガに肉迫。声を上げさせることも無く、首を切り落とした。


 まるで道端の花を刈り取るように、一体、二体と確実に息の根を止める。


 あっという間に五体を倒し、そこでようやくオーガ達が外敵に気が付いた。すぐさま向き直り、オーガ達はヴァールに群がるようにして大剣を振るう。


 錆びに錆びたぼろぼろの大剣だが、オーガの並外れた膂力ならば大木すらへし折る。その大剣が八本。まるで小枝でも振っているかのように尋常じゃない速度で大剣が次々とヴァールに迫る。


 だが、それをヴァールは器用に避けた。近付き過ぎ無いように気を配りながら、間合いに入ったオーガの腕や脚を斬り裂き、隙を見つけた途端に接近して首を斬る。


 気付かれて交戦状態になってからもヴァールの一方的な戦闘は変わらず、すぐさま最後のオーガの首が地面を転がる。


 ヴァールは剣を鋭く降って血振りし、鞣した皮で刃を拭う。


「……やばいな」


 そう呟くと、ヴァールは眉間に皺を寄せて周りを見た。


「討伐証明、入れる袋忘れてきた」


 ヴァールの虚しい呟きは風に流れて消える。






 一方、ヴァール不在のライサの村に、剣や槍を手にした物騒な集団が向かってきていた。


 一団の先頭には馬に乗った豪華な金色の鎧に身を包む男の姿がある。


「進め、者共! 凶悪な犯罪者はすぐそこだ!」


 アルブレヒトが叫び、剣を天高く掲げた。それに呼応するように後に続く一団が雄叫びをあげる。


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