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仲間と珍道中4 ライサの村

「勿体ない」


 ブツブツと、ヴァールが愚痴る。それにソフィアがうんざりした顔で溜め息を吐いた。


「いい加減にしなさい。セコール。もうずっと言ってるわよ」


 文句を言うと、ヴァールは呆れたような顔になった。


「普通、冒険者が冒険者を助けりゃあ助けられた方のランクで依頼料一回から二回分だ。あいつらはBランクパーティーって言ってたろうが。それなりの謝礼にはなったぞ」


 口を尖らせてそう言うヴァールに、ソフィアが肩を竦める。


「良いのよ、別に。私達に必要なのは旅費と武具や道具の費用くらいでしょう? 後はいざという時のお金くらいかしら」


 そう告げるソフィアの目には曇りが無かった。


「エルフはこれだから……なぁ、ハルマ」


 と、ヴァールが春馬に話を振ると、曖昧な微笑が返ってくる。


「……はいはい。分かったよ、無欲の権化どもめ」


 すっかり拗ねてしまったヴァールを尻目に、ソフィアが馬車の御者席から目を細めて行く先を見る。


「あ、村が見えたわよ」


「なに? おぉ、確かに。よくあんな小さな村見つけたな」


 ソフィアの視力にヴァールが感心する。ヴァールは長い期間独りでギリギリの冒険者生活を送った為、音などによる気配を察知する能力は高い。しかし、狩りのために遥か遠くのものを見通す為に鍛えられたエルフの目はそれを凌ぐ。


 ちなみに、春馬はどちらも常人並である為、二人の会話の後に道の先を見たが、村がどれか判別出来なかった。


 暫くしてようやく村に辿り着き、春馬は目を輝かせる。


「へぇ……! 可愛い村だね!」


 春馬はそう言って、村の全体を眺めた。村は木材を長方形に切ったようなウッドブロックで家々が建てられており、村の周囲は石を積み上げた石垣のようなもので囲まれていた。


 家は全て平屋造りで、数も百は無い。こじんまりとした集落である。


 石垣の一箇所に馬車一台がようやく通れる隙間があり、その左右には太い柱があった。柱にはツルで括り付けられた石扉があり、それが門となっているようだった。


 近付くと、門は内側から開かれ、剣を手にした男二人が現れる。


 その二人は先頭を歩くヴァールに気付き、次に馬車の周りに立つ春馬とソフィアに気がつく。


「……冒険者、ですか?」


「おう。Aランクのヴァールと愉快な仲間達だ」


 と、ヴァールが適当な紹介をすると、村人達は驚いて仰け反った。


「Aランク!? なんと、そのような凄腕の冒険者が、なぜこの村に……」


「いや、通りすがりだ。悪いが、一泊させてもらえたらそれで良い」


 村人達が期待の眼差しを向けたが、ヴァールはにべもなく用はないと告げる。


 すると、村人は残念そうにうな垂れた。


「そうですか。いやしかし、Aランクの冒険者が滞在してくれるのは心強い。出来たら、村で困っている魔獣の退治をしていただけたら良いのだが……」


「Aランクを雇うのはかなり高額だぞ。ゆとりはあるのか?」


「いや、無い……仕方ないな。さぁ、村を案内しましょう。どうぞ、こちらへ」


 村人は苦笑しつつ、村の中へ春馬達を招き入れる。それに

 春馬は首を傾げてソフィアに尋ねた。


「そんな簡単に村に入れて良いのかな? 門の意味はいったい……」


 そう呟くと、ソフィアは困ったように笑う。


「こういった小さい村での塀の意味は殆どが魔獣と盗賊対策程度ね。騎士団や強力な冒険者が攻めてきたら抵抗は無意味だから、普通は村を捨てて逃げるものよ」


 その説明に「なるほど」と春馬が頷いた。


 村に入ると、それなりの人数がおり、皆が来客者を見た。その中に見知った顔があり、春馬達に手を挙げる。


「おぉ、貴方は! 何故この村に……!」


 そう言って、あのスラヴァで会った親子が歩いてくる。


「ハルマ殿とヴァール殿。いや、本当に会えて嬉しい。よくぞこの村に。歓迎しますぞ」


 男がそう言うと、門番だった村人が声をあげる。


「おぉ、そうか! リースとジイダンが言っていた冒険者達か! これは失礼をした!」


 大声で謝罪する門番に、他の者達も笑顔になる。


「そうか、例の冒険者達か」


「いや、なかなか出来ることではない」


 感心した様子で集まってきた村人達は、春馬やヴァール、そしてソフィアの側で口々に感謝を伝えた。


「ありがとう!」


「君達のお陰でジイダンが助かった。リースは無事、結婚出来た」


 そんな声がして皆の視線がリースと呼ばれた女性に向いた。そこにはリースと一緒に、若い男の姿があった。男は深く頭を下げると、一歩前に出る。


「僕はこのライサの村の村長の息子、ディルと申します。リースを守っていただき、ジイダンを助けていただき、本当にありがとうございました」


 そんな心からの感謝の言葉に、春馬が笑顔で首を左右に振った。


「いえいえ、こちらはしたいようにしただけですから」


 そう言った直後、ヴァールが春馬の背中を見えないようにツンツンと突つき、ソフィアに手を叩かれていた。


 それに苦笑しながら、春馬は話を続ける。


「そういえば、先程あの方からこの村が何かお困りだと聞いたのですが」


 と、話を切り出した為、ヴァールが目を見開いて何か言おうとし、ソフィアに脇腹を殴られる。


 咳き込む音を聞きながら、春馬はディルに話しかけた。


「もし、私達が何かお手伝いできることがあるなら何でも言ってください。勿論、無償でお手伝いしますよ」


 輝くような笑顔で春馬がそう言うと、村人達は驚きの声を上げた。


 そして、後ろではヴァールが顔を片手で覆って天を仰いでおり、ソフィアがそれを見て声を出して笑った。


「し、しかし、Aランクの冒険者に働いてもらって、流石に無償でとは……」


 ディルが春馬の提案に戸惑っていると、隣に立つリースが口を開く。


「しかし、ディル……申し訳ないけれど、困っているのは確かだし……」


 リースがそう進言すると、一部の村人達がひそひそと影でやり取りを行う。


「……さ、流石に話がうますぎないか……?」


「しかし、本人達が無償でと言ってるんだし……」


 疑いの声が聞こえてきて、ヴァールが舌打ちと共に声のした方向に顔を向ける。


「金を払いたいなら払え。こっちだってこの大善人がバカなこと言わなければ働きたくなんかないんだ」


 そう告げられ、一部の村人達は口を噤んで俯いた。それにまた舌打ちをし、ヴァールが周りを睨みつける。


「Aランク冒険者の俺とソフィアどちらかに依頼すりゃあ最低でも一日金貨二枚だ。Bランクのハルマに依頼しても銀貨五枚は必要だろう。あるか、それだけの金が」


 そう口にすると、村人達は通夜のように押し黙ってしまった。金貨二枚は大きな街で暮らす町民の稼ぎ一年分に匹敵する。


 ライサのような小さな集落の村人が稼ぐのは年間でも銀貨数枚程度である。元々裕福でない村人達に余剰な金銭などなく、村中から資産を掻き集めて銀貨数枚を支払えば間違い無く村は立ち行きいかなくなるだろう。


 こういった村の収入は作物、木や石、狩った獣などである。それらを売って得た金は衣服や護身用の武具、農機具や調理器具などに代わる。そこにゆとりは無い。


 静まり返った村人達を見て、ソフィアがヴァールの脇腹の肉をつまみ上げた。


「あいだーっ!?」


「ヴァール! なんでせっかく歓迎されてたのにそんなこと言うの!? 性格悪いんだから!」


「なんなんだ、お前は!? 俺の脇腹に恨みでもあるのか!? 同じ場所ばっかりやりやがって!」


 怒鳴り合う二人にオロオロするリースとジイダン。


「す、すみません……! 我々が疑うようなことを言ってしまい……」


「申し訳ない……恩人になんてことを……」


 困り果てる二人に、春馬が申し訳なさそうに頭を下げる。


「いえ、こちらもすみません。それでは、依頼料として一泊泊めていただけたら有り難いです。食事付きですよ?」


 春馬がそう言って笑うと、二人はパッと笑顔になって喜びの声を上げた。


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