迷子の犬を保護したら
俺はもういいやと自らの意志で教室を出ていったにも関わらず、再び教室に戻ってきた。
宇賀神にはさっきいた場所で待ってもらっている。
教室の空気的に戻りづらくはあったが仕方ない。未だにガヤガヤと騒いでいる教室に入った。
「おい、何普通に戻ってきてんだよ」
DQNに絡まれるのも仕方ない。だがそれを無視して東城に近づいて行った。
「ちょっといいか?」
「大丈夫だけど……」
東城はDQNを気にしているようだった。だが今は宇賀神の問題の方が重要だと思った。
「おいっ!」
DQNが俺の肩をつかんで絡んできたが、すぐに振り払った。
またDQNとの間に入り、止めようとしている東城の手を掴むと俺は早歩きをして教室を出ていった。
「あっ……」
手を掴んで教室を出るまでわずかな時間しかなかったが、教室は一層騒ぎ始めた。
DQNに絡まれないようなるべく急いで教室を出たつもりだったが、
予想外の行動だったせいか追ってくることもなく何の問題もなく東城を連れ出すことができた。
「……ちょっと……どこに連れてく気……?」
「すま――」
東城の言葉に歩くのをやめ、振り返ると東城の顔が真っ赤になっていた。
恥ずかしいといった様子で俺がつかんだ手とは反対の手で口に手をあて動揺していた。
陽キャって男女のボディタッチとかなんとも思ってないんじゃないの?
そう思っていたが東城はうぶだったようだ。そのギャップにむしろ俺が恥ずかしくなった。
「あー。へんなあれじゃなくてだな……。宇賀神が話したいことがあるって」
「真琴が?」
「ああ。ついてきてくれ」
俺は手を放して、東城を宇賀神がいるとこまで先導した。
しばらく歩くと宇賀神が待っているさっきいた場所まで戻ってきた。
特に大事な話をするような場所ではなく、休み時間に学生が溜まるような広い場所だ。
「真琴、どうしたの? っていうかさっき雨宮君が色々なことあったのになぜ真琴?」
「俺のことはいいよ……」
照れながら返した。宇賀神はやはり言いづらそうにしていた。
「やっぱ、無理だー―」
「大丈夫。東城を信じろ。いや……プリンちゃんを信じろ。あんなにいい子の飼い主だぞ」
犬好きはもちろんだが、犬を飼っている人間は良い人間だと信じている。
犬を飼っている人間は犬たちとコミュニケーションを取れる、優しく思いやりのある人間のはずだ。
俺は絶対にそう思っている。だから東城も宇賀神も……俺も良い人間であるはずだ。
俺の犬好き理論が通じたのか宇賀神は勇気を振り絞り話し始めた。
「歩……。私、今まで無理してた……。ヤンチャな人たちに無理して合わせてた……。
正直一緒にいて楽しくない……。ほんとの私は暗いし、ネットするの好きだし、SNSとかやってないし、
自撮りとかも嫌だった……。でも歩だけは違う。一緒にいて楽しいし尊敬もしてる。大好き……。
本当の私は歩と似てないけど……本当の私はこんなだけど……友達でいてくれる……?」
東城は驚いた様子で聞いていたが途中からうんうんと頷きながら
納得といったような、うれしいといったような顔で聞いていた。
あまり間をおかず、感動したかのように返事をした。
「当たり前だよ! ずっと無理してないかなって心配だった! でもちゃんと言ってくれてうれしい!
真琴は真琴だよ! 無理しないで本当の真琴を見せてほしい! 親友なんだから!」
早口で勢いよく言うその姿は正直な本音をいっているんだと思わせた。
じわじわと東城は涙目になり、つられるように宇賀神も涙目になった。
「歩ぅ~!」
「真琴ぉ~!」
宇賀神は感動して東城に抱きついた。東城もまた感動して抱き返した。俺はどうしようかなと2人を見守っていたが、その姿を見た東城が手招きして抱きつくように促してきた。宇賀神は何事かと俺をみたがふざけて大げさに抱き着こうとしたら2人に引かれた。
「東城が茶化してきたから乗ったのに理不尽だ……」
「雨宮君が乗ってくるとは思わなくて……」
「ふふふっ」
宇賀神が笑うと東城も笑った。ああ、美しき友情だね。こりゃ。俺も多少は役に立てたかな。
「でも真琴に行動させるなんて、雨宮君もやるね」
「リクのためだ……色々と清算すればリクがモモちゃんとプリンちゃんと遊びやすくなるしな」
「そういうことにしておいてあげるっ! しっかりとみんなを一緒に遊ばせないとね!
あっ! そろそろ教室もどらなきゃ! ホラホラ、いこっ!」
東城がそういうと小走りのジェスチャーで教室に戻るのを促した。
俺も宇賀神も軽く返事をすると東城を先頭に教室に戻りはじめた。
教室に戻る途中、制服の袖が引っ張られたので足を止めその方向を見ると宇賀神だった。
「耳かしてくれる?」
俺がクエスチョンマークを浮かべながら渋っていると、いいからといった感じで耳を引っ張られた。
仕方ない。おとなしく耳を貸すと宇賀神がこそこそと言ってきた。
「ありがと……。聖……好きっ!」
目にもとまらぬ速さで東城を追い抜き、走って教室に戻っていった。
東城はなになにと驚いたがすぐに宇賀神を追いかけていった。
俺は顔を真っ赤にしながらその場を動けないでいるとチャイムが鳴った。
リク、どうやらお前のおかげで俺は初めて女から惚れられたようだ。




