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東城歩

 私にとって争いなく平和でいることが最も大切だった。


 相対するもの、対立している者同士の外にいること。幼いころから両親が喧嘩ばかりするのを見ていたからかもしれない。私をそれをどうすることもできず、ただプリンと共にくっつき合い息を殺しながら耐えていたせいかもしれない。


 自分は決して諍いを起こさず、諍いが起こったなら傍観者になる。ただひたすら第3者として立ち回り安全にいることが私に強いられた生き方だった。防衛本能として染みついた生き方だった。


 結局両親は離婚してしまったが……。



 私には小学校のころからの親友がいた。


 私がまだ小学校に入りたてのころ、両親の喧嘩が激しいころだった。その影響からかはわからないが引っ込み思案で暗い性格だった。案の定友達ができず1人遊びばかりしている少女だった。


「プリンちゃーん。あっそびっましょ!」

 

 家に帰りプリンと遊ぶことだけが楽しかった。


 プリンだけが友達だった。


 そんな私を変えてくれたのが私の親友だった。暗い私をいろんな遊びに誘ってくれたり、長所を見つけてほめてくれたり、プリンと一緒に遊んでくれたり……彼女のおかげで私は明るくなることができた。友達は増え1人遊びをすることはなくなった。私にとって学校は楽しい場所になった。


 彼女のおかげであの複雑な時期を乗り切ることができた。


 私にとって彼女は親友でもあり、恩人でもあった。生涯の友達だと思って疑わなかった。


 私達が中学生になったころだった。事件は起きてしまった。私が今でも後悔し続けている事件だった。


 私達は小学校から中学校へ上がった。私が通う小学校から中学校へ共に行く人は少なかったが、幸い私の親友は私と同じところに通うようだった。さらにうれしいことに私と同じクラスだった。


 私は明るい性格で何とか中学に溶け込んだ。最初の頃は苦労もしたがしばらくすると受け入れられた。私の親友が明るい性格にしてくれたおかげで環境が劇的に変わっても、様々な新しい人々とも上手にやれた。


 私は小学校と同じく中学校も楽しくなると疑わなかった。彼女と一緒の楽しい中学校を夢想した。


 でもそうはならなかった。私の親友は中学校の生活に慣れなかった。劇的な変化に耐えることができなかった。中学校最初の学期から彼女は学校を休みがちになった。1週間に1度来ればいい方だった。


 中学校の雰囲気に慣れなかったのか、物心がついて知らない人ばかりがいることに耐えられなかったのか、様々な先輩がいる空気に馴染めなかったのか、今となってはわからない。


 馴染めないながらも学校にくれさえすれば私もいるし、なんとなくそれが日常になって普通の生活になるはずだった。でも逆に1度でもそうなってしまった場合どうなってしまうかは想像に難くない。


 周りの生徒からは侮蔑の対象となり、それを想像して余計にこれなくなる。悪循環だった。

そうなった状態から抜け出すには無理して来るしかない。無理してでも来て悪循環から脱しなければいけないと思った。そうなった場合絶対にサポートしよう、そう心に誓っていた。最初の頃は……。


 久しぶりに学校に来た時、その後の2回目、3回目と私は彼女をサポートしたつもりだった。

しかしそうしても一向に彼女は変わらなかった。


 私は幼かった。


 その姿をみてイライラしてしまった。私は苦しみながらも頑張って自らの力で新しい環境に順応した。

それなのに彼女は私がサポートしてあげているのにまったく変わろうとしない。

だったらもう勝手にすればいい、そう思ってしまった。


 その後彼女が学校に来た時私は一言も話しかけなかった。彼女なら私の助けはいらない、なんとかなるだろう、1人で何とかすることも必要だと自分に色んな言い訳をしながら彼女を見て見ぬふりしてしまった。


 彼女が珍しく学校にきても自分の席から一歩も動かない姿をみてクラス中からいろいろな声が聞こえるようになった。珍しく来ていることに驚く声、なぜ学校に来ないのかという疑問の声、ありもしない噂でバカにする声。多くはバカにする声だった。


 明るい性格のおかげなのかはわからないが私はいつの間にかクラスの中心になっていた。


「歩ってさあ。確かあの子と同じ小学校じゃなかった?」


「え……。うん、そうだよ……」


「なんで全然学校こないの?っていうか歩最初の頃結構絡んでたじゃん。仲良かったんじゃないの?」


 新しい友達が笑いながら茶化すように言ってきたとき、私は咄嗟に返してしまった。


「ちがうって!小学校同じだったから気にかけてあげてただけだよ!」


 私は立場の弱い彼女と仲がいいと思われたくなくなかった。やっと築き上げた立場を学校に来ない彼女に脅かされたくなかった。降りかかる火の粉を払いたかった。


「小学校でも変な子だったよ!」


 それだけではなく彼女の悪口に加担もした。親友だったのにも関わらず……。


 彼女にその声が聞こえていたのかは私にはわからない。でもその後彼女が学校に来ることはなかった。


 当然のように学年が上がっても彼女を見かけることはなくなり、風の噂で保健室登校だということを知るばかりだった。卒業式にも表れず、結局どうなったかはわからない。


 勇気を振り絞って携帯で連絡したときはいつの間にか連絡先が変わり、メールが届くことはなかった。


 でも……。知ることはできる。噂を聞いた時、保健室に行けばよかった。

彼女の家に行って今どうしているか聞けばいい。でもその勇気がない。知る資格がない。


 多少成長したと思う。今だからわかる。私は取り返しのつかないことをやってしまったのだと、親友を見捨ててしまったのだと。今でもずっと後悔し続けている。私のあの行動が彼女の人生を変えてしまったのだと……そう自分を責め続けている。


 でも……どうすればよかったんだろう。私は何をすればよかったんだろう……。

 私が何をしても彼女が変わらなければ意味はなかったんじゃないのか……。

 私の全てを犠牲にすればよかったんだろうか……。


 答えの出ない疑問は今でも堂々巡りしている。これからも堂々巡りし続けるのだろう……。



 私は高校生になった。前の自分のようになりたくなかったからなのかはわからないが、自分を変えたいと思って長い髪をバッサリと切り金髪に染めた。周囲の人達は皆一様に私を見てびっくりしていたが私は高校の新しい環境に馴染むのには一切苦労しなかった。


 金髪なのに気さくな性格だったからなのか、それとも前よりも気負わなくなったのか、のらりくらりするようになったからかなのかはわからない。


 しばらくすると私には友達が大勢でき、いつの間にかクラスの中心的な人物になっていた。

それでも私は特定の誰かと仲良くなることはなかった。

全員とほどほどの距離感で深い仲になることはなかった。


 そんな人付き合いをしていく中である1人の女の子と友達になった。彼女の名前は宇賀神真琴といった。

小さい顔に大きい黒目、サラサラの黒髪、長い足。人形のようだった。最初は軽く友達になっただけだったが話が合い、犬という共通点もあった。私は親友を見捨ててしまったいう後ろめたさがありながら、彼女と仲良くなってしまった。優しく不器用な彼女と親友になってしまった。


 彼女は引っ込み思案で、流されやすい子だと仲良くなるにつれわかっていった。

その性格や容姿からヤンチャな子たちと仲良くしていたが無理をしているようだった。

全てがわかるわけではないが、人間関係がうまくいっているわけではないと分かった。


 私は彼らとほどほどの仲だったが深い仲になる気もなれる気もしなかった。なぜなら彼らは人の悪口を言うことでコミュニケーションを取っていたからだ。いや……それは仕方のないことだ。普通のことだと思う。それでも私は親友のことがあってから、誰かの悪口を言うことはしなかった、したくなかった。


それが贖罪だと勝手に思っている。真琴もそういう話になると露骨に歯切れが悪くなった。彼女もこういう話が嫌いなんだろうと思った。それも彼女と仲良くなった要素かもしれない。


 私は彼女が心配だった。無理をして潰れてしまわないか、壊れてしまわないかとハラハラした。

真琴のことを考えるとかつての親友の顔がちらついた。それでもどうすればいいかわからなかった。

私は一度失敗してしまったから慎重に行動したかった。


 私は彼女と仲良くなって、様々なことを知っていくうちに彼女を助けなくてはと思った。 


 親友を救えなかった、その罪滅ぼしに真琴を利用しているのかもしれない。


 それでも同じ過ちを繰り返したくないと思った。

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