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宇賀神真琴2

 最近彼を観察しはじめてわかったことがある。


 彼は本当に1人だった。俗に言うぼっちだった。グループを作らずひとりでいることの多い彼だったが、誰とも会話という会話をしていなかった。クラスの友達がいないことは知っていたが、顔見知り程度の仲の人もいないようだった。


 他のクラスには知り合いがいるなんてことはなく、一言も発さずに学校から帰っていくこともあった。何かしゃべる日があったとしても授業中に指名されたり、誰かに何か言われた時など必要最低限の会話だった。

彼は自らの意志で会話をしていなかったのだ。


 私は彼と会話をしたい、話してみたいと強く思った。自らの意志で1人なのか、それとも作りたくても作れないのか、1人でいることを何とも思わないのか、ヤンチャな人たちにいじられてどう思っているのか。私は聞きたいことが山ほどあった。だから彼が近くに来た時に勇気を振り絞って声をかけた。 


「あっあの――」


「真琴ぉ~。何してんの~?」


 意を決して話しかけようとしたとき、タイミング悪くヤンチャな人たちが来てしまった。


「あ! ぼっちくんじゃん! 友達はできたかい?」


「さあ」


 彼らは雨宮くんに絡み始めてしまった。だが当の本人は軽くあしらうといってしまった。

どうやら彼は軽くあしらったり、無視したりするなど彼らの対処法を心得ているようだった。

というよりも、絡まれすぎて慣れてしまったといった方がよさそうだった。


「つまんな。ムカつくな」


 彼らは理不尽に怒っていた。自分で絡んでおきながら望んだ反応が得られないと不満を言う。

こういうところもまた私が彼らとは分かり合えない要素だった。


「で、なにしてんの?」


「なんでもない……」


 しかしこの一連のやり取りで私は思った。私が声をかけようとすると雨宮くんは彼らにまた絡まれてしまう。そうなれば彼の迷惑になってしまう。せめてそうならないようひそかに見るだけにしようと考えた。


 だが日を増すごとにやはり彼と話をしたいという気持ちが大きくなっていった。話しかけるようになればヤンチャな人たちにより標的にされるようになってしまうかもしれない。だから絶対に話しかけてはいけない。そう思えば思うほど彼と話してみたいと思った。


 彼と話せば今の現状が変わるかもしれない、変える勇気を持てるようになるかもしれないとそう思った。


 そんなある日だった。モモがいなくなってしまった。学校で疲れて注意力が散漫になってしまっていたせいかもしれない。ケージを開けモモを放して遊ばせていた時だった。私は家事をしていたためしばらくの間気づかなかったが、開けっ放しにしてしまっていた扉から外に出てしまっていたようだった。玄関まで開けっ放しにすることなんて今までなかったため焦った。焦って制服を着たまま走って色々なところを探した。


「モモー!どこにいるのー!?」


 恥も外聞もなく大声で探し回った。家の周り、散歩コース、いつも行く公園など思いつく限りの場所を探した。夕方にいなくなってしまってから夜中まで制服が汗でびしょぬれになるほど探したがとうとう見つからなかった。


「モモぉ~。帰ってきてよぉ~。どこにいるの~。わぁぁぁーん」


 私はその日朝まで泣き続けた。なぜいつもしないようなミスをしてしまったのか、モモが車に轢かれたりしていないか、お腹はすいていないか、自分がしでかしてしまったことの後悔とモモの心配をし続けた。


 寝ずに朝を迎えてから学校へ休みの連絡を入れた後、警察に電話した。


「――はい。わかりました。よろしくお願いします」


どうやらモモの情報はないようだった。モモの情報が入り次第連絡をするという旨をもらって電話を切ってから、ただひたすら待ったが夕方になっても一向に連絡は来なかった。


 私は少しでもなにかやれないかと思い、パソコンを使って迷子犬の情報を集めようと思った。モモのことを書いて情報を仰ごうとした時だった。1匹の茶色い犬の画像が添付された新しい書き込みがあった。私は一目みてそれがモモだと分かり、即座に連絡を取った。


 帰ってきたメールには住所と保護した場所が書いてあった。写真だけをみてモモだと分かったが、保護した場所が比較的近い場所だったため確信に変わった。私はジャージにメガネ、束ねた髪に加え寝不足で人様に見せるには恥ずかしい姿だったがモモに会いたい一心で保護先の住所までひたすら急いだ。


「モモちゃんっ!」


 チャイムを鳴らすと男の人がモモを抱いて出てきた。彼は優しく差し出すようにモモ渡してきたが私は奪い取るようにしてモモを受け取った。


「ごめんね……」


 思いっきり抱き着きながらモモにつぶやいた。しばらくして落ち着いた後、彼も犬を飼っているようでその犬を抱っこしながら片方の前足をとり、動かしながら言った。


「リクだよ。よろしくね」


「モモです。よろしくね。それとありがとう」


 私も同じように返した。優しい人で彼も犬好きなんだろうなと思いながら顔を見たとき衝撃を受けた。


 彼は雨宮くんだったのだ。


 彼がこんな顔をするなんて知らなかった。彼も犬好きだったとは知らなかった。迷子の犬を保護して掲示板に書き込むような優しさがあるなんて知らなかった。


 あんなにしゃべりたいと思っていた雨宮くんとこんな形で会うことができるなんて運命かもしれないと思ってしまった。


さらに幸運なことに彼は私が宇賀神真琴であると分かっていない様子だった。

地味な服装や寝不足のせいかもしれないが、とにかく私はこれはモモがくれたチャンスなんだと思った。


 私は私ではない別のウカノカミという人物になることで迷惑をかけることなく彼と友達なれた。


 ウカノカミという人物になりきって彼のことを知ろうと思った。


 宇賀神真琴ではなくウカノカミとしてなら自らを、ありのままの自分をさらけ出せる。


 彼のことを知り、私のことを知ってもらう。そうすれば何かが変わるかもしれない。


 そう思った。

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