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Bison8  作者: ハンニバル・オーウェン
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セカンドニトロ

「バンク! バイソン8号の整備は出来てるの!? 私のタコちゃんでも余裕でついて行けるわよ!?」


 エミリーオクトパス号のハンドルを握るメイが、後部座席に座るバンクに言った。


「君だって分かってるだろ? バイソンの速さの秘密はニトロ加速にあるんだ。一回の加速で長くスピードに乗れるように設計してある」


「それでそのニトロ加速はいつ使うつもりよ?」


 バンクが面倒くさそうに無線機を手に取る。


「ダッシュ、ニトロはいつ使うつもりなんだい?」


 バンクが無線機越しに話しかける。


『理想は?』


「終盤にマシンの様子を見てからだね」


『了解』


 ――ドドッドッドドドッ!!


 ニトロ加速の爆発音とともに、バイソン8号がエミリーオクトパス号を引き離していく。


「何やってるんだ!?」


 バンクが無線機片手に怒鳴りつける。


『ニトロはまだスピードの乗ってない序盤に使うべきだろ』


「そうかもしれないけど……」


『そうかもしれないけどなんだ?』


「このままのペースでいくと、君はもう一度ニトロを使うだろ? アレは危険なんだ」


『それをやるために今まで調整してきたんだろ』


「だけど、7号も、6号も、セカンドニトロに耐えられなくて――」


『俺が乗ってるのは8号だ。勘違いすんな』



 エミリーオクトパス号は、バイソン8号にどんどん離されていた。


「クソッ、本当に化け物ね、バイソンは。べた踏みでも全く距離が縮まらない」


 バンクは考え事をしているのかメイの言葉に全く反応しない。


 メイはバンクの態度に腹を立てた。


「ちょっとアンタ! 聞いてるの!?」


「ああ、ごめん。考え事してて」


「たくっ……そろそろ中間地点じゃないの?」


 バンクが無線機を手に取る。


「ダッシュ、中間地点に通過したら教えてくれ」


『了解…………今だ』


 バンクが手に持っていたストップウォッチを止めた。


「5分0秒58。悪くない。このままなら5号のタイムは軽く超えられる」


『5号ならな』


 バンクの額に冷や汗がにじみ出る。


「いったいどうするつもりなんだい……ダッシュ」


『どうするもこうするもない。俺はただ、アイツを超えるだけだ』


「あの人を超えるためなら死んでも良いって言うのか?」


『バカなこと言うな。俺はアイツみたいに死んだりしない』


「ジルマッハが死んだのは、僕の整備が甘かったからだ。僕は今でも、セカンドニトロの使用を許可したことを後悔してる。それでダッシュまで死んでしまったら、僕はジルマッハに顔向けできないよ」


『だから死なねえって言ってるだろ。別に俺のことを信じろとは言わねえよ。でもな、ジルマッハから受け継いで、俺たちの作り上げた、このバイソンを信じろ』


 バンクは下唇を強く噛み、手のひらで両目を覆った。


 死んでいったジルマッハとダッシュのことを重ね合わせ、自分がバイソンの整備士としてできることを必死になって考えた。


 そして自分にできることは、バイソン8号と、ダッシュを見守ることだけだと、心の中で何度も自分自身に言い聞かせた。


 バンクが覚悟を決め、無線機を手に取る。


「ダッシュ、よく聞いてくれ。ニトロを使うのは残り5km地点で、マシンに異常がなかった時だけだ」


『ダメだ。10だ』


「6!」


『9』


「7!」


『8』


「……わかった。残り8㎞地点にしよう。それでもマシンの調子次第だ」


『お前の整備したマシンだろ? 調子が悪いってことはないだろ』


「君にしては珍しいね。そんな気の利いたこと言うなんて」


『ちょっと気分がいいだけだ』




 残り10km地点、バイソン8号は、5号を超える好タイムを叩き出していた。


 それでも、覚悟を決めた二人には、それを最速と呼ぶことは出来なかった。


 二人にとって最速とは、『命知らずのジルマッハ』がバイソン6号で叩き出すはずだった、幻の記録。


 ジルマッハを超えるための戦いが、今始まる。



「ダッシュ、そろそろ残り8kmだ。準備はいいかい?」


『ずっと前から出来てる。アイツが死んだときからな』


 ダッシュがセカンドニトロを発動させるボタンに手をかけた。

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