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Bison8  作者: ハンニバル・オーウェン
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バイソン6号

 バイソン2号が歴史的レコードをたたき出してすぐに、一人の少年がガレージを訪ねてやってきた。


 その少年こそが、のちのバイソンの整備士となるバンクである。


 バンクは中央都市ロードで評判の車屋の一人息子だったが、バイソンの整備をするために、家を飛び出してきたそうだ。


 お人よしのジルマッハは、その整備技術の高さをかって、バンクを整備士として雇い、バイソンの構造や整備方法も包み隠さず教えてしまった。


 この時バンクが加わったことにより、バイソンの開発は加速した。



 他の追随を許さないバイソンの速さは、マシンを壊しながらでも走り続けるジルマッハの精神力と、バンクの完璧なまでの整備技術の賜物たまものである。


 ジルマッハがカナロアストレートでマシンを壊すたびに、バイソンは進化していったのだ。


 

 そして、バイソン5号のたたき出した、10分2秒66という記録は、数十年後の人類でも破ることの出来ない記録とされ、伝説の記録と言われた。



 

 そして運命の日、伝説の記録に挑む者が現れた。


 ジルマッハのバイソン6号。


 バイソン6号は5号の記録を塗り替えるための、確信的な技術を有していた。


 その名も『セカンドニトロシステム』


 一回の走行で、二回のニトロ加速を使用する。


 だがこの技術はマシンへのダメージが大きく、実現不可能だと言われていた。


 しかし、バンクはやってのけた。


 エンジンの仕組みを一から見直すことで、二回のニトロ加速に耐えうるマシンを作り上げた。

 


 バイソン6号は、スタートと同時にとてつもない爆音を放った。


 最初のニトロ加速を使用したのだ。


 スタートから数秒たった時点で、すでにバイソン5号の記録を大幅に上回っていた。


 夢の9分台も見えてきた。


 ダッシュとバンクはゴール地点で固唾をのんでバイソンの記録を見守る。



 遠くにバイソン6号が見えてきた。


 いつも通り、バイソンは煙を上げ、苦しそうに走っている。


 そこでまた、


 ――ドドッドッ!!


 耳を引き裂くような爆発音。


 二回目のニトロ加速の音だ。


 このままのペースでゴールに到達すれば、9分台は確実だ。


 そんな時、バンクが異変に気付く。


「おかしい、何かがおかしい!」


「おかしいって何が!?」


 ダッシュも胸騒ぎが止まらなくなった。


「音がおかしいんだ! これは、エンジンの異常だ!」


「そんな……すぐに止めないと!」


 ――バーンッ!


 ゴールライン手前、バイソン6号は大きな爆発音とともに宙を舞う。


 アスファルトの地面をえぐりながら、炎をまき散らし、縦に回転している。


 そして、ゴールラインを目前にして、バイソン6号は地面に車体をこすりつけながら、完全に停止した。


 炎を噴き出し、原型をとどめていないバイソン6号に、ダッシュとバンクが駆け寄る。


 辺りが騒然となり、消火器を持った人が集まってきて、バイソン6号から上がる炎を鎮火した。



 ダッシュはバイソン6号のフロント部分を覗き込んだ。


「クッソ~やっちまった……」


 そんな声は聞こえてこなかった。





 ダッシュとバンクは、ただガレージの中でうなだれることしかできなかった。


 目標を失い、大切なものを失い、大切な人を失い。


 この言葉にできない悲しみは、ジルマッハに教わった。




 その日の夜、ガレージに一台のトレーラーがやってきた。

 

 側面には大きな文字で『アイブラ商会』と書かれていた。


 そのトレーラーから中年の男が降りてきて、ダッシュとバンクを見つけるなり駆け寄ってきた。


「私はアイブラ商会代表のシュウと言うものだ。君たちがジルマッハの……」


 ダッシュとバンクは黙ってうなずいた。


「実は、ジルマッハから君たちあての手紙を預かっているんだ」


 そう言うとシュウ代表は、バンクに手紙を手渡した。


 バンクが手紙を開き、読み始める。


 ダッシュはバンクの背後から手紙を覗き込んだ。




 俺が死んだとき、バイソンを渡す相手はもう決めてある。


 とはいえ、俺が死ぬときはバイソンも粉々になってるだろうから、それでも良いって言うなら、受け取ってくれ。


 バイソンは、


 俺以上の命知らず、ダッシュと、


 俺以上の腕を持つ整備士、バンクに渡す。


 受け取ってくれるよな?



 

 ダッシュとバンクは、何も言わずに、シュウ代表の顔をまっすぐ見てうなずいた。


 


 トレーラーから粉々になったバイソンが降ろされる。


 バンクがボロボロになったボンネットに手を置き、静かに笑った。


「ふっ、こんなものを直せっていうのかい? ジルマッハ、あなたはいつも無茶ばかり言いますね……」


「絶対に直してよね。ジルマッハがアンタたちに託したんだから」


 シュウ代表の背後から女の子の声が聞こえてきた。


「君は……」


 バンクが恐る恐る話しかける。


 しかし女の子は涙をためた目で、バンクとダッシュを睨むばかりで、会話に応じようとしない。


 見かねたシュウ代表が口を開く。


「この子はバイソンの大ファンでね。メイっていうんだ。ここに遊びに来ることもあるかもしれないから、よろしくね」


「はあ……」


 メイはこれ以降、視察という名目で、毎日のようにガレージに入り浸ることとなった。


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