2章 「困惑」
「一旦街に戻るか…」
こんな村に出るくらいだ。街に大型のスピリッツがいてもおかしくない。
「しかし…フレイのやつは何をしてるんだ…」
全く…なんで肝心な時にいないんだ。ほんとにムカつく。馬鹿。阿呆。オタンコナス。
「報告が終わったら飯でも行くかなぁ…っと」
戦士に選ばれた俺達は街のありとあらゆる店の商品、食品が無償で提供される。これだけでも戦士に選ばれた価値はある。
そんなことを考えながら10分ほど時間をかけてゆっくり丘を登る。丘の上からは街の様子が伺える。
「…よいっしょっ…と………は?」
そこから見えた街の様子はいつもの平和な景色ではなく。そこにあったのは…地獄。街の全域をスピリッツが占領している。
「なんだ…何があった…」
くそ!まさか街にもスピリッツが現れたのか!?
急がないと…。自分の使命を全うするため俺の足はどんどん回転率を上げていく。
「なんだってんだ!ここから見えるだけでも10数体はいるぞ!!」
ほんとにフレイは何をやってるんだ!街と民を守れない戦士がどこにいる!
「まずは王のいるカラスタに行って応援を頼むか」
街に入って真っ直ぐ進んでいけば王家の住む城、カラスタだ。
「…?」
「………。」
「…おい!フレイ、お前街を守らずに何を突っ立っている!」
「………。」
「おい!聞いているのか!フレイ!!」
「…ƃǝʍ llǝuɥɔs ɥǝƃ!!」
「…は?何を言ってるんだ…?って、うあっ!」
なんだ…?今一瞬で間合いに入られた…。少し反応が遅れていればフレイの魔剣の餌食だった。
「こんな時に悪ふざけはよせ!」
「……ɥɔɐɟuıǝ ɥɔıp ǝʇöʇ!」
「くそっ…。何なんだ!もういい、そこをどけ!俺は街と民を守らねばならん!…クソっ!」
「ʇssɐɥ ɹǝp 'uǝʇöʇ uǝpuɐɯǝıu ǝʇɥɔöɯ ɥɔı……」
「なんだお前…!フレイ…お前泣いてるのか…?」
一体なんなんだ。突然現れたスピリッツといい、フレイの様子といい。何かがおかしい…。
「いったいどうした!話してみ………!?」
「敵を前に涙するとは…情けない、もういい下がれ」
どういうことだ?意味がわからない。なんでこの人が…
「なぜ…なぜあなたがっ!」
俺が困惑しながら向ける視線の先にいるのは。
この国の王の妻である王女ハーレトンだった。
「なぜって決まっているでしょう?この騒ぎの主犯が私だからです」
ハーレトンがいつも民にするように、優しく微笑みながら言う。
「なぜこんなことをするんだ!!」
「あなたが知る必要はありませんよ……ハァッ!」
「クッ…!」
相変わらずの笑顔で攻撃してくるハーレトン。
「…行きますよ、あなたたち」
「…?……なっ!」
ハーレトンの周りに現れたのは先程村で見たやつよりも遥かに上級のスピリッツ4体。それぞれ属性を持っていてしかもそれがかなり深い。足が動かない。手が震える。
「なんっだよ…」
そう思わず口にし俺は、近付いてくる四つの拳を避けることは出来ず、目の前は漆黒に包まれていった。