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エピローグ

 翌朝、人形に気がついた朔夜は超ご機嫌で、アミューズメントの景品でそこまで喜んでもらってむしろこちらが申し訳なく感じるほどだった。まあ、あげた側としてはこれ以上ない幸せではあるが。

 二日酔いの鼠女のお陰で、山の下りはオカマ男との喧騒はなかった。その分朔夜と色々話が出来たのはありがたい。



 途中までは同じ電車に乗って、特急に乗り換える駅のホームで俺達は別れることになった。

「うわーん! どうして妾は憐に連れて行かれなくてはならぬのじゃーー!! 英輔ー、妾を誘拐しろーー!」

 朔夜が適当な布でぐるぐる巻きにした剣から、埴輪の声が聞こえる。

「またな、埴輪」

 一応俺は埴輪に声をかけた。

 すると朔夜が、じっと物言いたげな目でこちらを見てきた。

「……な、なんだよ朔夜」

 俺がたじろぐと

「……別に。英輔、埴安姫のことは埴輪って呼ぶんだね」

 と、彼女は呟いた。

「は、あ?」

 意図がよく分からずに俺が変な声を出すと、朔夜は眉をひそめて

「だからー……私のことはずっと『朔夜』のままじゃん」

 と、言った。

(……え)

 それは予想だにしない非難だった。

 だってかなり今更だ。

「じゃ、じゃあなんて呼べば気が済むんだよ」

 俺が尋ねると、朔夜は目を丸くさせて、それから視線を泳がせて考え始めた。

(おいおい、言っといて考えてなかったのか)

「名前で呼べばいいのか?」

 俺がそう言うと、朔夜は腕を組んで

「ううん。憐は駄目」

 と、妙なことを言った。

「はあ?」

 『お前の名前だろ?』と、喉の辺りまで出かかったのだが、

(あ、いや、ほんとの名前じゃないんだっけ……)

 と気がついて俺はその言葉を飲み込んだ。

(……でも学校の奴らには普通に呼ばれてたよなあ?)

 俺が不思議に思っていると、朔夜は

「……まあいいや、今のままで」

 と観念した。

「……そ、そうか?」

 どうも、後味が悪い。

 

 もうすぐ俺の乗る電車がやって来る。そろそろ向こう側のホームに移動しないといけない。

「じゃあな、朔夜。今度はいつでもメールしていいから」

 と、俺は彼女に手を振る。

「英輔こそ、変な意地張ってないでメールしてよね」

 と、朔夜は念を押すように言った。

 俺はそんな彼女を一瞥してから、背を向ける。

(さて、帰りは寝過ごさないようにしないとな……)

 なんて思いながら階段に向かって歩いていると、

「英輔っ」

 後ろから朔夜の声がして、俺は振り返った。

 途端、冷たい両手で頬を包まれる。

 それに驚いている暇もなく、

「!」

 また、唇に衝撃が走る。

 しかしそれは、精霊のそれとはまた違う、もっと実体的で、強くて、甘い口付けだった。

 触れ合う時間は短い。

 けれど、唇が離れた後も、俺は場所を忘れてしばしその余韻に浸っていた。

 なんていうか、足元がおぼつかない。昇天しそうだ。

 が、周りにいた電車の利用者数人に少しばかり注目されていることに気がついて、急に地上に引き戻される。

「あ、の、お前、また……」

 顔を真っ赤にした俺がしどろもどろになっていると、目の前の彼女のほうも少しばかり頬が紅潮しているようだったが

「……埴輪の言ってた通りだね。英輔、嬉しかった?」

 なんて、とても挑発的なことを言ってきた。

「……な!! お、お前な!!」

 俺が怒り出そうとすると、朔夜はするりと離れていって、ホームに入ってきた電車の乗り口へと走っていき

「さっきのはプレゼントのお礼だよ、英輔。ありがと!!」

 なんて、満面の笑みで手を振ってきた。

(……あいつは〜〜)


 まったく、俺をなんだと思ってるんだ。

 女なら誰からでもキスされれば嬉しいってわけじゃない。

 そう、やっぱり好きな子からじゃないと、意味がないと思うんだ。

 だから。

 だから。


「……気をつけて帰れよ」

 俺は完全に緩みきった頬で、そう呟いた。


 ああ、全く格好悪い話だ。

 なんだかんだで結局やっぱりあいつに振り回されている。

 でも、悪くはない休暇だった。

 いや、『楽しい』休暇だった。

 帰ったらヒロに自慢してやってもいい。

 いや、したらしたで色々言われそうなのでやはりやめておこう。

 この思い出は胸のうちにそっとしまう。

 また、新しい出来事を迎えるために。


「また逢おう」

 車窓からも手を振る彼女に、俺は口の動きでそう伝えた。

 彼女は変わらない笑顔を車窓から覗かせて、彼女を乗せた電車は走っていく。




 春、彼女のこの笑顔が死ぬほど恋しくなるなんて、このときの俺はまだ、知らなかった。


短い期間でしたが第2章、一応完結です。

・・・なんだか話が進むごとにPG12に近づいているようないないような・・・って(汗)。

今回はクリスマスネタということでたまにはこんな時事ネタもいいかなーといそいそ書きました。

本作は本当にミッドナイトブレイカーの番外編、といった位置づけで、これ単体ではただの痴話話といってもいいほど(汗)ほとんど意味をなさないお話ですが、各所で出てきたちょっとしたネタが完結編の3章に出てくるかもしれないので、「3章まで読んでやるよ!」という気概のある方は是非心のどこかにとどめておいていただけると幸いです。

ではまた春(3月ごろ)にお会いできることを祈りつつ・・・。


p.s.・・・お正月に新しいオリジナルのPCサイトを立ち上げます(予定)。そのときはTOPに貼っているリンクがそちらに移行されますのでご注意ください。


2009年1月4日追記

上記のとおり新しいサイトを立ち上げました。今度のサイトは「なろう」さんに上げている小説メインのサイトでして、今現在はミッドナイトブレイカー強化期間です。

本作は今後挿絵を入れたり第1章を基礎にしたノベルゲームを作ったり(笑)まだまだ盛り上げていく(いきたい)所存ですので、春の真の完結までもうしばらくお付き合い願えれば幸いです。

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