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9話 未確認生物シンドローム


 観光地ということもあってか、街の見取り図があちこちに掲示されているので冒険者ギルドの場所はすぐに見つかっ……たらいいんだが。



 異世界モノのお約束ってヤツがある。


 異世界人との会話は不思議な力で勝手に翻訳されて聞き取れるし話すことも出来るのだが、異世界の文字は読み取ることが出来ない。



「『冒険者ギルド』とか『薬屋』みたいな役立ちそうな単語だけは脳にインプットしてるけど、こりゃ探すの大変だな」



 シンナイにはかなりの数の店があり、見取り図には店名がびっしり。


 その中から冒険者ギルドを探し出すのは昔、流行った絵本『ウォーリアーを探せ』みたいでちょっとした作業だ。




「君島くん君島くん。せっかくだからどっちが先に見つけるか勝負しようよ」



 文川さんが自信ありげな表情でもちかけてきた。


 彼女と一緒にいると面倒な作業も楽しいゲームに早変わりだな。



「よし、受けてたとう。何か賭ける?」


「お~ノッてきたね? ふふーん、じゃあ負けた方はなんでも1つ言うことを聞くってことで」


「な、なんでも!?」



 俺は思わず文川さんのカラダを見て、ごくっとノドを鳴らす。



「え、待って。いま、なにを想像したの!?」


「いざっ、尋常にっ……勝負ッッ!!」



 俺は野獣のような血走った目で冒険者ギルドの文字を必死に探す。


「くっ……!」


 文川さんも慌てて見取り図に指を当てて一つ一つ店の名前をチェックしていく。



 そして。



「あった! 見つけた! 冒険者ギルド!」



 彼女が指で押さえたその場所には確かに『冒険者ギルド』の文字列が書いてあった。



「ふぅー、負けかー。あれ、ここから案外近いんだ」


 俺はあっさり負けを認める。



「はぁ……くだらない勝負で危うく君島くんに犯されるところだったよ」


「いや、しないからね!? そんなこと!!」


 と、一応言っておいた。




 近くの大きな宿屋が良い目印になって、冒険者ギルドはすぐに見つかった。


 エルファストの城下町にあったギルドは市役所レベルの大きな建物だったが、ここは村役場レベルでこじんまりとした規模。


 人の出入りも全然無い。


 人がたくさんいた方が入りやすいんだけど、と思いながらも中へ足を踏み入れた。



 中に入るとすぐ正面に受付があり、案内のお姉さんが座っている。


 軽くギルド内を見渡してみるが他には冒険者も職員も誰もいない。


 エルファストに比べると随分、寂しい雰囲気だな。



「こんにちわ! 今日はどういったご用件でしょうか?」


 俺がキョロキョロしているとお姉さんが声をかけてくる。


 モデルのように綺麗な人で緊張してしまうが、優しそうな笑顔でやわらかな雰囲気を醸し出していて救われた気分だ。


 エルファストのギルド受付嬢も明らかに美人だったが、採用条件に「容姿」の項目も含まれているのでしょーか。



「すいません、依頼(クエスト)を探しに来たんですけど……初心者向けのやりやすいヤツで何かきてませんか?」


「クエストですかー。うーん、ありませんね!」


 お姉さんはいい笑顔で即否定した。



「え、無いっていうのは『あなたたちヒヨッコに任せられるヌルいクエストなんか無いのよホホホ』的な意味でですか?」


 エルファストでは毎日100近いクエストが絶えず更新されていたので、まったく無いとは考えにくいのだが……。



「いえ、本当に無いんです。まったくの()です」


「む、()ですか……」


()ですね~」


 お姉さんはこんな時でも笑顔だった。



「ここは保養地ですからね~。カラダを休めに来る冒険者さんはいても依頼を受けて働こうという方はなかなかいません。いないものをアテにしても仕方ないので薬草採取や食材の確保が必要な人は最初から専用の業者さんに頼んでいますし、危険なモンスターもこの辺りにはいないので討伐系のクエストも無いワケで」


「そ、そうなんですか……」


 お姉さんの説明を聞いて納得はしたけれど、しかしそれじゃヤバいな。


 お金を稼ぐ手段がないじゃないか。


 文川さんの反応を伺うと、彼女も困ったような顔をして考えこんでいるようだった。



「あのー、もしお金を稼ぎたいというのであれば、ここから少し歩いたヒルデロの丘にスライムが出るのでソチラを退治されてはいかがですか?」


「えっ」



 スライム!



 いきなりお先真っ暗になりかけた俺に一筋の光明が差し込んだ。



 この世界の魔物は倒すと魔力を含んだ『魔石』をドロップする。


 これは魔法を使ったり、魔力を含んだ特殊なポーションを作成する時に素材にしたりと色々と用途があるらしく、ギルドに持っていくと換金してくれるシステムがあるのだ。



 そしてスライムならクラスの連中と一緒に毎日戦っていたので、モンスターの中では比較的、(くみ)しやすい相手と言えよう。



 まぁクエストで倒せば報酬がもらえて魔石も稼げて一石二鳥なんだが、贅沢は言ってられないか。




 よーし、よしよし! と俺が拳を握って気合いを入れているとお姉さんが話しかけてくる。


「スライム退治に行かれるんですか?」


「はい、教えてくれてありがとうございました!」


 ガチで救われた気分なので心からのお礼だ。


 お姉さんもニッコリ笑って、机の上にあった紙切れを差し出してくる。



「ではヒルデロの丘までの地図をお渡ししておきます。返却は結構ですよ。それと、ここは大昔の古戦場跡地で地面に大きな穴がそこかしこに開いているので気をつけてくださいね」


古戦場(こせんじょう)……?」


 聞き慣れないが何やらロマンを感じるパワーワードだな。



「700年前、リオファネス神皇国とギルモラス魔帝国が死闘を繰り広げた決戦の地です。派手な極大魔法がバンバン使われて大地を引き裂いた爪痕が今でもしっかりと残っているワケですね」


「ああ、じゃあ大穴っていうのはその戦争の時の……?」


「ええ。まぁ今でも時々、学者さんが来て地質調査でそこらを掘ったりしてるみたいなので、ソッチの穴の方が多いかも知れませんけど。とにかくスライムよりも穴に転落してのケガの方が心配で」


 ふふっ、と微笑んでくれる。



 うーん、なんて親切で思いやりがあるお姉さんなんだ。


 職員の対応はどうでしたか? というアンケート用紙があるなら『大変満足した』にマルをつけてあげたいところだぜ。


 

「お心遣いありがとうございます。じゃあ、ちょっとスライム退治にいってきます」


「いってらっしゃい、お気をつけて!」



 はぁー……。



 結婚したい。



 いや、あのお姉さんとどうこう、ってワケじゃなくてカワイイ嫁さんに笑顔で送り出される生活ってなんかいいよなぁと漠然と思った次第でした。




☆☆




 ギルドを出るとすぐに文川さんが話しかけてきた。



「君島くん。スライム退治、やるの?」


「うん。まぁ二人でやれるか分からないけど、最弱モンスターだしなぁ。逆に言うとそれが出来なきゃ他に出来そうな仕事がなくなって手詰まり感が漂う」



 今まではスライム一匹にクラス40人がかりであたったが、それは石橋を叩きまくって1日かけて渡る風間くんの過剰に安全に気をつかった戦い方だ。


 盾を構えたR武器男子でスライムを取り囲み、誰かがスライムに攻撃されたらそのスキに風間くんやSR持ちの吉崎くんたちが斬りかかるという、俺たちR武器男子は安全なのかなんなのかよく分からない戦法。



 俺も異世界に来たばかりで緊張して、彼の言うがままに従っていたが冷静に考えればもっと効率のいい戦い方が絶対にあるはずだ。

 


 

「ちなみに文川さんは何か作戦とかある?」


「え、ありませんよ。急に決まった話だし」


「あ、というか勝手に話を進めて大丈夫だった? そういえば文川さん、ギルドで全然話さなかったけど実は他にやりたいことがあったとか……」


「いや、それも無いけど……。なんか君島くん、意外とリア充なんだなぁって私はただただ驚くばかりで」



 はぇ?



「リア充!? 俺が!? なんで!? どこが!?」


 一瞬、誰の話をされてるのかと呆けてしまった。


 今までの俺のどこにそんな要素があったというのか。



「だって初対面のお姉さんといきなりペラペラ楽しげに言葉のキャッチボールを繰り広げ出すし、もしかしてこの人、とんだ遊び人なのかなって……」


「あ、遊び人!?」


 からかわれているのだろうか、と思いもしたが文川さんはわりと本当に引き気味にうつむいてる。


 いつもは変な事を言っても目は笑っているのに、今はちっとも笑ってないぜ。



「いやいや! おかしいですよカテジナさん!? さっきのはあくまで事務的なやりとりで、アレくらいは普通のことで……」


「ふーん、君島くんにはアレが普通なんだ。リア充さんの言うことは違いますなぁ」



 え!? フツーだったよな!?


 というか下手したらフツー以下まであるんですが!?



「いや、あのやりとりがリア充に見えたのなら、それはあのお姉さんの犯行だよ。あの人のコミュニケーションスキルが高いから俺みたいなあわれで薄汚ない救いようの無い虫ケラでも話しやすかっただけで……。それにアレだろ? 俺がクラスの誰かと1分以上会話した姿を目撃したことあった?」


「……ないね」


「でしょ!? リア充の俺なんて空想上の生き物でしかないから!」



 なんか自分で言ってて悲しくなってきたよ?

 

 陶芸家が自らの作った茶碗を壁に投げつけて叩き割る気持ちが少し分かった気が……いや、全然違うか。



 一方、文川さんは「そうか……」「うん、うん」となにか一人で納得したようにうなづいている。



「そっか、ごめんね。そういうトリックだったんだね! 私、君島くんは本当は仲間じゃなかったのかと思って結構焦ったよ……」


 そういう彼女はようやく安心した表情を見せてくれた。



 俺から言わせれば、こんなに話してて楽しい気分にさせてくれる文川さんの方がよっぽどリア充力は高そうなんだけどな。


 でも確かに彼女もクラスメイトと話してる姿は見覚えがない。


 そのへんはお互い様なのだろうか。



「じゃあそうと分かったら、そよ風にのってスライムを殺しに行きましょうよっ!」


 文川さんの機嫌はすっかり治ったみたいでよかったが、なんかスライムと戦う前にどっと疲れたな……。


 などと思いつつもヒルデロの丘を目指すのだった。

 

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