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68話 誰もが勇者とかいってみる


★★


 人質をとられた私たちは祭壇から離れ、王様たちが引き連れてきた兵士たちと祭壇の中間距離くらいで様子をうかがう。


 風間くんに腕を掴まれてる西宮さんは泣きそうな顔だ。


 クラスで背が一番低くって大人しい彼女を標的にするなんて()にはかなってるけど勇者の風上にもおけない。


 風間くんまじ腐れ外道!



「それで、どうするつもり?」


 桃園さんが心底軽蔑した表情で風間くんに言った。



「西宮ちゃんを人質にされてる以上、私たちは逆らわない。でも、それでずーっと言いなりに出来ると思ってる?」


「ずっと、じゃない。魔王を倒すまでの辛抱さ」


「あのー、ちょっといいかな」



 二人がバチバチ火花を散らしてるところに明希人くんが挙手して割って入る。



「魔王倒すの手伝えっていうけどさ。魔王倒すよりも後日スキをついて、お前とここの兵隊さん倒して西宮さん救出する方がよっぽどイージーなんだがどう思う?」


「な、なにっ」


「心配はいらんぞ、カザマよ」



 兵士たちに守られてる王様が声をあげる。



「この城には魔法で外部からの侵入を阻む特殊な牢獄がある。そこにその娘を閉じ込めれば魔王ですら手出しは出来ぬ」


「あっ、それ助かります! ふふっ……だってさ。そんな部屋に入れられちゃったら君島でも無理なんじゃないか?」


 王様の支援を受けて風間くんはしたり顔だ。


 くっそ~、嫌な顔! ひっぱたいてやりたい。



 桃園さんが全身から魔力みたいなものを放ちながら髪を揺らめかせ激昂(げっこう)する。


「牢獄って……なんにも悪い事してない西宮ちゃんを牢獄に入れるっていうの!? この最低人間!」


「悪い事をしていない!? これまでさんざん資金面で援助させておいて、コッソリ元の世界に帰ろうなどと許されぬわ!」


 桃園さんは風間くんに言ったのだろうけど、横からFF外から失礼した王様がこめかみに青筋を立てて唾を飛ばしながら怒鳴った。



 うーん。


 これはアレかなぁ。


 何週間もかけて研修した新入社員がロクに仕事もしないうちに『やっぱボクこの仕事向いてないんで辞めますぅ』とか言ったら非常に迷惑、ってネットに書いてあったっけ。


 一人の新人を研修するのに200万円くらいかかるとかなんとか。


 エルファスト王国が私たちに200万円もかけたかは知らないけど、さんざんタダで飲み食いして武器防具も買ってもらったもんね。


 怒る理由は理解できるけど。




 ただし、勝手に私たちをコッチの世界に呼んだのはあなたたちの方なんだよね。


 新人社員みたいに自分から志願して面接受けにきたワケじゃない。



 ……でも王様の中じゃ悪いのは本気で私たち、って事になってそうだなぁ。



(明希人くん、どうする?)


 私は声には出さず、目で彼に合図を送る。


 すると明希人くんも私の視線に気付いてじっと見つめて合図を送ってきた。



(俺も好きだよ)



 ちがうちがう!


 いや、私も好きですけど!


 今そんなのろけてる場合じゃないから!



「そこの娘! 何をニヤけておる!?」


「はぅっ、ごめんなさい」



 ほら~!! 王様に怒られちゃったじゃん!!



「くっ……君島。さては何か企んでるんじゃないか……?」


 私のニヤニヤを風間くんが勝手に深読みしたようで険しい表情をしている。


 いやいや、そりゃ彼氏に好きって言われたら(言われてはないけど)頬もゆるんでしまうってモンですがな!



「君島ッ!! こうなったら勝負だ!!」


「んぇ?」



 風間くんはご自慢の炎の神剣レーヴァティンをビシッと明希人くんに向ける。



「俺が勝ったら君島はこの世界に残ってもらう。その代わり……お前が勝った時は、西宮さんは解放するし元の世界に帰らせてやる。どうだ?」


「え? そんな事でいいなら全然受けて立つけど」


 だよね。


 勘違いリア充の風間くんごときが私の明希人くんに勝てるワケないじゃんねぇ。



 と、思ったけど風間くんのやつ、なんかすごい余裕の表情だ。


 風間くんの分際で何か秘策でもあるのかも……。


 風間くん自身は矮小(わいしょう)な小者でも、彼が修行したっていう『試練の山』がレジェンド級のパワースポットなら偽勇者を本物の英雄に変えてしまうような、そんな力があるのかも。



 そんな事を思うとさすがにちょっと不安になってきた。



「よし、では決まりだ!! カザマ、そしてソラよ!! 前に出て決闘を始めてもらうぞ」



 王様に促されて西宮さんを人質にとったまま、風間くんが前に出る。


 それを受けて明希人くんが準備運動するかのように手首をぶらぶら回しながら前に進もうとする。



「ホントに大丈夫なの?」


 小声で明希人くんに囁きかける。


「分かんない。ヤバそうだったら桃園さんと結託して王様を人質にとってくれる?」


 笑顔でサラっと物騒な策を小さくつぶやいて、何事もないように明希人くんは前に出ていった。



 明希人くんも抜け目ないなぁ。


 というか、そういう策を考えるのは私の役割だったのにね。


 しっかりしなきゃ!



 今の『王様人質大作戦』を桃園さんに伝えようとすると彼女の方から近寄ってきた。



「作戦、聞こえてた。君島くん、こんな時でも冷静で感心した。私、ちょっとアタマに血がのぼっちゃってたわ、ダメダメね」


「そんなことないよ。西宮さんのために本気で怒れるのが陽キャさんのいいとこ。陰キャは全部、他人事だから」


「私もそういうクールなキャラになりたかったのだけれど……」


「そう? でも私、さっきみたいな計算しない桃園さん結構好きだよ」


「えっ、す、好き!? 私、文川さんに嫌われてるかと思ってた」


「まぁね。明希人くんに近付く女は全部、敵ではあるよ」


 そう宣告すると言った私も言われた桃園さんもなんだか二人してクスクスと声を抑えつつ笑ってしまった。



 笑ってる場合ではないと思うがいい感じで緊張もほぐれたみたい。


 右手にひそかに湧水の杖を呼び出して服の袖の中に仕込んでおく。



 スキあらば水を操って王様周辺にいる護衛の兵士たちの動きを封じる準備を整え、桃園さんもいつでも動けるようひそかに軽く身構えた。



「いつまで西宮さんを人質にしてんですか風間センセー。戦いが始まったら盾にするとか鬼畜な作戦すか」


「そんな卑怯なことするワケないだろ!? よくそんなコト思いつくな、まったく!」


 未だに自分が卑怯じゃないと思い込んでる風間くんが捕まえていた彼女の手を離そうとする。



「待て!! 待つのだカザマ!」



 そこへエルファスト王が割って入る。


 決闘しようと向き合っていた二人はきょとんとした顔で王様を注視した。



「その前にソラよ。約束してもらおう……カザマが勝ったあかつきには、そなたがガーヤックで築いた功績をすべてカザマのモノとする、とな」



「え……?」


「お、王様! いや、ルーファのお父さん! いきなり何を言い出すんですか」


「いやなに、ワシとしてはすぐにでも勇者カザマとルーファの婚約の儀を執り行いたいところだが……しかし、そなたは勇者としてまだ何も成し遂げてはおらんではないか」


「はぁ。まぁそれは確かに……」


「そこでガーヤックの街を魔物の群れから救ったのは実はそなた。……という事にしてしまえば」


「ああ! カッコがつきますね!」


 おいおい。



 王様と風間くんは『それだ!』といった感じで意気投合しちゃってるけど、王家を継ぐ人間がそんなインチキ野郎でいいの?



 ん~でもまぁ、従者たちにドラゴン倒させてボンクラな王子に最後ちょろっとトドメを刺させた、とかそういう話ありそうかなファンタジー小説とかで。


 こうして跡取りはどんどんボンクラ化して国は衰退していくのであった。



「まぁいいよ、なんでも。負ける気は無いし、仮に負けて手柄とられても別にどーでも……」


「どうでもよくないですッ!!」


 投げやり気味に答える明希人くんに対して、騒動を歯がゆそうに見守っていたアトラスくんが吠えた。



「ガーヤック防衛の栄誉はボクとソラさんの……ぁぃ……の結晶です! それをあんなヤツに奪われるなんて身の毛がよだつほどおぞましいですよ!!」


「え? あ、うん?」



 アトラスくんが何かを告白したような気がしたし、その勇気は大切にしてあげたいけど風間くんがそれを許さなかった。



「お、おぞましいってアトラスちゃん、そんな言い方ないだろ!?」



 今までクラスの人気者としてモテはやされてきたイケメン様のプライドが傷ついたのか風間くんはギョッとした顔で前につんのめる。



 と、そのとき。



「えいっ」


 一瞬、目を疑った。



 ずっと腕を掴まれて人質状態だった西宮さんがくるんっと体勢を入れ換え、柔道の一本背負いみたいな感じで


 カッシャーンッ!!


 と風間くんを床に叩きつけちゃったのだ!!



「かっ……!? ぐ……」




 風間くんがか細い呻き声をあげた。


 

 その瞬間みんな、地を蹴り、雷のように動き出す。



 明希人くんが倒れた風間くんの首筋に短剣を突きつけ、的場くんにサーヤちゃんに小松くんたちは輪になって西宮さんを守るように取り囲み、私と桃園さんは呆気にとられてるエルファスト王の元へ一足飛びで詰め寄った。



 もちろん国王を護る屈強の親衛隊が立ちはだかるけどハッキリ言って今まで倒してきた魔物たちに比べれば全然大したことない。


「はいっ!!」


 桃園さんが気合いとともにブリューナクの槍から放った電撃で親衛隊を痺れさせ、動きが止まったところを私が湧水の杖による大量放水で祭壇の間の壁際まで彼らを押し流した。



 そして私たちの前に王様だけがポツンと取り残された。


「う……くっ」


「形勢逆転、ですね」


 

 桃園さんが槍の穂先を王様に突きつけた。


「国王!!」


「おのれ……!!」



 引き剥がされた兵士たちが遠巻きに睨み付けて、私たちに圧力をかけてくる。


 しかし王様を人質にとられているため一歩も動けない。


 というか、まぁ人質いなくて彼らが全員で襲ってきても私たちが余裕で勝てそうだし、全然怖くないけどね!



「じゃあ……なんかちょっぴり後味悪いけど帰ろっか。って、あ! アトラスたちはこの状況、大丈夫なのか?」


 明希人くんがアトラスくんたちの方を振り向く。


 そうだそうだ。


 私たちは後ろで輝いてるゲートをくぐれば、この世界ともサヨナラバイバイ。


 日本へエスケープできるので王様たちに恨まれようと知ったことじゃないが、ここにとり残されるアトラスくんとシュペットちゃん、そして魔王ティアさんはそうはいかない。


 心配して彼らに視線をやるとティアさんと目があった。



「奥方さま、心配なさらないでください。魔王である私に勝てる兵士がこの場にいると思いますか?」


 彼女は全身から風の魔力をぎゅんぎゅん放出して扇風機みたいに風を送り出しながら微笑んだ。


 見ると、兵士さんたちったら剣を構えながらも明らかに動揺してる。


 そりゃそうだ、この人たちに魔王であるティアさん倒せるくらいなら、わざわざ異世界から勇者を呼び出さないよね。



「はぁ……」


 王様は肩を落としながら、おもむろに深い深~いタメ息をついた。



「もうよい。そこに倒れておる男を連れて、とっとと自分達の世界に帰るがよいわ」


「え、いいんすか?」


 王様の言葉に思わず明希人くんが聞き返す。



「私たちはともかく、風間くんはお姫様の婚約者。残った方がいいのでは?」


 と、桃園さんも床でのびてる風間くんを指しながら尋ねる。



「はぁぁぁ……。彼は神剣を持つ勇者だ。今は頼りなくとも、鍛えればきっとこの国を背負って立つ英雄に育つと期待したが……試練の山で修行したのに勇者ソラどころかそこのかよわそうな少女にすら投げ飛ばされるとは……ワシの見誤りだったわ」



 王様の言葉にみんな、西宮さんに注目した。


 風間くんを投げ飛ばした彼女は恥ずかしそうに、小柄な体をさらにちっちゃくしてモジモジする。



 確かに外見はちっこいけど、ちゃんとエレメント狩りでレベル上げまくって冒険者としてはなかなかの筋力、スタミナ、敏捷性に成長してたハズだもんね。



「いやぁ、がんばったよな西宮さん! 俺、感心しちゃったぜ!」


 西宮さんが密かに想いをよせてると思われる的場くんが彼女に声をかけた。



「だって、今までみんなに助けてもらったばかりだから……桃園さんみたいな、主人公みたいな人の役にちょっとでも立てたら……って」


 西宮さん自身も興奮してるようで精一杯、声を出した。


 あの人がみんなの前であんな風にしゃべるなんて珍しい。



「私は主人公なんかじゃないよ西宮ちゃん。ううん、違うか。ここにいるみんなが主人公なんだよ、私も。そして西宮ちゃんも」


 桃園さんが優しい表情で西宮さんをハグしながら頭をなでる。


「そうだぜ! ってか西宮さんはかよわくて可愛くて、やるときはやる女! 主人公っていうかメインヒロインって感じだよな~!!」


「えっ」


 実は天然だった的場くんが何やら告白すると、西宮さんは顔を真っ赤にしてうつむいちゃった。



「ちょっと的場くん。今、私が西宮ちゃんを口説いてるんだから告白は後にしてくれる?」


「はっ、こ、こくはく!? いやいやいや、そりゃに、西宮さんかわいいけど、そんな、いや、す、好きだけど?」


「は、はぅ、ま、的場くん……」


「ご、ごめん 俺、自分でもなに言ってんだか……」



「わ、私も好き!!」


 西宮さんが目をつぶって絶叫した。



「えっ、ええっ!?」


「いつも、私なんかにも話しかけてくれたり……、優しくしてくれる的場くんのこと、好きですっっ!!」



 突然の若い男女の告白劇にクラスメイトはもちろん、王様や兵士たち、そして魔王ティアさんすら固唾をのむ。



「じゃ、じゃあ、俺たち、付き合っちゃう?」


「う……うんっ」



「ひゅ~! 的場死ね」



 何やら祝いと呪いの言葉がわき起こって、みんなで二人をポンポン叩いて胴上げが始まった。



「うぅむ……こんな場面であのような大胆なことを。かよわい少女と言ったが、あれもやはり勇者の類いであったか」


 王様が腕組しながらウムムと唸った。




「それじゃ、めでたい雰囲気のうちに日本へ帰りましょうか! ほれ、行った行った!」


「わっ、ちょ」


 桃園さんにトンと肩を押されて西宮さん、的場くんが異世界ゲートの中へと吸い込まれていった。


「それじゃウチも~。いろいろあったけど楽しかったよ、異世界!」


 サーヤさんが感慨深そうに、天……というか地下祭壇の天井に向かって声を上げた。



「んじゃ行こっか」


「わ、急に……!!」


 サーヤさんったら小松くんとしっかり腕を組んでゲートの中へと飛び込む。



 最初はゲートをくぐっても大丈夫なのかと二の足を踏んでたクラスの人たちも、何人か行くともう『赤信号みんなで渡れば怖くない』状態になったのか次々と飛び込んでいく。


 途中、気を失ってる風間くんや魔王のまま拘束された吉崎くんも放り込んで、そしてついに桃園さんと私と明希人くんの3人だけになった。



「はぁ、カザマも行ったか」


 王様が話しかけてくる。


 地下祭壇に乗り込んできたときの覇気は既になく、私たち3人だけになったからと襲いかかってくる気も無さそうだ。



「勇者ソラよ、最後に未練たらしく確認しておこう。どうだ、ワシの娘と結婚してこの国の王位を継ぐ気はないだろうか」



 このオッサン、娘に風間くんをあてがっといてダメになったら即、別の男か。


 そんなことしてたら娘さんに嫌われちゃうよ!



「えーと、自分なんかにもったいないお言葉、身に余る話ってヤツだと思うんですけど実はその……既にこちらの彼女と結婚してる身でして」


 明希人くんは私の肩を抱き寄せた。


 はわわっ、兵士さんたちがみんな見てるよ恥ずかしいよ!



「おお、なんとそうだったのか。それでは……諦めるしかないな」



 王様は寂しそうに首を振る。



「この衰退著しいこの国を本物の勇者として盛り立てて欲しかったが……」


「王様、自分なんか運やタイミングが良かっただけでそんなに大したヤツじゃないっすよ」


 明希人くんが何か語り出した。


「さっき王様も言ったでしょ、西宮さんが勇者だって。なんていうか……一人一人が勇気を出せば、誰でも勇者になれるっていうか」


「ふむ……え? だから?」



 王様が聞き直す。


「え、いや、だから……みんなで、勇気を出して、が、がんばってください」


「う、うむ……」



 微妙な空気が流れた。


 主人公っぽく良いことを言おうとして失敗した明希人くんは『言うんじゃなかった』という顔をして、虹色に輝く異世界ゲートに向けて走り出す。



「じゃあな、アトラス、シュペットちゃん。そしてティアさんもお元気で!!」


「ちょっと、私を置いてかないでよぅ~!」



 急いであとを追うとゲートの直前で明希人くんは立ち止まって、走ってきた私の手を握る。



「じゃ、帰ろうか詩緒梨さん」


「もう、しまらない最終回だなぁ」



 私たちは顔を見合わせてクスッと笑って異世界ゲートに飛び込んだのだった。











★★



 ゲートに飛び込むとそこは日本……ではなく全方位が虹色の空間だった。



 上も下もない、無重力のような空間の中をウォータースライダーのように流されていく。



「うわ、大丈夫かな。これ、永久にこの空間を漂うとかないよね?」


 私はちょっと不安になって明希人くんの手を強く握る。


「どうだろ……。まぁ俺は詩緒梨さんと一緒ならいいよ。永久にこのままでも」


 すると明希人くんはより強く、ぎゅっと握り返してくれた。


 嬉しいけどちょっと照れるな。



「うーん、……私はさすがにここで一生過ごすのは嫌ですけど」


「ごめん、正直に言うと俺も嫌だ」


 ちょっと!!


 そこは本心隠しといてよ!


 自分の事を棚にあげて私は明希人くんから1ポイント減点した。



「大丈夫ですよ~、あと300秒ほどであなたたちが元いた世界に到着するのでしばらくお待ちくださ~い」


「えっ!?」


 誰もいないと思っていた空間でいきなり別の人の声がしたのでビックリしてしまう。


 明希人くんはとっさに私をかばうように抱き締めてかばってくれた。


 えへへ。


 明希人くん、プラス100ぽいんと。



「あらら、アツアツなんですね~。お二人のイチャツキを肉眼で確認できてなんだか興奮してきました~」


「……聞いたことある声だと思ったらマリアリス様じゃないすか」



 そう、異次元空間を漂う私たちの前に現れたのは何度かガチャをひかせてもらったガチャ女神マリアリス様だった。


 知った顔が現れて私も明希人くんもホッとする。



「異世界での冒険お疲れさまでした。他の方にも説明していたのですが、こちらの世界からあなたたちの世界に帰るあたりガチャ武器を回収させていただいておりまして~」



「ああ、そういうのあるんだ……。ってことはコイツともお別れかぁ」


 明希人くんはいつもの赤い短剣ファイアバゼラードを手に取る。



「あなたほどガチャ武器がかぶる不幸な人も珍しかったですが、一周まわって呪いのパワーで戦う暗黒剣士みたいで面白かったですよ」


 この女神、他人事だと思ってめちゃくちゃ言うね!



「勇者どころか魔の剣士かよ……。勇者とはいったいなんなんだろうか」


「明希人くん、最後の戦いはなにげになんっにもしてないもんね。桃園さん西宮さんの方がよっぽど主人公してたかも」


「いや、俺、陰キャっすから。こんなもんっす」


「ふふ、でもそれでこそ明希人くんだよ」


 ガーヤックでの一件あたりから異様にモテはやされる彼を見て誇らしいと同時に、遠い存在になったような寂しさも実はあった。


 だから、こうしてスポットライトの当たる役割は桃園さんあたりに返却して、私たちはクラスの隅っこでイチャイチャできる今くらいのポジションにいるのがちょうどいいや。



 私は急に明希人くんが今までの一億倍くらい愛しくなってたまらず背中に腕をまわして強く抱き締め、彼も抱き締め返してくる。



 マリアリス様の眼前だというのに待ちきれないように二人でイチャイチャ愛しあっていると、そのうち女神さまの舌打ちとともに辺りが真っ白な光に包まれていくの感じ、心地よく柔らかなベッドで眠りに落ちていくように意識が遠退いていったのだった……。


 

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