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66話 勇者の末路


★★


「すごいな……。本当に君島一人で魔王を倒してしまったっていうのか……」



 部屋に入ってティアさんが本当に魔王である、という証明を風間くんに見せてみた。


 人間フォームから背中を中心に翼と羽毛が生えた魔王フォームにチェンジしてみせたり、強力な風の魔力を顕現したり。



 何をもって魔王と呼ぶかは私にも分からないけど、絶大な力を持ったティアさんを君島くんが従えているのは事実であり、それで今お城の地下で異世界ゲートが開いてるっていうんだったらもう信じるしかないみたい。



「俺一人で倒したワケじゃないけどね。ここにいるアトラスの投擲スキルが無かったらファイアバゼラードはティアさんの魔法障壁をブチ抜けなかっただろうし。な?」


「えへへ……ソラさんのお役に立てて何よりです」


 宴用に華麗なドレスをお城の方で準備してもらったアトラスくんちゃんがテレテレと頬を染めた。


 このコ、絶対に明希人くんのこと好きだよね。



 明希人くんがあまりにも何も気付いて無さすぎて少し応援してあげたくもなるけれど、本気出したアトラスくん本当に美少女だからなぁ。生物学的にはオトコのコだけど。



 万が一、何かに目覚めた明希人くんがアトラスくんエンディングを選択して『俺、アトラスと結婚して異世界に残る』とか言い出しては結構ショックなので私には何もしてあげられないよ。


 度量の狭い女子(おなご)でごめんね。



「ていうか風間っち、なんにも知らされずに宴に呼ばれたワケ? ミッシーが生きてたとか魔王が倒されたとか教えてもらわなかったの?」


「いやあ、城でパーティが開かれるから帰ってこい、って話以外は何も。時間的に余裕無かったし……俺、飲まず食わずで山を駆けおりてきたんだぜ」


 サーヤさんが風間くんに話しかける。


 彼女はたぶんおそらく風間くんのことが好きだったと思う。



 ウェアウルフ襲撃前は積極的に女子力アピールしてて『イケメンに取り入るあざといビッチさん』とひそかに思っていた記憶が……おっと、ゲフンゲフン。


 陰キャな部分が出ちゃったね。


 サーヤさんのこと、今は結構いい人だと思ってるよ私は。



 ま、それはおいといて……今はどうなってるんだろ彼女の乙女心。


 なんか最近よく小松くんと行動をともにしているのを見かけますけど。



 異世界での能力はともかくとして、日本に帰った時の二人のステータスを比べるとですね……。


 イケメンでスポーツは出来るけどテストで平均70点くらいの微妙な脳みその風間くん。



 一方、勉強が出来る以外はパッとしないけどテストは平均90点以上の優等生小松くん。



 どちらが将来、有望かというと……。



 うん。



 サーヤさん、なかなか現実的なチョイスしてるかも知れないね!



 なんとなく小松くんの様子をうかがってみると、部屋に持ち込んだジュースを飲みつつ、じーっとサーヤさんの方を見つめているではないですか!!


 うひょひょっ。


 明希人くんとの仲を他人に冷やかされるのは苦手だけど、他人の恋路を(さかな)にして呑むブドウジュースの美味しいこと!



 そういえばクラスでちょっと怪しい男女ペア増えたよね。


 島谷さんは近藤くんとベッタリだし、もう一人の同姓の島谷さんは角ウサギから自分をかばってくれた青木くんと隙あらばイチャついてるし。


 的場くんも「お前らだけ青春しやがって! 爆発しろ!!」と荒れてるけど実は引っ込み思案な西宮さんが彼に積極的に話そうとしているのに気付いていないご様子。


 クールキャラでちょっと中二病っぽい三橋くんも桃園さんを付け狙っていたり……。



 なんだかピンク色ですなぁ。



 な~んて、私も他人(ひと)の事は言えませんけどね。


 なんか正直、明希人くんに対する性欲が最近ムラムラと燃え上がってきてるような……。


 ここだけの話、キスするだけでもうあのその……いや、やめとこ。



 ああああだけど日本に帰ったら明希人くんとどんな感じでお付き合いするんだろ!?


 まさか高校生活で彼氏が出来るなんて思ってなかったからなぁ。



 一緒に下校したり、ファミレスでおしゃべりして、休みの日にはアニメ映画なんか一緒に観に行ったり……あ!


 二人でおんなじオンラインゲームやるのもいいよね。


 オンゲなら家に帰っても遊びながらずーっとチャットできるし。



 そして二人でお勉強会して、おんなじ大学入って……。


 へへへ。


 異世界生活が終わることに寂しさも感じてたけど、なんか日本にかえるのメッチャ楽しみになってきたよ。



 

 ぶっちゃけ早くコンドームつけて思いっきりセックスしたいな、とイヤらしい目で明希人くんの身体を眺めていると、彼の方に近寄ってくる風間くんの姿が目に入った。



「飲んでるか?」


「いや、あんまり飲みすぎるとオシッコ行きたくなるから」


 お酒みたいなカンジで風間くんがブドウジュースの入ったビンを差し出すが、明希人くんはやんわり断る。


 風間くんのお酌で飲みたくないんだろうね。


 その器の小ささ、大好きだよ!



「しかしアレだよなぁ。そんなにスゴい魔王を仲間にして、可愛いコと仲良くなって、異世界ですっかりリア充になったんだな君島」


 風間くんがまじまじと明希人くんを見る。


 周りには褐色美女のティアさんにアトラスくん。それにシュペットちゃんもいるからすっかり異世界ハーレムをはべらせているみたいだよね。



「リア充と言われると陰キャであることに誇りを持ってる俺としては抵抗を感じるけど。まぁでも楽しい毎日だったよ、コッチでの暮らしは」



 楽しい毎日『だった』と過去形になってるところに寂しさを感じたのか側にいるアトラスくんが明希人くんの顔を見上げる。



「そうだよな、楽しいよな……だったら、もう少しコッチの世界に残らないか?」




 ……えっ?



 なんとはなしに二人の会話を聞いていた他のクラスメイトたちも風間くんの発言に注目する。



「いや、まぁ名残り惜しい気持ちは確かにあるけどさ」


 言いながらアトラスくんのアタマをとっても優しくなでる明希人くん。


 アトラスくんも気持ち良さそう。



「だけど帰る日を先伸ばしにして誰か死んだりしたら……な」


 軽くアトラスくんのアタマをぽんぽんして手を離す。


 明希人くんもアトラスくんと別れるのは寂しいんだろうね。



「……別に全員が残らなくてもいいさ。自信の無い人には帰ってもらうとかしてさ。でも君島なら大丈夫だろ?」


 馴れ馴れしい笑みを浮かべて明希人くんの肩をぱんっと叩く。


 一方、明希人くんは怪訝な表情だ。


「悪いけど話が見えないんだが。異世界に残るって……風間くんは何を言いたいんだ?」


「……」



 風間くんはフゥーッと一息吐き出すと天井を見上げてジッと目をつぶる。



「俺……まだこの世界に来て何もしてないんだよ」


「ん?」



 ぼそっと風間くんが呟いた言葉を明希人くんが聞き返す。



「俺はさ……こっちの世界にもそれなりに思い入れが出来てきたんだ」


「そりゃあ……風間くんはお姫様と結婚してゆくゆくは王様になれるかも知れないものね」



 桃園さんが口を挟んできた。


 クラス全員を無事に帰すために苦心してきた彼女には風間くんの「異世界に残ろう」発言には思うところがありそうだよ。



「……王様になるとか、そういうのは正直ピンと来てない。だけど、そうさ……。俺は魔王を倒し、そしてルーファと結婚するって誓いあったんだ!」



 そんな事言われましても。


 風間くん的には盛り上がってるけど明希人くんも他のクラスメイトも『知るかよ』って感じの冷めた雰囲気だ。


 

「えーっと? つまり風間くんはお姫様と結婚するために魔王を倒したいと。そして……え? 日本には帰らないってこと?」


 明希人くんが頬をぽりぽり掻きながら困った顔をしている。


「それは……分からない。残ってもいいが……いや、もしかしたらルーファを日本に連れて帰るって選択もアリかも知れないな」



 なにいってんの、このスットコドッコイ。


 そんなことしていいの?


 そもそもコッチの世界の人を日本に連れて帰るなんて出来るの?



「とにかく!」



 みんなの困惑した視線を振り払うように風間くんは拳をガッと握った。



「ルーファとそういう誓いをしたってのに、君島が出したゲートくぐって何も成し遂げずにコソコソ日本へ帰るなんてカッコがつかないんだよ! 分かるだろ!?」


「そりゃ分かるけど。でもなぁ」


「風間。君島が言っただろう。キミのカッコつけの魔王討伐に付き合って誰かが死んだらどう責任をとるんだ」


 小松くんがビシッと言ってくれた。


 勉強以外パッとしないなんて思ってごめんなさい。


 なのでアイツにもっと言ってやってくださいよ!



「だから! 別に小松に残れなんて頼んでないだろ!! お前は帰りたきゃ帰れよ」


「は? そんな言い方ないんじゃないの? てか、なんでミッシーを巻きもうとしてるワケ? そんなに残りたきゃ自分だけ残ればいいじゃん」


「な!? さ、紗耶香! そんな言い方するなよ……」


 小松くんに暴言を吐いたのが気に入らなかったのか、ムスッとしたサーヤさんに冷たい言葉を浴びせかけられるクラスの人気者だった風間くん。



「……アレだろ。自分一人じゃ何も出来ないから君島を利用して魔王を倒そうってんだろ。それで手柄は横取りってか? くだらねぇ」


「はっ!?」


 おや、明希人くんに負けてから彼にブチブチと憎まれ口叩いてた三橋くんまでそんな事を言い出したよ。



「三橋、お前までなに言ってんだよ……。君島を利用するなんて俺、そんなこと一言も言ってないだろ!?」


「ふぅん。では何故、君島くんに残れと言ったの?」


 今度は桃園さんが追求する。



「それは……君島が……俺の親友だからだ!!」



 ぶっ!



 明希人くんが鼻水をちょっと噴き出した。



「みんなには分からないかも知れない。だけど、俺たちは……俺と君島はあのウェアウルフ襲撃の夜に固い絆で結ばれたんだ」


「……そんな固い絆で結ばれた君島くんを裏切り者にしたてあげたの? それはおかしいよ。いくらなんでもムシが良すぎるよ」


「う、いや! あれは吉崎が言い出した事だし……」


 水瀬さんも参戦してきた。


 クラスでわりと一目置かれてる人たちが私のカレシの味方をしてくれるので、なんだかニヤニヤしてしまう。


 ふふ~ん、鼻が高いよ!



「と、とにかく君島! お前の意見が聞きたい」


 風間くんはみんなから逃がれるように明希人くんの前に出てきた。


 そして懇願するような表情で見つめる。



「……俺は風間くんに力を貸してもいい」


「ほ、本当か!!」


「お、おい、君島!?」


「みっしー!?」



 明希人くんの発言に色んな人たちが声をあげる。



「ティアさん。悪いけど彼のサポートをしてやってくれるかな?」


「ふぅ、主や奥方様以外に仕えたくはないのですが……ご命令とあればいたしかたありません。このティアにお任せください!」


 ティアさんがその場でかしづいた。


「ああ、別に彼に仕えなくていいから。あくまでティアさんの裁量で魔王討伐の手助けをするって感じで」


「はっ」



「え、おい。ちょっと待ってくれ。君島は……お前は力を貸してくれないのか?」


「だから、貸してるだろ。魔王であるティアさんの力を。あと冒険で手に入れた便利アイテムや余った強化素材エレメントなんかも全部プレゼントするからがんばってください」



 明希人くんはカバンに入れて持ち歩いていたアイテム類を、ボーゼンとする風間くんに手渡していく。


「なるほどね、そういうことなら! 風間くん、私からはこれから起こることのスケジュール表をあげるわ。それで魔王を倒せる保証はないけど少なくとも予言者にはなれるわよ」



 桃園さんもカバンからメモ書きを取り出して風間くんに渡す。



 それをキッカケに他のみんなもポーションとか余ったお金とかを風間くんにカンパした。


 一人一人の持ち物はそれほど価値は無いかもだけどクラス40人分ともなるとそれなりの資産だね。



 まぁどうせ日本には持ち帰れないものばかりだし、引っ越し前にゴミを押し付けてるような感じになっちゃってるけど。



 でもそうか……。


 こっちの世界でのアイテムは持ち帰れないんだよね。



 明希人くんからもらった指輪もゲートをくぐったら消失しちゃうのかと思うと急にせつなくなっちゃった。


 私は薬指にはめられた指輪にそっと手を当てる。



「……日本に帰ったらまたすぐに買う。約束するよ」


 そんな私の仕草に気付いたのか、明希人くんがそっと囁いてくれた。


「……うん。約束」



 現金なもんで新しい指輪を買ってもらえると分かるとテンション上がってきた!



「あ、とりあえずのだし、そんなに高くなくていいよ。私もその金額分、ごはんおごるからあんまり高いと私が困るかも」


「え、そういうシステムなの? ということはメチャクチャ高い指輪贈ったら足りない分は詩緒梨さんのカラダで払ってもらってもOK?」


「ちょ!? みんな、聞いてないようで聞き耳立ててるから!」


 

 ハッと周りを見ると男子たちが私を見てゴクッとのどを鳴らした。



「こ、こらーっ! 人の彼女でいやらしい妄想するんじゃないよ!!」


「いや、今のは君島が悪いだろ!?」



「ふざけんなよっ!!」


 男子たちが騒いでいると風間くんがなんか怒ってた。



「こんな……モノだけ渡してサヨウナラとか……お前ら、それでも友達かよ!!」


 自分の都合で無関係の明希人くんを命がけの戦いに巻き込もうとしてる人が友達とかよく言うよ。



 でも、ま、結局これが風間くんのやってきた事って話だよね。


 私の事を今まで命がけで守ってきてくれた明希人くんが私に『残ってくれ』というなら私は喜んで力を貸すよ。


 一緒に苦労してきたサーヤさんやシュペットちゃんが困っているならなんとか解決策を見つけようと思える。



 だけど風間くんはクラスの誰ともそんな関係を築けていなかった。



 ただ、それだけの事なのだ。



 別に一生懸命がんばったけど役に立てないのは仕方のないことだと思う。


 でも、そんな人が自分勝手なワガママをわめき散らしても通るワケがない。



 いや、お姫様にプレゼントしたいからお金貸してくれ程度のワガママなら考えてあげないでもないけどさ。


 さすがに命は賭けられないよ。



 などと風間くんが必死の訴えを空回りさせてるうちに夜も深まり、宴で騒がしかった城内も静寂に包まれ、落ち着きを取り戻しつつある。

 


「そろそろ頃合いかしら」


 桃園さんが扉からひょこっと顔を出して廊下の様子を伺う。


 人気(ひとけ)がなくなり、各所を守る衛兵さんたちも若干まどろんでいる時間だろう。



 私たちは酔いざましの散歩という名目で城内をうろつきつつ、地下の祭壇に向かうというシンプルな計画だ。


 

「いいヒマつぶしになったわ。それじゃ風間くん、魔王討伐がんばってね」


 桃園さんは力なくひざまづいている風間くんの肩に手を置いたあと、みんなに出発の合図を出す。



「ひでぇよ……みんな」


 去っていくクラスメイトたちを見もしないで風間くんはボソリと恨み言をこぼした。


 そんないじめられっこみたいな彼を桃園さんは一瞥して部屋を出てゆく。



 みんなで帰ることにこだわっていた桃園さんも、自らの意思で残ろうって人はほっとくことにしたんだろうか。



 放心状態のSSR勇者な風間くんを部屋に残し、私たちは地下祭壇へと向かったのだった。



投稿期間が空くと前回の展開を忘れてて一人でリレー小説やってる気分が味わえます


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