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65話 忘れ去られた勇者


★★



「みんな……っ!! 久しぶりだなぁ……!!」


「おー、風間ー。ひさびさー」



 ものの数分で収束した『吉崎くんの反乱』からしばしの時が過ぎ──────


 私たちを讃えるためにと開かれたエルファスト城での晩餐会でムッシャムシャご馳走をむさぼっていると、少し遅れてSSR武器持ちの大勇者さま、風間くんが城内に現れた。



 風間くんは私が最後に見た時よりも豪華な鎧を着ている。


 お姫様と婚約したっていうくらいだから王様に特別待遇してもらっているのだろう。


 と、同時に鎧の下に着込んでいる服は所々、擦れて破れてズタボロだ。


 単に優遇されていただけでなく、試練の山に籠ってそれなりに過酷な修行で己を磨いていたのかも知れない。



 ……と、一人孤独に山籠り生活を1ヶ月以上送っていたからでしょうかね。


 クラスのみんなと合流した風間くんはめっちゃハイテンションでした。



「それで、みんな今までどうしてたんだ?」


「どうって、風間も知っての通り、クラスはいったん桃園さん班と吉崎班に別れて行動してて。そんで、君島が帰ってきたのがキッカケでさ……」


「君島!?」



 男子の口から明希人くんの名前が出て、改めてクラスメイトを見回す風間くん。


 すると隅っこでクッキーと生クリームとフルーツを合体させて勝手にお手製スイーツを作っていた明希人くんを見つけてツカツカツカッと早足でにじりよる。



「……おぃーす」



 明希人くんが微妙な表情で手を上げた。


 最初は知らなかったけど、明希人くんも風間くんに数十匹のウェアウルフ相手に囮になれ~とか無茶苦茶な命令されてたんだって。 


 てっきり明希人くんの方から囮役を買って出たんだと思ってたけど。


 『スーパー強くなった今となってはどうでもいい事だけどな』……と言っていたけど、だからといって笑顔でハグしたい相手じゃないだろうねぇ。



「君島ぁっ! よく生きてたなぁっ!!」


 そんな明希人くんの想いを踏みにじるように風間くんはガシッと全力で抱きついて熱い抱擁を交わした!


 男子同士のハグに女子からキャー!! と謎の歓声が上がる。


 一方、お皿から落ちそうになる生クリームスイーツのバランスをキープするために明希人くんは動けないッ……!!



 ここは良妻であり、まさしく恋女房である私が以心伝心で彼のお皿を持ってあげた。



「よっしゃナイス詩緒梨さん!! うぉおお離せぃっ」


 お皿を手離して自由になった明希人くんは素早く風間くんを振りほどいて距離をとる。



「なんだよ、せっかくの再会なのにつれないぞ君島?」


「いやいやいや、そういう風間くんはなにゆえそんなにフレンドリーなんですかい!?」


「なにゆえ……って、だって俺たち親友……いや、もはや戦友だろ?」



 風間くんは曇りなき(まなこ)でバチッとウィンクをかましながら親指を立ててグーッド! って感じだ。


「っ……」


「俺は君島ならあの状況でも生き残るって信じてたんだぜ? だからこそ次に再会する時には俺自身も恥ずかしくない男になっていなきゃと思って今日まで死に物狂いで鍛練してきたんだ」



 なんでしょうね、この人。


 あの熱っぽい表情、どうも演技では無さそうだ。


 明希人くんを死地に追いやった都合の悪い過去をゴマかそうとしてるのかとも思ったけど、どうやら風間くんの中ではガチで熱いドラマが展開している様子。


 明希人くんが仲間のために喜んでウェアウルフの群れに突っ込んでいったと本気で信じているようだった。



「……そうか。まぁもうそれでいいよ。俺もお前と再会できて嬉しいぜ。やっほーい!」



 面倒くさくなったのか明希人くんはヤケクソの笑顔を作って風間くんの分厚い鎧の上から胸をドンッと殴った。


 金属に阻まれて風間くんは痛くもかゆくもないだろうけど、明希人くん的には怒りの一撃を彼に放ったことで復讐完了ということにしたっぽいな。



「……アレで良かったの?」


 他のクラスメイトと話にいった風間くんから離れた位置で明希人と二人きりになって話しかける。


「まー……ウェアウルフ襲撃の時はテンパった状況だったしさ。言ってみればアイツも異世界召喚による被害者と思うとそこまで責められないよ」


「なんだか刑事ドラマみたい。『あの犯人もこの歪んだ社会の被害者なんだー』みたいな」


「まさにそれ! さすが、分かってるぜ詩緒梨さん」



 フフッと二人して顔を見合わせて微笑んだ。



 正直、私だって明希人くんの命を危険に晒した風間くんに腹が立っていたんだよ?



 だけど明希人くんとイチャイチャしてたらどうでも良くなっちゃったのさ。



 過去にどんな苦しい想いをしたとしても大好きな明希人くんと今、笑いあっていられるのならそれでいい。



 明希人くんも私と一緒にいることで安らぎを得て、怒りの感情がどっかいっちゃった。っていうならちょっと嬉しいかな。





★★




 さんざん飲み食いしたけど宴はまだまだ終わるそぶりはない。


 遠方から来た領主さんとかチョー金持ちの商人とかで今ごろお城に到着した人もいるみたいだし。



「僕たちの世界に比べると娯楽が少ないだろうからな。普段は早寝早起きだが、楽しむと決めた日には思いきり楽しむという事なのかも知れない」


 もう夜12時をまわった頃だろうに、いまだにお城のあちこちで浮かれて騒いでいる宴客たちを見て小松くんがそんな感想をもらした。



「確かに……テレビ、スマホはもちろん娯楽雑誌の類いも無いもんなぁ。夕飯食べたら何もすること無くなるし、すっかり21時就寝5時起きくらいの生活になっちゃったぜ」


 的場くんもこれまでの異世界生活を振り返り、感慨深い顔をした。



 だけど……。



 そんな健康的であると同時に、死と隣り合わせの生活も今日で終わる。



 口には出さないけど、みんなそんな顔をしていた。



 今夜はお城に泊まってゆくがよい、と王様に言われた私たちは城の一画にある来賓用の寝室へと向かった。


 一応『四人部屋』としてそれぞれ割り当てられた部屋だけど、そこはラスベガスにある高級ホテルの最上級スイートルームくらいの広さがあるのでクラス40人が一室に入っても充分に余裕がある。



 私たちは仲間たちと部屋で飲み明かす、という(てい)を装って客室に待機することにした。



「あー、俺……ちょっといいかな」



 みんなが部屋に入っていく中、風間くんがおずおずと手を挙げた。



「実は今夜、ルーファと逢う約束をしててさ。もう遅い時間だし、そろそろ行かないと……」


 ルーファというのは風間くんが婚約したとかいうエルファストのお姫様のことだ。



「風間ぁ!! お前、1か月ぶりの友たちとの語らいよりオンナをとるのかぁ!!」


「このエロが!!」


 男子たちから嫉妬混じりの怒号が上がる。


「す、すまん。だけど彼女……俺が試練の山の修行で苦しいときに、よく会いに来てくれてさ。どれだけ彼女の笑顔に救われたことか……」


「そんな物騒な山にお姫様が来たのか?」


 私と同じとこがひっかかった明希人くんが尋ねる。


 明希人くんのことだから『虫も殺せぬおしとやか令嬢かと思いきや、実は試練の山の魔物をも片手でひねり倒すお転婆お姫様!!』というシチュエーションに期待してそうだよ。



「ああ、もちろんお供の兵士たちも一緒だったけどな。それでも女の子が……ましてお城で大切に育てられた華奢なお姫様があの山を登ってくるなんて大変だったと思うぜ」


 風間くんはしみじみとルーファ姫との淡いアバンチュールに想いを馳せた。


 どうやら格闘系お姫様とか姫騎士とかいう面白そうなセンは消えたみたいだね。


 姫に興味を失った明希人くんは「へー、そーっすか」と気のない相槌を打つだけだ。



「じゃ、そういうことで。またな!」



 シュタッと片手を上げて爽やかに去っていく風間くんの背中を見送って、私たちは部屋に戻っていっ……。



「へいへいへい、ちょっと待って!」


 水瀬さんが戻ろうとする私の袖をくいくいっと引っ張る。


「え、なに?」


「なに、じゃないよ! 風間くん、行っちゃうよ!?」


「行っちゃうねぇ」


「いやいやいや、もうすぐ私たち……日本に帰るんでしょ?」



 水瀬さんがお城の兵士さんとかに聞かれないようヒソヒソと私に確認する。



 そうなんだよね。



 もう少し夜が深まり、時間にすれば深夜3時頃を予定している。


 私たちは城の地下にある勇者召喚の祭壇に出現してあるであろうゲートをくぐって帰るつもりだ。



「風間くん、あの様子だと今夜はお姫様の部屋にお泊まりしちゃうかも知れないよ! そうしたら今夜みんなで帰るって計画が……」


「うん……でも見てよ、あの男のウキウキした後ろ姿」



 長い廊下をスキップしながら姫の待つ部屋へとルンルン進んでいく風間くんの浮かれた背中を指差してみる。


 あれは『今夜いやらしい事をしましょう』と伝えた時の明希人くんが醸し出すオーラに似ている。


 きっと一国のお姫様相手にどえろい事をするつもりに違いないぜ!



「そうよね。風間くん、こっちの世界に残れば勇者であり、かわいいお姫様と結婚して王族の仲間入りだものね。はたして日本に連れて帰ることが本当に幸せなのかどうか」


 桃園さんも腰に手をあてて『やれやれだぜ』とタメ息をつく。



「だめだめ! なに言ってるの! 風間くん連れて帰らないとご両親も悲しんじゃうでしょ!」


「まぁそうなのだけれど」


「……ていうか、別に私たちに相談しなくても水瀬さんが風間くんを引き止めればいいのでは。ねぇ桃園さん」


「確かに」


「えっ、私ぃ!?」



 水瀬さんが驚いたような顔をする。



「はぁ……もう僕が言うよ」



 女子同士キャイキャイ言ってる間に小松くんが小走りで駆け寄り、風間くんに計画の概要を伝えたみたい。



 話を聞いた風間くんはビックリしたような顔してコッチにヅカヅカと歩み寄ってきた。



「日本に帰るって……ど、どういうことなんだ!? いや、そもそもどうやって帰れるんだ?」


「君島くんが魔王を倒したから地下のゲートが開いたんだけど……え? 風間くん、聞いてないの?」


「君島が、魔王を!?」



 水瀬さんから説明を受けて2度ビックリだ。


 風間くんはバッと明希人くんの方を振り向く。



「ああ、えっと……コチラが俺に倒された魔王ティアだよ」


 明希人くんが側にいたティアさんを紹介した。


「はじめまして人間よ。私が主に倒された魔王だ」



 ティアさん、誇らしげに胸を張ってるけどソコはそんな自慢するような内容の話でもないと思うよ。


お待たせしております申し訳ないです

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