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52話 ホームランキング


「スゥーッ……はぁ……。えいっ!!」



 トッ!!


「ぶぃ……っ……」



 薬草採取中の女子、松山さんに向かって飛びかかろうとしていた角ウサギの脇腹に矢が深々と突き刺さった。


 水瀬さんが自身のRガチャ武器『疾風の弓矢』で見事に仕留めたのである。


 ちなみにこれで既に4匹目、なかなか優秀なスコアと言えよう。



「ありがと~、水瀬さん助かったぁ~」


 角ウサギに迫られたのが怖かったみたいで松山さんはヘナヘナになりながら水瀬さんにお礼を述べる。



「オッケーオッケーだよ。松山さん、ケガは無かった?」


「うん。でもチョー怖かった……」


「二人とも、ちょっと休憩しようか。良かったらどうぞ」



 俺はトクトクと水筒から液体を注いでコップを松山さんに渡す。


「君島くん、ありがとー……。あっ、ちょっとスポーツドリンクっぽいね! おいしい!」


「疲れ、とれるといいね」


「わ、いいな。君島くん、私にもちょうだい~」


「俺の好みでレモン、はちみつを配合したから甘すぎたり酸っぱすぎたらご容赦を……」


 と謙遜しつつ、内心は『うはは、どうだ? レモン水君島ブレンドはうまかろう?』と自信満々で水瀬さんにもふるまった。



「近藤くんもどうかな?」


 同じ班になった男子にも調子にのってコップを差し出す俺氏。



「……いや、オレ、いいよ。なんか……全然役に立ってないし……」


 近藤くんは冴えない表情だ。


 確かに今のところ、彼は一匹も討伐できていない。



「もー、近藤くんマジメ過ぎるよ~。これからこれから! あ、じゃあ次は近藤くんにおまかせするね!」


 水瀬さんがパーっと明るい笑顔で俺からコップをとって、近藤くんに強引にもたせた。


「そうと決まったらコレ飲んで元気つけて?」


「お、おぅ」 


 あ、水瀬さんの手がちょっと触れて近藤くんの手が一瞬ビクッとした。


 女子の手って異常なまでにスベスベしてフワフワしているからな。


 そのスベフワな感触に戸惑っておるに違いない!


 近藤くん、よく見ると目が泳いでいるし。

 

 同じ男として、その一瞬の表情の変化を見逃さなかったぜ……へっへっへ。



 などと他人の甘酸っぱい青春の1日ページをニヤニヤしながら眺めつつ、再び薬草採取に戻る。


 といっても薬草はそこら中に生えてて、もうじき持ち帰れないくらいの量になりそうだ。


 だったら、この場ですり潰してポーションを調合した方が目方が減って持ち運びやすくなるかな。


 

「君島くーん、調子はどうですかなー」


 今後の予定を考えていると水瀬さんが俺の隣にやってきた。



「おかげさまで上々ですよ。水瀬さんこそ調子良さそうですな。弓矢、当たるようになったよね」


「あ、それそれ! お礼言いたくって。君島くんのアドバイスのおかげだよホント」


「いや、そんな大したアドバイスでは……」



 アドバイスったって俺は弓矢なんか扱ったことはない。


 ただ、矢を放つ時の水瀬さんがあまりにも慌てていたように見えたから「打つ前に一息、深呼吸してみては?」と伝えただけだ。



 そうすると、それまであらぬ方向に飛んでいた矢がストンと角ウサギに命中するようになったってだけのお話。



 弓矢は剣や槍と違って適当に振り回せば当たるってもんでもなく、ガチで練習する必要があるのでガチャ武器の中では扱いづらいハズレ武器という認識もあったくらい。


 それをここまで使いこなせるようになったのは俺のアドバイスのおかげなどではなく、ここ2ヶ月ほどの彼女の努力の賜物だろう。



 というような事を素直に告げたら


「いや、いやいやいや。いやいやいやいや……私なんか! ねぇ?」


 と謙遜しつつも顔をユルユルにしてニヤニヤ照れてまくる水瀬さんであった。


 


 

「うがぁああああああっ!?」


 その時、湖の方から男子の絶叫が響き渡った。



「え、え? なになに!?」


「分かんないけど……とりあえず行こう!」



 アタフタする水瀬さんに指示を出しつつ、俺は悲鳴のした方に全力ダッシュした。




「なに、どうした!?」


「誰かケガしたってさ!!」



 ケガ!? 誰が!?


 聞き覚えのある声では無かったからアトラスや小松くんでは無さそうだが。


 みんなの話し声を聞きつつ、人が群がっている輪の中心に辿り着くとクラス男子の青木くんがヘタりこんで呻いていた。


 彼の太モモには角ウサギがぶら下がっていた。


 角が突き刺さり、脚を貫通して血がダラダラ流れ出ている。


「き、きみしまぁ……」



 すぐ側にいた的場くんが泣きそうな顔をしていて血まみれの手で武器を握りしめていた。


 角ウサギの腹はズタズタに引き裂かれ絶命している。


 どうやら的場くんが仕留めたみたいだ。


 ならば青木くんのケガの処置に専念するのみだが……これは。



「うぐ……痛い……ぐぅうううおおおぉぉっ」



 青木くんは野球部に入ってる活発なヤツだったがさすがに痛いんだろうな、涙をボロボロ流している。


「君島、な、なんとかしてやってくれ……」


 的場くんがすがりついてくるけど俺は医者じゃないんだ。


 体に深く刺さった刃物をヘタに引っこ抜くと血がドバドバ出るって聞いた事あるような気もするし、といって刺しっぱなしで生きていくハズ無いし、えーい! 分からん!!


 分からんけど俺までアタフタするとみんな動揺しそうだし、グッと気持ちを押さえる。


 落ち着け、これくらいのケガは想定内だろうが。


 とにかくポーションを準備しよう。



「ソラさーん!!」


 そこへ炎の勇者アトラスが駆けつけた。


「おお、アトラス! これ、どうすればいい!?」


「うわ、えっと……お、お姉ちゃん!!」


 今度はアトラスがシュペットちゃんに助けを求める。



「誰か水と消毒液とポーションの準備を!! ソラさん、この人の体を押さえててください」


「了解。水瀬さん、みんなと手分けして水やポーション頼めるかな?」


「うんっ、わかったっ!」



 シュペットちゃんの指示をキッカケにテキパキとみんなが動き出す。


「君島、消毒液ってこれでいいんだよな!」


 先程へこんでいた近藤くんがビンを差し出す。


「うん、それそれ。ありがとう」


「他になにかやることあったらなんでも言ってくれ!」



 近藤くん、ハキハキとしてるな。


 仕事でミスって落ち込んだ気持ちは遊んだり酒を飲むより、仕事で挽回するのが一番の特効薬ってヤツだろうか。


 ドラマかなにかでそんなセリフを聞いたのを思い出した。


 それなら役割を与えた方がいいんだろうな、と彼にも青木くんの身体を押さえ隊に参加してもらう。



 道具が整ったところでアトラスが角ウサギの死骸をしっかりと両手で掴む。


 どうやら角ウサギの身体ごと青木くんの脚から角を引き抜くようだ、が。



「いだっ、痛たたたったたったたたぁーッ!?」


 刺さってる角が若干動いたんだろう。


 じっと堪えていた青木くんが上半身を揺り動かす。


 で、上半身を動かした拍子に下半身が動いてしまうもんだから、ますます角が傷をえぐって地獄の悪循環だ。



「大丈夫、大丈夫ですから!!」


「ま…ふ…っ?」


 シュペットちゃんが青木くんの頭を抱きかかえるように優しく包み込む。


 さぞ柔らかくて女子特有の甘い香りがすることであろう。


 彼女の胸に顔をうずめるカタチになった青木くんはピタリと大人しくなった。



 ちなみにシュペットちゃんはネットで見かけたら画像を保存したくなるくらいの美少女ということでクラスの男子には結構な人気者になっていた。


 自分の脚にうっかりナイフを突き刺して彼女に抱き締めてもらおうと考えた危険な不届き者もきっといる事だろう。



「セィッ!!」


「はぉあああ!?」



 と、青木くんがおそらく顔面に触れるおっぱいに意識を集中しているスキにアトラスが一気に角を引っこ抜いた。


 傷口からタパパパッと赤い血が滴り落ちるが消毒液をぶっかけポーションをえぐられた肉穴に流し込むとあっという間に出血が止まった。


 やっぱファンタジー世界の回復薬ってスゲーな。


 とってもお高いけど。



「傷は塞がったけど……どんな感じ、青木くん?」


「ホームランだ」


「えっ」


「ホームラン!! ホームラン!! ホームラン!! ホームラン!!!!」



 こやつ、気が狂ったか?



 どさくさに紛れてシュペットちゃんに抱きついてもらえて嬉しいのは分かるが……。


 高校生の性欲というのはまったく恐ろしいものよ。



 さすがに安静にさせた方が良い気がするのでシュペットちゃんたち数名にホームラン野郎の看護を任せつつ、俺たちは夕食の準備を始めて今日の採取&討伐作業は早めに切り上げる事にしたのであった。




ブクマ&評価ありがとうござうま。

元気出ます。。。

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