51話 班決め
ヘレナ平原をピクニック気分で突き抜けて、昼過ぎにはカシュー湖へと無事に辿り着いた。
「うわー、水が透き通ってるー! 超きれーい!!」
「おっ、魚もいるぞ!! 釣りとか出来ねーかな?」
昨日狩りつくしたせいか道中スライムは全然現れず、朝からただただ歩き続けていただけでツマんなかった反動か。
クラスのみんなは湖のほとりで水をパシャパシャさせながらハシャぎだした。
かくいう俺も考えてみたら『湖』ってナマで見たこと無かったな。
小松くんが調べた話じゃこのカシュー湖、日本が誇る琵琶湖なんかと比較すると全然大きくないらしいが、それでも目の前に広がる巨大な水溜まりを見ているとワケもなく興奮した。
でも一応、この場は俺が仕切るというお役目を押し付けられているので偉そうにパンっパンっと手を叩いて、みんなに呼び掛ける。
「えー、それじゃ今から野営地を設営してくださーい。俺はこの辺りのモンスターの様子や薬草をチェックしてきまーす」
「はーい」
おお。みんな結構、素直に言うこと聞いてくれるな。
面倒くせーとかそういう軽口を叩かれるとシュンとしちゃいそうな気弱なトコあるので、テキパキ動いてくれるのはありがたいッスわ。
「じゃ、文川さん。薬草の選定よろしく。アトラスとシュペットちゃんは野営地付近にモンスターが近寄ってきたら……」
「はい! 軽くひねっちゃいますね!」
という感じで俺と詩緒梨さんはクラスメイト達から離れて、役立ちそうな薬草の有無を調べ始めた。
ふふへ。
これだけ距離があれば詩緒梨さんと多少イチャイチャしてても気付かれまい。
茂みにでもシケ込んで心の栄養補給キッスしようぜ!!
「あっ、これマライア草! こんなにあるなら睡眠香が作り放題……やや、こっちはケアージュ草にエスティルの実だよ! すごいすごーい! 回復薬の宝石箱だねこの辺りって!!」
詩緒梨さんは薬草図鑑と草を交互に見ながら目を輝かせている。
ガーヤック周辺は魔術儀式に使う植物や病気に効く薬草が多くて、俺たちの冒険に直で役立つモノはなかなか発見出来なかった。
でも、あの詩緒梨さんの反応を見るに売ってよし、使ってよし、なアイテムが豊富にゲット出来そうだ。
本当は彼女の柔らかい女体を触りまくりたかったが、こういう時にジャマをすると不機嫌になる予感がビンビンするからな。
遠くにいる獣の殺気を読みとる熟練の狩人のように詩緒梨さんのご機嫌メーターを感じ取った俺は大人しく体育座りした。
ガサガサ……。
「おっ……」
しばらく休憩しつつ辺りの様子を伺っていると、草むらが揺れながら何かが近付いてくるのが見えた。
「ぶぃ」
なんだか変な鳴き声のその生物は灰色の毛をしたウサギさんだった。
草の間から、ちょこんっと顔をのぞかせコチラを向いて鼻をピスピスさせた。
「明希人くん……」
「詩緒梨さん、ちょっと下がっててね」
ただのウサギならカワイイ~で済むけど、目の前のコイツの体長は7~80センチ。
ウサギにしちゃ大きめな体躯。
そして、その額にはまるでナイフのように鋭いツノが生えていた。
いわゆる角ウサギってヤツだ。
強さランクは☆1つ。
スライムを余裕で倒せる冒険者なら問題は……
「ぶぃっ!!」
いきなり角ウサギが勢いよく俺に向かって跳び突いてきた。
一瞬、虚をつかれたものの動きは直線的でいたってシンプル。
体の正面に構えた盾でガッシリ受け止める。
スライムパンチに比べれば軽いな!
攻撃を止められ、草むらに着地しようとするウサギの横っ腹に俺は躊躇わずにファイアバゼラードを突き刺した。
「ぶぃぃぃぃぃっ……!!」
角ウサギは血をまき散らしながらバタバタと手足を動かしていたが、逃げ去る体力は残っていないようでそのうちゆっくりと動かなくなり、頭がクタッと地面に垂れる。
「殺った……か」
ふぅっ、と息を吐き出した。
ガーヤック近辺の野山にも角ウサギが生息していて何十匹と倒しまくったもんだが、表情の無いスライムに比べると残酷な事をしている感がある。
1日のうちに5匹、6匹と狩っていくとその感覚も薄れていくが、1日の最初に殺した角ウサギの亡骸には思わず手を合わせてしまう。
「なむあみだぶつ、なむあみだぶつ」
「なむあみだぶつ、なむあみだぶつ」
俺がいい加減な念仏を唱えていると、隣で詩緒梨さんも合わせてくれた。
☆☆
「と、いう感じで慌てずに角ウサギの突進を盾で確実に防いでから反撃してください。もし一撃で仕留められなかった時は焦って追撃しようとせず、再び盾を構えて角ウサギの攻撃に備える。セーフティファーストでお願いしまーす」
野営地に戻った俺は自分なりの角ウサギ攻略法を伝授した。
持ち帰った角ウサギの亡骸に生えている角の鋭さを見たり触れたりして、みんなも気が引き締まったようだ。
というか、ドッジボール程度のスライムの打撃と違って刺さりどころが悪ければ致命傷もありうると認識してすっかり萎縮する人もいるくらい。
湖に着いたばかりの時の楽しいキャンプ気分もどこへやら、である。
「まぁその……無理だ! と思ったら救援を呼ぶなり逃げるなりしてください。ただし後ろを向いて一目散に逃げると背中が危ないので、必ず盾を体の正面に構えたまま後ろに下がる感じでよろしくです」
気付いたことは全部言っておかないとな。
回復ポーションはあるけど、心臓とかを角で刺されれば即死もありうる。
各自、金属製の胴当てを着用させているので角ウサギ程度の力で貫通はしないハズだけど。
「それじゃ、えーと……二人組じゃ不安だし四人で班を作って薬草採取を始めちゃってください。出来れば男子女子半々でバランスとってくれると吉であります」
俺の言葉でみんなキョロキョロと周りを確認し始めた。
いつも3人で行動してるような人は誰かがぼっちになったり、元々ぼっちで行動してる人は今まで話した事のない誰かと組まなきゃいけなかったり。
ふっ。
まさか陰キャぼっちのこの君島さんが班決めをうながす立場になるとは世の中というのは分からんものよのう!
ふははは!!
みんな人間関係で気まずくなったりマゴマゴするといい!
「君島ぁー!! 俺と組もうぜー!!」
低レベルな高みの見物をキメこんでいると的場くんが俺の腕にしがみついてきた。
こいつ、俺のこと好きなの?
ライクならいいがラブはお断りだからな。
「ミッシー、ウチも面倒見てくださいっす。おなしゃーす」
サーヤさんもやってきて、その後ろに詩緒梨さんもくっついてきた。
すげぇ、あっという間に四人組できちゃったぞ!
……いや、でもなぁ。
「うーん。パワーバランスを考えると的場くんは結構強いし、戦力低そうな組に入ってカバーしてほしいんだけどどうだろう?」
「なにっ?」
実際、彼は昨日のスライム討伐数ランキングのトップだしな。
俺やアトラスが少々自重した結果ではあるが。
「そうか……まぁ頼られたからには期待に応えないとな! 任せとけよ相棒! 俺が面倒見てきてやるよ!」
ドンッとゴリラみたいに自分の胸を叩いて、ヤツは嬉しそうにウホウホと他の組の様子を見に走っていった。
まぁアレはアレでいいとして、そうか……バランスを考えないとな。
班は5組。
班長は俺、アトラス、シュペットちゃん、的場くん……あと一人か。
詩緒梨さん……は俺に指示を出すのは上手いけどクラスメイト相手にはまだちょっとモジモジしてるし、SSR武器持ってるサーヤさんは実戦不足。小松くん……もどうなんだろうか。
ちなみに小松くんは自分だけ超高級フルアーマーを装備するのに気がひけたらしく、鎧は売ってみんなの装備品購入代金に当ててくれた。
ので戦力的には他の男子と変わらない……というか戦闘には消極的だし平均以下じゃなイカな。
「えー……これはアレだな。詩緒梨さんとサーヤさんがペア組んで他の男子をフォローするのがよいと思いますがいかがでしょう」
俺はRPGで『パーティを3つに分けてください』的な感覚でパーティの中核となる仲間キャラを選出する。
「えーっ、ってまぁ師匠いるなら大丈夫か。フン、もうミッシーなんかほっといてウチらでガンガン倒しまくろ?」
「う、うん……」
あっ!?
詩緒梨さん、ちょっと不安そうな表情じゃない!?
うーん、バランス的には間違ってないと分かってくれてると思うけど詩緒梨さん、他の男子たちと組むところに苦手意識が出た感じ?
不安げに去り行く彼女の背中を見て、恋愛ゲーで言う好感度が下がる不吉な音が聞こえたような気がした。
あとで何かフォローしないとなぁ……。
「君島くーん、一緒の班になっていい?」
「んっ?」
未練がましく詩緒梨さんを眺めていると、水瀬さんに声をかけられた。
彼女一人だ。
いつも一緒に行動してる西野さん、桜井さんの女子3人組であぶれたのは彼女ということらしい。
「うん。じゃあ、よろしく……」
「いいの!? ホント? よかったぁ~。君島くんと一緒なら安心だね。ふふっ、断られるんじゃないかって私ちょっと緊張しちゃった」
彼女は俺の目を見つめながらニッコリと微笑みを向けた。
うむ、かわいい。
ハッ……!?
離れた場所から詩緒梨さんが俺を見ている。
いや、そんな、見つめられても……これは違うんだ。
というか、違うも何もちょっと微笑まれただけですし!!
別に詩緒梨さんに何か言われたワケでもないのに俺は心の中で一生懸命、釈明会見を繰り広げたのであった。
ブクマありがとっすー。




