50話 二人の勇者
「うぉあおおおおおおっ……!!」
朝。
ベッドの上にて目覚めた俺は思いっきり声を上げながら背伸びして気持ちよくなったぜ。
はぁ~、なんだっけ。
え~、今日の予定は……っと。
周りの古びた家具と石壁を見回して、ここがエルファストの宿でクラスのみんなと合流して昨日はスライム狩りでレベル上げした事を思い出す。
異世界に来てからというもの、目が覚めると今から学校に行くんだったか冒険の旅に出るんだか5秒くらい頭がゴチャゴチャするクセはなかなか直らない。
他のみんなもそうなんだろうか?
まぁいいや。
とりあえず頭をシャッキリさせようと廊下に出て、洗面所の水瓶から微妙にぬるい水をすくって顔をパシャパシャ洗う。
よし、目が覚めた!
……ということにしておこう。
ここが俺んちなら寝ぼけた顔でヨダレを床にまき散らしてても許されるが、宿にはクラスメイトたちもいるからなぁ。
眠いからとあまりアホ面ひっさげるのもいかがなものか……。
おっ?
ほらな。案の定、向こうから女子のグループが歩いてきましたよ?
西野さん、水瀬さん、桜井さんの仲良し3人組か。
彼女らも寝起きなのだろう、ちょっぴり寝癖のついた髪の毛に若干ゆるんだ肌着がそれぞれ妙に色っぽい。
うーむ。
ムラムラする。
俺には既に文川詩緒梨さんという両想いの女の子が既にいるのでこれ以上モテる必要は絶対に無いですが、かといって他の女子たちの前でだらしない姿を見せて幻滅されてもいいという法律はあるまい。
俺は精一杯シャキッとした顔をして女子たちに軽く会釈してスレ違う。
「おはよう、君島くん! 今日もよろしくねっ!!」
「へぁっ!? ああ、よ、よろしきゅ!」
どうせ俺ごときスルーされるだろうと信じていると、透明感のある気持ちのいい笑顔に定評のある水瀬さんが爽やかに挨拶してきた。
くそっ、ちょっと可愛くてキョドってしまったじゃないか。
それ以上、特に会話は無かったがなんかこう……ちょっとテンション上がるよな!
「おはよう、君島くん。なにかウキウキしてない?」
「なぁはぁ!? はああ!?」
廊下の角を曲がるといきなり詩緒梨さんがいた。
廊下は人目につく場所だからか、それ以上の会話は特に無く彼女も洗面所へと去っていったがなんかこう……ああビックリしたー。
いや、別にやましい事はないんですけどね。
でも仮に詩緒梨さんが他の男子と話してドキドキしてたら俺は嫌だよなぁ。
すごい嫉妬しそうだし……。
……よし。
となれば、俺もハーレム小説の主人公みたいにやたらと色んな女子とフラグを立てるようなマネは慎もう。
って心配しなくても、そこまでモテたりはしないだろうが。
だって俺だしなぁ。
窓の外に広がる美しい蒼空を見上ながら俺はスゥッとすかしっ屁をかますのであった。
☆☆
しばらくして食堂にクラスのみんながチラホラ集まり朝食を始める。
宿の主人に任せておくとメニューは硬いパンと豆のスープ、野菜代わりの苦い葉っぱとなってしまうがそれはもう正直みんなウンザリしていた。
なので昨夜のうちにみんなで準備しといたスライスしたパンをこんがり焼いて目玉焼き乗っけて、あとベーコンとレタスっぽい野菜を混ぜたポテトサラダとコーンスープが食卓にならんだ。
まぁ自前で用意する分、経費がかさむが飯がうまくなきゃ冒険するエネルギーも湧いて来ないし必要な出費ですよ、うんうん。
「なぁなぁ君島。今日は何をするんだ? またヘレナ平原でスライム退治?」
すっかり気に入られたのか俺の隣の席で朝メシを頬張っていた的場くんが尋ねてきた。
「えーっと、今日はカシュー湖まで足を伸ばそうと思ってるんだけどー……」
どうせならみんなにも説明しようと食堂に全員揃ってるか確認するため見回すと……吉崎くんの姿だけ無い。
「あれ、吉崎くんは?」
「ああ……アイツ、病み上がりだから今日はお休みだってさ」
彼と仲がいい棚橋くんが答えてくれた。
昨夜ご挨拶にお伺いした時はわりと元気そうだったけどな。
俺やシュペットちゃんがケガから目覚めた時に比べて血色も良かったハズだ。
ま、かれこれ1週間弱眠りっぱなしだったし、いきなり激しい運動は控えた方がいいか?
というかいない方が気楽だし、あまり追求しないでおこう。
「あー、でもそれじゃどうするかな……」
と、ふと考える俺氏。
「どうしたんだ君島?」
今度は小松くんが尋ねてくる。
「いやー、カシュー湖はヘレナ平原の奥にあるから2泊3日の泊まりで行こうと思ってたんだ。でもそれだと病み上がりの吉崎くんを3日間も宿にほったらかしになるけど大丈夫かなって今ふと気付いた」
というか正直、今まで寝てたんだし元気いっぱいでついてくるんじゃないかと勝手に思ってましたー。
「うーん、ヘレナ平原なら日帰りで帰れるし、やっぱりソッチのコースにした方がいいのかな~っと……」
吉崎くんにまた『俺をみんなで置いてった』だのなんだのくだらないクレームをネチネチつけられるのはゴメンだ。
多少、効率が落ちてもストレスの少ない道を歩くのが俺の基本方針。
「いんじゃない? ほっとけば」
俺がウジャウジャ情けないこと考えてるとサーヤさんがケロッとした顔で、みんなに聞こえるようハッキリと発言した。
食堂は、しん……っと静まりかえる。
「……ちなみに、ヘレナ平原ではなくカシュー湖に行く理由はあるのか?」
むん?
小松くんには昨夜、説明したハズだが……みんなにも聞かせてみんな自身に判断させようって事だろうか。
「えー、理由ね。まずヘレナ平原のスライムは昨日、狩りまくって個体数が減り、経験値稼ぎの効率が悪いって点が1つ。カシュー湖まで行けばスライムと同程度の角ウサギやデカい虫モンスターがいるので狩りが捗る。んで、もう1つはカシュー湖付近に薬草が色々生えてるそうで薬草は冒険の役に立つし売れば金にもなる、って話、です」
「それ、もう答え出てない? 吉崎を置いてカシュー湖にキャンプ行きたいヒト、挙手ぅーっ」
サーヤさんが自分で言いつつ手を挙げると、まず的場くんがシュバッと手を挙げて、それに続いて小松くん、詩緒梨さん、アトラスにシュペットちゃんも挙手する。
すると今度は水瀬さんが手を挙げて、一人、また一人と手を挙げ始めた。
挙げてないのは棚橋くんと樋口くんだけだ。
みんな、なんとなく彼らに注目する。
「ん。ま、いいんじゃね? 吉崎の面倒はオレらが見とくから」
「はぁ~、俺も女子とキャンプ行きたかったぁ~」
二人は『やれやれ』といった表情で居残り宣言をした。
吉崎くんに対する情なのか、俺たちを気遣ってるのかはよく分からないが、まぁ誰か残ってやった方がいいだろう。たぶん。
「じゃあ二人とも、留守番をお願いしていいかな」
「おう! 吉崎の子守りは任せとけ」
「その代わり……ちょっとは魔石、おみやげにしてくれよ? あんましレベル差つけられたくないからな!」
おお、コイツら良いヤツらだな。
俺なら吉崎くんと3人で3日間ともに暮らすとか、耳から変な汁噴き出して絶命しそうだぜ。
彼らの魔石は責任もって俺が稼いでやろうと心に誓い、準備を済ませた俺たちはカシュー湖に向かうのであった。
ブクマ評価ありがとうございます!
祝50話記念!!
まぁ、50話だからって特になにも無いですが。。。




