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49話 エルファストの夜


「しかし改めて見ると……シケた街ですなぁ~」


 夜のエルファストを元気よく歩き出した詩緒梨さんが街並みを眺めて笑顔で暴言を吐いた。



 キゲン良さそうだったのに何かお気に召さなかったのだろうか。



 と言いつつ俺も同意見ですけどね。



 日本時間で言えば現在は夜8時頃。


 メシュラフやガーヤックなら飲み屋や食事処、いかがわしい店で歓楽街が賑わっている時間帯だがエルファストの場合はもうほとんどの店が閉店してしまっていた。



「確かに……俺たち、飲み屋なんか行かないからソッチ方面はあんまし影響無いけど。ちょっと寂しいよね」


「店が開いてると、夜ちょっとコンビニに行って束の間の自由を満喫するみたいな感覚になれて……そういうダラけた時間、私は好きなんだけどなぁ」


「詩緒梨さん、夜に屋台でよく買い食いしてたよね」


「そういう明希人くんこそ好きものではないですか」


「まぁね」



 夕食後、部屋で雑談したり今後の予定を話しあってるうちに小腹が空いて屋台に買い食いに行くことがよくあった。


 寝る前だし、あまりガッツリは食べないが揚げ団子や炒った豆をアトラスやサーヤさんたちとつまんで食べるのがいい感じ。


 美味しいっていうか、夜のつまみ食いって楽しいんだよな。



「俺たちってさ、純粋に魔王を倒してほしいというより、魔王でも倒してエルファストを有名にしてほしいって感じで召喚されたっぽいけど……」


「勇者を使って村おこし……ならぬ国おこしかぁ。王都がこんなさびれた雰囲気じゃ、そんな事考えちゃうのも無理ないのかなぁ」



 ロクに楽しいスポットが無いから観光客が来ないし、外からお金が入って来ないからお金をかけた楽しい娯楽施設も作れない。


 悪循環、悪循環。



「魔王なんて倒せるかどうか分かんないモノ相手にがんばるより、なにかこの国が盛り上がるアイディアとか提供できないもんかね。詩緒梨さんのひらめきで」



 俺たちが現実世界に帰るにはどっかの魔王を倒さなきゃいけないらしい。


 ので、この国をもり立てたところで大きな意味は無い。


 が、財政が潤えば『魔王を倒せ、早く早くぅ!』と王様や大臣たちから急かされることもなく、気楽に異世界ライフを過ごせるんじゃなかろうか。


 エルファストに滞在出来れば宿代はタダ。


 少なからず支援金ももらえる。


 親も頼れる親戚もいないこの異世界において、エルファストは実家暮らしみたいなありがたい恩恵を受けられる重要な拠点。



 現実世界に帰れない、っていうならここは永住の地の候補地に充分入りうる。


 住み心地をよくして損は無い。



「うーん、そだねー。ようは私たちの世界の文化をコッチで展開すれば一儲けできそうだよね」


「ああ、そういうパターンもアリアリだね。料理とか暮らしに役立つ便利アイテムとか」


 異世界転生ものでよくあるよな。


 コッチの世界には無くて、俺たちの知識と技術で再現可能なものでチヤホヤされる、俺Tueeeeならぬ俺Sugeeee展開。



「あ、私いくつか思いついちゃった」


「マジで!? 早っ!!」


 詩緒梨さんは楽しそうに目を輝かせる。



「でもまぁ、この世界で用意できるか分からないし、小松くんあたりとちょいちょい調べてみるね」


 ふむ、小松くんも金貨一億円分で何か始められないかと模索中だからな。


 詩緒梨さんと国おこしをやるってのは彼にとって丁度いいかも知れない。


 でもさっき「小松くんと文川さん付き合ってんじゃね?」疑惑で冷やかされたのを思い出して、あんまり小松くんと二人きりにしたくないというヤキモチックな感情も沸き上がった。


 

「俺もなにか手伝おうか?」


「ふふ。私が小松くんと二人きりだと不安?」



 早速、見透かされてやんの!



「えっ。いや、まぁ、はい。というか、詩緒梨さんからは何もないと思うけど、可愛い詩緒梨さんに小松くんが惚れたりしないかなって」


「大丈夫ですよ。私なんか可愛いって言ってくれるモノ好きはあなたくらいのものですから」


「うーん、そうかなぁ」



 詩緒梨さんは確かにモデルみたいな美人とは違うが、顔は整ってるしちっちゃくて大人しくて、こういうコが好きな男はたくさんいそうだが。



「まぁ明希人くんは引き続き、クラスの人たちをレベル上げしてあげてくださいな。みんなが強くなれば魔王退治にしろ国おこしにしろ、何をやるにもやりやすくなるだろうし」


「はい……」


「えっ、なんでションボリしてるの?」


「うん、なんていうかアレだよね。詩緒梨さんと超イチャイチャしたいなって」


「わかる。ね、お金ならちょっと持ち歩いてるし、このまま別の宿に泊まって朝帰りしない?」


「えっ!?」



 詩緒梨さんがトンデモ発言してきた。


 冷静に見えてこの人も欲求がタマっていたんでしょうか。



「……な~んて、さすがにね」


「ウソなの!?」


 俺の心は軽くもてあそばれた!!



「まぁでも、こうして夜に二人でいなくなれば『あの二人あやしくない?』ってウワサも立ってそのうちバレバレになるまで、ちょっとずつイチャイチャすればいいんじゃない?」



 そういうと並んで歩いていた詩緒梨さんは俺に密着して頭をくっつけてきた。


 ふぉおお2日ぶりくらいのスキンシップ!!


 俺は勃起した。



 いや、失礼。



 こうして宿から少し離れた見晴らしのいい高台の茂みで、夜景を見ながらキスしたり体を触りあってお互いギンギンに充電したのち、俺たちは少し時間を空けて一人ずつ宿に戻った。



「あ、君島! こんな時間にどこ行ってたんだよ!」


 中へ入ると一階の食堂で的場くんと男子数名がタムロしていた。


 さびしい連中よのう。



「いや、ちょっと気力を高める儀式をとり行ってきたのさ」


 俺は詩緒梨さんのおっぱいを揉むことで気力が100上がる、と信じている。



「気力を……? なんか凄そうだな。明日オレにも教えてくれよ」


 なにっ?


 貴様、詩緒梨さんのおっぱいを揉む気か!?


 アレは俺のモノだ!! 指一本触れさせんぞーッ!!!



「ど、どうしたんだよ君島。野獣のような目をして……」



 いや、落ち着け俺。


 ようは的場くんも詩緒梨さんのように可愛くていじらしくて一日中眺めてても欲情する彼女を作ればいいだけか。



「なんでもないんだ。気力の高め方は時が来れば、的場くんも自然に理解するだろう」


「そうなのか。なんかお前、漫画に出てくる強キャラみたいだな」


 的場くんが尊敬の眼差しとアホを見る目で俺を見つめてきた。



「なぁ、そんな事より吉崎の意識が戻ったんだけど……」


 男子の一人、竹中くんがおずおずと申告する。



 って吉崎くんが!?


 ついに目覚めた!?



 ……なんか面倒そうだなぁ。



「わぁ、それはよかったなー」



 俺はまるで心のこもってない祝福のメッセージを垂れ流す。



「いや、よくねーよ。アイツ、アホのくせに仕切りたがるからなぁ」


 的場くんはもはや容赦なかった。



「なぁ君島。俺たちも協力するから明日もお前の仕切りでやってくれよ。吉崎なんかスルーしてさ」


「えっ? いやぁ、それ、吉崎くん怒らないかな」


「今、その話をみんなでしてたんだがな。君島を裏切り者に仕立て上げたアイツにお前を怒る資格一ミリも無いって」


「君島が来て、たった1日でクラスみんなのレベルが上がったんだぜ? 吉崎なんてSR武器見せびらかしてイバりたいだけだもんな。どっちがリーダーにふさわしいか考えるまでもないよ」



 と、口々に俺age吉崎sageの言葉が飛び出した。



 うーん。


 吉崎くんに従いたくないってのは激しく同意、略してハゲ同だが派閥争いはカンベンだぞ。


 俺、最近カノジョ出来てチョーシこいてるけど、本性はコミュ障でウジ虫みたいな気持ち悪い陰キャだからな。


 面と向かって自分の気持ちをハッキリ伝えるとか苦手なんすよー。



「まぁ心配すんなって。君島が言いにくい事はオレたちが言ってやるから!」


「そうそう、明日からも頼んだぜ!」



 的場くんたちはポンッと肩を叩いて部屋へ引き上げていった。


 うーむ。


 まぁそりゃいくらなんでもそろそろ目覚めるとは思ってたが、ちょっと面倒なことになりそうだな。



 ま、とにかく俺も一応、挨拶しとくか。



 宿の一階奥にある吉崎くんをぶちこんでおいた客室に向かう。


 

「おじゃましまーす……」


 部屋に入るとベッドに腰かける吉崎くんと側に棚橋くん、樋口くんがいた。



「お、君島か……」


「やぁ、ども……」


「遅いぞ。お前、俺の事、助けるの遅れてケガさせたくせにお見舞いも遅いとか本当にヒデェ奴だな」



 吉崎のアホは魔物に噛みちぎられた首筋をさすりながらイヤミったらしい笑みを向けてきた。


 なんだこいつ、20代なかばで髪の毛全部抜ける呪いにかかればいいのに。



 

「お、おい、吉崎。そういうの止せって……」


 おや、吉崎くん派と思われていた棚橋くんがたしなめてくれたぞ。


「なんだよ、ジョーダン通じねぇな」


 吉崎くんはつまんなそうにピシッと樋口くんの頭をはたいた。



 えっ、今、樋口くんを叩く要素あった!?



 詩緒梨さんといるときはすべてが納得できた。


 お互いが出来ることをやり、なるべく相手を不快な気持ちにさせないよう気を使いあい、なるべく相手を喜ばせようと想いあう心地よい時間。



 それに比べて、この部屋に入って1分もしないうちに体験したすべてがあまりにも不快過ぎて吐き気がしてきた。



「あの……まぁ元気そうで安心したよ。じゃ、夜も遅いし、もう行くよ」


「おぅ、帰れ帰れ」



 たぶん『ジョーダン』で「帰れ」って言ってんだろうけど、いちいちウザったいな。



 俺はさっさとドアを閉めて部屋に戻った。



 と思ったけどなんか気分悪いので外の空気を吸いに1度、宿の外に出る。



「あれ? ソラさん、こんな時間にどうしたんですか?」


 宿の入り口でアトラスとばったり出会う。


「ああ、ちょっと気分転換……っていうかアトラスこそどうかしたのか?」


「うーん……ちょっと。どうも心がザワザワするので体を動かしてから寝ようかなって思いまして」


「そっか……あ、じゃあ俺と組み手でもするか? 俺も体動かしたい気分だし」


「わぁ、いいんですか!? ぜひぜひ!!」



 アトラスは嬉しそうにいっぱいの笑顔を向ける。


 はぁ、このコいいコだよなぁ。


 思わず抱き締めたくなる。


 というか抱き締めよう。


「にゃあっ!?」


 アトラスは俺にぎゅっと抱かれて美少女に擬人化したネコみたいな声を上げた。



 その後、一時間くらい斬ったり蹴ったり殴られたり激しめの模擬戦闘を行って、良い汗流した俺たちは風呂場でお湯を浴びてスッキリし、いい気持ちで寝ることが出来た。



 ぼっちもいいもんだと思ってたが、モヤモヤした時に気心の知れた仲間がいるってのは……ありがたいなぁ、ホントに。



 明日から吉崎くんも一緒に行動する事を考えると億劫だが、詩緒梨さんやアトラスがいるんだ。


 きっと、なんとかなるだろう。



 でも……もしも、そのうち吉崎くんとケンカとかになったら俺どうするかなぁ。



 などと思いながら、具現化したファイアバゼラードの赤い刀身を見つめるのであった。




 

400ポイント達成です!

ブクマ評価超感謝でありんす。

2~3週間前の大雪で無理した疲れがよーやく癒えてきました。

10代の若者に転生したい今日この頃。

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