48話 倍返しだよ!
スライム討伐ツアーを無事に終え、俺たちはエルファストの宿に戻った。
俺たちの他に客もいないので宿の中は実質、貸切状態だ。
というワケでさっそく食堂に集合して戦利品……スライムの遺した魔石をみんな公平に振り分ける事にした。
「おぉ~、魔石だ……。これ、オレたちが経験値にしていいのか?」
テーブルの上に割り振られた自分の魔石を一つツマみ上げて、的場くんがごくりと喉を鳴らす。
彼らも以前の俺同様、初めて自分自身で討伐したモンスターの魔石を手に入れた事でテンションが上がっているようだ。
なんだか微笑ましい。
「そうだね。エルファストにいれば生活費はほとんど国が支援してくれるし、魔石は全部ガチャ武器の餌にして早くレベルMAXになっといた方がいいと思う」
俺の言葉で各自、カチャカチャと武器に魔石に押し当てる。
すると食堂のあちこちでガチャ武器がチカチカと光り、レベルアップしたことを持ち主に告げた。
「や、やった!! 初レベルアップしたぞーっ!!」
「俺、レベルが5くらい一気に上がっちゃったぜ!! これならもっと強いモンスターもいけんじゃね!?」
嬉しさのあまり、みんな宿の中で武器を振りかざすアブナイ集団と化していると、食堂に旨そうなニオイが漂ってきた。
「ほいほーい。みんなお疲れ~。夕食の特製シチューが出来たよん♪」
食堂にエプロン姿のサーヤさんが現れた!!
続いて詩緒梨さん、シュペットちゃん、小松くんもやってきてシチューの入った鍋やお皿を配膳する。
スライム討伐ツアーの打ち上げに美味しいものでも食べようじゃないかと思ったが、エルファストの食事は他の街に比べて味気ない……というかハッキリ言って不味いのは昨夜、改めて確認した。
なので今日は小松くんに金を出してもらって、ちょっと豪華な夕食にしてみましたー!!
「シチュー!? こんな食い物、異世界にもあるんだ!?」
「そうなんだ。調べてみると結構、色んな食材が手に入ってね」
小松くんがクラスの男子に対して得意気にメガネをクイッと上げる。
詩緒梨さんがエルファストに帰ろうって提案してから、彼にはガーヤックの街で色々な必需品を買い揃えてもらっていた。
まずは調味料が充実したので、以前にくらべて食事の質は格段に上がるハズ。
実際、クラスメイトたちは久しぶりのシチューをガツガツとスゴい勢いでむさぼっている。
元々この国で生まれ育った人には塩味の豆スープや葉っぱに塩ふっただけのサラダでご満悦かも知れないが、平成の日本で育った俺たちゆとりの申し子には豊かな味付けが必要でしょ。
サラダにはドレッシングがかけられ、果実と野菜を煮込んで作ったバーベキューソースを炙り焼きした豚肉にたっぷりとかけ、皿にこびりついたシチューをちぎったパンですくいとって食べつくし、この日はうまいごちそうをお腹いっぱいになるまで堪能してもらった。
「はぁ……うまかったぁ……」
「私、久しぶりに人間らしい食事にありつけた気がする……」
レベルアップして美味しい食事を満喫して、みんなふやけた顔をしていた。
クラスの連中なんかどうだっていいぜと思っていた俺氏だが、こうして喜んでる顔を見ると帰ってきて良かったかもと思いつつ、食後の紅茶をすすり飲む。
詩緒梨さんの様子を伺うと、彼女も俺の方を見てたようで目が合った。
特に言葉も無いが、二人してフフッと微笑み合う。
「君島……なんていうか、その、悪かったな……」
「んむっ!?」
ちょうど詩緒梨さんとラブラブな視線を絡ませていた時に後ろから声をかけられたので焦ってしまった。
振り向くと的場くんがいた。
「悪かった、って何が?」
「知ってるだろ? 俺たち、君島を裏切り者みたいにしてさ……」
「ああ、そのことか……」
そのことか、って言いながらソレしかないだろうなと分かってはいたけど。
正直、実害は無かったから実はそんなに気にしちゃいない。
いや、正確には君島裏切り者説の言い出しっぺ、吉崎くんがヘラヘラしてたのはムカついたが、その怒りを的場くんに向けるのも筋違いだしなぁ。
「済んだ話だし気にしてないよ。それに的場くんたちが悪いワケじゃないし」
「そうか? そりゃそうだよな、俺たちが悪いワケじゃないよな、うんうん。まぁそれは分かってたけど一応謝っとかないと陰キャのお前はネチネチと根にもつんじゃないかと思ってさ!」
「ははは」
的場くんは笑いながらバシバシと俺の肩を叩いてきたので俺も愛想笑いした。
よし、コイツはヒドい目に遭っても助けないでおこう。
「お、おい。君島、今すごく悪い目をしてなかったか? 冗談だからな? 俺は本当に謝ろうと思ってるから! ガチで!」
「もう! 的場、ふざけないでよ。君島くん、本当にごめんね?」
「え?」
なんか的場くん以外にもクラスメイトたちがわらわらと俺の周りに集まってきた。
「どうせ吉崎や風間は自分こそが正しいと思って謝らないだろうしな。だからせめて俺たちはしっかり謝っとくわ」
「君島、すまん! そして戻ってきてくれてサンキューな!」
なんと、あの棚橋くんと檜山くんが礼儀正しく深々と頭を下げた。
するとそれにならって他のクラスメイトたちも頭を下げ出すじゃありませんか。
「いやいや。謝るのはともかくお礼を言われる筋合いは……」
「だってお前すごく頼もしくなってるじゃん。俺、今日のスライム狩りとか久々に楽しかったぜ」
「君島くん、ガーヤックって街の救世主になったんでしょ? 私だったら絶対ムリ!!」
「メシも旨かったよな~。オレらなんてほとんどエルファストに引きこもってたから、ずーっと貧しい食生活で……」
と、みんな代わる代わる俺を褒め称えてくれた。
これはアレか?
俺が昼間、豚もおだてりゃ木にのぼる作戦でみんなをおだてまくった仕返しか?
「みんな一体、何を企んでるんだ……」
「企んでねーし!?」
「どうしてお前はそんなに疑り深いんだよ!?」
「君島っておもしれーヤツだな!!」
猜疑心の塊みたいになってる俺の事をみんなで笑い者にしやがったが不思議と不快な気持ちは生まれなかった。
「ちょっとちょっと! ミッシーばっかり褒められちゃって! ウチらもいる事お忘れなく~」
サーヤさんがお茶目な感じでぷくっと頬を膨らました。
「そうだ。今日の食事の金を出してくれたのは小松くんだし、エルファストに戻ろうって提案したのは文川さんだ。アトラスやシュペットちゃんもエルファストとは直接関わりは無いのに付いてきてくれた。感謝ならみんな平等にしてほしい、かな」
「え、いや、僕は……」
「う、うん。私たちは別に……」
話を振られて『いいです、いいです』といった感じで手をパタパタと振る詩緒梨さんと小松くん。
「おお、そっかー!! 小松サン、ゴチになりまーす!!」
「文川さんもありがとー!!」
「しかし小松も文川さんも二人してメガネかけてお揃いだよな! もしかして、お二人は付き合ってる?」
あ?
「ち、違う!! 僕たちはそんなんじゃ……!!」
小松くんは慌てて否定して詩緒梨さんは真っ赤になってうつむいてる。
二人に他意は無いんだろうがクソ、はたから見ると両想いみたいだな。
俺は公衆の面前で詩緒梨さんのおっぱいを揉みしだきながらキスしたくなったがさすがに頭がおかしくなったと思われるのでかろうじてこらえておこう。
「ところでミッシー、私だけ褒められてないんですけどぉ?」
俺がヤキモチと嫉妬で人知れず炎上していると、サーヤさんの怒りが俺の背中を突き刺した。
「い、いや……サーヤさんは、ほら、アレだよ」
「アレってなに?」
「アレはアレだよ……」
あれ……?
サーヤさんとは打ち解けてきて一緒にいるのが正直、楽しくなってきたよ?
しかし詩緒梨さんやアトラスたち、小松くんみたいに具体的に何か役に立っているかというと特に何も思い浮かばない事に気付いてしまった。
「なんか言え」
うっ。
沈黙の意味に気付いてしまったのかサーヤさんの視線がこわい。
なんかウマイこと言ってはぐらかそうぜ!
「えーっと、サーヤさんはマスコットキャラみたいに場を和ます担当」
「ちょ!? ウチもっとカッコいい感じのがいーんですけど!?」
サーヤさんが俺に詰め寄る。
近い近い近い。
サーヤさん、リア充だから気にしないのかも知れないが俺みたいな陰キャぼっちにそんなに女子の顔を近づけたらドキドキするからやめて!
「うーん、コッチもやっぱり怪しいな……。君島と磯崎さん、すでにラブラブなのでは……」
「はぁ!? ちげーし!! 小学生か!!」
とサーヤさんが棚橋くんの背中をぺちんと叩きにいった。
今のやりとりを詩緒梨さんはどう、お感じになられたのだろうか、と見ると彼女は部屋の隅でやわらかな微笑を浮かべていた。
なんだ、あの表情。なんかチョー怖ぇ。
すぐにでも色々と弁明したかったが、この日は男子、女子に別れて部屋でしゃべり倒すみたいな流れになってしまった。
というか、クラスメイトが大勢泊まってる宿で俺と詩緒梨さんが同じ部屋で二人きりで泊まるっていうのは教育的指導が入りそうだよなー。
もしかしてこのままエルファストにいると詩緒梨さんとイチャラブ生活送れないんじゃないでしょーか!? などと思いながらエルファスト帰還後2日目の夜が更けていった。
☆☆
食後、男子部屋で俺とアトラスはここ1ヶ月の冒険譚を披露した。
別に自慢話をしようってんじゃなくて、今後、彼らの異世界生活で何か参考になればと思ってのことだ。
最初はこんな話、聞きたいだろうかと思いもしたけれど、この世界にはテレビもネットも俺たちが読める本も無く、娯楽に飢えていたのか俺なんかのしょーもない経験談をみんな食いぎみに聞いてくれる。
その後は反対に彼らのエルファストでの生活を聞いてみたが、なんていうかただ右往左往するだけの本当に行き詰まった日々だったようだ。
まぁ小松くんや的場くんに聞いてた通りって感じ。
「いやぁ、でも君島のおかげで希望がチョロっと見えて来たな! 今日のスライム狩りみたいな感じで俺たちをコーチしてくれ、頼んだぞ」
「うん。俺もまだまだだけど、気付いた事は全部教えるよ」
「おっしゃ、頼もしいぜ!」
なんかすっかり頼られてるなー。
悪い気はしないが俺、リーダーとか班長とかなりたくないんだよねプレッシャー感じるから。
先の事はハッキリとは決めてないけど的場くんあたりをおだててリーダーにして、俺は教えること教えたら詩緒梨さんと二人でまた旅に出たいな。
っていうか詩緒梨さんとイチャイチャしたいんじゃ!!
「俺、ちょっとトイレ行ってくる」
俺はなんとなく詩緒梨さんに会えないかなーと期待しつつ、おトイレットに向かうべく部屋を出た。
「あ、君島くんだ」
用を足してトイレから出ると、同じくトイレから出てきた詩緒梨さんとばったり遭遇した。
「好きです」
俺は挨拶がわりに告白する。
「私も大好きだよ」
するとカウンターで倍返しされた。
くぅ~、効くぜ!!
「ね、ね、君島くん。ちょっとお外をお散歩しない? だめですか?」
詩緒梨さんが上目使いでお願いしてきた。
だめなワケあるもんか!!
こんな可愛い女子のお願いを無下に断れるヤツは男じゃない。
というワケで俺と彼女は宿の外に出て、夜の街へと繰り出したのであった。
いつもブクマありがーとござまーす!!
もうすぐ400pt!!
書き続ければいつか1000ポイントいくのかしら。




