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46話 勇者の帰還


 的場くんから『提案』を受けた3日後。


 俺たちは大空に飛び立った。



 別に詩緒梨さんとのいちゃラブ生活が幸せすぎて幻覚を見ているワケではなく、以前、吉崎くんたちをガーヤックに運んできた巨大な怪鳥『ロック鳥』の力によるものだ。



 ロック鳥がインド象も軽く握り潰せそうな、いかつい鉤爪で巨大なコンテナをがっしりと掴み、その中で俺たちは揺られている。


 コンテナの中は遊覧船のようにくつろげる内装……ではなく、あくまで兵士と物資を運ぶのが主な用途であるため、備品は質素そのもの。


 空の旅をゆっくり楽しめるリクライニングシートなんて洒落たものはあるわけもなく、乗員は適当な木箱に腰かけていた。



 せめて飛行機みたいに窓でもあれば外の雄大な景色を楽しめただろうが、あいにく小さな小さな覗き窓が四方の壁に一つずつある程度だ。


 それでも、あとで覗いてみようっと。



 とか考えていると、一緒に乗り込んだ一人のエルファスト兵が俺に遠慮がちに話しかけてきた。 



「申し訳ありません、君島殿。ガーヤックの街を救ったあの英雄ソラがあなただと知っていれば、来賓用の『籠』を用意させたのですが……こんな窮屈な物資運搬用の籠で不都合はありませんでしょうか?」


「えっ、いや、いえいえ、そんな! 俺なんて全然大した事ないヤツですからお構い無くッス」


「そうですか……。しかし、ウェアウルフの襲撃を受け生死不明になっていた君島殿があんな手柄を立てられる勇者に成長していたなんて……国王陛下もお喜びになられますよ!」



 と、こんな感じである。



 どんな感じかっていうと、まず俺と詩緒梨さんがクラスメイトを罠にハメて自分たちだけウェアウルフ襲撃から逃げ出した……という件がおっちょこちょいな吉崎くんの『カン違い』だったと兵士たちに告げたのだ。


 俺たち二人は独自の判断で森に火を放って時間稼ぎした。


 しかし、その事を吉崎くんたちは知らなかったので罠にハメられたと変なカン違いしただけなんだ、と。



 それが真実であると証明する物的証拠は何も無かったが、俺がガーヤックで活躍した英雄ソラと同一人物であると知ると『あんな立派な勇者がウソをつくはずがない!』とエルファスト兵たちはコロッと騙されてくれた。


 いや、騙した……というと人聞きが悪いけどさ。


 なにせ真実そのものを話すと、俺と詩緒梨さんを(おとし)めようとした吉崎くんや風間くんたちのセコさが明るみになり、彼らにお(とが)めが下るかも知れないのでオブラートに包んでやったのだ。



 正直、彼らのことを思いやったというより、もしも処罰されたらヤツら、俺たちを恨むんじゃないかと危惧しただけだが。



 ちなみに吉崎くんは未だに意識が戻っておらず、籠の隅っこでグッタリと眠り続けている。


 こやつ、いつまで寝ているんだろう。



 同時期にケガしたシュペットちゃんはすっかり元気を取り戻して、アトラスと一緒に覗き穴から外の景色を眺めて可愛くはしゃいでいるのに。


 まぁシュペットちゃんは元気になって本当に良かったが、吉崎くんはあと1年くらい眠ったままでも一向に構わないがな。




「それにしても驚いたぜ。君島と一緒にガーヤックに磯崎さんもいたなんてさ!」


「偶然再会したっていうけど怪しいよな……。お、おい、まさか二人は付き合ってる~とか言わないでくれよ!」



 サーヤさんがいると知らなかった檜山くんと棚橋くんがバカみたいに騒いでいた。


 クラスの仕切り役だった彼女と吉崎くんは話す機会も多く、吉崎くんの腰ぎんちゃくだった彼らも身近に接する機会は多かったのだろう。


 なのでバカ二人はサーヤさんと『俺たち仲良かったよねオーラ』を出そうとしているようだが……。



「ちょ、変なこと言わないでよ! えーと、ミッシー、言ってもいいっしょ?」


「んぇ? なにを?」


 いきなり話を振られてキョトンとする俺氏。


「だから、ミッシーが師匠と付き合ってること!」



 師匠、と言われて詩緒梨さんがピクッと静かに反応した。



「私とミッシーが付き合ってるとか聞いたら師匠、気を悪くするじゃん?」


「ああ、ああ、えーと!?」



 クラスメイトの前で詩緒梨さんと交際してる宣言していいんだっけ? などとパニクっていると



「え、なになに? 君島、まさかコッチの世界でカノジョ作ったの!?」


「すげぇな……。しかも磯崎さんが師匠って呼ぶってことは相手は年上のおねーさんか?」



 何かカン違いしてるっぽい檜山くんたちは驚きと羨望の混じった眼差しで俺を見た。


 そのカノジョってのが詩緒梨さんのことだとは想像もつかないらしい。


 まぁ彼らの知る地味で大人しい『文川さん』が、あのクラスの人気者の『磯崎さん』に師匠と呼ばれるイメージ無いだろうから無理もないが。



「そ、そ。ミッシー彼女もちだから。師匠、可愛いよね?」


「え、うん。えー、すごく可愛い」


 

 と、バレてないのをいいことにノロけておいた。


 まぁ、そのうち俺の彼女が詩緒梨さんってすぐバレそうだが小学生じゃあるまいし、からかわれてイジメられるって事も無かろう。


 ちなみに公衆の面前で可愛いと言われて詩緒梨さんは顔真っ赤だ。


 なんかニヤニヤしちゃうなぁ。



 そんな感じでここしばらくどう過ごしていたかなどと情報交換しつつ、俺たちは半日ほどでエルファスト王国に舞い戻ったのであった。




 詩緒梨さんの提案。


 なんてこたぁない。


 それは俺たちにとっての『始まりの地』エルファストでイチからマトモに冒険をやり直す、という至極真っ当な案だった。



 スライム一匹に怯えてクラス全員で逃げ回っていた2ヶ月前とは違う。


 今ならフツーにモンスター討伐して、ダンジョン攻略して、以前とは違う効率プレイが出来るのでは……という期待を込めた方針だ。



 といっても真面目に勇者やって魔王ぶっ倒して元の世界に帰る! という使命感に目覚めたのではなく。



 あくまで俺と詩緒梨さんの裏切り者の汚名をそそぐこと。


 それとついでに、迷える的場くんたちに自立できるだけの経験を身に付けさせることが真の目的であった。



 もっともエルファスト国王に謁見した際は「必ずや魔王を討伐してご覧にいれましょう!」ととりあえず調子のいい事ぶっぱなしちゃいましたが。 


 ま、王様、喜んでたしいいか。



 そんなワケで、俺はエルファストでの生活をリスタートさせたのであった。



 

ブクマありがとーございますっ。

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