45話 強くてニューゲーム
「え~っと、的場……ってどんな男子だっけ?」
宿で買い物からみんなが戻るのを待ち、全員揃った時点でさっそく的場くんからの『提案』について相談してみる。
するとサーヤさんが彼の顔を覚えてないってところから話は始まった。
すると続いて詩緒梨さんも全然覚えてないってことを告白した。
くくく、的場くんめ。
兵士たちが俺の顔なんか覚えてないって言っておきながら、自分こそクラスの女子たちに覚えられてないでやんの!!
……まぁ、だからなんだって話だが。
「的場くんは……なんだろうね。こういうの、なんて説明したらいいんだろう。えー、まず目が2つあって、その下に鼻があって、口があって……」
「そりゃ誰でもそうだろう。意外とおっちょこちょいだな、君島は」
ボケておいてなんだが、そういうのはおっちょこちょいって言うんだろうかね、小松くんよ。
「ハイハイ、分かった分かりましたー、というか顔なんてどうでもいいっしょ。いんじゃない? その提案に乗っちゃえば」
自分で尋ねておきながら興味無さそうにサーヤさんが顔も覚えていない的場氏の提案に賛同した。
つまり的場くんを連れて近日中にこの街を出るって話だ。
「文川さんと小松くんはどう思う? ちなみに俺も面倒な事になる前にガーヤックを離れた方がいいに一票ですけど」
面倒な事……というのは吉崎くんが意識を取り戻したら何言ってくるか分からん、って件とエルファスト兵がまだこの街にいるって件の2つ。
兵士たちは的場くんたち勇者一行にわざわざ同行して勝手に失踪しないか監視してるくらいだ。
エルファスト国から無断で離れた小松くんとサーヤさんを連れ戻そうとしてもおかしくはない。
そして風間くんたちを罠にハメたことになってる俺と詩緒梨さんも一緒にいるとバレたらどうなることか。
この街、それなりに人口が多いのでそうそう気づかれないが、何日も逗留していれば誰かがエルファスト兵に見つかってしまう可能性は大いにある。
「私も賛成。そうとなれば一刻も早く……だけどシュペットちゃん、まだ歩くのに2、3日かかりそうだし……」
詩緒梨さんが宿の2階でスヤスヤと天使みたいに寝ているシュペットちゃんを指すように見上げた。
「ん~、でもそんなに待ったらさすがに吉崎起きちゃうんじゃない?」
「う~ん、吉崎くんには会いたくないなぁ……」
「ホントそうだよね~」
女子二人からめちゃめちゃ敬遠されてる吉崎くんザマーミロだぜ。
俺と詩緒梨さんに汚名を着せたバチが当たってると思うと溜飲が少しは下がるってモンだ。
「しかし……どうなんだろうな。もしも僕たちが的場を連れてこの街を離れたら監視役の兵士たちの立場は大丈夫なのだろうか?」
小松くんが妙な事を気にしだした。
「それは……まぁ監視対象に逃げられたとなれば王様に怒られるんじゃないかなぁ」
「怒られるくらいならいいが……重い罰を受ける可能性もないとは言えない。あるいは給料を減らされたり、出世が遠退いたり」
気にしすぎだよ。
エルファスト兵の小遣いが減ろうと一生冷飯を食わされようと正直、知ったことじゃない。
と、思ったが詩緒梨さんに『君島くん冷たい、サイテー、冷血人間! 体内で温かさを発熱できない爬虫類!』とか思われては損なので黙っておいた。
「まっつん、気にしすぎじゃない?」
と、サーヤさんが俺の思ってた事を代弁してくれる。
おや、まっつん?
サーヤさん、小松くんのことは『小松』って言ってなかったっけ。
今日、二人きりでシュペットちゃんに贈る本を買いに行ってる間に何かあったのだろうか。
「うーむ……僕はエルファストにいた頃、実は兵士たちには世話になっていたんだ。料理当番を任された時、調味料を分けてもらったり、限られた材料で作れるレシピを教えてもらったり。話してみると気さくな人が多かった。異世界から来て右も左も分からない僕らを気遣ってくれる様子はあったよ」
そういえば小松くんが味付けした日のスープは謎の旨味が出てて『塩だけでどうやってこんな味付けしたんだ!?』と不思議だったけど、そんな裏があったのか。
俺は兵士たちに優しくされた覚えはないが……。
まぁ小松くん、知らない人にも挨拶したり礼儀正しかったからなぁ。
「そっかそっか。んじゃ、あんましメーワクかけたくないね」
「ああ。兵士たちも職務に忠実なだけで、本来は善良な人たちだから」
サーヤさんと小松くんはそういう方向で意気投合したようだ。
「えーと。ということは的場くんは連れていかない、って事でOK?」
と確認してみる。
まぁそれならそれで全っ然構わないが。
さようなら的場くん。
キミの事は忘れない。
三日間くらいは。
「でもソレ、的場が怒ってミッシーがここにいる事、兵士たちにチクんないかな」
「いや、それは的場を連れ出しても結局、吉崎や誰かが告げ口するだろう」
「んじゃ、逆にウチらが吉崎を脅すってのは? だって元々は吉崎がウソついたんじゃん。実はミッシーが囮になって時間稼ぎしてくれた~ってウチらがショーゲンすれば怒られるのは吉崎の方じゃん?」
「なるほど。いや、しかし……あの身勝手な男に禍根を残すようなカタチは避けた方が」
サーヤさんと小松くんが二人でディスカッションするのを俺と詩緒梨さんはお茶をすすりながらのんびり聞いていた。
俺、誰かが決めた方針を上方修正するのは向いてる気がするけど自分で『こうしよう!』って決めるのは苦手なんだよなー。
大元の責任をとりたくないというか。
でも詩緒梨さんはこういう時、アイディア出したりするよね~と思って彼女の方を見るとお茶の入ったお茶碗に口をつけながらブツブツと何かを考えているご様子。
「文川さん、何かお考えが?」
俺が尋ねると詩緒梨さんは「ん~……」と可愛く唸った。
議論が煮詰まったのかサーヤさんと小松くんも彼女に視線を向ける。
「えっ、そんな注目しないで……。大した考えじゃなくて、ちょっと思い付いた程度の段階なんだけど」
はい来ましたよ、詩緒梨さんの勝利フラグ『ちょっと思い付いちゃった』。
「細かいトコはあとで詰めるとして……それ、どういう方向性?」
俺は根拠もなく勝利を確信しながら尋ねた。
「方向性? えーっと、もういっそ私たち……エルファスト王国に帰ったらいいんじゃないかなーって方向性」
詩緒梨さんの思い付きは、まさかの『ふりだしに戻る』だった。
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