43話 ハーフミリオンダラーベイビー
2000体もの魔物たちを撃退したごほうびに文川さんに膝枕してもらいました。
「き、金貨50枚ぃ!?」
魔物撃退記念祭りの翌朝、冒険者ギルドに褒賞金を受け取りにいった。
すると支部長室に通されて、支部長じきじきになんかすごいお金をいっぱいくれるって言われちゃったぜ。
もういい加減、言い直す必要も無さそうだが、金貨50枚と言えば日本円にして50万円ですよ奥さん……!!
それを俺にポンとくれるって……。
「普通、そんなに貰えるモノなんですか? なんか今までのクエスト報酬の相場と比べるとケタ外れに貰いすぎのような……」
俺の感覚で言えば今回の働きぶりはせいぜい金貨5枚前後だと思ってた。
まぁアトラスのおかげで意味不明の俺コールが起こって目立ったから、もしかしてちょっぴり報酬に色がつくかも! ……とささやかな期待はしていたけれど。
しかし、まさか想像の10倍も貰えちゃうとなると、嬉しいを通り越して気味が悪い。
「いやぁ、聞いたところによるとキミは初級冒険者たちをよくアシストしたそうじゃないか。自分でトドメを刺すことにこだわらず、ゴブリンたちに適度にダメージを与えてまわって冒険者たちとの連携を優先した。だからキミ個人の討伐数は少ないが貢献度自体ははかり知れない」
支部長はニコニコしながら褒め称えてくれた。
え~、マジっすか?
うへへっ。
調子に乗るとロクな事がないので基本、褒められても謙遜するようにしているが、冒険者ギルドのお偉いさんにベタ褒めされるとさすがにニヤついてしまう。
「ま、それとキミの今後に個人的な期待を込めて少々オマケした事は認めよう」
と、ちょっと支部長は真面目な表情になる。
「俺の今後に……ですか?」
「トロールを軽く10体も倒す力の持ち主だ。キミはまだまだ活躍するだろう。だが防具を見るに現在それほど資金に余裕があるワケでは無さそうだ」
「ああ、まぁお金は無いですね……」
大富豪の小松くんとは一緒に行動しているが、高級防具などあまり高価なモノはねだらないようにしている。
無闇に借りを作りたくないってのもあるが、もしこの先、日本に帰れず異世界で永住するなら宝くじで当てた資産は彼にとって重要な生命線になるだろう。
ちょっと自惚れも入るが俺と詩緒梨さんは今の調子ならこの世界で冒険者としてやっていけそうな気がする。
しかし小松くんには無理っぽい。
ならば、お金は彼自身のために大切に使ってほしいというのが俺の考えだった。
「キミのような人材が生活費を稼ぐために誰でもできるクエストをこなす、というのは実にもったいない。その金貨50枚で無駄な時間をカットして……世界のために、選ばれた人間にしか出来ないことに時間を費やしたまえ」
「せ、世界のためですか。それはスケールが大きすぎるっていうか……」
「フフッ。願わくば将来、魔王を倒すような男になってほしいものだよ」
ええ!?
いやー。俺、そんな物騒なことしたくないんですけど……。
「あっ、魔王といえば……いや、魔王と関係あるかは分かんないですけど……」
「うん?」
俺は先日、吉崎くんに大ケガを負わせたイケメンな魔物について支部長に話しみた。
やられ際に『この戦いは序章に過ぎない』みたいな、まるでまだ次の戦いがあるかのように言っていた件についてだ。
自分は黒幕じゃないみたいな発言もしていた。
でも話を聞いた支部長は大して動揺してなかった。
「ああ、そういうのはよくあるよねぇ」
「え、よくあるんですか?」
「力のある魔物が定期的に人間の街に攻めてきて『お前たち人間の時代は終わりだー』とかなんとか大げさに喧伝してみせるんだ。魔物たちって怖い存在なんだぞ!? ってたまにアピールしないとナメられちゃうからねぇ、彼らも」
なんだそりゃ?
と最初はピンと来なかったが、俺たちの世界でいうテロ活動とか軍事演習とかミサイルを発射してみるとかそういう感じなのだろうか。
「えーと? つまり力を誇示する事が目的であって、本気で戦争するつもりはないってことですか?」
「まぁ、ぶっちゃけ本気で戦争したら魔物たち滅んじゃうしね。もちろん人間側もタダじゃすまないけど」
人間と魔物ってそういう力関係なんだ。
そういや今回の戦いもフタを開けてみれば人間側の圧勝で終わったもんなぁ。
「だけど、そういえば今年は闇属性周期の年だから比較的、魔王が誕生しやすい状況ではある、か。一応、警戒はしておいた方がよさそうかな。ここも薬草の街だけあって魔物にパワーを与える禁断の秘薬なんかもあるからね」
「え!? そんなヤバそうなモノもあるんですか!? もしかして今回の魔物たちってそれを狙ってきたんじゃ……」
「はは、大丈夫大丈夫。魔法の結界や腕利きの警備兵たちによってしっかりと保管されているからね」
本当っすか?
それ、もう大丈夫じゃないフラグにしか思えないですけど……。
胸騒ぎでムラムラしてくるけど、支部長が大丈夫って言い切ったものを俺みたいなヒヨッコがピーチクパーチクさえずってもどうにもならないだろうし、金貨50枚を受け取って俺はルンルン気分で冒険者ギルドをあとにした。
☆☆
昨夜の祭りの影響で若干、街の中はとっ散らかってはいるモノの雰囲気的にはすっかり落ち着きを取り戻している。
みんな普通に働き、普通の生活を再開しているようだ。
じゃあ俺も普通の冒険者生活に戻ろう! と思うワケですが詩緒梨さん、床に伏せているシュペットちゃんのために日用品の買い出しをしているので彼女との冒険は今日のところはお休みです。
どうするかなぁ。
「あ、いたいた! 君島っ!!」
あーだこーだと思いを巡らせていると、ギルド前の通りで俺を呼ぶ声が聞こえた。
的場くんだった。
「あ、ども」
「ども、じゃねーよ! お前、俺たちを宿に押し込んでから全然会いに来ないから心配しただろ!?」
しただろ!? って言われても知らねーよ。
俺としては正直、キミらとはあまり関わりあうことなく自然とフェードアウトすればいいにゃあと思ってましたよ?
とはいえ、こうして顔を合わせてしまったからには怪我人の心配をするフリをするぜ!
「いやぁ、ごめん。色々とやることがあったもんで。それで、吉崎くんの体調はどう?」
「まだ目覚めてない。ま、医者の話じゃ体はもう回復してて、数日で意識が戻るだろって話だが」
「そっか! 良かったなぁ! じゃあ俺はこの辺で……」
「ちょ待てよ! お前、さては俺たちに全然興味ねぇな!?」
くそっ、バレてる。
「いや~、でも実際、俺にどうしろと。そりゃ今もケガで苦しんでるっていうなら力を貸すけどさ、あとは起きるの待ちなら何もしようがない。俺は俺で生活するためにやらなきゃいけない事がいっぱいあるからね」
シュペットちゃんのお見舞いや看護ならむしろ進んでやりたいくらいだが吉崎くんのお見舞いなど時間の無駄にしか感じない。
2000円くれるなら行ってやってもいいが。
「はぁ……君島ってそういうトコあるよな……」
的場くんがやれやれだぜといった感じで溜め息をつく。
そんな、俺のことを分かった風に言われるほど的場くんと親しく接した覚えは無いんだが。
的場くんってそういうトコあるよねー。
「ま、吉崎のことは置いといて。それより君島、生活するためにやる事がある~って、お前、エルファストに戻るつもりはないのかよ?」
「え? ないけど」
「ないって……それじゃどうやって生活していくんだ」
「そりゃモンスター倒したり、最近は薬草を集めて売ってみたり」
「……それで生計成り立つのか?」
「少なくとも、クラスのみんなと別れてからここ1ヶ月くらいはお金に困ってないよ。ちょっとずつ貯金もしてるし」
「ぬぬぬ」
的場くんはちょっと考え込む。
俺が実は生活に困っていて『エルファストに帰りたいよー。一緒に連れていってくださいー』とでも言うと思っていたのだろうか。
「君島、頼む。俺を一緒に連れていってくれ」
「ぇあ?」
いきなり何を言っとるんだ、こやつ。
「なぁ……ちょっと人目につかない場所に行かないか?」
的場くんが顔を近づけて俺を誘ってきた。
「い、嫌だ。なんか的場くん、怖い……」
「何もしないから! というか明らかに俺より君島の方が強いだろうが!?」
まぁね。
だけど万が一、路地裏に連れ込まれて詩緒梨さんの好きなボーイズラブな展開が待ち受けていたら俺もどうしたらいいか分からないからな。
「その、アレだ。棚橋たちに見つかって話を聞かれたくない。あと、エルファストの兵士とかも」
「あの兵隊さんたち、まだ街にいるんだ?」
「俺たち勇者の護衛……と言いつつ逃げ出さないように監視されてるようなもんだ」
監視ねぇ。
よく分からないが的場くんたちもエルファストに残って色々と苦労してるのだろうか。
それじゃ話を聞いてみるか。ということで以前、小松くんのおごりで連れていってもらった個室付きの喫茶店に向かった。
少々、割高だが個室なら誰かに聞き耳を立てられる事もないだろう。
長らくお待たせしてごめんなさいでしたー!
すべては雪のせいです。
と、復活したような言い方ですが週末は忙しいので本格的な再開は週明けからになりそうです。。。
ブクマ評価してくれたかたありがとーざいます!




