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40話 復活の陰キャ


「きみ……しま……っ、君島ぁっ!!」


「ッ!?」


 先に動いたのは吉崎くんの方だった。


 どうするか戸惑い、挙動が遅れてしまった俺に対して勢いよく手をガッと突きだして来る。



 彼の表情から何をしてくるのかが読めなかったので思わずファイアバゼラードに手を伸ばしかけた。



「お前、生きてたのかよっ!! なんだよ、生きてたならそう言えよな~っ!!」


 吉崎くんは嬉しそうに俺の首に腕をひっかけ、もう一方の手で馴れ馴れしく俺の髪をクシャクシャっとなでた。


 いかにもリア充がやりそうな爽やかな対応だ。


 俺の生存を喜んでいる。




 ……でもコイツ、自分たちの名誉のために俺を裏切り者に仕立て上げたんだよな。


 

 その辺りはどうお考えなのだろうか。



「おいっ、棚橋!! 檜山ぁっ!! 君島、生きてたぞ!!」



 うっ!?



 俺の中の疑問が解消されないうちに、吉崎くんが他のクラスメイトの名前を呼んだので焦った。


 もしかして、あのデカい鳥が運んできた箱の中から出てきた連中は全員クラスの連中なのか!?



 えーと、えーと? 俺はどう応対すりゃいいんだっけ!?


 今日いきなり再会するとは思ってなかったので頭がこんがらがってしまう。



 えーい、落ち着け。


 方針を整理だ。



 まず、とりあえずクラスの連中とは合流したくない。


 偉そうに命令ばかりするわりに効率の悪い選択ばかりする風間くんや吉崎くんに再びいいように使われるのはゴメンだ。



 とはいえ彼らが『また一緒に冒険しようぜ~』などと言ってきた時に「お前らとは行かねぇ!! これからは俺の生きたいように生きるぜぇ!!」と啖呵を切れる男らしさを俺は毛ほども持って無い。



 となると、なんかウマい具合に話をはぐらかせていつの間にやらサヨナラバイバイする方向でいくしかないぜ……!! と、俺はひそかに腹を決めたのであった。



「え、あ……君島……?」


「本当に君島なのか?」



 吉崎くんの呼び掛けで集まってきたのは5人。


 棚橋くん、檜山くんは彼とよくつるんでいたので俺もなんとなく覚えてる。


 ただ残りの3人は顔に見覚えはあるが名前は思い出せなかった。


 俺ほどではないが、彼らもそんなに教室内で目立つ存在はなかったからな。



「ああ、本当に君島だけど……。あの、他の人たちは……?」


 遠巻きにこちらの方を見ている残り20人くらいの戦士たちを見ながら俺は問いかける。



「おう、アイツらはエルファストの兵士どもさ。風間とかは別行動中」


 ん……?


 そう答える吉崎くんの表情がなんとなく嫌な雰囲気を滲ませているのを感じた。



 彼らとは関わりたくないが、何かあったのなら気になるな……。




「あの……ソラさん。その人たち、お知り合いのようですが……?」


 様子を見守っていたアトラスが遠慮がちに聞いてきた。


「よう、ソラの大将。悪いんだが状況を説明してくれんか? 空からでっけぇ鳥が飛んできてからオレたちワケが分かんなくてよ」


 さっき、俺を担ぎ上げた冒険者の一人も口を挟んでくる。



「た、大将? それに……ソラって? お前、そんな松尾芭蕉の弟子みたいな名前だったか?」


 吉崎くんがちょっと驚いたような顔をする。


 コイツ、スポーツ刈りのくせに(失礼)蕉門十哲(しょうもんじってつ)の曽良さんを知ってるとは。



 うーむ……ソラっていうのはキミたちから逃走するための偽名だよーん!! と言うワケにもいかないのでテキトーな言い訳を2秒で考えるぜ。



「いや、ソラっていうのは……その、異世界でカッコつけてみたくてそう名乗っていたのさ」


「あ~……、君島ってそんな感じだったよな。中二病ってヤツ?」


 うるせぇこのスポーツ刈りが!!


 いや、別にスポーツ刈りに恨みは無いんですけど俺はとにかくコイツの人を見下したような態度が嫌いなだけなんですぅ。



 まぁ、見下すって点では俺も他人(ひと)のこたぁ言えないけど。



 と、そんなことはどうでもいいか。



 とにかく俺が仲介役になってまず吉崎くんたちに今、この街が置かれてる状況と戦況を伝え、アトラスたちには吉崎くんたちの素性をサラッと伝えた。


 色々と気になるけど、まずこのガーヤック防衛戦に終止符を打つのが先決だ。



「ふーん、敵の攻撃は止んだのか。救援に来たってのに一足遅かったってワケだな」


 吉崎くんは森の方を眺めながらニヤついた顔でパシッと自分の拳をもう片方の手の平で受け止める。



「いや……一旦ストップしただけで、まだ終わったかは分からないよ。でもアレから結構、時間が経つな……」



 第一次防衛ラインが随分、静かだ。


 最初みたいに武器のぶつかりあう金属音や魔法の爆発音などはしばらく聞こえてこない。



「もう戦いは終わったんでしょうか……? ボク、前線の様子を見て来ましょうか?」

 

 アトラスもそわそわと暗闇の向こうを見通そうと目を凝らす。



「うーん……いや、明らかな異常事態に気付いたのならともかく、敵が来ないってくらいで勝手に持ち場を離れない方がいい気がする。もし向こうが敵を完全に殲滅したならコッチの応援に来てくれるだろうし、それが無いって事は……」


「あ……まだ何かを警戒してる、って事ですかね」


 アトラスも初心者冒険者たちも俺の意見に納得したようだ。



「いや、俺なんかがポッと出した意見をあまり信用しない方がいいかも。みんなも何か意見があれば……」


「いやいや。オレも待機に賛成だぜ。もしかしたら上級のダンナたちがヤられてる……ってセンもあるが、それこそオレたち初級ごときがノコノコ様子見にいってもどうしようも無いしな」


「そうスね。その時は街門まで下がって支部長たちの指示を仰ぎましょう」


 そんな俺と初心者冒険者たちの会話を聞いて吉崎くんが脇をつついてきた。



「君島。なんかお前、偉そうだな」


「えぇ!?」


 なんスか、いきなり?



「いや、俺たちといた時はオドオドしてたクセになんかカッコつけてんなぁってさ。なぁ?」


 吉崎くんが言うと棚橋くんたちも「ハハ……」と笑った。



 え、俺はどう反応すればいいのかしら。


 よく分からないので俺も「いやぁ……アハハ」とバカみたいにヘラヘラ笑っといた。


 ハァ……やっぱクラスの連中相手だと調子が狂う。


 いや、調子が狂うというか、元に戻ったといった方が正しいのか。



「偉そう、というかソラさんは実際に立派な人ですよ」


 アトラスが真面目な顔で言ってくれた。


「コイツが立派?」


 吉崎くんがニヤニヤ笑う。



「というか、おい、おい、君島。なんだよ、この可愛いコ。お前のことかばってんぞ? もしかしてお前らデキてんの? 陰キャって異世界だとモテるのか?」


「……!!」


 アトラスが腰にグッと力を入れるのが見えた。


 何度も模擬戦をしたので分かったがアレは攻撃に移る際の動作だ!



 アトラスが吉崎くんを殴る前に俺はアトラスのお尻をモニュッと揉んだ。


「ひゃぁあ…んっ!?」


 ちょ、そんな色っぽい声出すんじゃありませんよアトラスさん。



「ちょ、君島!? お前なにいきなりセクハラしてんだよ!? 俺たちと別れてからお前に何があったんだよ?」


「何って……」



 俺はクラスの連中と別れてから起こった色んな事を思い出した。



 文川さんとキスしたり、結婚したり、胸を揉みしだいたり。



「そ、それは言えません」


「そ、そんな言えないような壮絶な目に遭ったってのか……」




 ウワァァッ……!?


 キィンッ……ドォォンッ……!!



「なんだ!?」



 俺たちは一斉に第三次防衛ライン……つまりガーヤックの街の方を振り返った。


 やはり木々が邪魔してハッキリ確認は出来ないが、激しい戦闘音が聞こえてくる。



 この第二次防衛ラインからどれだけかのゴブリンは通過させてしまったのは分かってるが、せいぜい50体以下だと思う。


 でも聞こえてくる怒号や衝突音からは数百体規模の魔物とぶつかり合ってるように思える。




「行こう!! これぞ異常事態だ!!」



 あれだけ大規模っぽい戦いに自らクビを突っ込みたくはないが、門を破られたら文川さんたちの身が危ない。



 例え、誰も付いて来なくても俺一人で援軍に駆けつける覚悟で街に向かって全力ダッシュした。

 

いつもブクマありがとうございます!!

更新期間空いちゃって申すワケないです!!


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