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39話 鳥だ! 飛行機だ! いや、????だ!!


「やったぁ、さすがソラさん!!」


 アキレス腱の肉が(えぐ)れて立ち上がるどころではないっぽいトロールを見て、アトラスが嬉しそうに俺へ向けてガッツポーズを送る。



 お待ちなされ、俺の手柄みたいにハシャがれると居心地が悪い。


 デカい相手に致命傷を与えるには……ってアキレス腱狙いの策を授けてくれたのは文川さんだしな。


 俺からすれば『さすが文川さん!!』って感じだ。


 あと、アトラスの撹乱攻撃にも助けられたし。



「アギッ、アグァッ!!」



 立ち上がれずに手足をバタバタさせて暴れるトロール。


 ありゃ、ちょっと危ないな。



「よーし。今、トドメを……」


「いや、ちょっと待ってアトラス」


「えっ?」



 倒れトロールに向かって駆け出そうとするアトラスを制止する。


 寝っころがりながら大木よりも太い腕や脚をランダムにバタバタ振り回しているところに近付くのは非常に危ない。



 バコォンッ!!



「ギャウワッ!?」



 ほ~ら、言わんこっちゃない。


 案の定、茂みから飛び出してきたゴブリンが痛みで暴れ回るトロールの腕に当たってデコピンした消しゴムみたいに吹っ飛ばされていった。



「うん、アレはしばらく放っとこうな。防衛している側の俺たちは無理に近付く必要はないし、むしろ街に向かってくる魔物にとっての進路妨害になるだろうし」


「あっ、なるほど。分かりました!」



「おーい!! コッチにもトロールが出た!! 救援頼むっ!!」


「はいっ、行きましょうソラさん!!」



 頼られたことが嬉しいのかアトラスは笑顔で面倒事に向かってダッシュしていった。


 うーん、偉いヤツだ。



 それにしても、どうも初心者冒険者ではトロール相手には分が悪いらしい。


 最初の一匹目をたまたま倒したことで「トロール倒し係」に任命されてしまった俺たちは、トロールが出てくる度にあちこち呼ばれた。



 アトラスが注意を引きつけつつ、俺がダークロッドで目潰ししてアキレス腱を焼き潰すだけの簡単なお仕事です。



 ……って、一歩間違えたら棍棒や蹴り、踏み潰しを喰らって即死しそうなんだが!?



 ハァ~……幸いトロールの数は少ないので数匹だけ相手にする程度で済んでいるが、どーしてこうなった。



 ぶっちゃけいつでも逃げられそうな位置でゴブリンを右から左へ受け流そう! くらいに思ってたんだけどなぁ。



 でも他の冒険者が文川さん作戦の真似をしてトロールのアキレス腱をぶった切ろうとしても皮膚が固くて武器をカキンッと弾き返されてしまうようだ。


 あまり自覚は無かったが俺の2凸ファイアバゼラードは結構な威力になっちまってるんだな。



 というワケで俺がやるのが適任な気もするので、仕方なくゴブリンを相手しつつも、トロールが出たらソッチを優先的に処理するマシーンと化した俺氏。



 と、10匹ほどトロールを転がしたあたりでだんだん第一次防衛ラインの方からやってくる魔物たちの数が減ってきて、戦う相手がいなくなり手が空く冒険者たちの数が増えてきた。



「なんだ……もう終わりか?」


「でも2000体ってもっと多いと思うが……」


「前線の連中があらかた倒しちまったのかもよ」



 色々な憶測が聞こえてくるが、まだ警戒を解くには早すぎるというのが大方の見識だ。


 みんな、油断ならないといった顔で茂みの奥に注意を払っていた。



 俺はさすがに疲れたのでちょっと地面に腰をおろしてご休憩。


 体力的にというか凶暴なトロールの足元に近付いていく作業で神経衰弱状態だった。


 工場で機械に巻き込まれて死亡した、なんてニュースをたまに見た記憶あるが、そういう危険なプレス機とか裁断機の近くで働いてる人って毎日、こんな気分なのかも知れないな。


 尊敬する……ってのはちょっと違うが、スゴい事だと心底思う。



「大丈夫ですか、ソラさん?」


「ああ、ちょっと気疲れしただけさ。アトラスの方こそ平気か? そっちの方が動き回って疲れてるだろう。危ない目にも遭ってるし……」


「平気ですっ。むしろソラさんの闘い方を見て、ボクも効果的な部位を狙おうって思って、なんかいっぱい試してみたいことが出てきました!」


 アトラスはぐるぐる腕を振り回す。


 う~ん、俺ごときちっぽけななんちゃって勇者が本物の勇者に影響を与えたとはちょっと嬉しい。


 猿もおだてりゃ木にのぼる理論でちょっとヤル気が出てきちゃったぞ。



「よーし。そんじゃ、あとどんだけ戦うのか分からんが、もうひとふんばりするか」


「はい……あっ!? な、なんですか?」


「がんばってるアトラスにサービスサービスっ!」



 子供の頃、再放送で見た昔のロボットアニメの次回予告でお姉さんキャラが喋ってたようなノリでアトラスの華奢な肩をモミモミモミモミとマッサージしてあげた。


「ふにゃ……」


 猫みたいにはにゃーんって顔して可愛いヤツよ。



「なぁ、イチャついてるところ悪いがちょっといいか。これからどうする?」


「え?」



 アトラスとじゃれあってると、一緒に戦ってた冒険者の一人が話しかけてきた。


「イ、イ、イチャつい……ボクとソラさんが!?」


 まぁアトラスは一見、可愛いミニドレス装束を着た美少女だしな。


 そう見えても不思議はないが……それはいいとして。



「どうするっていうのは……?」


「あの活躍ぶり……アンタら、若いが場数を踏んでそうだしな。この状況でどうするか、考えがあるなら参考にしようと思ってな」



 ふむ。


 俺が場数を踏んでるかはともかくとして、とりあえず倒れたままのトロールにトドメ刺すくらいしてもいいのかしらん。


 でも、まだ魔物がやってくるならこのまま転がしといた方が良さそうだしぃ~……。


 ああああこういうの、責任とりたくないぜ。堪忍してっ。



「えーと、そう言われましても、俺ごときなんか……」


 と周囲をチラリと見ると、他の冒険者も俺とアトラスの方を伺っている感じがした。



 ふむむ。確かに俺はこの中じゃそこそこ上位の戦闘力の模様。



 でもソレ、ガチャ武器のおかげさまであって俺の中身は蓮根みたいにスカスカなんすよ、みなみなさま。



 その点、アトラスの活躍は正真正銘アトラス自身の才覚によるものだから、うん。この場はこのコにお任せしよう。



「というワケでどういたしますアトラス様?」


「ええーっ、様ってなんですか!? えーと、えーと、とりあえずコチラのソラさんをみんなで拝みましょう。争いを好まない人で戦闘には消極的ですがホメればヤル気になってくれますから」


「お、おいアトラス様なに言ってんの?」



「よーし、野郎ども!! ソラさんを讃えようぜ!!」


「おっ、なんか知らんが任しとけ!!」


「ちょ、待って……」


「ソーラ!! ソーラ!!」


「ソーラ!! ソーラ!!」


「やめて恥ずかしい……」



 冒険者たちが俺を取り囲んで音頭をとって手を叩き出した。



 イジメか? イジメなのか?


 みんなニヤニヤして俺で遊んでるだけだろ!!



 まぁ、初心者冒険者たちの緊張感はとけたようだし良いのか。


 油断は大敵だけどリラックス大事!!



 俺ごときでお楽しみいただけたなら何よりですよ。




 バサッ……バサッ……!!



「ん?」



 不意に遠くの方から何かの音が聞こえた。



「おい、アレ見ろ……!!」


 誰かが騒ぎだしたがみんな言われるまでもなく、上空から近付くソレに目を向け……



 うぉおおおおおなんだアレ!?



 闇夜の中を巨大な鷲のような鳥がコチラに向かって滑空してきた。


 ただ、あんな、ジャンボジェット機みたいにバカデカい鷲の名前を俺たちはまだ知らない。



「なんだぁ!?」


「コッチに来るぞぉーっ!!」



 バッサ……バッサ……ッ!!



 木々を避け、俺たちがいる開けた平地スレスレにトロールよりも遥かにデカい巨大鳥が着地……するかに見えたが、脚のカギ爪でがっしり掴んでいた巨大な箱をドッスゥゥンッ!! と地面に落として、鳥はバサバサと羽ばたいてそのまま上昇。



 俺たちに危害を加えることはなく、シュババッと飛び去っていった。


 危害は無いって言っても、その羽ばたきはまさに烈風。


 ほとんどの冒険者はバランスを崩して転んだりよろめいたりはしていた。



 いや、そんなことより……。



「あの箱は……なんだ?」



 箱……というか小屋くらいの大きさはある。


 なんだったら人が住むことも出来そうな……って、もしかして



「中に何かいるんじゃないスかね……?」


「な、にっ!?」



 俺のつぶやきで、ポカンと見てた冒険者たちも慌てて箱に向かって身構える。



 ガタンッ。



「!!」



 箱の表面にスーッと切れ目が出来たと思うと、ドアくらいの大きさの板が外側に倒れた。


 そして中から人が出てくる。


 武器と鎧を装備した、たぶん人間。


 兜を深くかぶって目元は見えないがモンスターでは無さそうだ。


 ……と思われる連中が、ぞろぞろ箱の中から沸き出してくる。


 大体30人くらいいるだろうか。



「お前たちはガーヤックの冒険者たちか!!」



 その中の一人が俺たちに向かって大声で呼び掛けてきた。



「……その通りですが、貴方たちは!?」


 俺たちはみんなで顔を見合わせて、とりあえずアトラスが代表して応えてくれる。





「オレたちはエルファスト王国から派遣された異世界から来た勇者だ!! 王様の命を受けて援軍に来たぞ!!」





 え?



 いま、なんて言った……?



 エ、エルファスト……?



 異世界から来た勇者って……おいおいおい!?




「援軍ですか!! 助かります!!」


 アトラスがその聞き覚えのある声のヤツに近付いていく。



 するとソイツは当然とりあえずアトラスの方に視線がいくだろうし、ということは必然的にアトラスのそばにいた俺もチラリと視界に入るワケで。



「な……きっ、君島!?」




「……や、やぁ。元気だった? 吉……崎くん」



 兜を外して俺の方を凝視するスポーツ刈りのその男。



 やっぱりか……。



 ソイツはSR武器所持者にして俺と文川さんを裏切り者に仕立てあげたかつてのクラスメイトにしてハッキリいって大ッ嫌いなクソ野郎、吉崎くんその人であった。



 

300ポイント達成!!

みなさんのブクマ評価のおかげですありがとうございますっ。

次の目標は100ブクマっす。。。


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