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34話 魔王


「初心者ミッションボーナス……!! そんなものがあったなんて……」



 船を下りたら一時解散!! ……の予定だったがその前にモスレムの街の喫茶店で、サーヤさんがSSR武器を手に入れた経緯を小松くんに説明した。



「以前、ソラさんが死にかけた時にも聞きましたが、それでアーティファクトをいくつも得られるチャンスがあるなんて異世界から来た勇者さんがちょっぴり羨ましいです」


 アトラスがミルクティーを飲みながら、ほぅ……とため息をつく。



「アトラスたちがアーティファクトを手に入れようと思ったらやっぱり大変なのか?」


「それはもう! 手強いモンスターが守護している上に、そういうのは先人たちにあらかた倒し尽くされてますからね。あの場所に行ってこの守護者(ガーディアン)を倒せば手に入る……と確実性があるものではないのです」


「ふふーん。そうなんだ! そんな風に聞いちゃうとあらためて良いモノGETしちゃったよね~ウチってば!」



 サーヤさんが嬉々として店内でSSR氷系上級魔剣アロンダイトをその手に呼び出す。


 うわ、ちょっとテーブル周辺の気温が冷えるんですけど!



「磯崎さん、いいなぁ。私もガチャ回したいなぁ」


「文川さん、ダメですからね」


 羨ましがる文川さんに念を押す。



 初心者ボーナスを受ける条件は『死にかける事』。


 だけど一歩間違えば本当に死んでしまう可能性を考慮すると『じゃあ、ちょっと死にかけてみよう!』などとお気軽に試すことはできない。



「小松くんも試そうなんて考えないでくれよ。俺が教えたせいで、ボーナス目当てでわざと死にかけてウッカリ死んだ、なんて事になったら夢見が悪いなんて話じゃない」


「あ、ああ、それは大丈夫。というより……」


「ん?」



 小松くんがちょっと言いにくそうにする。




「僕はもう、戦いから身を退こうと思っている」



「えっ!?」


 と、何名かが声をあげた。


 俺からすれば彼のゴブリンとの戦闘ぶりを見ると、賢明な判断だと思うので驚くよりむしろしっくり来たが。



「身を退くって……そんじゃ魔王はどうするワケよ!?」


 しっくり来てないらしいサーヤさんが抗議した。



 というかこの人、今まで魔物とまともに戦った姿を見た事ないけど一応倒す気あったんだ、魔王のこと。


 というか魔王とか俺、すっかり忘れてたわ(笑)。



「なぁアトラスちゃん」


「えっ、えっ、な、なんです!?」


 女装男子なアトラスを「ちゃん」付けで呼んでみたら意外と動揺した。


 ちょっと嬉しそうだな。


 今度からたまにそう呼んでみよう。



「俺たちは召喚された際にエルファストの王様から『魔王を倒せ』と仰せつかったんだが、この世界ってわりと平和だよな。魔王ってそんなに急いで倒さなきゃいけない相手なのか?」


「えーと……まぁ人類を滅ぼさんとする脅威ですから倒すに越したことはないですが、次から次へと出てきますし、何百年も前から誰も討伐できない伝説の大魔王もいるしで、正直いって魔王を全部倒すのは無理かと」


「ちょ!? 魔王ってそんなにいんの!? 世界ヤバくね!?」


 サーヤさんがガタンっと立ち上がり、テーブルの上の紅茶が揺れる。



「……でも、逆に言えばそんなに魔王がいても世界は平和な雰囲気でいられるんだよね」


 賢くて可愛くて全身からいいニオイがする文川さんが鋭いことを言った。


 確かにこのモスレムの街も、今まで旅してきた街同様、穏やかだ。


 人々が魔王軍によって苦しめられている……!! などという雰囲気は微塵も感じられない。



「結局、魔王たちも本気で人類侵略しようとすれば、自分達の元に勇者たちがなだれこんでブチ殺されちゃうって分かってるんだと思います」


 たまに言葉遣いが荒ぶるシュペットちゃんがマカロンをもぐもぐしながら教えてくれる。



「エルファスト王がソラさんたちに魔王討伐を命じたのは、自分たちが召喚した勇者が魔王を倒せば国の名誉になるから……という意味合いなんじゃないかな。そんな感じで自国の騎士団を魔王討伐に派遣するって話は珍しくないし」


「エルファストもメロンの産地で有名ですけど、それ以外はパッとしなくて財政破綻しかけてるってニュースありましたからね。国おこし目的のご当地勇者になってほしかったのかも知れないですよ」


 シュペットちゃんもアトラスも中学生くらいの年齢なのにしっかり世の中の流れを把握してるなぁ。


 俺が中学の時なんてゲームとアニメ、漫画で頭がいっぱいだったが。



 というか二人の話が本当ならそんな、国の名誉目的で一方的に俺たちを異世界召喚するとかヒドくないスか。


 世界の危機だ! っていうなら仕方ないと思えるのに。



「でも、魔王をボコらないとウチら元の世界に帰れないんしょ? 結局倒すっきゃないじゃん」


 サーヤさんみたいなリア充は帰りたくて仕方ないだろうな。


 文川さんも俺も帰れなくてもソレはソレで、……と思ってる事はナイショにしておこう。



「まぁでもさ、この世界には勇者1000人くらいいるって話だし、いざとなれば誰か倒してくれるんじゃないかな。それと、王様は魔王倒さなきゃ帰れまテンって言ってたけど、調べてみたら他に帰る方法が見つかるかも知れないし」


 俺はサーヤさんに無理に魔王と戦わなくていいんじゃねプレゼンをしてみた。


 お手元の資料をご覧くださ~い。



「でも、そんなのって確実性がないじゃん」


「いや、磯崎さん。それを言ったら僕たちが魔王を倒すというのも確実性がない」


 我が友、小松くんも加勢してくれた。


 やれる根拠もないのにやろう! というポジティブ陽キャのサーヤさんと、やりたくない言い訳を並べるのが得意なネガティブ陰キャの俺、小松くんコンビ。


 これはまさに太古より繰り返されてきた光と闇の戦い……!!



「じゃあ、それぞれ確実性の高いと思う方法でやればいいんじゃないかな?」


 可愛くて聡明でイイ匂いで優しくて楽しくていっぱいちゅきな俺だけの文川さんが発言する。



「師匠、それってどういう……?」


「私はガーヤックの街で薬草の勉強をします。最初は生活費を稼げれば程度に思ってたけど、魔物を弱体化させたり味方をパワーアップさせるポーション類を作れたら誰かが魔王を倒すのに役立つだろうし……あと、元の世界に戻る別の方法を探すために図書館で調べものをするとかそれぞれのやり方でやれることを見つけたら……って」


「うん、それに賛成だ。少なくとも僕は無理して戦うより裏方にまわった方が役に立てると思う」


「え~……」


 サーヤさんが不服そうだ。


 まぁせっかくSSR武器を手に入れて活躍しようと思った矢先にこれじゃ出鼻くじかれた感あるだろうな。



「ミッシーはどうなの?」


「え?」


 俺、1000人いる勇者の誰かが魔王倒すのに期待してるって伝えなかったっけ。



「だってミッシー、昨日、チョー強かったじゃん。ぶっちゃけ風間っちより全然強そうだし、ミッシーなら魔王倒せる勇者になれそうだし」


「ええ!? いや!? 全然!? そんなことないって!!」


 やっべ、俺も正直、風間くんよりはもう強いだろうと思っていたが、誰かにハッキリ褒められるとニヤニヤしてしまう!!


 そうなんだよな、ぶっちゃけソシャゲやってて2番目に楽しい瞬間ってフレンドとかに「強いですね!」って褒められた時だもんなぁ。



 ちなみに1番目はガチャで最高レアひいた瞬間ですけど!!



 ゴツッ。



「んほッ!?」


「えっ、どうしましたソラさん」


 突然、奇声を発した俺をアトラスが気づかってくれる。



 そ知らぬ顔をしているが今、隣に座ってる文川さんにスネを蹴られました。


 別に痛くはないけどビックリしたな。


 サーヤさんに褒められてニヤけてたから警告1が出たのだろうか。


 警告2が出たら俺はどうなるのだろう……。



「ま、まぁ、とにかく各自、頭の中を整理しよう。続きは明日、馬車の中で話そうさ」


 どっちかというと文川さんに蹴られて興奮……じゃなくて混乱した俺が気持ちを整理したいので解散宣言を出した。



「ん、分かった。ってかごめん、みんな。なんかウチ、一人だけ船で全然役立たずだったのにエラそうなコト言って。ちょっとチョーシ乗ってたかも」


 サーヤさんはペコッと頭を下げた。


 ヒートアップしやすいけど、頭を冷やすのが早いな、彼女。


 なんかションボリしてるし本当に反省してるようだ。



「まーまー、元気出してサーヤちゃん! アトラスは家から立派な勇者になって帰ってこいって言われてるので、魔王を倒すというなら全面的に協力しますよっ」


「え? いいの、シュペッち?」


「そうですね、魔王を倒せば兄様たちだってボクのこの格好を許してくれるでしょうし! がんばって魔王をやっつけましょう!」


 女装する許しを得るために魔王討伐に燃える炎の勇者か。


 難儀よな。


 というかアトラス、こんなに可愛いんだから兄貴たちも認めてあげればいいのに。




「じゃ、みんなホントごめん! 最後、変な空気にしちゃって!」


「磯崎さん、私もなんかごめんなさい……。水を差すようなコト言って」


「いいって! ウチ、結構ズバズバ言うからケンカっぽくなるけど、ケンカするほど仲良くなれるって思ってるタチだから! ウチ、師匠のコト、もう結構好きだよ?」


「い、磯崎さん!?」


 好きとか言われて顔を赤くする文川さんでした。


  


 そんなこんなでサーヤさんは流れ的に結局、アトラス、シュペットちゃんとモスレムの街をまわることにしたようだ。


 俺は当然、文川さんと二人で行動する。


 となると……。



「小松くん、一人で大丈夫か?」


「あの……しばらく私たちと一緒に来る?」


「くく、はははははは!! ……この小松に情けは無用!!」



 小松くんはなんかの帝王のように威風堂々と壊れた笑顔で去っていった。


 彼、時々面白い感じになるなぁ。



☆☆




 俺と文川さんはぶらぶらと街を歩き出した。


 時間で言えば昼過ぎ、夕方前、15時から16時の間くらいってとこか。


 やらなければいけない事はせいぜい今夜泊まる宿を探してチェックインしとくくらいだし、宿場街ってだけあって宿はそこら中にある。


 何も焦ることはない。



「って感じだがどうしよ?」


「そうだねぇ……なんか急にヒマになっちゃったねぇ」



 さっきまでは6人で、主にサーヤさんが色々話題作りしてたから俺みたいな人間でもお喋りを楽しむリア充ぶって時間が経つのも忘れられたが、彼女がいなくなるとやっぱり自分は自ら発電して輝くことができない陰キャだと思い知らされる。


 いや、思い知らされるっていうとアレか。


 俺は別に自分の陰キャ部分を嫌ってるワケじゃない。


 物事を冷静に考えて整理するにはこういう静かな時間も必要だもん(強がり)!



「あ、君島くん。さっきは脚蹴っちゃってごめんね。痛くなかった?」


 通りを歩きながら、文川さんが話しかけてきた。



「ん、全然。一応確認するけどアレはなんだったの?」


「んー。あー君島くん、磯崎さんに褒められてデレデレしてるなーって思って、まぁそれはいいんですよ。その、か、彼氏が褒められると私もわりと嬉しいというか」


「彼氏……。なにげに文川さんが初めて俺のこと彼氏って呼んでくれた……!」


「き、君島くんも私のこと『カノジョ』って呼びなさい」


「ふ……、おほん。文川さんは俺の大好きな彼女だよ」


「あふぅっ!!」


 文川さんはくすぐったそうに全身をグネグネさせた。



「はぁ……コーフンした……」


「俺も」


「まぁ彼氏彼女っていうか、私たち結婚してるんじゃなかったっけ」


「知ってる」


「まぁこういうのはちょっとずつね」


「そうだね。俺がいきなり文川さんのことを『オイ』って呼んだらドン引きするだろうからね」


「熟年夫婦ですか(笑)」


 二人してクスクスとしょうもない事で笑った。



「あれ? じゃあ結局、俺はなんで蹴られたの?」


「いや、なんか漫画とかであるじゃないですか。他の女子にデレデレする主人公に嫉妬アタックするヒロインが」


「ああ……それをやってみたかったんだ」


「そう。別に嫉妬はしてないけど1回やってみようか! って謎のテンションになっちゃって……。でも、蹴ってから君島くんに『なにコイツ、ヤンデレ!?』って恐れられたらヤだなぁって、そればっかり気になってたよ」


「大丈夫、男ってたぶん嫉妬アタックされたら喜ぶから。実際、脚を蹴られて俺ちょっと嬉しかったもん」


「本当? 君島くん、優しいからなぁ~。痛くても言わなさそうだし……。本当に少しも怒ってない?」


「怒ってないし、どちらかというと今すぐでも文川さんとイチャつきたいと思ってるよ」


「……じゃあ今すぐホテル、行く?」


「ホ!?」



「あああああああああぁあ!? じゃなくて宿屋行く!? ごめん、ホントごめん。間違えた、今のなし!」


「じゃあ行こうか、ホテルへ!」


「宿屋ね! 宿屋に行こうね!」



 宿屋っていうとあまり意識しないけどホテルとか聞くとちょっと興奮するのはなんででしょうかね。


 まあ、やることはホテルでも宿屋でも変わらないんですが。



 俺たちは早速、日も高いウチから宿の部屋をとり、服を脱ぎ、お互い薄着になって、けしからんことをした。


 キスをして、抱き締めあったり、ただ見つめあったり、身体をさわりあって、そのうちマッサージとかもしてみた。


 異世界に来てから歩きっぱなしで、ふくらはぎやアキレス腱あたりがずーっと筋肉痛なので、文川さんにモミモミされると脳がトロけて寝そうになるくらい気持ちよかった……。



 そのあと夕飯を食べに行って帰ってきてから、またけしからんことをして睡眠をとり、翌朝になってまた飽きずにけしからんことをした。


 キスをして抱き締めあって、またキスをする。


 首筋や胸元、腕、脚と少し肉の柔らかい部分に「この人は自分のものだ」と所有物に名前を書くみたいに唇で吸い付いて、お互いキスマークを刻みまくる。


 

 宿場街モスレム。


 結局、文川さんに嫉妬キックを喰らってキスしまくった思い出しかないな。



 ま、ガーヤックに着いたら忙しくなりそうだし。


 たまにはこんなキス三昧な休暇もよいでしょう。



 そんな感じで俺と文川さんは二人して服やマフラーの下に大量のキスマークを隠し、その気配を察知したサーヤさんを戦慄させつつ、ついに目的の薬草師の街ガーヤックへ到着したのだった。


ブクマ本当にありがとうございます!

100ブクマ越えるのが一つの目標みたいなところがあるので

がんばっていきたいところ。

まぁ超10000ブクマ人からすればザクからグフに昇格したって感じでしょうけど。。。

千里の道も一歩から!

次回からいよいよガーヤック編です!

誰も特に期待はしてない……!!

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