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33話 ダイナマイト


 星屑で満たされたミルキーウェイの渓谷を船で下り続けて3日目の昼過ぎ。


 終着地点に到達するという船内アナウンスが流れ、俺たちは部屋に戻って荷造りを始める。



「なんだかあっという間の2泊3日だったなぁ」


 部屋にある小窓から光り輝く美しい河を眺める。


 星の大聖霊ティタニアの力を秘めたありがたいパワースポットなのに、あんまり堪能出来なかった気がする。


 まぁ、だからといって3日間ずーっと河を見つめ続けるってのも退屈な話ではあるが。



「濃い3日間で楽しかったけど、せっかくの新婚旅行でゆっくり出来なかったのは残念だったかも」


 荷造りを終えてベッドにちょこんと腰かける文川さん。



「ま、でもゴブリン討伐で謝礼金が結構もらえちゃったしさ。急いで仕事を探す必要もないし、もうちょっと新婚旅行を延長してもいいんじゃない?」


 と言いつつ文川さんのお隣に座る俺氏。


「そんな手もありますかー」


 すると文川さんがぴたっと肩を寄せて頭をすりつけて甘えてくる。



 昨夜はお互い、男同士女同士で騒いでそれはそれで楽しかったけど、同時にミルキーウェイ最後の夜は徹底的にイチャイチャしようという気持ちもあったため、正直、欲求不満だ。



 いや、文川さんが欲求不満なのかは謎に包まれているが俺の方はもう抑えが効かない。


 体を預けてきた彼女を抱き締めて唇に吸い付きながら胸をおさわりした。



「んっ……ちょ……欲張りすぎですよ君島さん」


「イヤ?」


「イヤじゃないですけど……君島さん、昼間からお盛んだなぁって」


「うーん違うんですよ、なんかスイッチがあるんですよ」


「スイッチ?」


 クスッと笑いながら首をかしげる文川さん。


「普通にしてる時は俺だってそーいう事ばかり考えてるワケじゃないけど、文川さんが半径10センチ以内に接近すると文川さんの体温とかニオイを感じてスイッチがONになるんです」


「それがONになるとどうなるのかな?」


「それは……」



 ミスリル製アンダーの内側で暴れ出そうとする我が分身に視線を向ける。



「ギンギンになる」



「え、な、何が?」


 文川さんも俺の視線の先にあるモノを見て俺が言わんとする事に気付いたようだ。



「ハァハァ……」


「わー、待って待って! スイッチ切らなきゃ!」


 言葉は焦ってるようだが文川さんは実に俺に楽しそうにキスをし出した。


「ふふ、スイッチはどこかな……?」



 チューッ、チューッと少し強めに頬や首筋に吸い付く文川さんの柔らかな唇。


「ふ、文川さん……むしろスイッチ入りっぱなしになっちゃうんだけど」


「ご、ごめん。私もスイッチ入っちゃったみたい」



 俺たちは見つめあってもう言葉を探すのがじれったいとばかりにお互いの唇をむさぼる。



 コンコンッ。



「ししょー、ミッシー。船降りる前にみんなでどっかでお話しよーよー!」


 ドアのノック音とともにサーヤさんの声が聞こえた瞬間、俺たちはバッと離れた。



 俺は可能な限り呼吸を整えて平静を装ってドアまで駆け寄った。



 かちゃり。



「やあ、サーヤさん。荷造り、みんなは終わったの?」


「んー。シュペッちもアーちゃんも向こうで待ってるし。ってか、今ミッシーちょっと出るの遅かったけど、もしかして師匠とお楽しみだったりして?」


 サーヤさんがからかうようにニヒヒと笑う。



「いやー、まさかまさか。昨日は遅くまで騒いでたからちょっと二人してウトウトしちゃって」


 俺は名前を書いただけで人を殺せるノートを拾った青年のように爽やかにウソをついた。



「あはは、分かる。ウチらも荷造りしながらボーッ……と……?」


 サーヤさんが俺の、首を見て動きが止まる。



「それ、キスマーク……? さっきまで無かっ……」



 俺は無言でゆっくりと首筋に手を当てて隠した。



「ご、ごめっ!? まじサーセンでしたっ!! ど、どぞ、ごゆっくりぃー!!」



 サーヤさんは凄い勢いで逃げ出していった。



 勝ったぜ。



「き、きみしまくん? な、なんかキスマークとかって……聞こえなかった?」


「うーん、自分じゃ見えないんだけど……」



 俺は洗面所の鏡で首筋を確認すると、さっき文川さんが吸い付いたあたりがうっすら赤紫なアザになっていた。


「はぅっ……」


 後ろから覗きにきた文川さんが卒倒しそうになっていた。





☆☆




「あれ? ソラさん、イメチェンですか?」


 船のデッキで待つみんなの元へ現れた俺の首には赤いマフラーが巻かれていたので早速シュペットちゃんに指摘された。



「ああ、赤いマフラーは正義の(あかし)だからね」


「あっ! ボク、黄色いタオルならありますよ! ボクも正義の勇者になりたいですっ!」


「いや、アトラス。残念だが黄色いマフラーは偽者の(しるし)なんだ……」


「そんな……」


「それにしても君島はあまり正義など主張しないタイプだと思っていたが」


「フッ。小松くんとアトラスとの友情により正義の心に目覚めたのさ」



 もちろんウソだ。


 俺は別にキスマークを見せびらかしても構わないのだが、文川さんに首を絞められるように無理やり巻きつけられた。



「師匠~、ごめ~ん……」


 何か思い当たる節があるのかサーヤさんが文川さんに謝っているが、文川さんは真っ赤になりながら「なななんで謝るのかにゃ?」と激しく動揺するばかりだ。



「いや……でも実際そうだよね。付き合いたてのカップルなんてもう四六時中イチャイチャとイチャつきたいよね。これはウチらも付き合い方を考えた方がいいのかも……」


「イ、イチャイチャって……磯崎さ~んっ」


 アワアワしながらアワ踊りを踊り出す文川さんをスルーしつつ、サーヤさんは腕を組みながらフムムムと考える。



「小松~。今後、何日間かの予定ってどーなってんだっけ?」


「む? そうだな……。下船して今日は宿場街のモスレムで一泊する。朝になったら馬車でガーヤックに向かい……まぁ夕方にはつくだろうな。そこから文川さんは薬草の勉強を始めるそうだが僕たちの予定は未定だ」


「そかそか、さんきゅ」


 しばらく考えて、サーヤさんは発表した。



「じゃあさ、ガーヤック行きの馬車に乗るまではいったん解散にしよーよ。モスレムって街では完全に自由行動にしてさ。んでガーヤックに着いたら一緒に夕ごはん食べて、そっからはまた各自自由ってことでどーかな?」


 ……ふむ。


 このギャルJK、何を言い出すんだろうと思っていたが、聞いてみると悪くない意見だ。


 みんなといるのは楽しくなってきたけど、ずーっと一緒ってのはさすがに気疲れする。



 それにガーヤックに着いたら、俺もこの異世界で生きていくために何をすべきか一度じっくり考えて行動したいしな。


 戦いには慣れてきたけど、正直、命のやりとりをし続けたいと思わなくなってきた。


 文川さんとの安定した幸せな暮らしの基盤を築くために、もうしばらく魔物退治で金稼ぎをする必要がありそうだが、出来れば早めにそういう生活から抜け出したい。


 文川さんを絶対に独りにしないために。


 俺は死ぬワケにはいかないんだい!





 と、みんな、心の底ではどういう風に思ってるかは分からないが反対意見も出なかったのでサーヤさんの自由行動案が採用され、そして船はモスレムの船着き場に到着した。


 船着き場といっても、サンジュリアナ渓谷が星の結晶で充たされるこの時期だけしか使われないものなので小さな管理小屋がある程度だが。




 俺たちも荷物を持って船を下りる。


 さようならミルキーウェイ。


 さようなら豪華客船ラインハルト号(そんな名前だったのか)。


 街は眼と鼻の先、というかもう既にここは街の中なのかも。


 なので早速ここから自由行動しよっぜー!! という流れになった。



「っくぅー!! 師匠たちのためみたいに()ったけど、ウチも久々に一人だし開放的ッスわ!! あ~今晩なに食べよっかな~!!」


 サーヤさんが両手を天に掲げて背伸びをしながら開放感にうち震えた。



「磯崎さん、本当に大丈夫か? このモスレムは比較的、治安は良いそうだが、やはりキミ一人では不安なような」


 小松くん、異世界ではサーヤさんの保護者みたいだな。


 保護者みたい、というより保護者ヅラ……という感じかもだが。


 二人に恋愛感情とかないんですかね。


 ぼっち優等生男子とギャルJKのラブコメとか漫画で読む分には嫌いではない。



「ふふん、甘く見るなし! ウチには秘密兵器があるし!」


 そういってサーヤさんが天にかざした手に力をこめると


 シュパァァアンッ!!


 と、真っ白な光が閃き、その手には青白く光を放つ剣が握られていた。

 


「あっ……!? サーヤさん、それって……」


「ジャジャーン! 聞いて驚けっ! これぞ風間っちと同じSSR武器! ダイナマイト……!!」


「ダイナマイト?」


「……って、おねーさんが()ってた気がする……違ったかも」



 一周回ってカッコいい気もするが、この剣の持つ神々しい雰囲気にダイナマイトって名前はそぐわないような気がするんですけど。


 サーヤさんの周辺の空気がキーンっと冷えてくるのを感じる。



「水属性の氷系上級魔剣っぽいですね。アトラスの家で炎系の上級アーティファクトは見た事ありますけど、氷系は初めて見ます!」


 と、近くで観察するシュペットちゃんの息が白くなる。


 さすがSSR武器。漂ってくる魔力がハンパではない……気がする。



「ダイナマイトダイナマイト……うーん、もしかしてダイナマイトじゃなくてアロンダイト?」


「あっ、そうそう!! それだよ師匠! さっすが!」


 すげぇ、ダイナマイトでよく分かったな文川さん。俺もさすがだと思いました。


 アロンダイト。


 確かアーサー王の物語に出てくる聖騎士ランスロットが所持していたという魔剣だ。


 いや、本当にランスロットが持ってたかは定かじゃないがとにかくファンタジーものではエクスカリバーほどではないが定番となりつつある伝説の魔剣。



『おねーさんが言っていた』と呟いていたけど、そうか……。


 きっと磯崎さんも死にかけた事で初心者ミッションをクリアして、女神マリアリス様にガチャを回させてもらったんだ。


 それにしてもSSR武器とは強運だな……。


 というかかなり羨まし!



「し、しかしSSR武器って……磯崎さん、どうしてそんなものを持ってるんだ? まさか万引きしたのか?」


 事情を知らない小松くんが言葉のデッドボールをサーヤさんにぶつけた。


「ハ!? しねーし!! ってか小松、ウチのことそんな風に思ってたんだ……」


「小松くん、今のはちょっとヒドいと思う……磯崎さんが可哀想……」


「小松さんってMみたいな顔をしてるのに本性はSなんですね。怖いです」


「小松さん、謝りましょう!! ボクも一緒に謝りますから!!」


「く……す、すまなかった磯崎さん……」



 アトラスと小松くんは土下座した。


 どうやら優等生男子とギャルとのラブコメは始まりそうもない。


いつもブクマありがとーございます!

結構ブクマつけてくださる方が増えてがんばれそーです。

いつもより短めですがあまり更新頻度が遅いのもよくないので

ポチっと更新しておきます!雪かきが大変なの……

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