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32話 明太子パスタ


「いやー、ご心配かけちゃってマジさーせんっしたっ!」



 夕方になって磯崎さんが目を覚ました。


 やはり彼女の装備していた不死鳥の法衣の効果で、脇腹の致命傷は瞬時に回復されていたみたいだった。


 聞くとその法衣は彼女の装備品の中で最も高価、金貨7000枚の超上質な防具。


 まずは命を守るのが最優先だと小松くんが真っ先に彼女に買ってあげたそうだが、そのおかげで命拾いしたと言えよう。


 俗に言うグッジョブである。



「えっと、元気そうだけど……どこか痛いとか気持ち悪いとかない?」


「え、心配してくれるんだ? ミッシーやっさしー」


 サーヤさんは医務室のベッドに腰かけつつ、体を軽く動かし始める。


 どうやら問題は無さそうだが。



「そりゃ、心配するよ。いや、でも無事で良かった、本当に。サーヤさんが刺された瞬間、頭の中が真っ白になったもんなぁ。もしも、その……サーヤさんに……死なれてたら、みんなこんな風に笑っていられなかったろうね」


 ウンウンとアトラスとシュペットちゃんも賛同してくれる。



「にひひ、あんがとー! そんな風に素直に言われるとさすがに照れるし! けど、ミッシー。あんまし他のオンナのコを気にかけてたら師匠が妬いちまうぜっ。ねぇ、師匠」


「ん、師匠って……?」


 サーヤさんの視線の先には文川さんがいた。



「そそ。ウチ、フミっちの事、まじリスペクトなんで! 的確な指示出して、ごぶりんの目にピシュピシュ水を浴びせて目潰しして……。なんかプロの殺し屋みたいだったし! ウチもフミっちの弟子になってあんな風にデキる女子になりてーッス!」


 サーヤさんは身ぶり手振りを混ぜ、興奮してる様子で文川さんの活躍ぶりを振り返った。


 その表情を見るに調子のいい、テキトーな事を言ってる感じでもなく本当にフミっちのファンになったようだ。


「だ、そうですけどどうするんですかフミっち師匠」


 

 リア充とか苦手だろうし、さぞ困っているだろうと彼女の方を見ると……。



「う、うぅ……」



 文川さんは泣いてた。



「ふ、文川さん、泣くほど嫌なの!?」


「えっ!? し、師匠!?」



「ふぇええ~ん……い、磯崎さん、生きてて良かったよぉおおお、うううっ、うわぁあああん」


 後ろの方で大人しくしてて、リア充とは特に話すこともないのかなって思っていたが、泣くのをガマンしていたのだろうか。


 俺の時みたいに抱きついたりはしないで、その場で立ったままボロボロ涙をこぼした。



「ちょちょ!? 師匠、泣かないでよぉ~」


 サーヤさんはベッドからよろよろと立ち上がって、文川さんの前でオロオロしだす。


「ご、ごめん……気持ちは落ち着いてたつもりだったけど、な、なんか、ぐすっ……磯崎さんの元気な姿を見てたら、な、なんか……ううっ」


「や、やめてよ、ウチまで泣けてくるし……へへ、でもありがとね」


 と、サーヤさんも嗚咽はしないまでも目から涙が流れてくる。



 うんうん、仲良きことは素晴らしきことかな。



「ふふ、ナギちゃんって涙もろいんですねっ!」


「あっ、そういえば船の前でウソのお別れした時も……あの時はウソをついて大変、申し訳なく……」


 確かにアトラスたちとお別れするって時も大泣きしてたっけ。



「というか、うやむやになってたけどウソのお別れって事は、アトラスたちはまた俺たちとしばらく一緒に旅してくれるって事か?」


「ええ、あの、怒ってなければですけど……」


「怒ってないよぉ……また一緒に旅をしようよお! してくださいぃ!」



 サーヤさんと泣きあってた文川さんが今度はアトラスたちに向かって深々と頭を下げる。



「いやいや! そんな! 頭を下げなきゃいけないのはボクたちの方ですよ! 驚かせようとしてつまんないウソついちゃって!」


「そ、そうだよね……ナギちゃん、ソラさん、本当にごめんなさいっ!」


 とアトラスとシュペットちゃんが土下座した。



 このコたち、前も土下座してなかった? デジャブかな。



 ふーむ、しかし、こうしてアトラスたちと旅をするって言ってるのに小松くんたちとは旅をしないよ~ん、というとまるで意地悪をしてるようだな。


 金を出してもらうとかそういう話は置いといて、彼らと行動を共にするっていう選択肢も考えてみるべきか、人として。






 さて、サーヤさんが「肉体的にはもうノープロブレム」という船医さんのお墨付きをもらったので、展望レストランで開宴されているゴブリン討伐打ち上げパーティ晩餐会に彼女も含めた6人みんな揃って参加した。



 展望レストランは本来A棟の乗客専用食事フロアだが、今は特別にゴブリン討伐に参加した冒険者たち全員に開放されているので、B棟チケットのアトラスたちも一緒だ。



 俺たちは乾杯して、飲んで喰って大いに騒いだ。


 踊り子に倣って簡単なダンスに付き合ったり、船乗りの間で有名な歌をみんなで合唱したりドンチャン騒ぎの乱痴気(らんちき)騒ぎ。


 ホントはこういう騒がしいのは苦手なハズなんだけどな。



 ゴブリン討伐という大仕事を終えてタガが外れたのか、俺も珍しく調子に乗ってハシャギまわってしまった。


 同じくこういう雰囲気が本来、苦手と思われる文川さんもかなりハメをはずしていたご様子。


 すっかり磯崎さんと打ち解けたみたいで、時おり冗談を言っては爆笑しあったりもしてた。



 陰キャぼっちである事に誇りさえ持ってた俺だが、たまにはこんな騒がしい食事も悪くないと思える。


 というか、気の合わない連中と無理につるむくらいなら一人の方がマシなだけで、一人ぼっち最高!! ってワケじゃないのかもな、俺の深層心理は。



 食べるだけ食べて騒ぐだけ騒いだけれど、宴はまだまだ続く様子。


 レストラン内には酔っ払いが多くなってきた。



 俺たちもテンションアゲアゲなつもりだったが、狂った酒飲みのボルテージにはさすがについていけないと軍師フミカワが判断し、トロピカルジュースの入ったボトルをもらって、部屋に撤退する事にした。




「はわぁ~……たらふく食べたねぇ~……」


 文川さんが柔らかいベッドに座って、気持ち良さそうにそのまま横になった。


 「とおぅっ!」とかいってサーヤさんも文川さんに抱きつくようにベッドに倒れこみ、「失礼します!」とシュペットちゃんもそこに混ざってキャイキャイはしゃいでる。


 女子が揉みくちゃになって戯れる姿を至近距離で無料で眺めてていいとか、ここは天国かよ。



 そんな感じでいったん、俺と文川さんの船室に集まった一同は部屋の中でそれぞれくつろぎ始めた。



 いや、小松くんは相変わらず全身鎧を着ているので、椅子に座ってはみたものの、とてもくつろいでいるようには見えないけど。


 というか、ゴブリンの顔面を餅つきみたいにペッタンペッタンとクチャクチャにしてから彼の表情はずっと薄暗い。



「小松くん、とりあえず今日のところはその鎧、脱いじゃってもいいんじゃないか? それじゃゆっくり休めないのでは」


「え、あ、いや……しかし、僕は鎧を着てないと落ち着かないんだ……」



 うーむ、まぁ今この瞬間にまた何者かが襲撃してこない保証は無いしなぁ。


 特に小松くんはさっきの戦闘にて鎧のおかげで何度も命拾いしているのを俺も目撃している。


 すがりたくなる気持ちは分かるが……。

 

  

「あの、でも小松くん……。休む時は思いっきり休まないと、疲れがたまってそのうち限界が来ちゃうと思うよ?」


 文川さんが小松くんを心配して……? というより、たぶん俺の提案を支持してくれる感じで諭してくれる。


「いや、しかしやはり……」


 小松くんは籠手をガチャリと握って、自分を包む鎧をじっと見つめる。



「シカシヤハリじゃないってーの! 師匠が休めって言ってんだから鎧脱いで休みなよ! ってか、もし野原で小松が限界来たとしらウチに街まで連れてけってーの!?」


 と、今度はサーヤさんがお師匠を支援した。



「い、いや、その時は磯崎さんに迷惑はかけない。這ってでも自力で街に行くさ」


「へー。じゃ小松が這ってカタツムリみたいなスピードで進んでる間、ウチは何してればいいワケ? まさか危険な道を一人で先に行けって?」


「それは……一緒に移動して……魔物が出たら僕が戦う」


「それって這いつくばる小松くんを眺めながら隣でサーヤさんはゆっくりお散歩してるのか。すごい絵空だな」


「なんだか女王様とペットみたい」


「うわっ、小松、ひくわぁ~」


「ペッ……!?」


 俺と文川さんとサーヤさんの波状攻撃で彼はタジタジになった。



「ってか小松。正直、近づくと汗臭いんですケド。バトルで汗だくになってんのに鎧着たまま体も拭いてないんでしょ。誰にも迷惑かけてないって顔してるけど、こういう部屋にいるとニオイがこもってくるからスメルハラスメント的な? ね、ミッシー?」



 え? 正直、隣にいてもニオイとかは全然……と思っているとサーヤさんがパチパチと素早く俺にウィンクしてくる。



 話を合わせろって事か。



 不覚にもウィンクされて一瞬、興奮したことは文川さんには永久に秘密にしておこうっと。




「そうだな、小松くん。俺は男だし、そこまで気にしないがキミの体臭がここにいる女子たちの鼻や口から体内に侵入し、彼女たちの肺を小松くんの汗のニオイで充たすというのはさぞ心地よいと思うがそんなのはもはやモンスターの所業と言えよう」


「なっ!? バカな!? 僕はそんなつもりは……!? というかモンスターなのはそんな発想にいたれる君島の方だろ!?」



「だね、ミッシー。ぶっちゃけキモいわ」


「わ、私も今のはさすがにフォローできないよ君島くん」


「ソラさんって時々、越えちゃいけないラインを平気で踏み抜きますよね。すごく怖いです」


「ボ、ボクはソラさんが汗のニオイで肺を充たせというなら受け入れますよ」


「だめよ! アトラス、逃げて!」



 女子たち&アトラスが俺と小松くんから離れていった。



「どーすんの!? どーすんだよ!? 小松くんの性癖のせいでご覧の有り様だよ!?」


「ぼ、僕のせいじゃないだろ!?」


「うぅ、せっかく修学旅行で女子たちの部屋に侵入するリア充みたいになれたと思ったのに……く……小松くんが鎧を脱がないせいで……うう、うおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


「わ、分かったよ、脱げばいいんだろ!! ハァ……僕の部屋で脱いでくるから、ちょっと手を貸してくれ。自力で着脱するのは大変なんだ」


「お、全身鎧ってやっぱそーいうもんなんだ。面白そうだな」



 ようやく小松くんがその気になったので、俺の興味は鎧の方に目移りした。


 着ぐるみなら後ろにデカいファスナーがついているんだろうけど、こんなゴチャゴチャした鎧、どうやって着たり脱いだりするのか少し見ただけじゃよく分かんないし、気にはなっていた。



「あ、ではボクも手伝いますよ。兄様たちの鎧の着脱を手伝った事ありますから」


「そっか、助かるよ」


「ア、アトラスさんも手伝ってくれるのか……? 申し訳ないな……」


「いえ、全然気にしないでください小松さん!」



 

 こうして俺と小松くんとアトラスの3人はいったん部屋を出た。



「そういえば小松くん、昨日までS棟にいたんだよな。S棟の部屋ってどんなのだった? やっぱA棟とは違うもの?」


「ああ……部屋の広さは倍くらいあって、しかも2階にも部屋がある造りだ」


「2階!? 船の個室なのに2階!?」


 スイートルームとかペントハウスとか、そんな感じだろうか。


 ちょっと見てみたかったな。



「わー、すごそうですね……。B棟の部屋は本当に寝るだけの部屋って感じですから、想像つかないです!」


「そうか……。じゃあ良かったら今からS棟の部屋に行こうか? 空いてるA棟の部屋のチケットを買っただけでS棟の部屋の権利は僕が持ったままだからな」


「マジッスか小松くん! そりゃ行ってみたいな、な? アトラス」


「はい! 行ってみたいです!」


「分かった、ただ静かにな。あそこはなんというか……住む世界が違う」




 小松くんに案内されてS棟に行くと、……確かに別次元の階層だった。


 船の中だってのに廊下は広いし、天井も見上げるほどに高い。


 A棟のカーペットや装飾品を見て、豪華絢爛! とか感動してたがS棟の洗練された内装、装飾品の配色、組合せ、質感、レイアウト、照明の当たり具合、光と影のコントラストなどを見ていると「極めるとはこういう事だ」という、とある破戒僧の言葉を彷彿とさせられた。



「すっげー……」


 俺が口を半開きでアホ面ひっさげて、あちこち見回していると正面か

ら、もう全身から貴族ザマスって雰囲気を漂わせた方々が歩いてこられた。


 小松くんとアトラスがささっと廊下の隅に寄るので、俺も慌ててそれに倣う。


 すれ違い様にその貴族たちの護衛と思われる、恰幅のいい男たちがこちらを警戒するようにジロリと一瞥した。


 

 目付きがやばい。



 まるで猛禽類のように鋭く、殺気を纏った眼。




 ここで俺がふざけて「ハンバァアアーーグッ!!」とかいきなり絶叫したら腰に下げてる剣で瞬時に斬殺される自信がある。



 結局、何事もなく貴族たちは通りすぎていったが俺はなんだかドッと疲れちゃったよ。



「ふぅ~、なんだありゃ。緊張感パネェわ……」


「僕らがたった一晩でA棟に移った気持ちが分かるだろ?」


「納得した。正直、もったいないなぁって思ってたけど、確かにここは俺達みたいなしがない高校生がお泊まりする世界じゃないな」



 と思ったものの、せっかくここまで来たんだからと頑張って進み続けてS棟の小松くん部屋に到着した。



「うわぁ~!! キレイですね~!!」


 部屋に入るなり、キラキラ輝く黒塗りの内装とガラス張りの壁から見えるミルキーウェイの輝く夜景を見てアトラスが子供みたいにはしゃぎだした。


 まぁ実際、子供か。



「あっ、すいません……大声出しちゃ怒られますかね……」


「いや、大丈夫だよアトラスさん。他の部屋の客たちもかなりバカ騒ぎしてるのを見かけたが、防音はシッカリしてて扉を閉めてしまえば音は遮断されるようだ」


「あぁ、よかったです……」



「じゃあ小松くん、チンコとか叫んでも大丈夫なんだな?」


「ああ、大丈夫だ。いや、待て。君島の頭が大丈夫か? 何故そんな事を叫ぶ必要がある」


「おっと、わるい。なんか女子がいなくなって男同士になった瞬間、テンション上がっちゃう事ってあるだろ?」


「キミはテンションが上がると男性器への想いが溢れでるというのか。難儀なヤツだな……」


「そ、そんな真面目に返されるとすごく恥ずかしいんだが……」


「ふむ、どうやら手遅れではないらしい。というより君島、男同士って……アトラスさんがここにいるのを忘れてないか?」


「ボク、男ですよ」





「ハァッ、ハァッ……」


 小松くんは突然、胸を押さえてうずくまった。



「ど、どうした小松くん」


「き、君島……。今の、冗談だよな?」


「残念ながら……」


 俺は首を横に振った。


 ついにこの時が来てしまったか。



「ハァッ、ハァッ……ハハハァッ!!」


「だ、大丈夫ですか、小松さん!」



「ああ、大丈夫だ。いや、待て。僕の頭が大丈夫か? 何故こんな可憐なアトラスさんが男である必要がある。必要ガアル。必要ガール!! 必要ガール!! アトラスさんはガール!!」



「小松くんっ……!! すまんっ……!! どのタイミングで伝えるべきか悩んでたが、もっと早く伝えるべきだったっ……!! アトラスはガールじゃないっ……!! ボーイなんだっ……!!」



「うぉおおおおおおおおおチンコォオオオオオオオオオオォォッ!!」



 

 その夜、人の精神が崩壊する瞬間を俺は初めて目撃してしまった。





「あ、あの……もしかしてボク、何かご迷惑を……?」


「いや、アトラスも小松くんも誰も悪くない。ただ、この世界はとても残酷なだけで」


「く、クックックッ……キキッ……」



 小松くんはもうどこも見ていなかった。



「ま、まぁ小松くん、とりあえず鎧脱いで服も脱いで風呂でも入ってサッパリしちまえよ。あそこに見えるでっけぇのって風呂だろ? いやー、さすがS棟船室は風呂も立派だなぁ」


「うけけっ……」



 俺とアトラスは風呂に湯を貯めつつ、虚空を見つめてゆらゆらと揺れる小松くんを脱がせて湯船に浸からせた。


 そして、そのままお湯の底へとゴボゴボと沈んで溺れゆく小松くん。



「ブハッ!? 僕は一体、何を!?」


「小松くん、あなた疲れているのよ」



 今日一日で磯崎さんが死にかけ、ゴブリンを惨殺し、好きになっちゃった彼女が彼で、小松くんの脳の許容量は超常現象を体験したFBI捜査官のように限界を越えたのだろう。



「ハァッ、ハァッ……そうか。風呂に入ったまま寝てしまったのか。いや、僕とした事がアトラスさんが実は男だなどと愚かしい夢を……ははははっ」


 壊れた表情で笑う小松くんを悲しそうな顔で見るアトラス。


 アトラスもなんか可哀想だな。



 うーむ、これで漫画やラノベの主人公なら上手いことを言ってまとめられるのかも知れんが俺はせいぜいモブキャラ枠。


 どうすることも出来ん。許せ二人とも。



「ま、上がりなよ小松くん。せめて俺が背中を流してやろう。洗い残しがあってまた磯崎さんに汗臭いとか言われたかないだろ?」


「はは……ああ。好きにしてくれ」



 小松くんはザパッと湯船から上がって、たしんっと椅子に座った。


 すまんな、俺には小松くんの心は救えないがせめて背中をピカピカに磨いてやろう。


 背中は男の顔って言うしな。磨いて磨いて立派な男になってくれ。


 

「あの、ボクに洗わせてくださいっ」


 俺が上半身の服を脱ぎかけると既に全裸になったアトラスがタオルをシャカシャカと泡立てていた。



「アッー! アトラスさ……きゅん!?」



 小松くんの顔に精気が戻った。


 なんかもうどうにでもなーれって表情だったのに裸のアトラスを見てガチガチになっている。


 アトラス……。適度に身体の肉は引き締まって、かつ適度に幼く柔らかさがあり、髪は長いし本当にやべぇな……。



「あの……なんだかごめんなさい。ボク、ハンパ者で……みなさんに迷惑ばかりかけて……」


 

 アレさえついてなければただの美少女なアトラスがモジモジと長いまつ毛を潤ませてうつむく。


 小松くんのゴクリ、と喉を鳴らす音が聞こえた。


 ちなみに俺もゴクリ、と喉を鳴らした。



「い、いや、キミは悪くない。悪いのは僕だ。思えば先程から失礼な態度ばかりとってしまって……申し訳なかった」


 小松くんは謝罪した。


 謝罪したものの続く言葉が見つからないのか、シャカシャカシャカシャカと背中を洗われる音だけが浴場に響く。



「アトラス……くん。僕にもキミの背中を洗わせてくれないか?」


「あ、ハイ!」


 今度はアトラスの綺麗な背中を小松くんがシャカシャカと磨く。



「すまん、言い出しておいてなんだがこういうことは慣れなくて……痛くないか?」


「いえ、スゴく気持ちいいです……」



 シャカシャカシャカシャカ……。



「よし、これでおあいこだな。これで僕たちは対等だ」


「小松さん……?」


「対等になったところでアトラスくん。良かったら僕と……友だちになってくれないか?」


「え、友だち……」



「僕は確かにキミを女の子だと思った。だが、女じゃなければキミに価値が見出だせないというワケじゃない。僕はキミの明け透けな笑顔に惹かれた。素直さに、純粋さに惹かれた。他人の悪意を疑ってばかりの僕でも、こんな美しい笑顔で笑うコなら信頼できると思ったんだ。そこには性別なんて関係ない。だから……」


 小松くんはアトラスと裸で向き合った。



「僕と友だちになってほしい。キミのことが、人として好きだから……」



 あの眼差しには小松くんの裸の……偽らざる気持ちが宿っているように思える。



「はいっ! ボクも小松さんと友だちになりたいですっ!」


 アトラスも真っ直ぐな眼差しで小松くんを見つめ返す。



「ありがとう、アトラスくん!」


「小松さん!」


 二人は泡だらけで抱き合った。



「どうか、俺も仲間に入れてくれまいか。俺もお前たちの仲間の一人にしてほしい」


「君島……!!」


「ソラさん!」



 裸になった俺は真の友情を目の当たりにして改心した悪しき王のようにその泡の輪に加わった。



 思えば小松くんとは食事当番をしていた時から知り合い以上、友だち未満という微妙な距離感だったが、ドサクサに紛れてようやく友人と言える関係になれた気がする。


 クラスで初の男友達か……。


 なんて、今までと特に何も変わらない気もするけど。



 友だちってなんなんだろうな。




 その夜は結局、女子たちの待つ部屋には戻らず男同士で語り合った。


 話した内容は好きな食べ物は何かとか、子供の頃にやらかした失敗談とかそんな他愛のない事ばかり。


 文川さんと二人でイチャイチャしてる方がはるかに有意義な時間だ。



 だけど、たまにはこんな夜もあっていいかと心から思える夜であったとさ。

いつもブクマや評価ありがとうございます!

おかげさまで200pt達成です!

次回ミルキーウェイツアーも終わり、いよいよ新天地へ!

の予定です。。。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 凄く面白い [一言] メロスぅぅぅぅ!?!?
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