30話 乱戦! ゴブリン大討伐戦!
前話29話の後半を大幅修正しました。
基本的な流れは変わりませんが人間模様が多少変わったので
2018年1月8日以前に29話を読まれた方はお手数ですが
29話後半を読み直していただけると幸いです。
面倒かけて申し訳ないです……!
「ゴブリン盗賊団、だって……?」
一体、この船で何が起きているんだ!?
……いや、たぶんなんかそういう連中が襲ってきたんだろうな。
今そういうアナウンス流れてたし。
俺は自問自答する事で状況をゴックンと飲み込んだ。
「さて、どうしようか?」
いくつか選択肢は思い浮かぶが、とりあえずみんなに意見を求めてみよう。
俺が勝手に決めて責任をとりたくないからね!
「ゴブリンは……甲板に乗り込んできたっぽいですね。上から物音が聞こえてきますし」
アトラスが天井を見上げながら拳を握る。
確かにドドンッ……ゴンッ……と足音や何かがぶつかる音が甲板の方から鈍く大きく響いてくる。
「だったらウチらも早く甲板に行こうよ! 早く早くっ!」
「えっ、サーヤさん?」
意外にも磯崎サーヤさんがノリ気だぞ。
ここにいる6人の中じゃ最も戦闘とは縁遠そうなキャラだと思ったが。
クラス全員でスライムと戦ってる時も離れた場所でキャイキャイ騒いでただけだったのに、金貨8000枚装備で自信がついたんだろうか。
「じゃあ確認するけど、シェルタールームってトコには行かないでOK? 正直、行きたい人がいるなら挙手で」
「私は大丈夫です!」
「うん、おk」
シュペットちゃんと文川さんがコクリとうなづく。
「よし、行こう君島! 僕たちはただの客ではなく『勇者』なのだから!」
小松くんがカッコよさそうな事を言って甲板の方へ走り出す。
そっかー、そういや俺、一応は勇者として呼び出されたんだよなー。
もうすっかり自覚ナッシングだぜ。
それにひきかえ、彼の異世界生活に対する姿勢はよく知らないが、勇者志望キャラなんだろうか。
俺は文川さんと異世界でまったり生活できればいいや~って思ってるけど小松くんは魔王討伐とか考えてるのかな。
仲間になる、ならないの話が中途ハンパなトコで中断されてしまったが、一段落ついたらその辺のことも聞いてみよう。
俺たちは勇者コマツのあとを追って駆け出した。
途中、血相変えて走ってくる乗客たちとスレ違う。
みんな身なりのいい金持ちっぽい人ばかりだ。
そういえば、この船に冒険者……というかゴブリンと戦える人たちはどれくらいいるんだろう。
俺たち以外にもそういう格好の人たちは何組か見た記憶はあるが、基本的には品のいい高貴な客が多いように思える。
ゴブリンってどれくらい強いのか。
そしてゴブリンはどれくらいの数がいるのか。
武器を持った邪悪な小鬼。
それがRPGにおけるゴブリンのイメージだが。
ゲームじゃスライム、スケルトン同様の雑魚モンスターって扱いだけど、状況次第じゃこの船はゴブリンたちに占拠されて俺たちは全員惨殺されて……いや、女のコたちは陵辱されて奴隷にされるかも知れない。
文川さんがバケモノに犯されて奴隷にされる……?
すぐ後ろを走る彼女の顔と身体を思わず見る。
させてたまるかよクソが!
甲板へと続く階段を駆け登りながら、俺はまだ見ぬ敵に恐怖と怒りを抱いて自らを鼓舞した。
「あっ、冒険者の方ですか!?」
「っ!!」
甲板まであと少しというところで、船の乗務員に出くわして呼び止められる。
サーベルで武装しているところを見ると、この人も戦うのだろうか。
「はい! ゴブリンが出たって聞いて、ボクたちもお手伝いできないかと甲板へ向かうところです!」
身軽ゆえに小松くんを追い抜いて、先頭を走っていたアトラスがいち早く答えてくれる。
「それはありがたい! でしたら申し訳ありませんが3階後方デッキ通用口に向かってもらえますか? この船には侵入路がいくつかあるのですが全てを防衛しようとすると人手が足りなくて……」
「了解です。あの、ゴブリン盗賊団って……」
ヤバい相手ですか? 的な事を確認しようと思ったけど
「ありがとうございます! お願いします!」
と忙しそうに乗務員は駆け抜けていった。
3階後方デッキと言えば、俺たちの客室があるA棟の近くなのですぐに場所は分かった。
まもなくしてたどり着いたが、まだゴブリンたちは来てないご様子。
とりあえず安心したが、出入り口から甲板での戦闘音がダイレクトに聞こえてきて緊張感ハンパないぜ。
「ふぅ……ついにゴブリン戦かぁ。なぁ、アトラスはゴブリンと戦った経験あるのかい?」
サーヤさんが魔物と戦った事ないとか言ってたんだから一緒にいる小松くんも未経験だろう。
というワケで一番経験ありそうな炎の勇者見習いのアトラスに尋ねてみた。
「いえ。街から街へ移動する時に馬車を襲ってきたのを見た事ある程度ですね。護衛の人たちだけで軽く追い払っちゃうのでボクの出番は無いです。こんな事なら戦っておけば良かったかも……」
「そうか……俺たちでも軽く追い払えそうかな? 俺、ゴブリンって実際に見た事ないからあんまりイメージできなくってさ」
ゴブリンの魔物強さランクは☆1つ。
スライムと同等にして、☆2つのスケルトンよりは弱いって評価にはなっている。
ただそれはあくまで単体で戦ったら……という評価であり、ゴブリンは徒党を組んで襲ってくるから状況によってはスケルトンより厄介、と冒険者ギルドで聞いた覚えがある。
「護衛の人たちは余裕で撃退してましたけど、かなりのベテランさんでしたからね。ボクたちみたいな駆け出しは油断禁物かと」
「ゴブリンは5歳くらいの男の子が刃物を持って襲ってくる、とイメージしておくといいみたいですよ。力は弱いし足は遅い。でも身体は小さく小回りが利く」
シュペットちゃんがアトラスの補足をする。
そうか……刃物を持った5歳児と殺しあいを……。
なんかホラー映画みたいだな。
「文川さん、攻略法は思い付きそう?」
さっきから考え事をしてる様子で口数の少ない文川さんに尋ねてみる。
「うーん、やっぱり見た事ない相手はよく分からんとです」
「ですよね」
「でも嫌がらせくらいはしとこうか」
文川さんの指示で通路の脇に置いてあるベンチで通用口の下を塞いだ。
なるほど。ここから入ってこようとしたら、ベンチを乗り越えなきゃいけないのでゴブリンたちの行動が一手遅れるってワケか。
攻略法ってほどではないが地味な嫌がらせにはなる。
「いっそ大きな家具を運んできて通用口を完全に塞ぐのはダメでしょうか?」
「と言われても……ベッドとか?」
シュペットちゃんと話し合ってるとサーヤさんが納得いかない顔をしているのに気付く。
「サーヤさん、どうかした?」
「あのさ、ミッシー。さっきから妙な感じがしてんだけど『ごぶりん』ってなんなの?」
「あぇ?」
ミッシー?
ミッシー……。
はっ!?
キミシマの『ミシ』をあだ名に!?
「シュペットさんが言ってたじゃないか。刃物を持った子供くらいの魔物だと」
生まれて初めてギャルにニックネームをつけてもらえて興奮している俺に代わって、自身のガチャR武器である片手斧を軽く動かしながら小松くんが答える。
「え、え。ちょっと待って? 『ごぶりん』ってもしかして『ティコりん』とか『ケロりん』みたいな可愛い系の響きとはあまり関係無い系?」
この人、それでちょっとノリ気だったのかよ!?
ってか、リア充ってゴブリン知らないんだな。
ゲーマーにとってはアメリカ大統領より有名なモンスターなんだが。
「磯崎さん。今から来るのは殺人鬼だ」
「さつっ……!? 嫌アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
小松くん、もうちょっと言い方が……いや、でも彼女にはこれくらいハッキリ言わないと伝わらないかもな。
シタッ。
シタシタシタッ……!!
その時、靴で甲板を蹴る足音が急に近付いてくる!!
「「ギ ギ ギ ギ ギ ギ ギ ギ ギッッ!!」」
来たっ!!
全身、カビのような濁った緑色の肌に大きな耳、尖った鼻に邪悪な眼光、小柄な身体にボロ切れと獣の牙で作った装飾品を身に纏った邪悪な小鬼ゴブリンが甲板に現れ、コチラに走ってきた。
最初の一体が視界に入ったかと思えば、二体、三体、五体、十体とゴキブリのように湧き出してくる。
そういえばここは星屑の河の上なのに、コイツらどうやって船に乗り込んできたんだろう。
そして俺たちはどれだけの数を相手にすればいいんだろう。
知りたいことは色々あるが、とにかく今は戦うしかないか!
薄汚れた小振りの剣を振り上げ、通用口に突っ込んでくる最初のゴブリン。
文川さんの仕掛けたベンチを乗り越えたところをアトラスが文字通り燃える拳で顔面を殴り付ける。
「ピギュッ!?」
とかいってゴブリンはカウンター気味に吹っ飛んでいった。
アトラスの拳の炎は小鬼の赤茶色の髪に燃え移り、頭を抑えて甲板を転がっている。
「よーし! ナイス、アトラス!」
「えへへ……それほどでも……」
俺が褒めるとアトラスの凛々しい顔が身体をなでられてるネコみたいにふにゃふにゃになった。
こう素直に嬉しい顔をされると一日中ホメ続けて反応を楽しみたいところだな。
「あ、待って……。この船、木製の部分が多いから火属性攻撃は控えた方がいいかも……」
文川さんに指摘されて見ると、殴られたゴブリンは髪が燃えたまま木の板で張り出された甲板をゴロゴロ転がり続けている。
「わぁっ! ど、どうしましょー!?」
「大丈夫、よいしょっと!」
慌てるアトラスを尻目に、文川さんが湧水の杖を遠方でローリングするゴブリンに向けてかざすと蛇口を最大にひねったホースから噴き出すように水が大量にぶっぱなされた。
燃えるゴブリンに水がバチャバチャかかり、すぐに鎮火する。
「すごいな……。文川さんのガチャ武器、水の出力が強くないか?」
チョロチョロと樽に水を注いでた時代の文川さんしか知らない小松くんが兜の奥からくぐもった声を上げる。
文川さんの湧水の杖、レベル20まで上げたらかなりの水量になったからな。
そしてレベル40まで強化した俺のファイアバゼラードも凶悪な火力に……!! って、火属性は使うなって言われたばかりだったな。
俺は具現化しているメインウェポンをファイアバゼラードから紫電の槍にセットし直した。
するとファイアバゼラードがスッと消えて、代わりに俺の右手にはピリピリと静電気が放電されている槍が出現した。
「え、君島……? キミはガチャ武器を複数持っているのか?」
「ああ、まぁ色々あって……って、第二陣が来るぞ!」
今度は三体同時、横一列に猛ダッシュで突撃してくる。
一体ずつ闇雲に飛び込んでも防衛ラインを抜けないと悟ったんだろうか。
ギギギッ! とか知性を感じない雄叫びをあげやがってと思っていたがスライムやスケルトンのような無知能生物と違って、ちゃんと戦略を上方修正する知能はあるのかも知れない。
ベンチを乗り越え、通用口に飛び込んできた三体のうち、右ゴブリンはアトラスが蹴り飛ばし、左は紫電の槍で串刺しに……ってなんか殺すの怖いな!
空中に飛び上がったゴブリンの胸を突き刺そうとしたが、知能を感じさせる生き物の命を奪うことへの罪悪感が頭をよぎってしまった甘ちゃんな俺は、急遽ソイツの肩を刺した。
ぐちゅりっ。
「ギアアアアアッ!?」
肉に刃を突き立てるおぞましい感触が槍の柄を通して、俺の両手に襲いかかる。
「うおぉおっ!!」
ただ、怖いよー気持ち悪いよーと泣き言を吐いてる場合じゃないって事くらいは分かってるので気迫の声を上げて、突いた勢いでゴブリンを防衛ラインより数メートル向こうに突き放し返した。
あとは残る真ん中の一体!
正面に迎え撃つのは全身鎧、フルメタルアーマーの小松くん!
しかし、向かってくるゴブリンの敏捷度に対して小松くんの動きはあまりに遅すぎた。
斧を振り回すが、頭を屈めて避けるゴブリンが小松くんの懐に飛び込んで身体に小刀を突き立てる!
「小松っ!?」
磯崎さんが悲鳴をあげる。
ブシュッ!!
「ギャッ!?」
ゴブリンの眼球に激しい水流が直撃する。
文川さんが湧水の杖をホースのジェット噴射モードみたいに、細く強く撃ち放ったみたいだ。
痛そうに眼を押さえるゴブリンにトトトッと風のようにシュペットちゃんが近付き、レイピアで刺す! ……がギリギリ身体をひねって致命傷を避けるゴブリン。
「くっ!?」
と、焦るシュペットちゃんだが充分に体勢を整えた俺とアトラスの同時攻撃を喰らって顔を殴られ、足を刺されてゴブリンが口から泡を吹き出してビクビク痙攣しながら横たわる。
「すいません、助かりました!」
シュペットちゃんが頭を下げる。
「ドンマイ気にしないで! シュペットちゃんの美脚は俺が守る!」
「えっ!? な、なに言ってるんですかソラさんっ!?」
「ソラさん、その発言はボクもいかがなものかと思いますよ?」
「……君島くん、あとで大事な話があるからね?」
「誰か文川さんから俺を守って!」
などとあえて軽口を叩きつつ、ちょっと棒立ちになってる小松くんの様子を気にかける。
「小松くん、平気?」
「ハァハァ……だ、大丈夫だ。すまない、ミスってしまって……」
「小松くんも気にしないで。さ、次が来るぞ!」
今度は3体のあとに3体が続き、そのさらにあとに3体が後を追って突っ込んでくる合計9体連続特攻だ。
しかもその後ろにはまだウジャウジャとゴブリンの群れが見える。
これ、結構ヤバくないか?
いや、でも基本的には俺とアトラスは一撃で倒してるし、仮に100体いても50回ずつ攻撃すれば勝てるんだよな。
うーむ……。
簡単に言うが50回もノーダメで攻撃し続けられるんだろうか。
よく見れば動きは単調、リーチも短いから攻撃を喰らう前に倒すのは難しい作業じゃないんだが。
くそっ、経験不足で正確な判断ができないぜ。
ゲームなら体力もダメージも数値化されるから、勝てそうかどうか大体の計算ができるのにな!
などと考えながら、次から次へと船内に侵入しようとするゴブリンを槍で突いて斬って、時には接近戦で蹴っ飛ばす。
スケルトン退治とアトラスとの模擬戦闘を積み重ねたおかげで、刃物を持った5歳児たちをあしらうくらいの力は身に付いたようだ。
ミスリル製のアンダーも着込んでいるので、たまに斬られたり刺されたりしても
「痛ぁっ!?」
と声が出ちゃう程度で出血には至らないのも結構ありがたい。
「ハァハァ……」
っと、小松くん、かなり息が上がってるな。
動きまわって疲れたというより、彼の場合ほとんど動けてないので、この命がけの乱戦に居合わせただけで精神が疲弊してしまったってところか。
サーヤさんに関しては隅っこでうずくまってるだけだから、一応戦おうとしてるだけ小松くんは頑張ってると言えよう。
って偉そうだぞ俺。
「ギィヤアアアアアッ」
倒しても倒してもキリが無いと思われたゴブリンの群れも大体70体くらい討伐数を越えたあたりから数が目に見えて減ってきた。
残るは5体。
ドカッ!
4体。
ザシュッ! ドシュッ! パキャァンッ!
3、2、1体。
バキィッ!
アトラス渾身の廻し蹴りで動きまわってる最後の1体も活動を停止した。
「はぁっ、はぁっ……」
さすがに汗びっしょりになったアトラスが膝に手をついて呼吸を整える。
俺も「ぷはぁっ」と深呼吸して辺りを見回す。
文川さん、シュペットちゃん、アトラス、小松くん、サーヤさん全員無事。
そして、ピクピクとわずかに動いてはいるものの立ち上がれる力を残したゴブリンはもういないようだ。
「はぁああああっ、疲れたっ! でも勝ったぞぉおおっ!!」
と、思わず叫んだ直後に、そういや他の場所のゴブリンはどうなってんだっけと思い出した。
「戦闘音……聞こえなくなりましたね……」
無数のゴブリンが横わたる甲板に出て、アトラスが聞き耳を立てる。
「他のトコも勝ったのか……まさか俺たち以外、生き残っていないとかやめてくれよ……」
「き、君島くん怖いこと言わないでよ……」
文川さんが俺の側に寄り添ってくる。
命を懸けた戦闘、生存本能、子孫繁栄。
文川さんの女の身体の熱を間近で感じて、そういうアレが一気に押し寄せてなんかいきなりムラムラしてきました。
はぁあああああああんっ。
といって、人前で抱き締めたりキスするのはさすがに恥ずかしいくらいには理性が残っているので、せめて文川さんの手を軽く握ってみる。
文川さんはちょっとビックリした顔をしたけど、なんとなく俺の気持ちを察してくれたかは分からないが、穏やかな笑みを浮かべて優しく手を握り返してきた。
俺も嬉しくなって、少し力を込めてギュッと握る。
すると文川さんは「負けるか~!」という感じでギュ~ッと握り締めてきた。
しょせん女子の力なので痛くはないけど、俺も対抗して痛くない程度にギュ~ッと握り締めるというイチャイチャの構えをとった。
なんとなく二人でおかしくなって笑いあう。
「……いいなぁ」
アトラスがコッチを見て、そんな事をつぶやいた。
と、そんな時だった。
ガバッ。
「へ?」
倒れていたゴブリンの1体が音も無く立ち上がり、通路の隅でうずくまっていた磯崎さんに向かって全力で突っ込んでいった。
「磯崎さん!? 逃げてーっ!」
文川さんがギョッとして叫ぶ。
「ひっ……」
磯崎さんは小さく声を漏らし、鎧で覆われていない脇腹に
ナイフを根元まで突き刺された。
いつもブクマありがとうございます!
大幅修正すると読者さんが混乱しちゃうので気を付けなきゃいけないですね。
反省反省。




