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29話 交差点


 朝っぱらからキスしまくったアツアツな俺と文川さんはアツアツの朝食を食べるためにレストランへと移動した。


 昨夜同様、自由に料理をとるビュッフェスタイルのようだが今日は椅子とテーブルがホールにずらりと並んでいる。



「あ、よかった。今朝は座ってゆっくり食べられるみたい」


「昨日の夕飯うまかったけど、立ったまま食べるシステムって落ち着かなかったもんなぁ」



 せっかくご馳走ばかりなのに……と思ったけど、ここの客は金持ちそうなので、食べ放題だからってガッつく必要は無いらしい。


 みんな、どっちかというと昨夜は食事よりも踊りと音楽、あとお酒とトークを楽しんでいたように見えた。


 余裕があって羨ましいことですわ。



 と、羨ましいといえば宝くじを当てたラッキーボーイ小松くんはもう来ているんだろうか。



 コッチ的にはもう用は無いけど一応合流するか……とレストラン内を見回すと……。




「あーいたいた! ホントに君島いた! 超おひさー」


「むぇ!?」



 レストランに不釣り合いな甲冑を来た小松くん……はすぐに見つかったし、それはいい。



 驚いたのは彼の隣に何故かクラスのギャル系女子高生、磯崎さんがいた事だった。



 磯崎さん。



 風間くんと仲良くしていた要領のいい女子で、最低レアリティのR武器所持者なのにクラスの幹部ポジションにいたコだ。


 制服ではなく、冒険者風の上質な服と軽鎧を装備しているので『え? 本当にあの磯崎さん?』と目を疑ったが、クラスの女子の間で流行ってたTTポーズを俺にカマしてきたので磯崎さん本人で間違いなさそうだ。

 


「むぇ!! だって~、まじウケる。君島のたった一言から既に陰キャっぽさが溢れ出てるんですケド。さすがッスわ~」


「え、な、え? なんで磯崎さんが?」



 俺の奇声にまじウケたらしい磯崎さんがパシパシと馴れ馴れしく肩を叩いてくる。


 ちょっと、そんな気軽に女子にスキンシップとられると照れちゃうんですけど?


 ていうかこの人、ホントなんでこんなトコにいるの?



 疑問いっぱいの眼差しでガッと小松氏を凝視する。


 

「ああ、すまん君島。なんとなく言いそびれたが見ての通り、磯崎さんも一緒なんだ。実はエルファストから出る馬車に乗ろうとした時に目撃されてしまってな。同行させないと風間たちに逃亡を即密告すると脅された」


「ん? それって磯崎さんも風間くんたちから逃げたかったって事?」


 磯崎さんって結構、風間くんグループと仲良かった印象あるんだが。



「んー、逃げたいっていうか~? 小松お金いっぱい持ってるから楽しい旅行出来そーだし?」


 清々しいまでに金目当てですか。



「それよりそこにいるのは文川さんじゃないか。君島、キミこそ彼女のことを隠しているなんて人が悪いぞ」


「え、文川!? うっそ!? ホントだ!! 文川生きてるじゃん!!」



 小松くんに言われて、俺の後ろに身を隠していた文川さんの存在に磯崎さんも気がついたようだ。


 そういやクラスの連中的には俺たち生死不明の状態だったから、一応心配してくれてたらしい。



 磯崎さんは結構ガチで嬉しそうに文川さんに声をかける。


「よかったー!! すっごい心配してたんだ~。文川とはあんまし喋ったとき無いケドやっぱイヤじゃん、同じクラスのコが死んじゃうとかさ~。あ、ウチだけじゃないよ? 文川たち帰って来なくて死んじゃったかもーって話になった時、ユイもリサもガチ泣きしてたし。ウチらと違うグループのコらも一緒になってお葬式あげよ! って話になって。でもそういう儀式やったらもうホント帰ってこないよーな気がして結局なんもしてないけど、でもこーして会えたんだからお葬式やんなくて結果オーライ的な? あー、スマホ使えたらみんなにメール送りてーッス! でもホント、生きててよかったぁ」


「あ……ども」


 文川さんは磯崎さんの長文トークに圧倒されながらボソリと応える。



「へへー、安心したらお腹空いちったね! ほれほれ早く食べにいこー?」


「へっ!?」


 グイグイ距離を詰めてくる磯崎さんに対し、心のシャッターをガラガラ閉じる、リア充が苦手な文川さん。


 しかし空気を読めないのかあえて読まないのか磯崎さんは彼女の手をつかんでビュッフェにずんずん向かっていった。



 文川さんが助けを求めるような目で俺の方を見てくるが、ここで「ヘイ、その薄汚い手を離しな! 彼女が嫌がってるだろ?」と磯崎さんに言うのも変だしなぁ。


 もちろん磯崎さんが文川さんをいじめるような雰囲気なら助け船を出してみるけど、とりあえず仲良くしたそうな雰囲気出してますし。


 ここは自分の力で乗りきってください。


 と、目でサインを送ると『薄情者~!!』という目で文川さんが返した、ような気がする。



「では僕らも朝食、とりに行くか」


「あ、ああ。そうだな」


 

 朝食はバターロールとかスクランブルエッグにベーコンなどなど、昨晩のディナーに比べるとわりとフツーなメニューだった。


 なんとなく高いものを食べないと損した気分な貧乏性の俺は、サラダにマンゴーやイチゴ、メロンなど大量の果物を盛り付けて豪華なフルーツサラダを作って食してみる。


 うーん、果実の酸味がシュワワッとまだ少し寝ぼけた脳や細胞に活力を与えてくれる気がするぜ。



 文川さんもフルーツを堪能してくれるとよいのだが磯崎さんに話しかけられまくって

「ええ」

「わかった」

「私はたぶん三人目だと思うから……」

などと心を失った人形のように相槌を打ちつつスティックニンジンとかレタスをシャリシャリ無心で咀嚼(そしゃく)している。



 シュペットちゃんとはすぐに仲良くなったのになぁ。


 と、いいつつ俺もクラスのリア充男子がここにいたらキョドってたかも。



 いや、俺もちょっとは強くなったし今ならそれほど卑屈にならなくても……いや、いや、うーん……どうなんだろうか?




「なぁ小松くんよ。小松くんとかクラスの人たちって、あのウェアウルフの一件以来、結構強くなったのかな」


「ん? どうかな……。風間たちがキミと文川さんを裏切り者に仕立て上げてから流石にクラス内の空気が悪くなってね。みんな、別行動をとるようになってきたから各自の強さは把握出来ていない」


「そうなんだ?」


「ま、強い武器を持ってる風間や吉崎がエルファスト近辺のスライムをようやくソロで狩れるようになったとは聞いているが知ってるのはそれくらいさ」


「へぇ~」


 って、まぁR武器しか持ってない俺ですらソロ討伐出来るんだからSR、SSR武器持ってる彼らなら当然か。


 自惚れちゃいけないですな。



「でもさ、でもさ、ぶっちゃけウチらの方がもう風間っちより強いンじゃない?」


 磯崎さんが興味深い事を言う。



「磯崎さん、そんなに強くなったの?」


 俺は素直に聞いてみた。


「ふふーん、見てよコレ、ウチの装備。なんだっけ、なんか偉い鳥の羽根の服と鬼ヤバげ鎧にガチで神な剣だしマジやばばばばっしょ。歩く身代金的な?」



 なに言ってんだ、このコ。



「小松くん、通訳を頼める?」


 磯崎さんの気分を害さないようにヒソヒソと助けを求める俺氏。


「ああ、彼女は不死鳥の羽根が織り込まれた法衣を着ていて自動自己再生炎上ガードが出来るんだ。鎧も剣も光の加護でかなり強化されてる。全部合わせて金貨8000枚ってところだ。……ちなみに僕も効果は違うが同程度の装備をしている」



 二人合わせて一億六千万円装備!?


 そりゃ誘拐して装備剥ぎ取りたくなるわ!!



「……そ、それで、実際に魔物とは戦ったの?」


 文川さんが珍しく、というか初めて自分から磯崎さんに話しかけた。


 モンスターの攻略法など考えるのが好きそうな彼女としてはデータ収集したいんだろうか。



「んーん。どっか行くとき基本、馬車だし。モンスターとか出ないし。ウチの剣は血に飢えてお腹ペコってるっしょ的なキモチかもかも?」



 ソシャゲで言えば廃課金でガチャ回して装備は揃えたけど、全然クエスト進めてなくてレベル1ってところかな。


 こういう人相手に無課金で勝ってこそのムカキンS.W、ちょっと燃えてきたぜ!


 文川さんも「ふむふむ」とうなづいていた。


 


☆☆




 食事を終えて、俺たち四人組は船の中を散歩して腹ごなしする事にした。


 甲板に出て星の結晶の煌めきを眺めるのもいいが、豪華客船の中を探検するのもなかなか面白い。


 あちこちに彫像や絵画が壁に飾られていて、これが日本の美術館ならしがない高校生の俺にはちょっと退屈かも知れない。


 だけどファンタジー世界の芸術品はカッコいいポーズの騎士や魔法使い、ドラゴンなどファンタジー色の強いものばかりをモチーフにしているのでいちいちオタク心をくすぐる造りとなっておりまぁす。



 文川さんも楽しそうにあちこちキョロキョロ眺めている。


 ふぅ……磯崎さんの登場でちょっと変な感じになってたけど、機嫌が治ってなによりだ。



「ふふ……こういう複雑な構造の場所を歩いていると、テロリストが来たらどうやって戦おう!? とか妄想しちゃうよね!」


「分かる」


 若干、斜め上なベクトルで上機嫌になってた文川さんだったが、実は俺もこの船の吹き抜けの階段を見て、そういう特殊な地形でテロリストと戦う妄想をしていたので彼女を責めることなど出来やしなかった。




「それで君島、今朝の話なんだがどうだろうか?」


 二人でワクワクしながら散歩を楽しんでいるとせっかちな小松くんが話しかけてきた。


 今朝の話ってのは、一緒に来ないかどうかって話だろうな。



「正直、僕たちはこの世界ではあまりにも脆弱だ。でも一緒に来ればこうして強力な武具を揃えて脅威に備えることが出来る。考える余地はないと思うが……?」


 まぁな。


 そりゃ俺もチート防具は欲しいと思うけど……ただなぁ。


 文川さんと二人きりでいたい……というのもあるけど、小松くんに金をもらってしまうと何か自由を失ってしまう気がするんだよね。



 ソシャゲで他のプレイヤーたちとチームを組んだ際に、廃課金プレイヤーが課金アイテムをガンガン使ってチームを勝利に導いてくれる……って事があった。


 最初は「○○さんスゲェーっす! ありがとうございます!」とその廃課金プレイヤーをもてはやしたもんだが、何回もそれが続くと勝利の嬉しさより『なんかいつも悪いなぁ』って罪悪感が上回ってゲームが楽しくなくなるんだよな。



 それよりも同レベルの雑魚同士で力を合わせてつかんだちっぽけな勝利の方が何倍も嬉しくて楽しかったりする。



 まぁこれはゲームじゃなくて、命がかかった冒険なんだからソシャゲと同一視するのもどうかと思うが……。



 でも楽しいってのは大事なことだ。



 小松くんは本当に好意善意で言ってくれてるんだろうが、今はもう少し自分と文川さんの力だけでこの異世界に挑戦してみたい。



「小松くん、ごめん。ありがたい申し出だと思うけど、やっぱりもう少し自分の力で思うようにやってみたいんだ」


「……!!」


 小松くんはまさか断られるとは思ってなかった……って顔をしてる。


 まぁそうだろうなぁ、良い話だもんなぁ。




「なぜだ……。なぜそんなに頑なに拒否するんだ? 僕が何か気に障ることをしたか?」




 あ、あれ? 小松くん、ちょっと涙目になってない?



「い、いや! 小松くん、そういうワケじゃないんだって! なんて言えばいいんだ、だからゲームで例えるとだな……」



「……君島、もしかして小松のこと妬んでんじゃないの? お金持ってる小松の言いなりになるのがムカつくから、そうやって困らせようとしてるならマジありえないんだけど」



 さっきまでずっと笑みを浮かべてた磯崎さんがいきなりマジ切れ寸前五秒前みたいな顔面で俺を睨み付けてきた。



「さっき私の装備聞いてた時もツマんなそーな顔してなかった? もしかして(ひが)んでんの? いいじゃん、小松が同じの買ってやるって言ってんだから」


「は、はい!」



 急にプンプン! と怒りだした磯崎さんにビビってると、文川さんがおそるおそる挙手した。


 おお、何か良い感じのことを言ってこの場を収めてください先生!


 俺を含めた三人が文川さんに注目する。




「え、えっと、あの、その、あの……『買ってやる』って……別に頼んでないんですけど……」


「は? 文川、何が言いたいワケ? ウチらの好意が迷惑だってーの?」


「ふぎゅっ……!!」



 勇気を振り絞った文川さんだが、スクールカースト上位の磯崎さんの波動によって一撃で吹き飛ばされてしまった。


 小松くんの好意を無下(むげ)に断る俺たちに非があるとは思うけど、自分の彼女を責められてほうっておくワケにはいかない。


 俺は文川さんをかばうように前に出る。



 しかし、R武器しか持ってない磯崎さんがなぜクラスの中心人物を気取ってられてたかというと、こういう場を支配する圧力があるからなんだよなぁ。


 彼女は再び、俺をキツい目付きで睨み付ける。


 自分に刃向かう俺たちが気に喰わないのか、自分に良くしてくれた小松くんの気持ちを踏みにじった事が許せないのか。


 いずれにせよ、この圧力に対抗する器量を持っていたなら、俺は昼休みに一人で弁当食ってたりしなかっただろう。


 そこで俺は……



 悟空ー!! 早く来てくれー!! 



 と叫びたくなった。



「あーっ、ソラさんとナギさんだ! 奇遇ですねっ!」



 不意に自分の偽名を呼ばれて振り返ると、ミニドレス姿で手を振るアトラスがいた。



 って、えっ!? なんで!?



「あれ、アトラス……? どうして船に乗ってるんだ……!?」


「てへへ、なんででしょう?」


 微笑みながら、ぺろっと小さな舌を出す。



「そして私もいますよーっ」


「きゃっ!?」


 今度はシュペットちゃんがぴょんっ! と跳び跳ねてダイナミックに文川さんに抱きついて、ほっぺた同士をスリスリさせた。



 修羅場ってるところに思わぬ知人たちの登場でちょっと頭が混乱する。



「えーっと? 昨日、俺たち涙のお別れしませんでしたっけ?」


 おもに泣いたのは文川さんだけだが。



「あのー、実は、そのー……ミルキーウェイツアー羨ましいな~って思って、ボクたちもB棟のチケットひそかに買っちゃいまして……ソラさんたちの姿が見えなくなったあと、普通に乗船してたんです」


 アトラスがチケットの半券を見せながら、えへへと苦笑いした。



「そ、そんな金よくあったな……B棟は安いのか? ってそれはいいけど、ツアーに参加するなら教えてくれたら良かったのに」


「ごめんなさい! お二人のお邪魔をしてはいけないと思って……といいつつ結局さびしいので探しに来てしまいましたけど……」


 今度はシュペットちゃんが苦笑してアトラスと仲良く揃って頭を下げる。



「お、お邪魔とかそんな事ないでござるし!? なに言ってるのかな? もぉ~!」


 磯崎さんたちの様子を気にして文川さんが顔を赤くして焦ってる。



 うーむ、知らない人たちの前でイチャつくのはちょっと馴れてきたけど、確かにクラスメイトに俺たち付き合ってる……というか『二人は結婚した』って悟られたくないな、なんとなく。


 


「あの、ねぇ、そのコたち誰なワケ?」


 激おこムカ着火ファイアー状態だった磯崎さんがどういうテンションで聞けばいいのか微妙に戸惑いつつ尋ねてきた。


 俺もどんなテンションで答えればいいか戸惑うぜよ。



「えーと、突然すんまそんでした。こちらはアトラス、向こうがシュペットちゃん。しばらく行動をともにしてた仲間で昨夜、パーティを離脱したけどフェイクのイベントだったらしくすぐに再会イベントが発生したみたい……そんで、こっちは小松くんに磯崎さん。俺と同じ学校に通ってたって間柄だ」



「こんにちわ! ソラさんたちのご学友さんですか! 突然わって入ってごめんなさい! ボクは炎の勇者見習いのアトラスです! 以後、お見知りおきを!」


 アトラスがペコリとミニドレスの裾をつまんで礼儀正しく会釈する。



「……可憐だ」


 小松くんが頬を紅く染めながら何かつぶやいた気がした。



 急に乱入してきた二人に気を悪くされたのでは……と女帝・磯崎さんの顔色を伺うと、口を半開きでアトラスとシュペットちゃんをじーっと見つめていた。



「文川さん、ボス敵の行動パターンを読むの得意なんだよね? あれ、どういう行動?」


「わ、分からないよぅ……私、リア充とか陽キャとか弱点属性だし……」



 二人でひそひそボイスチャットしてると磯崎さんがキッと顔を上げた。


 一体、どう出る気だ……!?




「あの! ウチ、磯崎紗耶香って言いまーす! な、仲良くしてください。あ、サーヤって呼んでいいですゆっ!」


 サーヤはぶりぶりと媚びた!


「はい、よろしくお願いしますね、サーヤさん♪」


 シュペットちゃんは笑顔でニッコリ微笑みながらサーヤと握手をいたす。


 するとサーヤは「はわっ、はわぁ……かわゆい……」とヤバい表情でクネクネ身悶えし出した。


 

「あの、サーヤさん?」


 さきほどまでの強者のオーラは消え失せ、ただのキモオタみたいなオーラに身を包んだ磯崎さんには先程までの恐怖感は感じないのでちょっと図にのってサーヤ呼ばわりしてみる。



「ちょ、君島がサーヤって呼ぶなし! ていうかなんなん!? このコたちモデル!? アイドル!? 二人とも超キレイなんですけどー!? っていうか、っていうかーどうして君島たちがこんなコたちと知り合いになれてるワケ!?」


「ど、どうしてって言われても、えーっとですな……」



 ここが磯崎サーヤに主導権を握られるかどうかの分水嶺(ぶんすいれい)かも知れない。


 俺は勝負に出る事にした。



「知り合ったのはただのなりゆきだけど、もはやすっかり親友だよなー」


「えっ、親友!? は、はいっ! はい! ボクたち親友ですっ!」


 俺はアトラスと肩を組んで顔を寄せあい、仲良しアピールした。


 俺たち、ズッ友だよっ!


 

「あー、いいなー! うらやま! 私もモデルみたいなコらとお友だちになりてーッスー!」


 思惑通り、俺とアトラスがかなり親しい仲だと確認すると、磯崎さんは自分も仲間に入れてほしそうにすり寄ってきた。


 俺に対する怒りの感情はどっかに消え失せたように思えて、内心ホッとする。



 女の子には可愛い子と知り合いになりたがったり、同じグループに入りたい的な欲求がある人もいるっぽく、磯崎さんもそういう人種のようだ。


 そういえば彼女はクラスで美少女と呼び声高い桃園さんによく話しかけてたなぁ。



 俺は別にイケメンと親しくなりたいとかこれっぽっちも思わないけど、もしもクラスに同い年の宮本武蔵や真田幸村がいてソイツらと一緒に昼飯食いあう仲になれたら誇らしい気がするのと同じ境地なのだろうか。

 


「あのー、ちょっとお尋ねしますけど、もう磯崎さん怒ってないでありましょうか?」


 俺はアトラスを人質のように腕に抱きながらビクビクしながらご機嫌を伺う。



「へ? 怒る? ウチが? まぁ細かいこと気にすんなし! ウチ、3歩歩いたらなんでもすぐ忘れるっておばーちゃんによく褒められてたし? 過去には縛られないオンナ? みたいな! というかウチの事はサーヤって呼ぶし!」


 サーヤパイセン、マジかっけースね。


 先程の一触即発な出来事は無かったことになりました。


 めでたしめでたし。



「私、リア充のこういう雑な所が苦手でありんす……」


 文川さんがゲンナリした表情で小声で申告してきた。


 まぁ確かに雑だけど、いつまでもネチネチこだわらず、衝突を恐れずに本音でガンガンぶつかるから結果的にリア充というか陽キャってのは友だちが多いのかも知れない。


 俺は人にキレる時はその人と生涯絶縁する覚悟だからこそ滅多な事ではキレないようにしてるが、サーヤさんにとってはキレるのもただのキャッチボールって事か。


 昼にケンカしてた友だちと放課後には仲直りしてそうだもんな。


 陰キャの俺たちには眩しすぎる生き様だぜ。



「君島」


 しばしサーヤさんに場を支配され、棒立ちになっていた小松くんがようやく口を開く。


 ちょっと半泣きだったけど、もう落ち着いているようだが……?



「さっき『二人の邪魔をしたくない』と言われていたようだが……君島はもしかして文川さんと付き合っているのか?」


「ぼぁッ!?」


 大人しい顔に似合わずピッチャー小松くんはストレートで161キロの豪速球を投げつけてきた。


 どう答えたものかと文川さんの顔を伺うと、彼女は両手で顔を隠している。



 左手薬指に俺が贈った指輪がキラめいていた。



 頭隠してお尻全開?



「ちょ!? 文川、その指輪……!! もしかして君島からもらったの!? 君島やるじゃーん!!」


「はわぁ!?」


 慌ててサーヤさんから指輪を隠す文川さんだがその反応がもう全肯定してるようなものだよ!


 はぁ。


 ま、いいか。



「まぁアレですよ……俺たち二人でウェアウルフから命がけで逃げて、その後も異世界という頼れるものがいない環境で支えあっていれば、そりゃ色々とあるでしょーよ! 悪いかしらっ!?」


 かなり照れ臭いが、俺は開き直って自白してやりましたぜ。



「悪くないです!」


「むしろ見直した」


 パチパチパチとシュペットちゃんが拍手し出してサーヤさんもウンウンうなづきながら拍手する。


 文川さんは恥ずかしさのあまりうつむきながら、俺の影に隠れて制服の裾をキュッとつかんでる。


 ふへへ、俺の彼女かわいいだろ?



「そうか……。ということは」


 小松くんがアトラスの方を向いた。



「か、か、彼女と君島が付き合ってるワケじゃないんだな……?」


「え?」


 小松くんに見つめられたアトラスがキョトンとした。



 ワー!



「ん?」



 その時、船内の上……甲板の方からワー! キャー! という悲鳴に近い叫び声が無数に響き渡る。



 なんだ……?


 

 俺が天井の方を見上げようとすると……






 ッド オ オ ォ ォ オ オ オ オ ォンンンッッッ!!





「うわっ!?」


「なにコレ!?」



 凄まじい衝撃が船全体に走って、ぐらりっと体がよろめいてしまう。



 ピンポンパンポン……。


 そして流れる館内アナウンス。



『お客様にお知らせします……!! この船は……只今ゴブリン盗賊団の襲撃を受けております……!! 大変、危険ですので……2階、シェルタールームに避難してください……!!』



 

いつもブクマ超ありがとうございます。

今年の目標はブクマ50人だーとか書いてたら

『君の名は。』観て興奮してる間に達成してました、ありがたいです。

来週は時間がとれそうなので来週、更新がんばります。。。

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