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26話 同級生


 キラキラと光る星の結晶が寄り集まって出来た星の河を船が進む。


 そんな幻想的な雰囲気に見とれていたいところだが、目の前に突如現れたかつての同級生によってそんな悠長な気分は吹き飛ばされていった。



「小松くん……何故ここに……?」


 俺がボソボソつぶやくと、そんなのお構いなしに彼は手を伸ばしてコチラへ迫ってくる。



「君島! やっぱり君島か! よく生きてたなぁ!」



 小松くんは嬉しそうに俺の肩へ手を置いて、金属製の籠手をガシャガシャ揺らした。


 どうやら俺の無事を喜んでくれているらしい。



 一緒に食事当番をしていた時、俺が黙々と作業をする中、よく一方的にどうでもういい事を話しかけられたのを思い出した。


 よく言えば人なつっこく、悪く言えば馴れ馴れしい。


 正直、好きでも嫌いでもない人物なので再会できて嬉しくもないが、最悪の出会いというワケでもないので微妙にホッとした。


 いや、安心するには早いか……。


 色々と確認しなくちゃな。



「小松くんはどうしてここに? 他の……クラスの人たちもこの船にいるんだろうか?」


「うん? 他のヤツらはいないよ。愛想を尽かしてグループを抜け出して来たんだ、僕は」


「えっ、小松くんも?」



 彼もクラスの中じゃ浮いてたからなぁ。


 成績は良いみたいだが、気位(きぐらい)が高そうというか……クラスの連中のおバカな会話にくわわれない雰囲気があった。(俺も人の事は言えないけど)


 ぼっち仲間だった俺がいなくなった事でさらに孤立してしまった事は想像に(かた)くない。



「という事は君島も意図的にクラスのみんなの元に戻らなかったというワケか」


「え? まぁ……」


 小松くんの立ち位置が分からなくてどこまで正直に話せばいいか分からないな。


 でも、それは向こうも同じかも知れない。


 文川さんのことは伏せつつ、ある程度、腹を割って話をしよう。




「そうだなぁ……えーと、あの森で俺は風間くんに剣を突き付けられて脅されたんだ。ここでウェアウルフの囮になれって」


「なに!? 君島が囮役を是非に、と買って出たって風間は言ってたぞ!?」


「漫画や映画のキャラじゃあるまいし、自分からそんなカッコいい事言うワケないでしょうよ。ま、結果的に生き延びれたけど、このまま飼い犬みたいに律儀に風間くんたちの元に戻って、また魔物の生き餌にされたらたまったものじゃない。だから帰らなかった」


「そうか……アイツ、とんでもない男だな」


 小松くんは深刻な顔で腕組みをする。




「いや、しかし風間の言いそうな事だよ。僕たちはあのあと、セイラムの街から来た冒険者たちに助けられたんだが……」


「あっ!! それ、冒険者ギルドで聞いたぞ。なんか、俺が森に火を放ってみんなを囮にして逃げたみたいになってなかった!?」


「知ってたのか……。そうなんだ。勇者40人もいて、ただ魔物が怖くて逃げたんじゃカッコがつかないって吉崎が言い出してな。『俺たちは卑怯な罠にかけられた、逃げるしかなかったって事にしよう』と」


「なんだそれ……」


 ひどいヤツだなぁ。


 吉崎じゃなくて(あし)崎に改名しなさいよ、まったく。



「そして、そこに風間も同調した。『君島もただ死ぬより俺たちの名誉を守るために一役買える方が喜んでくれるハズだ』と」


「喜ばないよ!? なにあの人、サイコパスなの!?」


 俺が一人死んでるんだぞ!! いや、生きてるけどさ。


「君島、おかしなヤツをすぐサイコパスと言いたがる風潮があるが、サイコパスの定義というのは正確に言えば……」


「わかったよ! 悪かったよ! とにかくひどいヤツだよアイツは!!」



 まぁ、どうせロクでもない理由で俺と文川さんは悪人に仕立て上げられたんだろう……と予測はしていたが、実際のやりとりを聞くと風間くんと吉崎くんの全身の毛をピンセットでひき抜いてやりたくなった。



「すまんな。僕もそれはいくらなんでもと思ったが、……抗議できる雰囲気じゃなくて」


 小松くんはバツが悪そうな表情をする。


 まぁそりゃ仕方ない。


 俺だって小松くんと同じ立場だったら彼らに抗議はしなかっただろう。


 意見は無視される上に吉崎たちの反感を買うだけだろうしな。


 せいぜい腹の中で彼らをぶちぶちとディスるだけ……

 


「あっ、それじゃヤツらに愛想を尽かしたってのは、俺の件で腹を立ててくれて、それで抜け出してきたってこと?」


 小松くん、いいヤツだな!



「いや、すまん。コイツら平気で仲間を切り捨てるクズなのかとドン引きはしたが、それで腹を立てるほどキミと仲良しではない」


 正直なヤツだな。


 一周まわってちょっと気に入ったわ。



「愛想を尽かしたのは宝くじの件だ」


「ん? 宝くじ?」


「その後、しばらくエルファストで休暇をとっていて……街で宝くじ屋を見かけて、1等でも当たれば風間たちの言いなりにならずに生きていけるのに……と思って買ったら当たった」


「え、1等が?」


「ああ、1等だ」


「えええ!? すごいな!! 賞金がもらえる宝くじ? 金貨100枚とか?」



「いや……前後賞合わせて金貨30000枚だ」



「ふぁッ!?」



 それって日本円で3億円……!?



「小松くん、俺たち心の友だよな」


 俺は小松くんの肩をガッシリつかんだ。


「キミもあからさまヤツだな。まぁ一周まわって潔いか……」


「いや、それは冗談として」


「冗談なのか!? そこは友達のままでいいだろ!? 僕はキミのことはあのクラスの中では話しやすいヤツだと思ってたのに……」



 面倒くさいヤツだな。


 仲良しじゃないのか友達になりたいのかどっちなんだ。




「まぁとにかくだ、僕は宝くじの事を風間たちに申告し、提案した。この金でクラス全員の防具やマジックアイテムを買ってパーティを強化しようと」


「へぇ、そりゃまた律儀なことで……。しかし、金貨3万枚もあればかなり強化できるだろうなぁ」



 ちなみに俺と文川さんが先日、防具屋で使った金の合計額がせいぜい金貨30枚分くらい。


 国から支給されたのはクラスメイト一人につき金貨10枚だから、まぁとにかくとんでもない額が大当たりしたものである。



「でも風間たちはR武器組なんか強化するより、金貨1万枚クラスの(ドラゴン)(スケイル)(メイル)を3つ買って風間、吉崎、桃園さんだけを超強化しようと言い出した」


「え? うーん、その選択も絶対に無しではないとは思うけど……宝くじを当てた小松くんには何も無し?」


「ありがたい事に食事当番が免除された」


「ハハッ、3億納めて自由の身とか、身分を買い戻した奴隷みたいだな」


「気付いたら僕は乗り合い馬車に乗ってエルファストから逃げ出していたよ」


「小松くんも苦労したんだなぁ」


「なに、生き餌にされたキミほどじゃあるまい。それに金があるから今は気楽に異世界生活を堪能させてもらってる」



 そりゃ3億もあれば楽しかろうよ。


 彼が着ている鎧も、限られた人間しか参加できないこのツアー代金も賞金で軽々と購入出来たってワケだ。




 シャラシャラシャラララアアァァッと船が星屑をかき分けて進む不思議な音が鳴り渡る。


 お互い、会話がいったん止まった。


 とりあえず最低限、聞いておきたい事は俺も小松くんも聞き終えた、という空気を感じる。



 さて、どうするかな……。


 もう少し情報と意見を交換したいが、そろそろ文川さんの準備も終わる頃合いだろう。


 そして、たぶん彼女はクラスメイトとの再会を望んでいない。


 うーん……。



「君島、僕はそろそろ食事にいくよ」



 俺が考えていると小松くんの方から切り出してきた。


「ああ……このフロアにいるって事は小松くんもA棟だよな」


 同じ展望レストランで食事をしてたらどのみち文川さんを見られてしまうな。


 だったら彼女の事をもう話しておいた方がいいんだろうか?



「いや、あいにく僕はS棟でな。たぶんキミとは違う、船首特別ロイヤルハーツ室で食事だよ」


「S棟!? そんなのもあるのか!!」


「まぁ造りは豪華だが……周りにいる人種も豪華過ぎてね。居心地が悪いからコチラに避難してた次第さ」


「ははぁ……貴族様とかに囲まれてるワケだ」


「そういうワケでここでお別れだが、キミとはまだ話がしたい。またあとで会えないか?」


「ああ、いいぞ。ただ今日はもうゆっくりしたいし明日の早朝、この場所で落ち合うってことでいいかな」


「ああ、僕もそれくらいが丁度いい感じだ。やはり君島とは話が通じやすい」



 確かにな。


 クラスの連中にコキ使われていた時は余裕がなかったが、こうしてみると小松くんはわりと良識があって話しやすいヤツだった。



☆☆




 小松くんと別れて俺は部屋の前にいったん戻る。


 すると、部屋付近でキョロキョロしていた文川さんが俺の姿を見て小さく手を振りながら向かってきた。



「君島く~ん、ごめんね待たせちゃって」


 俺を見つけて謝りながらも、嬉しそうな表情を見せる文川さん。


 ほんの数分、離れていただけなのにこんな反応されるとテンション上がるな!



「いや、俺の方こそ探させちゃったみたいで。と……文川さん、制服に着替えたんだ」


 最近は冒険者服が多かったので久々の制服文川さんだ。


 彼女は何を着てても愛おしいが、制服はグッと来るものがある。



「うん。やっぱり制服って冠婚葬祭でも着れる正装だからね。豪華客船で着てても浮かないかな~って」


「確かに……。下手に高い服買うより制服を大事にした方がいいのかもなぁ」


 俺は着心地がいいという理由でよく高校の制服を着ているが、そろそろ身なりの事も考えてみようかな。



「うんうん。またお金が貯まったら今度は二人で服を買いに行こうよ」


「それ、いいね。必ず行こう。で、1着はお互いが選んだ服を買う、みたいな」


「お~っ、君島くんが私の選んだ服を着てくれるって事? どうしよう! 執事服とかでも着てくれる?」


「ああ、全然いいけど……文川さん、執事とか好きなんだね」


「えっ、どうなんだろ……。でもそうだねぇ~、制服っぽいピシッとした服はわりと好きかも」


「じゃあ文川さんにはメイド服を着てもらおうかな」


「え!? そんなの着せて私に何をさせる気!?」


「何をって……掃除とか?」


「そ、掃除!? 私に汚れたアレを掃除させる気ね!? えっち!! ヘンタイ!! 変質者!!」


 楽しそうだなぁ。俺もすっげぇ楽しいけど。



 そういえば最近、文川さんとの仲はグッと縮まったと思うけど、アトラスたちがいて完全に二人きりになる機会は少なかった。


 ここに来てようやく落ち着いて暴走できるシチュエーションになったという事かも知れない。



 小松くんの事を報告しようとは思うけど、明日でいいな。


 今夜一晩くらいは煩わしいクラスの連中のことはサッパリ忘れてバカ騒ぎさせてあげよう。


 

「では君島さん、レストランまでエスコートしてくださる?」


 文川さんが俺の肘に腕を絡めてきた。


「いいですとも。では、まいりましょうか、お嬢様」


「へへへ~♪」

 

 彼女はなんかもうすっごい上機嫌だった。



 さっきは小松くんの三億円事件を羨ましいと思ったけど、三億円と文川さん、どちらかを選べと言われたら迷う余地などないくらい圧倒的に文川さんだなと思ったミルキーウェイツアー1日目の夜が始まる。


 ちなみにツアーは二泊三日の予定ですよ。


あけましておめでとうございます。

今年もブクマとか批評などなどよろしくお願いします。

今年最初の目標はブクマ50人達成にしよっと。

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