24話 それを売るなんてとんでもない
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「さて、結婚してみたものの、これからどうしよっかナギさん?」
「いろいろ思うところはあるけれど、今はとりあえず他の防具も買っちゃおうよ、ダ、ダーリン……」
「えっ」
「うわああっ、やっぱ今の無しっ!!」
悪ノリしてダーリンとか言ってみたものの、さすがにこれは恥ずかしー。
勢いで結婚しちゃった幸せいっぱいの私たちは引き続き、君島くん用の盾と兜を見繕いながら防具店内を散策していた。
人前でイチャイチャするバカップルなんて爆裂しろと常日頃から思っていた私だが、大好きな人からプロポーズなんてされた日には自然と笑みがニヤニヤとこぼれ落ちてしまう。
はぁー、なんだろうこの幸福感。
ちょっと落ち着こう、と思っても左薬指に輝く指輪を見るといくらでもニンマリしてしまう。
こんなハズじゃなかったんだけどなー。
『ラノベとゲームさえあれば幸せ!!』
人見知りの自分みたいなモンには一生、友達もオトコもいらねーやいって思ってたけど、まさか私の方がクラスの男子にベタぼれしてしまうなんて……。
あああああ君島くん好きいいいいいっ!! 大好きっ。
もうアレだよね、私の夫なんだからいきなり抱きついてキスしても身体中を触っても罪に問われないんだよね!?
「はぁはぁ……」
「どうしたのナギさん? なんだか息苦しそうだけど……」
「いや、ごめん、ちょっとマリッジピンクに襲われて……」
「マリッジピンク!? マリッジブルーなら聞いたコトあるが……」
「はぁはぁ……」
そうは言ってもエロ漫画みたいに試着室でいかがわしい事をするワケにもいかないので、サクサクと良さげな防具を探す事にした。
盾は軽くて丈夫で扱いやすそうなゲームではお馴染みのミスリル製シールドがすぐ見つかったのに、兜探しはちょっと難しい。
しっかり顔面をガードできるフルフェイスタイプは視界が悪いと君島くんは気になるご様子。
と言って、額や頭頂部といった最低限の部位だけを守る簡易タイプのヤツでは心もとない。
頬に十字傷がついた君島くんもステキそうだけど、出来ればケガしてほしくないよね。
余裕ぶってるけど、顔の肉がザックリ裂けた彼を見たら私がショック死してしまいそうだ。
「お客さま、商品をお探しでしたらお手伝いしましょうか?」
私たちが兜コーナーであーでもないこーでもないと唸っていると紳士風のオジサマ店員さんがやって来た。
日本にいた時、服屋で店員が寄ってくると『コッチは適当に買いに来ただけなんだ、失せな!』と心を閉ざしてしまう私だけど、異世界防具屋では頼りがいがありそうだよ。
「頭はシッカリ守りたいんですけど、防御面積が広いモノは周りが見え辛そうで……」
要点をまとめて丁寧に店員さんに尋ねる君島くん。
異世界モノで相手が王様だろうと大臣だろうとタメ口で話しかけるオラついた主人公はちょっと怖いけど、君島くんはちゃんと礼儀をわきまえているので私的にはとても好ましいのです。
「それでしたら、フルフェイスヘルムにステルススキンを使われたらいかがでしょうか。値段は2割高になりますが兜を不可視化することが出来ますよ」
「不可視化!? そんなのもあるんですか!!」
どうやら魔法の力で兜だけ透明に出来るらしい。
それなら兜で視界が塞がれることはないので便利っぽい!
なるほど~、街中で全身をガッチリ鎧に包まれながらも顔面だけ丸出しの騎士の人をよく見かけたけど、アレらもそのステルススキンってのを使ってたのかも知れないね……。
「あっ! その透明にするのって武器でも使えるんですか?」
「はい。魔法エンチャント専門店でそういったサービスを行っているハズですよ」
「そうなんですか~、ありがとうございますっ」
これからは人見知り~とかいって礼を欠いてはパートナーである君島くんに恥をかかせちゃうからね~。
私は店員さんに丁寧におじぎした。
「ナギさん、なんか思いついちゃったの? 透明の武器」
「ん~とね、刀身の見えない剣とか相手を惑わせそうじゃない? 真っ直ぐの剣じゃなくて半円を描くような、曲刀ってヤツ? ……が透明だったらすごい避けづらそう」
「あっ、それアリだね! さすがナギさん! よく次から次と思い付くなぁ。うーん、すごいな本当に……」
てへへ。この人、私のくだらないアイディアにもイチイチ良いリアクションしてくれるから嬉しいなぁ。
☆☆
そうやって君島くんにおだてられて木にのぼりそうになりながら楽しいショッピングを終え、会計を済ませると店員さんに商店街の福引き券をもらった。
「福引き抽選日は本日のみですのでお気をつけください」
「えっ、コレって今日でしたっけ? あぶね~。ありがとうございます!」
君島くんは店員さんにお礼を言った。
福引き券は今までの買い物でも貰えていたけど、券に書いてある日付が読めないので抽選日が今日だとは私も忘れていた。
この街では定期的に福引き券を配ってるみたいで、私たちの手元には今日までの買い物で30枚くらい貯まっている。
3枚で1回なので10回分か~。
1回分ならどうせ大したものはもらえないと思ってたけど、10回分ならちょっと期待感が出てきた。
ガチャだって10連回せばSRとか☆4が確定するもんね。
私たちはそのまま商店街にある福引き抽選会場に向かった。
抽選日が今日だけ……という事もあり、結構な行列が出来ている。
「ところで福引きって何がもらえるんだろうね、景品」
「さぁ……たぶんどっかに書いてあるんだろうけど。そろそろ文字覚えなきゃなーと思うけどなかなか覚えられないよな~」
「あ、それなんだけど私……ガーヤックに着いたらシュペットちゃんに文字を教わりながら薬草の勉強しようと思ってることをここに宣言しておくよ」
「宣言しましたか。ん? ……というか、あの二人ってガーヤックまでついてくるんだろうか」
「え、知らない……」
そういえば、その辺の話はまったくしてないのです。
というか最初のスケルトン討伐が終わったらお別れかと思ってたんだけど、すっかり仲良くなっちゃってズルズルと一緒にいるだけなんだよね。
「ソラくんはどうしたいですか?」
私は君島くんに判断を委ねることにした。
あの二人とは相性がよく、話しやすい。いい人たちだとも思う。
でもやっぱり君島くんと一緒にいるときとは違って、どこか緊張してる、気をつかっている自分がいるのも確か。
なので君島くんが『ヤツらとはここらでお別れするぜー』というなら全然それでも構わない、ちょっとドライな私でもある。
「そうだなぁ。この異世界で生活していくにあたって仲間の存在はありがたいし、俺みたいな性格じゃ酒場に行ったって、そうそう簡単に仲間なんて出来ないワケで」
はい、私みたいな性格でも無理です。
「そういう意味じゃアトラスたちとの出会いは俺たちには結構、貴重だったんじゃないかなって思う」
「だよね。じゃあ、これからも一緒に行動するように頼んでみる?」
「だね。でもまぁ、それで一緒に来てくれるって話になったとしてもですな……」
「?」
何を言う気なんだろうと続きを待っていると、彼が不意に私へ顔を近づけてきた。
え、なになに?
いきなりチューする気!?
「……もうちょっと文川さんと二人きりの時間が欲しいかな、俺は」
そんな事を耳元で囁いてきた。
「えー!? えー!? なに今の!? エッロ!!」
「いやいやいやいや別にエロくはないハズだ!! というか女の子が街中でエッロ!! とか叫ぶのやめてください」
「ご、ごめん。ソラくんがホストみたいな事言い出すから取り乱しちゃったよ」
「ホストってこの程度なの?」
「いやー大したモノですよ。ここがホストクラブなら私、あやうく150万円くらい課金してたもん」
怖いなぁ。
ずーっと昔、ホストに騙されて貢ぎまくるOLのドキュメント番組を見て『なんでこんな見え透いた言葉に騙されるんだろうバカだなぁ』って子供心に思ったものだが。
もしも君島くんがホストだったらヤバかったね。
「……というかソラくん、もしかして実はホストなんじゃないだろうね……? 私みたいな女に良くしてくれるなんてよく考えたらすごく怪しいし、優しいことばかり言って私に貢がせる気じゃ……」
「いや、そんな事ないから!! というかナギさん、過小評価し過ぎだから!! 俺から見たら、その、すごく可愛いし、一緒にいて楽しいし、す……好きだ。本当に、キミの事が大切で……」
「や、ちょ……ごめん、私が悪かったからやめて! これ以上、充実したら爆発しちゃうから!!」
ふひひ。
好きな人を困らせて甘い言葉を絞り出させるのたまらんですなぁ。
でも周囲の人たちの目が『死ねよ』と雄弁に語ってるような気がするのでここら辺でやめておこうね。
そんなこんなでイチャイチャしながら列に並んでいると福引きの順番がついに来たよ!
福引きコーナーの前には分かりやすいように景品が飾ってある。
白玉……参加賞のジュース
赤玉……お菓子詰め合わせ
青玉……回復ポーションセット
黄玉……黄金の棒
緑玉……ドラゴンの鱗10枚
紫玉……なんかの魔法の書
桃玉……なんかよく分からない紙くず
虹玉……なんか蒼星龍ヴリドラルドメイル
って、ええええええええええ!?
蒼星龍ヴリドラルドメイルって、あの4億円くらいするチート鎧も景品なの!?
「ちょ、ちょ、ちょ、ソラくん! あの鎧、絶対当てようよ!」
「そ、そりゃ当てられるモノなら当てたいけど……」
アレがあればもはや今後の冒険で恐れるものは何もない。
というより、売り払えばもう冒険に行く必要もないくらいのお金が手に入るだろうし夢がありすぎるよ!!
「よし……!」
君島くんが福引きの、あの、中に玉が詰まったヤツ(なんていう名前なの?)をガラガラと回し始めた。
ぽとんっ、と落ちたのは白玉! 参加賞!
「くっ……」
「ソラくん、気合いだよ、一球入魂だよっ」
「あーすいません、待ってる方が大勢いますので止まらずに回すようお願いします」
なんて風情のないことを言うのだろう、この係の人!
でも私たちも一時間くらい列に並んでたし気持ちは分かるよ。
ソラくんはガラガラガラガラ福引きを回し続けてぽとんっ、ぽとんっ、と白玉を出し続けていく。
ああ、これ、結局なにも出ないで終了なパターンだな。
だったら、せめて思い出作りしよう。
最後の一回転はハンドルを握るソラくんの手の上に私の手を重ねて二人で仲良く「えーいっ」と回す。
なんか二人で顔を見合わせて微笑みあってしまった。
カランカランッ!!
「おめでとうございます!! 2等ミルキーウェイ川下りツアー、ペアご招待券当たりましたー!!」
えっ? えっ?
はい、残念賞のティッシュもらって撤収!(ジュースだけど) と思ってた私たちは再び顔を見合わせる。
最後に出たのは桃色の玉。
そうか、なんか紙切れが置いてあると思ったら旅行のチケットだったんだ。
でも川下りって何なのかね。
イカダで川を下ってくとかだったら怖そうだし嫌なんですけど。
「あの……それ、売り払えないんですか?」
私は早速、係の人に金の話を切り出した。
「それを売るなんてとんでもない!! ミルキーウェイは年に1度だけしか顕現しない魔法の川で、特別仕様の豪華客船、この世のものとは思えない絶景に限定料理が堪能できる、毎年ごく限られた人間しか参加できない激レアツアーなんですよ!!」
係の人はピンと来てない私に空前絶後の大興奮して説明し出した。
ふーん、そうなのかー。
ソシャゲやってた人間としては『激レア』という言葉にはなんか弱いよね。
「どうしようソラくん? そんなに人気ならチケット、それなりに高く売れそうだし、もっと良い防具アクセサリーが揃えられそーだけど……」
「んー、俺は行ってみたいなー。ダメ?」
「あ、ううん、全然OKだよ。せっかく異世界に来たんだからファンタジーっぽいこと体験してみたいもんね」
いけないいけない。
つい効率厨だったクセが出ちゃいそうになる。
私としては君島くんをSランク級の最高位冒険者に育てたいというひそかな野望があるけど、本人はそういうの、そこまで望んでなさそうだし。
一番大切な事は、私に幸せをいっぱいくれる君島くんに最高に幸せになってほしいって事だからね。
ミルキーウェイとやらを君島くんにいっぱい楽しんでもらって、私もホッコリしようじゃないですか。
こうしてチケットを受け取り、宿へと戻る私たち。
鼻唄なんか唄っちゃって君島くんは見るからに機嫌がいい。
「ふふ、そんなに楽しみなんだ。ミルキーウェイツアー」
「うん? まぁ純粋に楽しみってのもあるけど、アレだなーって思って」
「アレって?」
またこの人は何を言い出す気なんだろうと思って顔を見る。
「俺たちの新婚旅行だね」
「!!」
えええええええわああああええええええしんこんりょこう!?
新婚旅行!!
なんと聞こえのいい言葉かーー!!
そ、え? え?
なんか新婚旅行って言われたらすごい意識してきた!! 緊張してきた!!
というかそうだった。
あまりにも自然体でいたから一瞬忘れてたけど私、結婚したんだった。
チラリと君島くんの方を見ると照れ臭そうにニッコリ笑ってくれた。
私はさっきから色んな事考えてアワアワしてるけど、君島くんは私と結婚したことどう思ってるんだろうか。
わりと冷静なんだろうか。
それとも私みたいに内心はドキドキなんだろうか。
私みたいな女で少しはドキドキしていただけたら光栄なんだけどな。
はー。
君島くんと色んな場所に行って冒険してみたいとは思ってたけど、結局、君島くんと一緒にいること自体、毎日がドキドキの冒険だなぁと思った私でした。
まぁ、ちっとも嫌じゃありませんけどね。
いつもブクマ、評価ありがとうございます!励みになってます。
次は200pt目指してがんばってみるのです。




