23話 この異世界の片隅で
お金が貯まった。
世の中カネだぁ!!
……というほど貯まったワケではないが、まぁそこそこ貯まった。
メシュラフに来て3週間が過ぎ、スケルトンをさくさく倒しまくって、俺も文川さんもガチャ武器はついにレベルMAXに到達。
となると、魔石はすべて換金に回せるのでガッツリ貯金してマトモな防具を買おう! という時期が来た。
命を大事にするならガチャ武器のレベル上げより防具購入を優先すべき。
という考えもあったが、中途半端に安物の防具を買ってすぐに買い替えるよりも、貯めて貯めて一気に良質な防具を買う方がムダがないだろうという文川さんのお考えの元、そういう順番になった。
実際、ガチャ武器レベルマ(レベルMAX)になった俺は結構強くなってたし。
わずかではあるが紫電の槍でのスピードアップ効果と大地のバンテージによるパワーアップ効果、そして無凸SSR武器並みになったファイアバゼラードの破壊力でスケルトンくらいなら防具無しでもソロ討伐余裕よー。
いや、余裕ではないけど。
まぁ油断しなきゃ負けないって感じでお願いします。
というワケで金が貯まった俺と文川さんはメシュラフでも評判の防具専門店にやって来たのだった。
「さて……しかし防具かぁ。限られた予算の中で何をチョイスすべきだろうかね」
とりあえず脳と臓器を守れる防具が欲しいところではあるが、あまり重すぎても動きが悪くなるし、加減が難しそうだ。
店に入ると正面すぐの展示場には蒼色に輝き煌めく幾層にも重ねられたドラゴンの鱗をモチーフにしたクッソ格好いい全身鎧「蒼星龍ヴリトラルドメイル」が飾られていた。
すっげぇ欲しいけどスケルトン300000体分の魔石換金(約4億5000万円相当)が必要というトチ狂ったお値段なので君島選手このキラーパスを華麗にスルー!!
「うわぁ、あらゆる魔法を反射無効化して物理攻撃を95%カット、しかも飛翔石を組み込むことにより空も飛べるんだって! スゴいね~。いいな~」
俺は大人なのでスルー出来たが文川さんはオモチャ売り場にきた子供みたいにその鎧の前でしゃがみこんで離れようとしない。
「ナギさん、そんな鎧を買う余裕、ウチにはありませんからねっ!」
「やだー! 買って買ってー!!」
ダダをこねる文川さんも可愛いな。
「というかナギさん、こういう鎧着たいの? アトラスが着てた系の可愛い防具とかはどうなの女子的に」
「え、いやいや、私そーいうの似合いませんから……せいぜい『働いたら負け』とか『焼きイモ虫』とか書かれた変Tシャツがお似合いの女子ですから」
「あぁ……でも、ああいうのはああいうので俺は好きだなぁ。可愛い子が変なモノ着てるギャップで余計、可愛さが引き立つというか」
「焼肉をサンチュで包んで食べると余計美味しいのと同じ理屈だね」
「サンチュを変T扱いするのやめてあげて!!」
などと罪深い会話をしつつ、俺はまずミスリル製の下着を購入した。
ミスリルってのは魔力を含んだ特殊な銀で、普通に鎧にも使用されるが布地に編み込む事でナイフでも斬れない丈夫な服を作る事ができる。
軽くて動きやすく、しかも魔法抵抗に優れて燃えにくいというのが購入の理由だ。
俺のファイアバゼラードも強化され過ぎちゃってアトラスの武器同様、服に引火しそうになる気配が出てきたからなぁ。
強すぎる力は己の身をも滅ぼすというヤツだ。
俺もそんな中二病的な領域に足を踏み入れたと思うと感慨深いぜ。
まぁ身を滅ぼすって言っても、俺の服が滅びるだけの話だが。
「で、文川さんはどうするの?」
「うーん、制服の上から羽織れるミスリル生地のコートとか丈夫で軽いし無難でいいかなと思ったけど、これからの季節暑いよね、たぶん……」
コートを試着してクルリと回ってみせた文川さんはすっげぇ可愛かった。
ちょっとぶかぶかの上着の袖から小さな手がちょろっとだけ出てるのがまた可愛らしい。
ハァハァ。
試着室に連れ込んでいかがわしい事をしたくなったが、確かに初めて異世界に来た頃と比べると随分暖かくなってきたよな。
というか日中は動いてるとすぐに汗が浮かんでくる。
季節や気候は日本にいた時と連動してるのだろうか。
だとしたら、そろそろ夏かー。
炎天下、厚着して動きまわるのはなかなかツラそうだよな……。
「あっ!!」
「おや? ソラくん、何か名案が浮かんじゃった?」
「ほら、よくRPGに水着みたいな格好した女戦士いるだろ?」
「いないよ」
「いや、いるって!! ナギさんほどのゲーマーなら知っているハズさ!!」
「……まぁ知ってるけど」
「だから、これからの季節、ナギさんもそういう……」
「着ないよ」
「ううぅ、うううううううぅううう、うううううう!!」
「そんな目で見てもダメだよ!!」
ダメでした。
俺、がんばったよな?
「だけど実際、難しいよね。防御を高めようとするとどうしても厚着になるし、鎧は私には重たいし……」
「じゃあ魔法のアクセサリーを試してみたら? ちょっと高いけど防具と違って『買ってみたものの着心地が悪い!』とかって後悔する事もないだろうし」
「うーん、それもアリかぁ~。じゃあ悪いけど試させてもらうね」
悪い事なんて全然ないぜ。
真面目な話、防具選びは命に関わる事だしな。
魔法のアクセサリーというと指輪、ネックレス、イヤリングに髪飾りと色々な種類があるが形状に意味はないようだ。
とりあえず物理攻撃耐性のあるモノを選ぼうとすると指輪でもネックレスでもなんでもある。
同じ性能なら値段も似たようなものなので、あとはファッションセンスで選ぶだけ。
「うーん、どのアクセサリーがいいんだろ」
文川さんは難しい顔をして、品物を吟味し始めた。
価格的に『物理攻撃20%カット』効果のあるアクセサリーにしようと決めたものの、色んな形状、デザインのものが200種類以上ある。
ジュエリーショップで宝石や貴金属を前にして目を輝かせている女子、というよりはスーパーで1玉68円の玉ネギの良し悪しを見極める主婦のごとき目付きなのが悲しいような頼もしいような。
「ナギさんは日本にいた頃はアクセサリーつけてなかったの?」
「アクセサリー? つけてたと思う? この私が……」
そんなものすごい否定をしなくてもいいじゃないっすかー!!
まぁそういうものをつけて鏡の前でウキウキしてるイメージはないか。今までの彼女の言動を振りかえると。
「どーれーにーしーよーおーかーなー神様のー言う通りー……♪」
文川さんはもう3分くらいで面倒くさくなったのか、アクセサリーを適当に選び出した。
「えっ、そんなので決めちゃうの!?」
「うー、だってどうせどれも同じ性能だし。悩むだけムダかなって」
「いや、でも女子なんだし『あっ、このイヤリングかわいー! あのブレスレット、超ヤバくなーい?』的なノリはないの?」
「うーん、反吐が出るかな」
瞬時に『反吐』とかいう言葉が出てくる女子高生は日本に何人いるのだろうか。
「というか私の湧水の杖って直接攻撃に向かないから、殺傷能力のあるアクセサリーとか無いかの方が気になるんだよね」
「アクセサリーコーナーで殺傷能力に気をとられる女子いる!?」
「ソラくんは女子に幻想を抱きすぎですよ」
そうなのだろうか……。
「じゃあ私、必殺アクセサリーが無いか探してくるからそんなに言うなら物理防御アクセはソラくんが決めといて下さい」
そういうと文川さんは別のコーナーに行ってしまった。
アトラスのミニドレスを見てハシャいでたあたり、ファッションに興味がないワケじゃなさそうだが……自分には似合わない、って決めつけてる感じだな。
よーし、こうなったら俺が文川さんの魅力を引き立てるようなステキなアクセサリーを選んでやろうじゃないか。
……とはいえ、俺もファッションセンスとかまったく自信は無い。
正直、どれを選んだらいいかサッパリ分からん。
まぁ、あんまりハデなモノは避けよう。
制服ブレザーにクレオパトラみたいな首飾りなんてつけてたらいくらなんでも少女の奇妙な冒険者過ぎる。
あと、オシャレは下から固めていくのが基本とか聞いた覚えがあるな……。
ならば星とか蝶とかの目立つ髪飾りも今は避けた方が良さげだな。
そこだけが悪目立ちしそうだし。
となると宝石類のついてないブレスレット、指輪、ネックレスあたりがファッション初心者には無難なんだろうか。
あとは文川さんにどれが似合うかだが……。
似合う以前にネックレスはつけたり外したりが面倒くさそうだな。
外国映画でネックレスをつけてもらうためにヒロインが首の後ろの髪をかき上げるシーンとか色っぽくはあるが文川さんが反吐を鼻から噴き出す危険がある。
あとは指輪かブレスレットか……。
もう特にどちらが良くてどちらが悪いという長所短所が思いつかないな。
「どーれーにーしーよーおーかーなー神様のー言う通りー……♪」
「コラーっ! 結局ソラくんも適当に選んでるじゃん!」
遠くからひそかに監視していたのか文川さんが即座にツッコミを入れてきた。
「ち、違う。俺なりに絞ったけれど最後はあえて運命の女神様に委ねた方がご利益があっていいんだよ、うんうん」
「はぁ、まーなんでもいいけどね……」
で、最終的に俺の指が指し示したのは銀色の指輪だった。
宝石はついていないが草のようなシンプルな模様が彫り込まれていて、何か魔法の指輪って感じがして小学校の時こんなの持ってたらテンション上がった事だろう。
魔法の指輪って事で指とのサイズは勝手に調整されるらしいので試着の必要はないそうだ。便利だよなー。
俺はさっさと会計を済ませて文川さんに指輪を渡す。
「こういう指輪ってどの指にはめるものなのかな」
指輪を受け取った文川さんは指輪を持ったまま「ふーむ」と悩む。
なんか小指につける指輪はこういう意味があって、中指につける指輪はどうだ……って色々あった気はしたが全然覚えてないぜ。
いずれにせよ「魔法の指輪はこの指にはめましょう」なんて決まりは日本には伝わってないと思うが……。
「あ、そうだ。俺、指輪のトリビアが1つだけあった」
「ん、なになに?」
「えー、婚約指輪といえば左手の薬指ですが、これは利き腕とは逆の左手、さらにその薬指は10本の指の中で一番動きが少ないから大切な指輪を落としにくいという実用的な理由がある、らしい」
「へぇ~。へぇ~、へぇ~。言われてみれば左薬指ってあんまり働いてない指かも知れないね」
文川さんは指をクイクイッと動かしてみる。
トリビアを言った俺自身も動かしてみる。
「まぁ、あくまで右利きである事が前提のトリビアだけどね」
「ふぅ~ん、でも、いいんじゃない? 理にかなっているよ。私も右利きだし、指輪はこの左ニート指にはめておく事にしよっかな。無くしたらもったいないもんね」
そう言って文川さんは指輪を左薬指にはめた。
「はは、知らない人が見たら俺たち結婚したって思われそうな場面だ……」
「えっ」
「えっ?」
「えっ!?」
俺は素でやらかしてしまった。
文川さんは両手で真っ赤になった顔を押さえてる。
その左薬指には買ったばかりの指輪が光っていて、まるで俺の恋人のようで。
俺の配偶者のようで。
俺だけの女のようで。
ああダメだ意識したらすごい愛おしく思えてきた。
「ふ、文川さん!」
「は、はいっ」
「あの……」
「う、うん?」
「……」
「……」
「いや、あの、やっぱりなんでもないです」
「……っ」
「じゃあ、そういうことで! 俺、次は兜でも見に行こっかな~」
「……大丈夫、言って」
「うん、いってきます」
「じゃなくて! ……続きを言っても、たぶん、大丈夫だと思います……」
うおおお大丈夫ってなにが!? 大丈夫ってなにが!? 続きを言ったらどうなっちゃうんだろうなどと頭の中がグルグルしつつも恥ずかしそうにうつむいている文川さんを見て俺は覚悟を決める。
「えっと、俺たちマトモに話すようになって1か月くらいだけど……っ……っ……」
やべえ言葉が出ない。喉に何かがつっかえているような、ぐおおお。
と、文川さんが静かに俺の手を握ってきた。
すると胸の奥にあった圧迫感が消え、喉のつかえもスッとなくなった気がした。
深呼吸。
「……俺はまだ若いし、まだまだ色んな人たちと出会うし、考え方も変わっていくかも知れない」
深呼吸。
「だけど……」
深呼吸。
「それでも」
深呼吸。
「文川さん以上に誰かを好きになることはこの先絶対にないと思う」
「私も、君島くん以上に好きな人はこの先絶対にできないと思う」
「俺、キミが大好きだ」
「……うん、う……ん……っ」
「じゃあ……もう……俺と結婚する?」
「………………はいっ!」
あーっと俺たち、なんと結婚してしまいましたーーーっ!!
おめでとう俺たち!!
パチパチパチパチ……!!
防具店にいたお客や店員もノリで拍手してくれている。
ありがとう! ありがとうございます!
それから5秒の月日が経った。
「いやいやいや、やっぱりちょっと待ってくれ。こんな簡単に結婚してしまっていいのだろうか。これこそ若気の至りと言うのでは……」
「いいんじゃない? 気に入らなかったら離婚すればいいだけだし」
「軽っ!?」
「君島くんアレだよ? 愛は永遠、だなんて思わない方がいいよ」
「結婚して10秒も立たずにそんなコト言う新婦いる!?」
「まぁ大丈夫だって、君島くんが私を捨てない限りは。ヒミツだけど私、相当あなたのことが大好きですよ?」
「そ……っ」
そんな事、頬を赤らめながら、眼に涙を浮かべながらニッコリ微笑まれたら……もう一生、大事にするしかないじゃないですかー!?
と、まぁ、そういうワケで今日は異世界の片隅でクラスの女子と結婚してみた、そんな一日でした。
いつもブクマありがとうございます!
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