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2話 魔獣襲来


「魔獣だ!! 丘の下から魔獣の群れが迫ってきてるぞ!!」



 風間くんたちが叫びながら野営地にたどり着いた。


「ま、魔獣!? ガチで!?」

「うっそ、テンサゲなんですけど!?」

「次の街まではスライムくらいしか出ないんじゃなかったのかよ……」


 魔獣と聞いて、みんなざわざわと慌てふためき出す。


 無理もない。



 俺たちは1ヶ月前までは平和な日本でヌクヌクと生きてきたごくごく一般的な高校一年生だったのだ。


 それが魔王を討伐すべく勇者としてクラスまるごと異世界に無理やり召喚されてから1ヶ月間、多少は武器を振り回して冒険者のマネごとはしてきたものの

 未だに最弱スライム相手に40人がかりで大騒ぎしてる有り様だ。


 ハッキリ言って数十匹の魔獣なんかに勝てるワケがない。



 と、絶望的な状況ではあるが不幸中の幸い、みんな食事のために一ヶ所に集まっていたため危機をすぐにクラスメイト全員に伝えることが出来た。


 思ったより早く逃げられる。


 食事時以外だったらみんなを集めるだけで大きな時間のロスになっていただろう。



「で、どうするかだ。迎え撃つか、逃げるか決めないとな」


 1秒でも早く逃げなきゃいけない状況で、風間くんはカッコよく最強のSSR神器、豪炎の魔剣レーヴァティンをチャキーンと構えた。


 女子の前でキメたいのか知らんがスベってますよ。


 というか、魔獣が50匹だぞ?

 シッポ巻いて逃げるんだよ。

 それくらい分かってくださいよ勇者さまぁ。



「迎え撃つって風間……俺たちで戦える程度の数なのか、魔獣は」


 他のクラスメイトが風間くんに尋ねる。


「か、数? えっと……」


 風間くんは一瞬困った顔で口をむぐっとつぐみ、さっき一緒に相撲をとってた見張りくんたちの顔を見やる。


 見張りくんたちは「え、俺スか?」と授業中いきなり先生に当てられたみたいな顔をして焦っていた。


 チラ見しただけで敵の数は把握してなかったみたいだな、うっかりさんたちめ。



「見た感じ50匹くらいいたし今すぐ逃げた方がいいと思うけど」


 俺が口を挟むと


「ごじゅっぴき!? なんで早く言わないんだよ! 使えねーな!」


 と何故かまた俺がクラスメイトに怒られた。


 マゾヒストなら怒られるたびに気持ちよくなるのかも知れないが俺はノーマルなのでフツーに傷つくよ? 知ってた?



 戦力差も認識したことで一目散に逃げたいところだが近くの街まで3日はかかる。

 飲まず食わずというワケには行かず、最低限の食糧や装備品は持ち出さないと。



 みんなが慌てて食糧やナイフ、ランプをカバンに詰め込んでいると、ドドドドドドゴゴゴゴッ!! と森を駆け抜ける激しい地鳴り音がいよいよ直接、耳に届いてきた。


 そして、まだ距離はあるものの森の奥の方に小さな赤い光の揺らめきがじわじわ近付いてくるのが視界に入る。



「うわぁあああああっ!! ま、魔獣だ……し、死にたくないよぉおおお!!」



 恐怖を伝える轟音と妖光に追い詰められて、誰かが悲鳴を上げながら走り出したのを皮切りにパニック状態。


 恐怖は伝染してみんな一斉に逃走を開始する。



 というか俺も冷静に実況してる場合じゃない。

 もう逃げないと!


 食糧の入ったカバンをひっつかんで、みんなのあとを追おうとしたその時。



「待ってくれ、君島!!」



 声とともに後ろからガシッと手首を掴まれる。


 振り向くと風間くんがいた。


 こんなときになんだ、一体?



「君島、お前さっきからすごいな。妙に落ち着いてるっていうか、行動にムダがないっていうか……」


「え?」



 今日はなんて日だろう。


 風間くん、というか異世界に来てクラスメイトに褒められたのは初めてのような気がする。


 ようやく俺の時代が来ちゃった?



 くそ、不覚にもニヤけちゃうぞ!



「いや……落ち着いてるっていうか、俺はそういうの顔に出にくいだけだから」


 などと、とりあえず謙遜してみる。



「いやいや、充分スゲーよ。俺なんかさっきからキョドりっぱなしで、SSR武器もってるリーダーなんだから誰よりも冷静じゃなきゃいけないのに……」


 風間くんはうつむき加減でシュンとする。


 そうか、不甲斐ないって自覚はあったんだな。


 まぁ何を言いたいのかよく分からないが、とにかく俺の事を評価してくれたならこれからクラス内での待遇もよくなるかも知れないわねウフフ。


 そうと決まれば(?)さっさと逃げようぜ!



「だから君島! ここに残って魔獣どもの足止めをしてくれ!」



「うん?」



 風間くんは申し訳なさそうに言葉を絞り出す。



「魔獣たちのスピード、俺たちが走る倍くらいの速さだ。全力で走ってもいずれは追い付かれる……誰かが足止めしないと。冷静な判断力をもった誰かが」



 おっと、ここに来てもっともな指摘をしてきたな。


 確かにマトモに走り続けるだけじゃ、みんなが安全地帯に逃げ込む前に追い付かれる可能性は高い。



「いや、それでも、俺なんかが足止めしたって時間稼ぎにならないって。それこそ風間くんみたいなSSR持ちが……」

 

「俺が死んだら誰が魔王を倒せるんだ!?」



 カーッ! と風間くんは叫んだ。



 え、ちょっと待て。


 それは「足止め=死ぬ」って理解した上で俺に押し付けてるのか?



 SSR持ちの命とR持ちの命。


 この世界においてどちらが重要かは俺にだって分かるが、今まで散々便利にコキ使ってくださりやがったヤツにそんな一方的な話をされても納得がいかない。



 さすがにこればかりはハイハイと従うワケにはいかないぞ。


 そうこうしている間にも魔獣たちが茂みをかき分け、枝をヘシ折り近づいてくる音がさらに近付いてくる。



 チャキッ。


「!?」


 魔獣たちの方に視線を一瞬そらした刹那、レーヴァティンの鋭い切っ先が俺の胸元に突きつけられた。



「頼む。みんなを助けるためだ。断るならせめて……お前を動けなくして囮にさせてもらう」


 風間くんの眼はマジだった。


 こいつ、魔王を倒すための剣でクラスメイトの俺を斬るつもりか……!?


 なんとか口八丁でこの場を切り抜けようと考えるが、剣を持つ風間の手がガタガタ震えているのに気付いた。


 こんなテンパってるヤツ相手にヘタな言い逃れをしようとしたら本当に斬り殺されかねない。



「えぇえい、クソ! 分かったよクソ野郎!! とっと消えろクソが!!」


 俺はなんていうかフフッ、ちょっと下品な言葉でヤツを罵った。


「え、き、君島……?」



 ヘタレの腰抜け風間は剣を突き付けておきながら俺の豹変ぶりに少しビビったようだ。


 モヤシぼっちの俺ごときにこんな罵声を浴びせられるとは思ってなかったんだろうな、御愁傷様だぜ。



「聞こえなかったのかよ。さっさと消えろ。ここは俺が死んでも時間稼ぎする。すればいいんだろ、死なねーけどなッ絶対に!!」



 もはやヤケクソ気味で叫んだ俺はやぶれかぶれで突きつけられた魔剣を手で払いのけた。



 そして、この状況で俺みたいな矮小な存在が魔獣相手に何をしたら嫌がらせになるだろうかと思考をめぐらす。



 何か使えるものはないかと辺りを見回すと、クラスの連中が慌てて逃げた際にぶった押した篝火(かがりび)が、野営用の簡易テントの天幕に燃え移ってメラメラ炎上しているのが目に入った。


 近くの草むらにもゆっくりと燃え広がっている。


 これ、このままじゃ山火事になるんじゃないか?



 むむ……?


 何か考えのようなモノが浮かんだ俺は火の短剣ファイアバゼラードにボワッと火を灯す。



「な、何をする気だ?」



 風間は混乱した様子で尋ねてくる。


 俺はなんとなく頭に浮かんだイメージを言葉にする。



「えーと、今からこの野営地の右から左へ……数十メートルほど草や木に火を放って炎の壁を作る。魔獣たちも火はダメージ喰らうだろうし迂回する、と思う。というか、そう願う」


「な、なるほど。ヤツらが遠回りした分、時間を稼げるってことか……」


「分かったらさっさと行けよ。俺を殺してでも長生きしたいんだろ」


「ッ……すまん。必ず生きて戻ってこいよ」



 風間くんは何やらカッコいい事を言って手を差し出し、握手を求めてきた。



 コイツ、俺が喜んで協力してると思ってるらしい。


 キミは人の心が分からないモンスターなのかい?



 俺はヤツの差し出した手を完全スルーして、燃える短剣とランタン用の油入れ袋を持って走り出した。


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― 新着の感想 ―
「風間くんは何やらカッコいい事を言って手を差し出し、握手を求めてきた。」 握手するる振りをして、短剣で心臓を刺し貫いたらよかったのに、殺すと言っていたのだから、正当防衛だよ。
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