19話 熱戦!スケルトン討伐戦!
メシュラフの居住区域を出て山の方に向かい、依頼にあった山菜採りポイントへと到着した俺、文川さん、アトラス、シュペットちゃんの四人。
最初は特に異常もなかったので、時間潰しに調理しやすそうな野草をみんなで呑気に集めていたのだが、まもなくするとカチャカチャと無粋な骨擦れ音を鳴らしながら骸骨戦士スケルトンがゆっくりと茂みの奥から近付いてくるのが見えた。
兜をかぶったものや、ボロボロのマントを羽織ったものなど多少、装備品に違いはあれど、共通して剣と盾だけは必ず手にしっかりと携えている。
初めて見たなら、その不気味な風貌に気圧されていたかも知れないが例の専門店にて間近でスケルトンを観察したのが効いていた。
みな、警戒して身構えはするものの冷静さは保たれているようだ。
「お出ましですね。ひい、ふぅ、み……どうやら敵は7体のようですよ」
アトラスの言う通り、敵の数は7。
だが周りは茂みだらけの林道だ。
ここからは見えない敵が潜んでいる可能性も頭の隅に置いておこう。
「頭数では私たちより多いですけど、どうしますか?」
シュペットちゃんが腰のレイピアに手をかけながら意見を求めてくる。
「えーっと、どうしましょ?」
俺は頼れる戦術アドバイザーの文川さんに丸投げした。
「乱戦は避けよう。私たちはこのままゆっくり後退しつつ、一体ずつ仕留めるチャンスを伺って、確実に数を減らしていきましょー」
「おk」「ハイ!」「分かりました!」
俺たちみたいな初心者が好き勝手に行動したり、意見が割れると混乱しそうなので、基本的には文川さんが指示を出すことにあらかじめ決めていた。
早速、指示通りに後ずさると茂みを抜け出てきたスケルトンが早足でコチラに向かってくる。
先頭のスケルトンがいよいよ眼前に迫ってきたので、俺は武器屋で買ったばかりの長さ2.5メートルほどの棒の先に鉄塊がついた戦鎚でソイツの頭蓋骨を遠距離から殴り付けようと狙ってみた。
しかし、
ゴツンッ!
と、鈍い音とともに盾で防がれて、グイッと戦鎚を押し返される。
「っとと……!?」
骨だけのクセに思ったよりパワーはあるようで、俺はバランスを崩した。
「君島くん、大丈夫っ!?」
心配性な文川さんが思わず俺の名前を間違えた。
いや、君島くんで合ってるけど今は人前だからソラくんですよ文川さん。
「だいじょぶだいじょうぶ。しかし、そんな簡単に倒せるほど甘くはないな」
すぐさま体勢を整えて、俺に接近してくるスケルトンからサササッと距離をとる。
するとスケルトンは再びモタモタとコチラを追ってくる。
なるほど。コイツら、早歩きは出来るものの「走る」という事は出来ないみたいだ。
俺たちがヤバそうなら走れば簡単に逃げる事は出来そうだし、ベテラン冒険者たちが「大した敵じゃない」と言ってたのもなんとなくうなづけた。
とはいえ、手に持ってるギラついた剣を見ると接近戦はやはり危なっかしく感じるのも事実だ。
「さて、それじゃそろそろいってみようか。フォローよろです」
「おkおk」
文川さんの合図で俺は再び戦鎚を、向かってくるスケルトンの方に突き出す。
ただ今度は頭蓋骨などは狙わず、敵の前に漠然と突き出してみるだけ。
スケルトンはそれを警戒して盾をスッと前方に構える。
「さぁ、うまくいきますように……」
そのスキに、文川さんが道具屋で購入した部品で自作した、先端がL字型の長い棒をスケルトンのお留守な足元にそろ~っと差し込む。
「せーのっ!」
そして、L字型の先端部をスケルトンの膝裏に引っかけて、文川さんは棒を一気に引っぱる。
すると後ろから誰かに膝カックンを喰らったみたいに、スケルトンの膝がカクンッと曲がり、そのままスケルトンは尻餅をつくように後ろに倒れこんだ。
「今だよっ!」
「任された!」
尻餅をついて一瞬、動きの止まったスケルトンに俺は戦鎚を素早く振るって、今度こそ頭蓋骨を的確に撃ち抜く!!
パキィィンッ!!
と、乾いた音が鳴り響き、頭蓋を砕かれたスケルトンは糸が切れた操り人形みたいにガチャガチャンッ!! と地面に崩れ落ちた。
「やったか!?」
俺は思わず叫ぶ。
「ソラくん、それ、やってないフラグだよ!?」
「しまった!!」
初歩的なミスを犯した自分を恥じつつ、俺は慌てて口をつぐんだ。
しかし、頭部が砕けたスケルトンはピクリとも動かない。
そして、空洞の頭蓋の中にキラリと何かが光った。
「あっ、アレは……魔石ですよ!!」
アトラスが指差す先には魔物にトドメを刺した際に出現する魔石が確かに、あった。
「って事は……?」
「勝ち確定! いよっ、日本一!!」
俺と文川さんはパンッ! とハイタッチする。
しかし初勝利の余韻に浸る間もなく、残り6体のスケルトンがガチャガチャと群れをなして近付いてくる。
「よーし、この調子で残りもドンドンいこう! でも油断は禁物だからね!」
「おk!」
これで敵に知能があるなら同じ戦法は何度も通じないだろうが、敵は無知脳なスケルトン。
仲間がどうやってやられたかなど気にも止めず、ただひたすらに向かってくる。
文川さんがL字棒で足を引っかけ、俺が戦鎚で叩き砕くという安全な遠距離からのコンビネーションで餅つきのようにペッタンペッタンとリズミカルに頭蓋骨を破壊していく。
そんな感じで4体目までは順調だったが、5体目は鉄兜をかぶったスケルトン。
いけるかと思って兜の上から鉄鎚を叩きつけたものの、頭蓋骨は砕けない……!!
俺は急いで二撃目を振るう。
しかし、スケルトンは咄嗟に剣を持った腕を振り上げ、頭蓋骨をガード!!
バキンッ!!
と、音を立ててスケルトンの手首と肘の間の尺骨部分を砕いたが、活動停止にはいたらない。
慌てて三撃目を繰り出そうとするが、残り二体のスケルトンが剣の届く距離まで近付いてくる。
「ソラさんっ、ソイツはボクが仕留めますから残りのスケルトンを!!」
「っと、分かった! お願いします!!」
アトラスは素早く、仕留め損ねたスケルトンを蹴り飛ばして残りの二体から引き離す。
剣を持ってた腕は砕いたから攻撃力は無いに等しい。
それなら上半身になんの装備もしてないアトラスでもケガする心配はないだろう。
ソッチはアトラスとレイピアを構えてフォローにまわるシュペットちゃんに任せて、俺と文川さんは残り二体のスケルトンに集中した。
☆☆
アトラスの炎の連続パンチ攻撃でスケルトンのあばらが砕け、やがて背骨を叩き折り、骨だらけの上半身が地に堕ちる。
そこに合わせて素早く頭蓋骨を踏み抜き、アトラスはスケルトンにトドメを刺した。
「おー、さすが炎の勇者。見事なもんだなぁ!」
既にスケルトンを倒し尽くした俺たちはアトラスの勇姿にパチパチと拍手して讃える。
「ふぅ~ぅ、勝てた……! 見ててくれましたかソラさん!」
「ああ、ちゃんとコンビネーションって感じの技でカッコよかったぞ」
「本当ですか? えへへ……ソラさんもすごくカッコよかったですよっ!」
と恥ずかしそうに照れまくっていた。
かわゆいヤツよ。
「ナギさんもお疲れさま。攻略法、大成功だったね」
「うん、まぁでもこの程度の数が限界だね。ゾンビ映画みたいに何十体も群がってきたら、あんな事やってられな……あ、でも狭い通路に誘い込めばいけるかな……」
文川さんも喜んではいるようだが、すでに次なる闘いを見据えているようだ。
スライム攻略の時もそうだが、一時の勝ちに満足せず少しでも効率を上げるやり方を模索する様子は、ネトゲやソシャゲでイベントランキング上位に食い込む廃人ゲーマーを彷彿とさせる。
正直、プレイヤーネームが女っぽい名前でも強い人はみんなネカマなんだろうなと思ってたが、文川さんみたいな戦闘民族系女子って実在するんだな、と認識を改めさせられた。
「ふわぁ……ナギちゃん本当にスゴいんだね……! 私、全然、出番がなかったよ」
「いや~、たまたまですよ、たまたま」
シュペットちゃんは何かあったときのための保険として待機してもらっていたが結局、出番は無し。
そしてソレを不服と感じている様子はなく、嬉しそうに文川さんに抱きついている。
「でもアレですね。あっさり勝てすぎてあまり訓練にはならなかったかも」
アトラスが物足りなさそうにシュッシュと拳を繰り出し、体を動かす。
「もう、アトラスったら調子にのっちゃって。ナギちゃんとソラさんのおかげで武器を持たないスケルトンと戦わせてもらって安全に勝てただけなのに」
「なっ……!!」
シュペットちゃんにたしなめられたアトラスが慌てて俺の方を伺うように見る。
いや、なぜ俺を見るのか。
「もうっ、あのくらいの動きの相手なら剣を持っててもボクは勝てましたよ!」
「でも、この人たちが二体倒しきっても、まだアトラスは剣も持ってないスケルトンにトドメを刺しきれていなかったのよ?」
「う、うぅっ……」
アトラスはグゥの音も出ないが納得もいってない雰囲気だ。
シュペットちゃんはアトラスが心配なんだろうなぁ。
彼女はアトラスの実家のお屋敷に仕えるメイドさんの娘さんにして幼馴染みらしく、年齢的に姉と弟のように育ったらしい。
というかシュペットちゃんみたいな美少女幼馴染みがいる時点でもはや勝ち組だよな。
俺も転生する機会があったら美少女の幼馴染みをください神様。
「見て見てソラくん」
スタイルのいいシュペットちゃんの網タイツごしの脚線美を眺めながら気を高めていると文川さんが急に声をかけてきた。
「俺はいつだってナギさんしか見ていないよ」
俺は流れるように嘘をついた。
「なっ、いきなり何を言ってるのよ!?」
「いや、なんでもないんだ。それより、どうかした?」
「え、えーと、あの、ほら! 魔石を集めてきたの!」
頬を紅くする彼女の手には倒れたスケルトンから回収された魔石がいくつもあった。
一つ一つの大きさがスライムのものよりかなり大きい。
「おーっ、これは高めに売れそう!」
「だよね! 依頼の報酬と合わせたらなかなか稼げそうだよ」
俺も文川さんも実はアトラスの意見には賛成で、さっきのスケルトン攻略法では本物の強さが身に付かないことは重々承知している。
なので、まずは魔石で金を稼いで良質な防具をキチンと準備してから正攻法で挑もうと話し合っていた。
スケルトン討伐クエストは尽きることは無さそうなので、シンナイでのスライム狩りと違って満足のゆくまで装備を強化出来そうだ。
がさガチャッ……。
「ん?」
俺たちがわちゃわちゃやってると茂みからスケルトンが一体だけ姿を現した。
こういう事もあるだろうと想定はしてたので動揺は特にない。
俺と文川さんは目と目で合図して、うなづきあいスケルトン攻略用の武器と道具を構える。
「ボクに任せてくださいっ!! ハァアアアーーーーッ!!」
と、アトラスが拳に炎を纏って弾丸のように飛び出していった。
「アトラス!?」
剣を持ったスケルトンに殴りかかるアトラスを見て、シュペットちゃんが声を上げる。
スケルトンがアトラスの小柄な身体めがけて剣を無造作にビュッと降り下ろす。
体をひねって刃をギリギリかわすアトラス。
見ていてヒヤヒヤするが、回避と同時に素早く肘撃ちをスケルトンの胸骨に叩き込むあたり、敵の動きを見切っているようにも見えるが……。
「えっ、えっ!? ソ、ソラくん、どうしよう……?」
次々と繰り出される斬撃を紙一重でかわすアトラスを見て、動揺を見せる文川さん。
むむ、危なっかしいので俺も戦鎚で加勢しようとも思ったが、下手に手を出すとめまぐるしく動きまわるアトラスの邪魔になりかねない。
それはシュペットちゃんも同じ考えのようで、険しい表情でレイピアを構えながらも動けないでいる。
「アトラス! お願いだからいったん離れてっ!!」
「みんなはそこで見ていてくださいっっ! ボク一人でもやれますっ!!」
よせっ、アトラス!!
それ以上、不吉なフラグを立てるんじゃないっ!!
その時。
剣を警戒しすぎるあまり、逆サイドへの注意が疎かになったのかスケルトンが不意に突き出した盾に身体を弾かれ、軽量のアトラスは大きく身体をのけぞらせバランスを崩す。
そして、そこに無情なスケルトンの一撃が襲いかかった。
ザシュッ!!
と、刃が地面を貫いた。
アトラスは上半身のバランスを崩しながらも身体をぐるりとひねって漫画に出てくる旋風脚のような蹴りで斬撃をかわしつつスケルトンの腕をヘシ折った。
スケルトンの剣を持つ腕はかろうじて繋がってはいるがダラリとぶら下がり、まともに剣を振るうことはもはや出来なさそうだ。
はぁ……とシュペットちゃんが安堵のため息を漏らすのが聞こえた。
「行きますよっ!! 必殺!! 爆熱ゴッド……インフェルノ!!」
カッコいい掛け声とともにアトラスの拳が真っ赤に燃えて、勝利を掴むために轟音とともに爆炎が噴き荒れる。
そして、その気配に反応したスケルトンが断末魔の悪あがきかギギギとブラブラと折れ揺れる腕で無理やり剣を振るう。
すると、その勢いでかろうじて繋がっていた腕が剣を握ったまま、ぶっちぎれてすっ飛んでいった。
回転しながら飛んでいく腕つきの剣はアトラスとはあらぬ方角へ……
というか文川さん目掛けて飛んできた。
「えっ」
ドサッ。
目を見開いたまま棒立ちだった文川さんを俺は咄嗟に押し倒した。
「あ、あ……?」
一瞬、何が起こったか分からず、アトラスがコッチを呆けたように見てるのが視界に入る。
「アトラス!!」
そこへシュペットちゃんが一喝。
ハッとしたアトラスは迫り来るスケルトンの頭蓋骨を上段廻し蹴りの一撃で粉砕したのだった。
というか、爆熱なんとかで倒さないのかよ、その燃える拳はどうするんだ。
などと気にしてる場合じゃない。
文川さんは大丈夫なのか?
スケルトンは倒され脅威は過ぎ去った。
ので、今度は文川さんの安否を確認する。
「文川さん、平気? ケガしてない? 痛いとこない?」
「ん……うん」
彼女の顔を確認しようと顔を向けると押し倒した状態だから思ったより顔が近かった。
目と目の距離はわずか三センチほど。
俺と文川さんの鼻の先っぽ同士がツンッと触れあい
少し動いたら唇と唇がくっついてしまいそうだ。
文川さんの顔がドキドキしているのが分かる。
もちろん、俺もドキドキしている。
彼女の潤んだ瞳が俺を見つめている。
彼女の甘やかな吐息が俺の口の中へと流れこんでくる。
ああ。
ああ……。
なんて可愛い女なんだろう。
もうキスしちまえ。
俺は顔をわずかに前へ動かす。
「いや……」
「え?」
「嫌あああああああああああああっ!!?」
文川さんが拒絶の声を上げるのを聞いた瞬間、バッと後ろに飛び退き顔面を地面に叩きつけて土下座した。
「違うんです。誤解なんです。この度の不始末を心より深謝致しますとともに何卒ご容赦のほど伏してお願い申し上げます」
「ち、ちが……君島くん……腕っ……」
ん?
顔を上げると文川さんが顔面蒼白、震える指で俺を指していて、なんだろうと思って身体を見回すと右のニの腕にザックリ傷が出来ていてなんかもう血が噴水みたいにビュルビュル吹き溢れていた。
おほぉ~っ!! あっぶねぇ~っ!!
文川さんはコレを見て「嫌!!」って叫んだのか~。
いや~、嫌われたと思って一瞬、異世界に来て最大級に絶望しましたわ~。
「あー、よかった」
「なんでその傷見てそんな結論になったの!?」
なんて、文川さんの可愛い声でツッコまれることに喜びを感じながら俺の身体から力が抜けて地面にべちゃっと崩れ落ちる。
あー、あったけぇ。
地面に俺の血だまりがじわじわと拡がっていく。
泣きじゃくりながら俺にしがみつく文川さんと、向こうから走り寄ってくるアトラスとシュペットちゃんの網タイツ越しの脚線美を眺めながら俺の意識は急激に闇の底へと沈んでいったのであった。
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