18話 頭が弱点じゃない敵がいたら教えてください
炎の勇者アトラスたちと共闘する事に決めた俺たちは、冒険者ギルドに戻って正式にスケルトン討伐の依頼を引き受けた。
依頼内容は街から少し離れた山菜採りポイントに数体のスケルトンがうろつくようになったから残らず殲滅してほしいとの事。
報酬は金貨2枚。高いと思うか安いと思うかはアナタ次第。
『数体』って表記がクセ者で2~3体と7~8体じゃ俺たち初心者には大違いだが、1体だけ、2体だけとハッキリ記載されているクエストが無いから仕方ない。
下手に『5体』とか表記して実は6体いた、なんて事になると依頼者と冒険者との間で揉める原因になるので『数体』と表記するのが一般的になったそうな。
「現場に行ってみて9体いたら即撤退でいいかな? というか何体までならイケるんだろうか俺たち」
ギルドから先ほどの文川さん飛び降り喫茶に再び向かいつつ相談をする。
ゲームと違って本当に命懸けなので、しばしば雑魚扱いされるたかだかスケルトン討伐でも細かく打ち合わせしておきたかった。
「スライムを余裕で倒せる人ならスケルトンとのデビュー戦で9割方、一対一で勝てると聞いたことはありますよ!」
アトラスが元気いっぱいに答えてくれる。
「それ、残りの1割はしくじるって事か?」
「ええ! でも大丈夫ですよ、たった1割ですからね!」
と、彼は死亡フラグを高々と天に掲げた。
「もうっ、アトラスは楽観的過ぎるんだから……。私たちは4人いるんだから、誰かがその1割になっても不思議じゃないでしょ? 慎重にいかなきゃ」
ウサギ耳美少女のシュペットちゃんがたしなめる。
「あの、というか私、そもそもスライム余裕で倒せないんですけど……」
そして文川さんが申し訳なさそうに手を上げる。
「あれ、お二人でかなりの数のスライムを倒したって先ほど仰ってませんでしたか?」
「私は穴に落としてただけだから……。罠にひっかけただけだよ」
「罠? スライムに罠って……ナギちゃん、すごーい! 私、スライム相手に作戦を駆使して勝つ人、初めて見たかも!」
シュペットちゃんが文川さんを見てピョンピョン跳ねながら褒める。
いや、褒めてるのか? 表情的には本気で褒めてそうだが。
まぁ文川さんも「ふふ~ん!」ってドヤ顔してるし別にいいか。
というか一瞬で仲良くなったな、この二人。
「作戦と言えばナギさん、今回はスケルトン攻略法とか思い付かない?」
「うーん、話を聞いただけじゃまだピンと来ないかなぁ」
文川さんはアゴに人指し指をあてて考えるポーズを見せる。
ちなみにスケルトンの情報は「剣をやたら振り回してくるが生前の知能はないので剣術スキルはない」「動きはただ標的に直進してくるだけで単調」「落ち着いて戦えば赤ん坊でも勝てる」以上3点だ。
いやいや、赤ん坊が勝てるワケねーだろ! と教えてくれたベテラン冒険者のおっさんにツッコミたかったが、まぁ冷静に戦えば必ず勝てる程度のザコ、という事なんだろうなぁ。
「まぁでもアレだよね。お金があれば本当はもうちょっとちゃんとした防具が欲しいよね。スケルトンは筋肉が無くて、鉄をも貫く攻撃力は無いって話だから鉄兜や鉄籠手、腹部を完全に覆う鎧があれば、そこの防御を気にする必要がなくなる分、他への防御に専念出来るんだけど」
おお、さすが文川さん。謎の分析力。
なんか、防具って漠然と考えてたけど、戦闘でやらなきゃいけない事を減らすって考えれば分かりやすいんだな。
異世界系のラノベだと、みんなフツーに服のまま闘ってるから「俺も!」とか内心思ってたが、ああいう連中はチート能力があるんだろうから参考にしちゃいけなかったのか。
俺みたいな凡夫は脳を守る兜と内臓を守る胴当てくらいは装備しといた方がいいかも知れん。重そうだけど。
などと考えていると、隣にいる上半身裸のアトラスが気になった。
「アトラスはなんで裸なんだ? そういう性癖なのか?」
「せっ!? ちが、違いますよっ! なに言ってるんですかっ!? ソラさんのえっち!!」
アトラスは顔を赤らめて抗議するが街中で半裸で歩いているヤツにえっち呼ばわりされるのは何か納得がいかなかったがシュペットちゃんがドン引きした目で俺を見ていた気がしたのですぐ謝った。
「本当に申し訳ありませんでした」
ちなみに文川さんはニヤニヤしている。
「もうっ……ボクが服を着ないのは武器の性質上の問題なんです」
そういうとアトラスは真紅の鉄籠手を前に突きだしてガチャッと拳を握る。すると……
ボォッ!!
鉄籠手から炎が噴き出し、メラメラと燃え出した。
「おおっ、それは……?」
「炎の力を宿したアーティファクト、フレイムインパクトです!」
アーティファクト!
この世界に存在する、魔法の力を宿した武具アイテムだ。
かなりの貴重品で一般の冒険者がおいそれとゲットできるものではないらしく、そんな貴重品を1回だけ確実にランダムで入手できるガチャを回せるのが俺たち異世界召喚勇者のアドヴァンテージってワケだ。
「これは偉大な祖父から譲り受けた籠手で、ボクの格闘術に炎の力が上乗せされて凄まじい破壊力が叩き出せるんですよ!」
アトラスは自慢げに両拳に炎を宿らせてブンブン振り回す。
連続パンチの軌道をなぞるようにオレンジ色の炎が次々と弧を描き、まるで昔の格ゲーキャラみたいだ。
「うわぁあああカッコいいね! アトラスくん、やるぅ! ちょっと『ボディがお留守だぜっ』とか言ってみてくれる?」
「え? ボディが……おるすだぜー?」
リクエストに応えるアトラスに文川さんも大興奮だ。
というかこの人、乙女なのに格ゲー詳しそう。
「と、こんな感じで武器としては優秀なんですけど、これを使うと服がすぐに燃えちゃうんですよね。それに、この炎で直接ボクが火傷を負うことはないんですが金属の鎧が熱せられるとソッチでは火傷しちゃう仕様でして」
それで上半身に何も装備できない、ってことなのか。
「なるほどなぁ。俺も似たような武器持ってるから感覚は分かる」
とファイアバゼラードを抜いて火を灯してみる。
俺も短剣から出た火自体ではダメージを喰らわないが、木に燃え移って独立した炎は普通にクソ熱い。
「わっ、ソラさんも炎のアーティファクトを!? ボクたち、お揃いですねっ!!」
「ん? はは、そうだな」
アトラスがあまりに嬉しそうに言うから相槌を打ったが、どうせなら違う属性の武器の方が色んな敵に対応できるのでは……とも思った。
でもスケルトン退治にそんなに色んな属性はいらないか。
あの手の不死者は火属性が弱点っぽいし、むしろ好都合まである。
「はぁ……でも私は心配ですよ。アトラスが防具もつけずに敵と戦う姿を見てるのは……スライムくらいならなんとかなりましたけど……」
「そうだね、スケルトンは刃物を持ってるからちょっと見てて怖いね……」
不安そうなシュペットちゃんに文川さんも同調する。
「大丈夫ですよ二人とも! ボクの素早さでカスらせもしませんから!」
確かに文川さんをキャッチした時といい、先ほどのパンチの演武といい、アトラスは動画の2倍速みたいな速さだったが、この先すべての攻撃を避けきるなんて出来るんだろうか……。
俺などに無邪気になついてくれるこの年下の少年に可愛げを感じてきたので、もし何かあったらお兄さん泣いちゃうぜ?
「ん?」
例の飛び降り喫茶店の前に着いて、ふと周りを見回すと少し離れた場所で軒先に骨を飾っている店が目に入った。
骨……?
もしかして……アレがケルトン君グッズ専門店?
そういえば坂を上って右に曲がるとかお姉さんが言ってたけど、喫茶店からこんな位置関係にあったのか。
「どしたの、ソラくん?」
文川さんが俺の顔に自分の顔を近づけて俺の視線の先を追った。
文川さん、顔が近いッス!
オラに元気を分けてくれているのだろうか。
あと30秒で元気玉が完成しそうだったが、その前に理性がスパーキングしそうだったのですみやかに説明する。
「いや、あそこにスケルトン専門店ぽいのが見えたから……。専門店っていうくらいだからスケルトンの攻略本とか取り扱ってないかな、と」
「ほほ~ぅ、なるほど。無くはないかもね!」
文川さんも同意してくれた。
「それならちょっと覗いてみませんか? 攻略本はなくても店員さんが詳しい可能性もありますし」
シュペットちゃんも賛同してくれたので俺たちは一旦、スケルトン専門店に移動した。
「うわぁ、ボクこんな店は初めてですよ……」
店の前にはケルトン君ぬいぐるみやケルトン君キーホルダーにフィギュアなどがところ狭しと並んでいて、中に入ると水着スケルトンが色っぽいポーズをとってるどこに需要があるのか謎のポスターや、リアルな骸骨のカタチをしたキャンディなどがあってアトラスが驚嘆の声を漏らす。
パッと見、攻略本ぽい商品は見当たらないので店員に聞こうと店の奥に行くと……
カタかたカタかたカタかたっ。
「うわぁあああああああぁっ!?」
店の奥にスケルトンがいた。
と言っても昔懐かしの電話ボックスくらいの狭さの檻に閉じ込められていて、奴がコチラに近付いてくることはない。
ただ、檻のスキマから両手の骨を伸ばしてカチャカチャと揺れ動いていてなかなか素敵に不気味だ。
「ワッハッハッハ!! いやぁイイ驚きっぷりだな! それでこそバケモンを居候させてる甲斐があるってもんだぜ!」
店の奥の通路から店主らしいオッサンが姿を見せた。
「お、お客を驚かせるためにス、スケルトンと一緒に住んでらっしゃるんですか……?」
信じられないアホを見る目付きでシュペットちゃんが訪ねる。
「おうよ!」
迷いのない少年のような曇りなき眼で店主のオッサンは即断言した。
まぁ一見、狂気の沙汰だがコレはコレで集客効果があるんだろうな。
文川さんなんか興味津々といった顔で檻のスキマから手を入れてスケルトンにチョイチョイ触ってみたりしてる。
ってか恐くないのか、あの人。
生粋の異世界人のアトラスとシュペットちゃんですらちょっとひいてるってのに。
「あの……ところでこの店、スケルトン攻略本とかってないですかね? 我々、新人冒険者なもんでそういうのがあればありがたいな、って」
「攻略本? そんなモンは無ぇ!! だがコイツらは頭が弱点だ。あと全身の骨を砕いたら動けなくなるぜ」
それはすごい情報だ! でも大体の敵は頭が弱点で全身の骨を砕いたら動けなくなるからな。もっとお得情報はないんですかねぇ。
「ソラくん、ちょっと武器屋と……あと道具屋、かな? に寄っていい?」
檻の前でしゃがみこみ、スケルトンの膝を曲げてカクカクさせて遊んでた文川さんがおもむろに立ち上がる。
「えっ……ナギさん、もしかして何か思い付いちゃった?」
「うん、びびびっとキちゃった。スケルトン攻略法! ……自信無いけどね」
と、自信満々な表情で言い放つ文川さんであった。
ブクマ評価感想ありがとうございます!
じわじわptも伸びて80p達成です!
年内100ptいくかなぁ~。
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