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17話 仰げば尊し


「スケルトン討伐……?」



 俺のつぶやくような問いかけにウサギ耳リボンの美少女は「はい」と答えながらコクリとうなづいた。


 うーむ……。



 このコ、俺が過去に出会った女子の中で最高峰に美少女よな。



「ソラくん、どうしたの?」



 ぎくっ!!



「ふみかっ、ナギさん!? いや、チョットネ!」


 俺が美少女にデヘヘ……と見惚(みと)れたタイミングで文川さんがあらわれた!


 なにもやましい事はしてないが、なにやら焦ってしまったぜ。



「この人たちは……? 私がいない間に仲良くなったの? もしかしてソラくん、今こっそりリア充になろうとしてなかった?」


「し、してないしてない!! 濡れ衣だ!!」



 あれ? なぜ俺は今、尋問を受けているのだろう。


 とにかく文川さんの目が怖い。


 というか俺がリア充になったら一体、何が起こるのですか。超こわい。




「あの……ご迷惑なら私たちはこれで失礼しますが……」


「えぇ~! もうちょっと交渉するべきですよ! 彼らより良さそうな人材は見当たりませんし!」


「でも私たちのせいでモメているみたいだし、ご迷惑をかけるワケにはいかないでしょ?」




 俺と文川さんがモニョモニョやってる間に、俺に話しかけてきた二人もゴニョゴニョやりだした。

 



 よし、状況を整理しよう。


 まず、スケルトン討伐は俺も挑戦してみたい。ただ、無事に勝てるという自信も根拠もない。


 ならば俺と文川さんの二人きりで挑むより、この二人も一緒に討伐を手伝ってくれた方が単純に勝率も安全度も上がるのは明白。


 二人の実力は未知数だが、片方は炎の勇者っていうくらいだし弱いってことはなかろう。




「分かりましたよ、とりあえず話を聞かせてくれますかね? やるかどうかは事情を詳しく聞いてからって事で」


「いいんですか!? やった!! ありがとうございます!」


 半裸の美少年が花のような笑顔を浮かべて俺の手を包むように握ってきた。


 うーん。しかし俺、そんなに期待されるほどの逸材じゃないんだがなぁ……。



 ハッ!?


 こんな仲良くお手々を握りあっていたら、また文川さんにリア充がどうとか責められる!? と、とっさに彼女の方を見ると



「なかなか絵になるわね……」



 などと言いながら彼女は満足げな笑みを浮かべていたという。



 じゃ、じゃあ一旦、ギルドを出て落ち着いた場所で話そうネ! ……という流れになったがその前に。



 文川さんたちには「トイレに行くから入り口で待ってて」と伝えつつ、ササッと受付のお姉さんに話しかけに寄る。



「あの……なんとなく察したかも知れませんけど、僕はその……」


「えーと……やはり、さっきの情報の『逃亡した勇者二人』というのはあなたたちの事なのですか?」


 お姉さんが声のトーンを落として辺りを伺うようにヒソヒソと話す。



「はい、いえ、魔物から逃げたのは確かですけど囮になったのは僕の方で、何か事実が色々と間違って伝わっているみたいですけど」


「そうなんですか? よかった、骨好きな貴方(あなた)がそんなことする人には見えなかったですから! あ、申告書を提出すれば情報を修正することも可能ですよ。不名誉を着せられたままでは今後の活動に支障をきたすでしょうし」



 おお、そんなこと出来るんだ! と思いもしたがそれをすると俺たちの事がクラスの連中にバレてしまい面倒なことになりそうだ。



 それに俺たち二人が真実を語っても残り38人が口裏を合わせたら、どうせソッチの方が真実になるんだろうしな。


 だったらもう放っておこう。



「いえ、それはいいです。それより、この連中とはもう2度と関わりたくないので僕がここのギルドに来たという情報は流さないようにする事って出来ます?」


「ああ、そういう話ですか。えーと、一応、報告の義務があるのですが……」


「あっ、お姉さんに迷惑がかかるなら別にいいです。自分でなんとかしますので」


「勇者様……」



 こうなったからには、とりあえずこの街からさっさと移動した方が良さそうだ。


 真実を知ってる俺たちを野放しにしとくのはヤツらも不安だろうし、追ってくるかも知れない。


 俺が余計な詮索をしたばっかりに……あとで文川さんに謝らないとな……。




「いえ、私はここで骨好きの冒険者さんと世間話をしただけです。勇者様とは会っていません。ゆえに報告することなんて何もありませんね」


 俺がウームと考えていると、お姉さんはニコリと微笑んで、そんな事を言ってくれた。



「え、報告しなくて大丈夫なんですか?」


「ケルトン君の可愛さが分かる人に悪い人はいませんから!」


 お姉さんは親指を立ててウィンクする。



 おお、最初はツンツンしてて苦手な感じがしたが、すっげー良い人じゃないか!


 こりゃ本当にケルトン君グッズとやらが売ってるって店に行ってお姉さんにプレゼントでも買ってお礼しなきゃな。



 俺は彼女に深々とおじぎして冒険者ギルドをあとにしたのだった。




☆☆




 合流した俺たちは炎の勇者たちの案内で、坂の上にある喫茶店で話をすることにした。


 坂の上、さらに2階のテラス席なので眺めがよくメシュラフの街を一望できる特等席だ。


 暖かな陽気に、下で流れている川のせせらぎがよいBGMとなり、座ってお茶してるだけでなんだか幸せな気分になれる。


 後日あらためて文川さんと二人きりで来るのもいいかも知れないな。



「それで、スケルトン討伐を一緒に……って話だけど、なぜ俺たちと?」


 よく知らない人間と世間話するスキルなど持ち合わせていない俺はとっとと本題に入った。



「先ほど名乗った通り、ボクは炎の勇者! ……なのですが実は1週間前に冒険を始めたばかりのホンのカケダシでして。初めてのスケルトン討伐は念のために仲間がいた方が心強い、と適任者を探していたのです」


「あまりにハイレベルな方には頼みづらいので実力、立場の近そうな人がいいねって二人で話していて……」


 炎の勇者の説明にウサ耳美少女が補足をつけくわえる。



 なるほど、実力は分からんが立場は近いかもな。


 かけだしの冒険者、ってだけじゃなくかけだしの勇者ってトコも一緒だし。


 というか俺、勇者らしい事は何もしてないけど勇者としてカウントされてよいのかしら。



「はい」


 突然、沈黙を守っていた文川さんが例によって挙手した。


「文川さん、どうぞ」


「冒険に出たばかりなのに、どうして『炎の勇者』というカッコいい称号があるんですか?」


 彼女はまっすぐ俺の目を見て発言した。


 うーん、やっぱり好みで言えば文川さんが一番可愛いな……。


 じゃなくて、なぜ俺に聞くのか。




「あ、えっと、ハイ!」


 文川さんにならって炎の勇者も手を挙げる。


「えー、炎の勇者くん、どうぞ」


「ありがとうございます!」

 

 発言を許可された彼がガタンっと元気よく席を立ち上がる。



「ボクの祖父カトラスが炎術を得意とする魔法戦士だった事から『炎の勇者』と呼ばれ、跡を継いだ父も叔父も兄たちや従兄弟たちもみな、年頃になると炎の勇者と名乗る感じになっているのです!」


「つまりノリで名乗っているんですか?」


 文川さんが俺の目を見て尋ねてきた。


 そんなこと、俺に聞かないでくれ。



「えと、まぁ、確かにそうですね……はい。ノリ、ですかね……。ボクなんてまだ何も成し遂げてないのに、勇者なんて名乗っちゃって、よく考えたらおこがましいですよね……」


 炎の勇者は文川さんの質問に精神的ダメージを負ったようだ。


 元気いっぱいに見えたけど、とっても打たれ弱いみたいだよ。


 というか、この空気どうしたらいいの?


 陰キャの俺には荷が重い局面!!



「あの、あまりアトラスをイジメないでくれませんか? 未熟で至らない所はまだいっぱいありますが、悪いコではないのに……」


 ウサギ耳美少女がちょっとムッとした空気を漂わせた。


「あ、えぅっ……」


 その雰囲気に気圧されたのか、文川さんがうつむいて肩をカタカタと震わせる。



 先程までとは一転、気まずい空気。


 川のせせらぎのサラサラという音だけが虚しく流れる。



 くっ、どうする?


 ここはいっそ、俺が全裸になって逆立ちしながら「ファイナルうんこ!!」とか叫べば謎のインパクトですべて水に流せないものだろうか。



「あ、あの……」


 俺が制服の上着を脱ぎかけたその時、文川さんが2階のテラス席の端の平坦な手すりの上によじのぼった。


「えっ!?」


「ナ、ナギさん、何を……!? あぶないって!!」


 2階、といっても坂の上にある喫茶店でテラス席の下は切り立った崖みたいになっていて、落ちたらヤバそうですがなにか!?



 俺と炎の勇者は状況が飲み込めずに慌てている。



「こ、ここから見事に飛び降りるので、不思議なインパクトで、す、すべて水に流してくれませんか?」


 この(ひと)、発想が俺と同レベルだよ!?



「そ、そんな事を言って……口だけなんじゃないですか? ほ、本当に悪いと思っているなら、まずキチンと謝って……」


 動揺しつつもウサギ耳美少女がそう言った瞬間、文川さんはフッと本当にテラス席から飛び降りた。



「いやぁああああああああああああああ!?」



 ウサギ耳美少女が悲痛な叫びをあげる。




 と、素早く動き出した炎の勇者が手すりから身を乗り出して、落ちていく文川さんの脇に手をまわして間一髪キャッチする。



 しかし文川さんの重量を支えきれずに落ちそうになったところをまたもや間一髪、俺が彼の腰に両腕を回してガッチリ支えた。



 とりあえず安定したので、時間をかけてなんとか彼女を引き上げる事が出来たのだった。



 あー、焦った。




☆☆



「ご、ごめんなさい……わ、私ったらなんてひどい事を……本当にごめんなさい……グスッ」


 ウサギ耳美少女は泣きながら俺と文川さんに謝罪する。


「ううん、どう考えてもわ、悪いのは私だよ……わ、私……初対面の人、

苦手だからテンパっちゃって……なんか愉快なコト言わなきゃって思って初対面なのにうっかりディスりネタをカマしてスベっちゃって……ヒック、ごめんなさい……」


 スベったら命で償うとか、修羅の世界かよ!



「あー、こんな事になっちゃったけど、どうする? スケルトン討伐」


「あー……どうしましょっか」


 俺は炎の勇者と顔を見合わせる。


 悪い話じゃなかったんだが、こうなった以上はご破算かな。


 なんとなくそんな空気を彼も感じ取ったような、残念そうな表情だ。



 ああ、でも別れる前に言うことは言っておこう。




「さっき、ナギさんを助けてくれてありがとうな。その、ちょっとおかしなトコロはあるけど、俺にとっては大切な人なんだ」


「ひぅっ!?」


 おそらく『俺にとっては大切な人』発言に文川さんが泣きながら反応する。



 いやー、大切な仲間って意味ですよ? カン違いしないでよねっ!


 まぁ実際、最近は文川さんの欠点が色々と見えてきて逆に親しみがより一層湧いてきたのは事実だ。


 俺自身が大した人物じゃないからなぁ。



 恋愛シミュレーションゲームのメインヒロインみたいな非の打ち所のない女子とかつけいるスキがなくって一緒にいても居心地悪そうだ。


 そういやウチのクラスにもいたっけ、そんなパーフェクト女子が。


 実際、なんの接点もなかったわ!




「いえ、元はと言えばボクが勇者だなんて身の丈に合わないことを名乗っていたのが原因ですし……」


 俺が一人脳内ツッコミをしてると炎の勇者がシュンとしだした。



 最初は急に受付のお姉さんとの会話に勝手に割って入ってきて『なに言ってんだコイツ』状態だったが、話してみると確かに悪いヤツではない。


 というより、ここ数年で知り合った誰よりも良い印象で話しやすいヤツかも知れない。


 俺は世界中の人間を幸せにするために行動するほどの善人ではないが、自分が気に入ったヤツくらいには笑顔でいてほしいとは思う。



「そんなコト言うなって。自分も落っこちるかも知れないのに彼女を助けようと迷いなく動いたキミは間違いなく勇者だったぜ」


 ガラではないが、俺はぎこちなくもニカッと笑ってみせた。



「い、いえ、そんな……。貴方こそ、ボクの身体をしっかりとつかんでくれて……」


 とモジモジしながら一拍、間を空けて


「あんな風に支えてもらったのは初めてだったので、なんだかすごく頼もしかったです!」


 炎の勇者は、いや、アトラスはちょっと照れながらも目をキラキラさせながら満面の笑みを浮かべ、俺の事を認めてくれたのでコッチも照れてしまう。



 社交辞令かも知れないが、誰かに認められるって嬉しいものですね。えへっ。


 俺たちは笑いあった。



 するとしゃがみこんでいた女子たちもおずおずと喋りだす。



「あの……私たち仲直りしませんか? あなたの奇行による謎のインパクトにより、お互いすべて水に流すということで……それに、このままお別れしたのではアトラスにもお二人にも申し訳ないですし……」


「え、い、いいの? ありがとう! ごめんなさい! 本当にごめんなさい! そして本当にありがとう!」


 文川さんは申し訳なさそうな、嬉しいような複雑な表情で頭を深く下げる。


 そんな彼女の肩に手をあて、顔を起こしてやるウサギ耳美少女。




 チュッ。




 彼女は文川さんのほっぺたにキスをした。






「えっ、えっ?」


 文川さんは口づけされた頬に手をあて、困惑したように顔を赤らめる。



「ふふっ、仲直りの証しですよっ」


 ウサギ耳美少女も顔を赤くしつつ自分の唇に人指し指をあて、愛らしくウィンクして見せた。




 って、えっ!?


 なにそれ!?


 尊い! 尊い! 尊し!!



 俺は制服を脱ぎ捨て「ファイナル仰げば尊し!」と叫ばずにはいられなかったのであった。



ブクマいつもありがとうございます!

気に入ってくださった方はブクマ、評価などよろしくお願います!

サブタイが卒業式みたいですがまだ完結ではないのです。

今年も残りあと10日ほど、がんばろっ。

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