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10話 激闘!スライム攻略戦!!


 温泉街を出て、てくてくと山道を歩き、途中に設置してある案内板に従ってなだらかな傾斜面をのぼっていくとわりとあっさりヒルデロの丘に到着した。


 高台から見渡すと丘のあちこちに白くてぷよぷよした物体がうごめいている姿が早速、確認できる。



「アレ、スライムだよな……。この辺りのヤツは白いのかな?」



 スライム自体はクラスの連中と行動してる時に何度もお目にかかったのだが、ソイツらのボディはみんな水みたいに透明だったハズだ。


 だけど、ここのスライムの体は白く濁っている。



 ゲームなんかだと色違いの敵はレベルが高かったりするからなぁ。

 

 実はすごい強いスライムとかやめてよね!



「……あの色って街の用水路に流れてた温泉水に似てない?」


 と、眼鏡の文川さんが目をこらしてスライムを見つめている。


「あ、言われてみれば……」



 スライムは水分に自然界に漂う魔素(マナ)が結び付いて誕生する、というのがこの世界での定説らしい。


 ということは、この辺りの乳白色の温泉水に魔素(マナ)ってのがとりついてあの白スライムになったのだろうか。



 それならば今まで俺が戦ったことあるスライムと大差ないよな?


 体がただの水か温泉水かの違いでしかないんだから。



「ま、とりあえずやってみるか!」


 温泉街を出る前に、文川さんにおねだりして買ってもらった木製の盾(銀貨2枚)と火の短剣を構え、俺は近場にいるスライムにゆっくりと慎重に近付いていく。



 む……。



 デカいな。



 以前、戦ったヘレナ平原にいたスライムは高さも幅も1メートルくらいだったが、目の前にいるヤツは1.5メートルほどある。



 あの時のヤツは半径1メートル内に踏みこむと、体の一部を伸縮させて『スライムパンチ』を放ってきた。


 パンチと言ってもスライムに拳があるワケじゃなく、俺たちが勝手にそう呼んでいただけだが……。


 ドッジボールをぶつけられたような衝撃を喰らうので体に当たると結構痛い。


 痛いのは嫌なのでスライムの動きに気を付けつつ、じりじりと距離を詰めていく。



 そして2メートルくらいの距離まで近付いた。


 そろそろ気をつけて踏み込まないと……。



 と、その時、白く濁ったスライムの体の中で赤いリンゴのような玉がチカチカと光る。


 (コア)だ!


 スライムの体は水分の塊なので闇雲に斬りつけてもダメージにはならない。


 倒すならあの(コア)を斬らないと……!



 と、思った刹那。


 スライムの体が



 ぐにょんっ




 とウネって一瞬で俺にスライムパンチを直撃させた!



 バツンッ!!



 と音がして俺は後方に吹っ飛ばされる。




「君島くん!?」


 遠くから見守っていた文川さんの、俺を心配するかわいい悲鳴を聞いてむしろ快感だった。


 いやいや、気持ちよくなってる場合じゃない。


 精神的には余裕だがあんまり心配させては悪いので、俺は即座に立ち上がってスライムから距離をとり、彼女の方まですばやく撤退した。



「君島くん、大丈夫!? ねぇ、大丈夫なの!?」


 文川さんは本気で心配そうな顔で俺の顔と体を交互に見る。


「大丈夫、盾で完全にガードしたから。驚きはしたけどノーダメであります!」



 スライムパンチを見事に防いでくれた盾をポンポンと叩いて文川さんに見せつける。


「ホント? よかった……」


 俺の目をじっと見て微笑む彼女。



 うぉおおおおおおおおおかっわああああああああああああいいいいいいっぜぇええええええ!!!



 ふぅ……。



 おれはしょうきにもどった!!



「さて、どうするかな。とりあえず以前戦ったヤツより攻撃のタイミングが早いのは分かったけど」


「ん……2メートルくらいだったよね。体が大きい分、体を伸ばして攻撃できる範囲も以前のスライムより広いのかも」


「なるほど。コイツも1メートルくらいが攻撃範囲だと勝手に思い込んでたな……」


「あと攻撃の直前に(コア)が光ってたよね。アレが光ったら一旦、防御に専念して防ぐなり後ろに下がるなりして様子見して……で、すぐに踏み込んで次にスライムが攻撃してくるまでどれだけタイムラグがあるか確認してみたらどうかな」


「え? あ、はい」



 文川さん、俺がやられて動揺してるかと思ったらメチャクチャ冷静に観察してるじゃねーか!?


 おそろしいコっ。



「どうする? 次は私も一緒に行こうか?」


「ああ……いや。盾は一個しか無いからもう少し様子見してて。文川さんは最終兵器ってことで」


「そう? 私にやれる事はなんでもするから遠慮しないで言ってね!」



 ヤル気満々だなぁ。


 ありがたい事だが彼女にケガでもさせたら罪悪感と後悔ハンパなさそうなので、出来るだけ体を張るのは俺の役目にしよう。


 と、そんな箱入り娘みたいな扱いを受けるのも好きそうじゃないから、ほどほどにだけど。




 俺は文川さんの指示通り、2メートル踏み込んだ時点で放ってきたスライムパンチを盾で的確にガッチリとガードする。



 がつんっ!



 今度は腰を落として衝撃に備えたので体勢は崩れない……!


 しかし、盾に響くこの衝撃の強さはドッジボールどころじゃないな。


 スライムのサイズがデカいせいか、車のタイヤをぶつけられたような重みがある。



 まぁ、車のタイヤなんか投げつけられるような人生は送ってないので例えが適切かは分からないが。



 なんて事を思いながら、次の攻撃を数を数えながら待つ。


 1、2……。


 すると伸びた体の一部を元に戻して再びスライムパンチをお見舞してくる。


 俺はよく見てこの攻撃もしっかりガード!



 しばらくスライムから2~1.5メートルの距離を行き来しつつ、何度も攻撃をガードし続ける。


 攻撃はキッチリ2秒ごと。



 どうやら敵の攻撃と攻撃の間に2秒かかるのは間違いなさそうだな。


 2秒もあれば2メートルくらい一気に距離を詰められるだろう。



 ガツンッ、ガツンッ!



 と、スライムの攻撃をガードしつつタイミングを計り、そしてイケそうなタイミングで突進する。



 そして赤く光る(コア)めがけて、ぞぷっ! とスライムの体にナイフを突き立て……たけど思ったより弾力がある!



 刃渡り25センチほどのファイアバゼラードの刀身がスライムボディに埋まった時点で攻撃が止まってしまった。


 いつも斬りかかるのは風間くんや吉崎くんだったからこんなに抵抗力があるとは知らなかったぜ!


 くっ、どうする!?


 と思っている間に2秒が経ち、(コア)がチカチカと光を放ってスライムの体が再び伸縮を始める。



「うぉおおおっ!?」



 ブォンッ……!!


 

 間一髪。



 高速で射出されるゼロ距離からのスライムパンチを体をよじって回避するカッコよい俺氏!


 よけられたのは運が良かっただけだ。


 俺は咄嗟に体勢を立て直して、スライムに刺さったままの短剣に体当たりするかのように飛び付き、ヤクザ映画で極道がドスを相手の腹に突き立てるが如く(コア)に刃を押し込んだ。



 ぱしゃんっ!



「!?」




 真っ赤な(コア)を突き刺した瞬間、スライムの体から粘度が失われシャバシャバした液体になってカタチが崩壊した。


 そしてその体を形成していた乳白色の水が地面に叩きつけられたのだった。




「ハァ……ハァ……」



 地面には相棒、ファイアバゼラードとキラキラと虹色に光る小さな石が落ちている。



「ハァ……ハァ……、これ、魔石か……?」



 いつもスライムを倒したあと、これを手に入れるのは風間くんや吉崎くんだった。


 だから魔石を実際に手にするのは初めてだ。



 そうか……。


 いつもクラス全員がかりで……SSR武器を持った風間くんですら一人で倒した事のないスライムを、この俺が、たった一人で倒したんだ……!!




「うぉおおおぉおおぉぉおおおおぉぉぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉおぉぉぉぉおおおぉぉおlおおぉぉおおおおおっ!!」



 俺は腹の底から勝利の雄叫びをあげた。



 あげてから気付いた。



 違う。



 俺一人で勝ったんじゃない。


 敵を分析して冷静に指示を与えてくれた、そして俺に微笑んで力を与えてくれた、文川さんと二人で掴んだ初勝利だ!!



「文川さん!!」



 俺は彼女の方を見……たけどさっきまでいたハズの場所に彼女の姿が見えない。

 

 あれ?

 


「文……川さん?」



 不安になって辺りを見回すとちょっと離れた場所にフツーにいました。


 あー焦った。


 もしかしてオシッコ……じゃなくてお花を摘みに行ってたのだろうか。



「君島くん、カッコよかったね! ビュンって来てバンっと避けてガッと刺して、なんかバトル漫画みたいだったよ」


 文川さんがハンカチで俺の額の汗をぬぐってくれる。


 うおっ!?


 なんか照れた俺は「うぅへへ、そ……そ~ぉ?」と変質者みたいな奇声を絞り出した。



「しっかし、スライムなんてゲームじゃ一番の雑魚なのにこんなに苦戦するなんて……これは宿代稼ぐのも一苦労かも知れないな……」


 事前に確認した宿代は観光地だけあって、最低ランクでもそこそこ高く一人分で銀貨2枚と銅貨5枚。


 対してスライムの魔石の換金レートは一体分につき銅貨5枚。


 文川さん貯金はなるべく温存したいので今日中にスライム10体倒さなくてはならない計算だ。



 しかし正直、今みたいな戦闘を10回もこなすのは結構、体力と精神がすり減るぞ……。



「はい」


 その時、文川さんが挙手した。


「はい文川さん、どうぞ」


 そんなルールも無いけれど、俺は発言を許可する。


「えっと、実は私、スライム攻略法を編み出しまして」


「えっ」


「ほら、ギルドにいた美人で、君島くんが鼻を伸ばして性犯罪者の一歩手前の目付きでいやらしく体中をなめまわすように堪能した受付のお姉さんがいたでしょ?」


「いないよ!? いや、いたけど!! 俺はそんな目で見てませんから!!」


 まだお姉さんとフツーに会話したことを根にもっているのだろうか……。


 今は文川さんの笑顔が少し怖い。


 そんな俺の恐怖心などお構いなしに彼女は話を続けた。



「あの人が言ってた穴の話、覚えてる?」



 穴。


 穴?


「ああ、昔の戦争でそこら中にあけられたって言う穴の話?」


「そうそう。実は君島くんが命懸けで戦っている間、ヒマだったからちょっと色々と試しててね」


 俺が命を懸けてた間、ヒマだったってなんか他に適切な表現方法が無かったんですかね。


 あんなに俺を心配してくれた女神みたいな文川さんは何処へ?


 まあ、いいか。キミが幸せなら。



「それで試した事って?」


「ちょっと見てて!」




 そう言うと彼女は地面に置いてあった1メートルくらいの木の枝を拾って、離れた場所にいるスライムの方へ駆け出した。


「あっ、文川さん、楯も持たずに……!」



 心配する俺を尻目に文川さんは大きな白いスライムと正面から対峙する。


 まだ距離は3メートル以上離れてそうだから、まだ安心だけど……。


 彼女の線の細い、華奢で、そそる、いいニオイがして触りたいあの身体が強烈なスライムパンチの直撃を喰らったら……と思うと気が気でない。


 

 しかし、スライムが文川さんの方にゆっくりぷよぷよ近付くとその分、彼女も同じだけ離れるので距離は3メートル以上縮まらないようだ。


 2メートル以内に入らなきゃ安心ではあるが、あのままスライムを引き連れてお散歩してどうするのだろう?



 しばらく見ているとまっすぐ歩いていた文川さんは突然、ある地点で少し半円を描くように迂回しながら歩き出す。



「ん? ああ、アレがさっき言ってた穴か。穴を避けて移動したんだな」


 よく目を凝らすと彼女の足元には直径1.5メートルほどの穴が空いてるようだった。



 そして、そんな彼女のあとを追いかけてスライムが穴の方へと近付いていくと……。



 とぷんっ。



 とスライムは穴にすっぽり落ちてしまった。



「君島くん、こっちこっち!」


 彼女が手招きするので急いで近付いてみると穴はスライムの液体状の

身体でなみなみと満たされている。


 (コア)が穴の中でチカチカ光っているのが見えた。


「あぶないっ……!」


 俺は盾を構えてスライムと文川さんの間に立つが


「大丈夫。ずっと観察してたけどこのコたち、穴に落ちたらどれだけ近付いてももう攻撃どころじゃないみたい」


「え、ホントに?」


 確かに俺たちが近付いてとっくに2秒以上立ってるのにスライムは体を波打たせるだけで大きな動きは見せない。



「というワケで、せーのっ」


 俺が驚いてる間に彼女は持っていた木の枝を穴に突き込み、(コア)を貫通。


 スライムの身体は崩壊して、彼女は穴に満たされた液体の水面にプカリと浮かんだ魔石をすくいあげた。



「どう?」


 文川さんは褒めて欲しそうに得意気な表情を向けてきた。



 しかし。


 クラス40人がかりで倒し、俺が激闘の末に倒したスライムを、彼女は指先で1つでダウンさせた。


 いや、指先ではないけど。


 俺は褒めるどころではなく、ただただ呆気にとられてしまった。



「あ、ごめんね……? なんか嫌味っぽかったかな? こんな倒し方あるなら早く言えよって感じだよね。ごめん、君島くんが危ない目に遭ってたのに私ちょっと調子に乗ってたかも……」


 俺の引き気味の表情を見たからか、文川さんはドヤ顔から一転、なんだか不安そうな顔で下を向いて指をいじり始めた。


 はっ……俺というヤツはどうして女の子にこんな顔をさせてるんだ。


 彼女が一人でこんなすごい事をやってのけたのに!




「いやいやいや、別に何も謝ることはないって! というかスッゲーよ文川さん! 俺、ゲームとかやっててもすぐ攻略wikiとかまとめサイトに頼っちゃう派だから自分で戦略編み出せる人ガチで尊敬するッス! 文川さんマジ軍師!」


「え……?」


 文川さんが顔を上げてくれる。



「というか文川さん、前にゲームしてるかって俺に聞いてきたけど文川さんこそ結構なゲーマーとか?」


「う、うん……。まぁその、ソシャゲとかは結構やってて……」


「おー、いいねいいね! 俺、女子とソシャゲの話をするのが夢だったの~! となれば、さっそく文川さん作戦でスライムざくざく倒して魔石稼いで豪華な温泉宿で今夜は語り明かすしかなくない!?」


「……」


 そんなまくしたてる俺の顔を文川さんはじっと見つめて


「うん!」


 と輝くような笑みを見せてくれた。



「じゃあとりあえず20体をノルマにしよう。俺と文川さんで2体倒してるからあと18体かな」


「あ……」


「どうしたの?」


「実はさっきの、4体目なんだよね……」



 文川さんの手の平には魔石が4つ乗っていた。


 文川さんは俺がスライムに殺されかけてた間に3体も無双してたのか。



 俺はガクッと膝をつく。



「へへっ、もしかして俺いらないコなのかな……?」


「いや、いるよ!? 君島くんは超いるよ! 必要だから!!」


「ほ、本当は役立たずとか思ってない? 生きてる意味ある?」


「思ってないよ! 君島くんが生きているだけでお花たちも笑い、小鳥たちも歌い出すから!!」


 それ、クスリか何かやってる人の世界なんじゃ……?



 まぁ、とにかく気を持ち直した俺たちは手分けしてスライムたちを穴におびきよせて日が暮れるまで(コア)を潰しまくった結果、ノルマを大幅に越える35個もの魔石を稼ぎ出すことに成功したのであった。


 換金額は日本円にして16500円程度。


 これだけあれば初日くらいはちょっと良い温泉宿に泊まれそうだねなんて話しながら街へと帰る二人であったが、そういえば部屋って一人一部屋なのか二人で一部屋なのかどっちなんでしょうね。


 


 うぉぉおおおおおぉおおおぉおおおおぉぉおおおおおっ!!

 


 



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