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Chapter9 カルミナ


嘘だよ……嘘だ嘘だ嘘だぁー!

嫌だ……嫌だ嫌だぁぁぁ……

神様助けて! みんなを助けてよぉ……


私は、声にならない声を上げた。全身が震えている。

アルが、何も言わずに抱きしめてくれていた。

アルも震えていた、多分涙も流していただろう。


大臣がテラスを見上げ、大きな声で笑っている。

王女も大臣を見てクスクスと笑っていた。


「国王はたった今落ちたーっ! 後はガキ2人だ!

絶対に見つけ出して殺せ!!

特に、アルと言う男のガキは確実に殺せ! 次期国王などあってはならぬ存在だぁ!」


大臣は、周囲に待機していた兵に向かい、不敵な笑みを浮かべながら私達を殺せと命じた。


「あっちだ、行こう」


再び私の手を取ったアルは、真っ直ぐと私の目を見つめていた。

アルは、いつもの冷静な兄に戻っていた。


「城の裏手に王家の者しか知らない水路がある。そこからなら城の敷地外へ出られるはずだ」


アルは、私の両肩に手を置き、真っ直ぐに目を見ながら私を諭すように言った。


「え、嫌だよ……パパはっ……追いてくの?

ねぇ、パパは……」


私はアルの袖を掴み、涙を流した。

本当は分かっていた。父が死んだ事を。

ただ、認めたくなかった。


「父上は……もう……」


アルは、私からゆっくりと視線を外し、うつむいて首を左右に振っていた。


「じゃあっママは? 一緒に逃げ……」


「母上はもう僕達の母上ではない……分かってくれ!」


再び私の目を真っ直ぐと見つめ、子供に言い聞かせるように、少し強い口調で私に言った。

泣きじゃくる私の手を取り、アルと私は、城の裏へと走った。


大臣の兵に見つからないよう、隠れながらしばらく走ると、城の裏手にある水路への入り口に着いた。

私は城の敷地内に、こんな所があるなんて知らなかった。

綺麗なレンガで組み立てられた水門、その脇に小さな子供なら這って入れるくらいの隙間がある。


「そこから水路に出たらそのまま真っ直ぐ走るんだ!そうしたら街の裏側に出られるから、早く!」


アルは、水路の脇を指差し、私を急かした。


「あ、アルも一緒にい」


「カルミナが先だ、俺は後から行くから……」


私の言葉を遮るように、アルが急かす。

私はこの時、気付いてしまった。

あの隙間を、私は通れるだろうけど、果たしてアルに通れるのだろうか。

もしかしたらアルは、最初から私だけを逃す為に、この水路へと来たのではないかと。



「やっぱり、ここに来たわね。あんまり手を煩わせないでちょうだい、ここよ! 早く来なさい大臣!」


躊躇していた私達の後ろから母が追ってきた。

私達を見る母の目は、

もう、私の知っている母の目ではなかった。


「やあやあ! お2方楽しんでますかな?

どうです私の用意した最高の宴は! いえ、最後の宴ですかな? クッククッ……」


その後、大臣がすぐに追いつき、私達の顔を交互に見て不敵な笑みを浮かべている。


「さぁ、大人しく死んでちょうだい、いい子だから……」


母が、ジリジリと私達との距離を詰めるように、一歩一歩ゆっくりと歩いてくる。

アルは、私を庇うように私の前に立っていた。


「何故ですか、母上……なぜ、父上を……」


アルは震える拳を握り締め、母を睨み付けた。


「そうね、あの人は欲が無さすぎたのよ……

王家とは至高の存在でなくてはならない、

民と平等?

反吐が出るわ! あの人は税金だってまともに取らない、

ふざけてると思わない?

何故わたくし達王族が民と平等なの? 死ぬまでわたくし達の為に尽くすのが民という者でしょう?


そこの大臣がわたくしこそが王にふさわしいと言ってくれたの。だから全てをリセットする為にこれは必要な事なの、分かってちょうだい。


じゃあ、さようなら。」


母は、おぞましい表情で本心を語った後、

母が、アルに向かって高々と剣を振り上げる。

その時だった。


「今迄あーりがーとっさんっ!!」


背後から、大臣が剣を突くような体制で走り寄り、

母の背中に向けて、剣を突き立てた。


ズドッ


「……ッゲホッ……な……な、ぜ……」


突然の痛みに震える、母のお腹からは剣が突き出していた。


「はいー? だから言ったではございませんかー、

王族の血は今日、と、だ、え、る、とっ!」


大臣はわざとらしい表情で片手を耳に当てていた。

勢いよく剣が引き抜かれ、母はその場に崩れ落ちた。


「ママァー!! いや、……嫌! 嫌! ママァァ……」


私は、その場にストンと膝から崩れ落ちた母に、無心で駆け寄った。

いくら父を殺したと言っても、私にとっての母は、この人しかいない。


「くそっ……くそっ……この野郎……うあぁぁぁあ!!」


アルは、大臣に無我夢中で飛びかかった。

けれど、子供が大人の腕力に敵う訳もない、ましてや、大臣は剣を持っている。


「早く行け! カルミナ! お願いだ……生きてくれ……

お前なら、きっとまた新しい国を作れる……

皆が笑って暮らせる……幸せな国を!」


アルは大臣に組みかかり、私が逃げる為の時間を稼ごうと、必死にもがいていた。


「ふぅーざぁーけぇーるぅーなぁぁあー!!

1人も逃がす訳が無いだろう! ウラァ!」


大臣が腕を振り払うと、アルは地面に叩きつけられた。

そして、そのままアルをめがけ、剣を振り下ろした。


「うわぁぁぁっ!」


アルは、その場に崩れるように前のめりに倒れた。

私の頬に、返り血が飛んで来た。



切られた、アルが切られた。

私は目を閉じ、耳を塞いでいた。

全身が恐怖に震えて何もできなかった。


「や、やめ……ろ カル、ミナには……手を……出すな……」


アルは最後の力を振り絞って、大臣を私の所へは行かせまいと、這ったまま大臣の足に必死にしがみついた。


「このクソガキ、しつこい男は嫌われますよーっ!」


大臣は、地面に這ったままのアルに向け、再び高く剣を振り上げた。


「い……行けぇぇぇえ! カルミナァァアー!」


アルは、私に最後の言葉を叫んだ。



私は、ハッと我に返り、無心でレンガのすき間へと身体を滑り込ませた。

其処は、聞いていた通りに水路が広がっていた。

私は夢中で走った、放心状態で走った 。

何も考える事も無く走り続けた。


やがて光が見え、出口が近いと感じた時、

一気に、私の心には虚無感が襲って来た。

昨日まで当たり前にあった物が今は何1つ残っていない。


ただ1つ、アルがくれた最初で最後の誕生日プレゼントだけを除いては。


「パパ……ママ……アァールーっ……うわぁぁん……」


私は泣いた。 涙が枯れるまで泣き尽くした。


そして、私は呪った 世界を

私は恨んだ 私の願いを聞き届けなかった神を


いつだって神は私を弄ぶ



神によって私は、覇気というチカラを与えられた。

と、言うよりかは呪いだった。

お前の望む世界は与えないという呪い。


このチカラによって、国の再建は容易かった。

主を持たぬ者であれば、ただ命ずるだけで配下に加わってくれた。

私の忌み嫌う、恐怖にも近い支配の力によって。


ただ、私は民と平等でありたい…

このチカラは……何時迄も私を孤独にする。

しかし、たとえこの忌まわしきチカラでも、無ければ私なんかに、国、を人々を束ねられるのだろうか……



「いつか……いつの日か……

私にも、普通にお話しできるお友達できるかな?」



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