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Chapter61 再会


1人物思いに更けながら、厨房のある場所へと少し足早に足を運んでいた。

通路を歩いてる時、壁に何やら貼り紙がしてあるのを発見する。イラスト付きで文字が沢山書かれていた。


しかし、俺にはこの世界の文字など読めるはずがない。当然だが、象形文字にも似た文字など誰にも習ってなどいないからである。

文字はさっぱりなのだが、普通に言葉が通じて会話が出来るというのが不思議と言うか、ご都合主義に近い気もするが、まぁ気にしない。


ちょうどそこに1人の若い兵士が通りかかったので、少し聞いてみる事にした。


「なぁ、君! コレさ何て書いてるんだ?

お、俺、昔から字が苦手でさっ。」


別の世界から来た事はもちろん内緒にしている。

文字が読めないなんて、やはり可笑しいだろうか。


「ハッ!! 小田様!! これは、第1騎士団の団員募集の貼り紙でございます。えーっと、16歳以上で剣の腕に自信のある者、冒険者も含む。と書かれて居ります!」


若い兵士は貼り紙に書かれていた文字を指でなぞるように、ゆっくりと読み上げていた。


「へぇー、君ありがとうな!」


「いえ!! それでは失礼します。」


俺が文字を読めない事について何も触れないでくれたなぁ、気を使ってくれたのか……

しかし、団員募集か。

そうだよな、10人揃って1つの団だもんな。

1人欠けちゃったもんな、そうなるか。

いや、欠けちゃったなんて言い方絶対良くない!

天国のゲインさんごめんなさい。


少し集落での惨たらしい風景を思い出してしまい、気が滅入りそうになったが、顔に一発張り手をかまし気を取り直し先へと進む。


厨房を越え食卓係の詰所を越えた先。

その先は袋小路、行き止まりになっている。


恐らく大半の人間にはそう見えているに違いない。

今、目の前に立っている俺ですら僅かに認識出来る程度だ。

だが、目の前には確かに間違い無く扉があるのだ。

この不思議なチカラで閉ざされた空間の向こうには彼女が居る。


俺と同じ世界の住人、日本人の真理子さんが。


「よし、行くか。元気にしてるかな真理子さん。」


僅かに透けたドアノブに手を掛けた瞬間、さながらタッチセンサーのように鍵がカタンと開けられた。


入る所を誰かに見られたらマズイのかもと、辺りを気にしながら扉を開いて中に入り、すぐ様扉を閉めた。

相変わらず其処は真っ暗で、足を踏み外さないようにと壁伝いにゆっくりと石畳みの階段を降りて行く。


そして階段を降り切った所にある部屋への入り口となる扉を開けようとしたその時だった。


バンッ!!


「待ってたよーっ!! さぁ入って入って!!」


「!? ちょっ、うわっ!!」


目の前の扉が急に開き、真理子さんが飛び掛かってきた。俺の首に真理子は腕をぐるりと回し、ヘッドロックのような体勢で部屋へと引きづり込まれる。


いや、あの……胸が顔に……ありがとうございます。


「さぁ、座って! 久しぶりだねー、元気にしてた? 色々大変だったねぇー、水晶で見てるしか出来ないからさむず痒くて仕方なかったよ! 君には色々聞きたい事あるんだよー。」


久しぶりの話し相手の登場に、興奮が収まらないのか早口で言葉をまくし立てていた。

真理子さんの胸が顔から離れてゆく事に一抹の寂しさを覚えながらもゆっくりと椅子へと腰掛けた。


「お、おかげさまで。何とか。真理子さんも元気でしたか? それに聞きたい事って何です?」


前回会った時と服装が変わり、ノースリーブにタイトなミニスカートで大人の色気全開の真理子さんを前に少し緊張してしまった。


「私は元気だよ。元気が取り柄だからね!

そうそう、君は確か私と同じ日本人のはずだよね?

それともこの世界の天使族なのかい?

お姉さん、水晶で見てて理解出来なかったんだよ、教えてくれるかい?」


聞きたい事があると言われた瞬間、間違い無く天使の話だろうなとは予想はしていた。

同じ日本人だと聞いていて、あんな姿を見せられれば訳が分からなくなるのも当然であろう。


天使の姿を見た他の人達には適当な嘘で誤魔化してしまったが、真理子さんは俺の正体も知っている。

特段隠す必要は無いと判断し、全てを話す事にした。


「実は、記憶を失っていたんですが幼い時……

ーーーー

ーー」


「なるほどねー……って、なんだいそれ!!

アッハッハ、圭君はなかなか面白い体験をしていたんだねぇ。元の世界に居た時にそんな話をされたら頭の可笑しい奴だと思ってた所だろうけど、この世界の事を知ってしまっていればなんら不思議でも無い事だろうね。」


真理子さんは目の前の机をバシバシと叩きながら笑い飛ばしながらも、ちゃんと俺の言った事を信じてくれている様子だった。


「あと1ついいかい? カルミナ王に何があったんだい? 水晶では音声までは聞こえない……

神楽とかいう奴に一体何をされたんだい?」


一瞬ゾッとしてしまった。

真面目な顔で迫る真理子さんの瞳の奥からは、憎悪にも近い怒りを感じてしまっていた。

もちろんそれが俺に対して向けられた物では無いと分かってはいるのだが、無意識に身体が反応してしまい額からは汗が流れ落ちていた。


「カ、カルミナのクラウンネームは、神楽のクラウンネームの能力、略奪によって奪われてしまいました。

本当にすいませんでした!! 俺の力不足でした……

で、でも、もう大丈夫です!! カルミナはもう」


「圭君、言わなくいいよ。分かっている。

最近のカルミナ王の顔を見れば、自然と伝わってくるよ。

カルミナ王の為に色々と頑張ってくれたんだね。

私からも礼を言う、ありがとう圭君。」


言い訳のようにも聞こえる俺の言葉を遮るように、真理子さんが口を開き頭を下げていた。


「礼を言われる事なんて何も……」


「今のカルミナ王には君の存在は絶対だ。これからもカルミナ王の側に居てやってほしい。

しかし、クラウンネームを失ってからのほうが前にも増して国の士気が上がると言うのも皮肉なもんだね!

アッハッハ。」


水晶越しの真理子さんの目にはそう見えたのだろう。

言葉にする事は無かったが、俺だって今のこの国の雰囲気が大好きだ。

恐怖で支配されるのではなく、親愛にも似た忠誠によって成り立つ国。


カルミナが目指していた国の理想に近づけているのではないだろうかと、無粋な予想かも知れないが俺はそう信じている。

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