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Chapter60 揺るがない心


王による涙の講演の3日後、ここイルム王国城内には少しづつ明るい雰囲気が戻りつつあった。

カルミナは自発的に王室を出て、従者と触れ合い話をするようにもなった。

それに伴い、従者達のモチベーションも上がってゆくのだろうか、城内には笑顔の人間が増えたような気がした。


「おい、貴様ッ!! 服装が乱れておるぞ!」


「ヒッ!? も、申し訳ございません!! 直ちにッ!!」


と、まぁこんな感じで、カルミナの口調はクラウンネームが無くなってもこんな感じで、あいも変わらず威圧的ではあった。

クラウンネームのせいで、あの口調なんだろう。と言う俺の予想は外れていたようだ。


もしかしてこの高慢で威圧的なカルミナが普通のカルミナなのでは無いだろうか……

しかし、俺に対するカルミナは、少し甘えたような口調で態度も俺より下って感じだし……


今はカルミナと2人で城内を移動中である。


俺と共に神楽と闘った者達を労いたいと言うカルミナの要望に、俺がお供しているって訳だ。

詰所の並ぶ通路の奥、いわゆる病室を目指して並んで歩いている。


すれ違う人々は当たり前と言えば、当たり前なのだろうが、みんながカルミナに対し頭を下げていた。

しかし、以前のオーラを纏っていた時とは対し、断然従者の顔からはさほどの緊張感は無くなり、いくばくか柔らかくなっていた。


決してナメられているという訳では無いだろう。

自分の親愛する王との距離感が少し近くなったような感じがして、良い意味で柔らかくなったと言える。


「よし、入るぞカルミナ。」


「うんっ。ちゃんとお礼言わなきゃだね!」


病室前に着いた俺達は、1度お互いの顔を見合わせた。

病室には扉が無いので、そのまま入っていく。


「カ、カルミナ王!? それに小田っちじゃないか。

久しぶりだね。カルミナ王、ご無沙汰です。」


「よぉー、ロア。そっか俺がこないだ来た時は、お前ぐっすり寝てたもんなー。村での怪我はどんなだ?」


驚きベッドから飛び起きたロアに対してカルミナは、ニコリと笑顔を見せた。


「あぁ、だいぶ回復したよ。僕とした事が、少しだけ血を流すようにかわしたはずだったんだけど、思ったより傷が深くてね……まいったよ。」


ロアはイケメンスマイルを振り撒きながら、上着のシャツのボタンを外し、何故か上半身裸になる。

脇腹には包帯が巻かれていたのだが、何故脱いだのかは聞かないし突っ込まない。


部屋を見渡すと、ロア率いる第1騎士団が8人、ヴァイスさんにディアンとアイリが全員起き上がり、こちらの方を向いていた。

やはりジャックさんはもう元気になっていたと言う事で間違い無さそうである。


「……Kっ。」


「ん? あぁ。」


横に立っていたカルミナが俺の服の袖を掴んだ。


「みんな、休んでる所悪い。少しだけカルミナの話を聞いてくれ。」


カルミナは俺の袖から手を離し、一歩だけ前に出た。

1度下を向き目を閉じて大きく深呼吸をした後、顔を上げた。


「皆の者!! ご苦労であった! この城を守る為、わたしを守る為に闘ってくれた者達に心からの感謝を!」


そこには王らしからぬ姿があった。

カルミナは従者に対し、深々と頭を下げていたのである。

それを見た者達は、揃って呆気に取られたような顔をしていた。

それもそうだろう、今迄頭を下げた王など見た事も無かったのだから。


「もしかしたらこの中にも、既に伝え聞いた者も居るかもしれないが、わたしはクラウンネームを失った。

つまり、わたしはただの人だ。

だからどうしろとは、言わない。

これからお前達がどうしたいかは各々が決めてくれ。」


カルミナは顔を上げ、相手の目を見る事もなく頭を下げたまま、話を終えた。

やはりまだ相手の反応が怖いのかもしれない。


横で聞いていた俺は、特に何の心配もしてはいない。

先日の大広間での事もあるのだが、今ここに居る人達がこの国を離れる事は絶対に無いと、不思議と思えていたからである。


「カッ、カルミナ王!! 頭を上げて下さいッ!!

僕達はイルム王国をカルミナ王を守る為に結成した者達です。」


「も、もちろんカルミナ王あってのイルム王国だと私は思っております!! 今更変な事を申されないで下さい。」


「ホッホッホ、全くカルミナ王は可笑しな事を申されるもんですなぁ……」


「……変な王様。」


ほらね? たった1つチカラが無くなったからって、

すぐに壊れてしまうほど弱い国じゃあ無い。

カルミナが作り上げた王国は、カルミナが思っているよりもずっと堅い結束力を持ってんだよ。


「……ありがとう。これからもよろしくお願いします。」


カルミナはゆっくりと顔を上げ、1人1人の目を見た後、いつもの柔らかな笑顔を見せた。


よーし、これで円満解決!!

と、言う事でずっとずっと疑問に思っていた事をここいらで口にして見るか。


それは何かと言うと、この世界には魔法がある。

俺が知っているRPGならば、回復魔法と言うのが当たり前に出てくるでは無いか。

HPが減れば回復、常識に近い程でもある。


欲を言ってしまえば、死者だって蘇る事が出来る魔法だってあるでは無いか。

この世界には、怪我を回復させたり出来る魔法は無いのだろうか?


魔法の存在する世界。

下手をすれば1番最初に出てきても可笑しくは無いであろう回復魔法。


俺はヴァイスさんの右手を見て、ずっと思っていた。

治してあげたい。もう一度剣を持たせてあげたい。


「えーっと、カルミナとアイリに質問があるんだけど、なんつーか、人の怪我を回復出来たりする魔法って無いの?」


それを聞いたカルミナとアイリは、お互いを見合わせ固まってしまった。


「あのね、あるのはあるんだけど……」


「……白魔法。」


なんだ!! あるじゃん!!

よかった。これでヴァイスさんを治してあげられる!


「……最高位白魔法、ホーリー。

……悪魔には最強の攻撃魔法になり、人には完全治癒魔法になる。

……莫大な魔力の持ち主しか使えない。」


「もちろんわたしは見た事は無いよ。使える人や天使族がいるって言うのも聞いた事ないの。

よほど魔法に詳しい人なら何か知ってるかも知れないけど、ほとんど伝説に近い魔法だよぉ。」


な、なんてこった……

1番手軽そうな魔法が、この世界では最高位魔法なのか……

そうだよな、手軽に使えるもんならみんなこんな所で横になってない。


アイリもよくは知らないみたいだし、誰かアイリより魔法に詳しい人なんか居たっけな……

ミサ!? な、訳無い。あいつは論外だ。


魔法……詳しい……莫大な魔力……あっ。


「なぁ、カルミナ。俺ちょっと用事思い出したから、少し出掛けてくるけどいいか?」


「え? うんっ。わたしはみんなともう少しお話してから帰るねっ!」


カルミナを取り囲むみんなの顔がとてもリラックスしているように感じる。

覇気の影響も無くなって、部屋全体が穏やかな空気に包まれて居た。


俺はそんな幸せそうなカルミナの顔を横目に、1人先に病室を出て、ある所へと足を向けた。



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