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Chapter59 王の涙


従者達の歓声はしばらく止むことは無かった。

壇上から見下ろすその壮大な光景は、全身に鳥肌が立つほどであった。


これがカルミナが見てきた光景。

王だけが見る事を許された光景。


この数え切れ無いほどの群勢を、たった1人の。

それも、うら若き1人の少女の力によって統率されていた事実を目の当たりにし、カルミナの偉大さを改めて実感すると同時に、自分が如何にちっぽけな存在であるかを見せ付けられたような気分でもあった。


堂々たる存在感で玉座に君臨するカルミナ王。


少し離れた従者達からはそう見えるのであろう。

だが、それは違う。これは虚勢だ。


すぐ横に立つ俺だから気付く事だろう。

カルミナはいつものように手を組み足を組み、どっしりと玉座に深々と座ってはいるものの、小さく震えていた。

小刻みに肩と唇を震わせ、顔は引きつり何かに怯えているようにも見える。

俺の目にはカルミナが、大勢の狼に囲まれ怯える小動物のような存在に感じてしまった。


俺は一歩カルミナに歩み寄り、カルミナの肩に手を乗せた。するとカルミナは落ち着いた表情を見せ、いつの間にか身体の震えも止まっていた。


「ありがとぉ、Kっ!」


従者には聞こえないような小さな声で呟くと、意を決したように凛々しい表情へと変わる。

腕組み足組みをほどき、固く握りしめた拳を太ももに当て姿勢よく座り直した。


「皆の者、静かに聞いてくれ。皆も知っているだろうが先日この城に災いの王が侵入した。」


カルミナ王の第2声に従者達は歓声を辞め、静かに聴き入っているようだった。


「被害は甚大であった。我が国の門兵と兵士が8人、魔物に襲われ治療の為に連れ帰った冒険者が60人……

……皆殺しにされた。

他にも災いの王と闘い、負傷した者……

そして……そしてわたし……も……」


恐らくほとんどの従者達は気付いているのではないだろうか、カルミナ王の様子が明らかにおかしい事に。

固く握りしめた拳は小刻みに震え、目からは涙がポロポロと流れ落ちる。


いつものカルミナ王は高圧的な態度で、従者達には恐怖の対象でもあった。

その恐怖の王が目の前で泣いている。

肩を揺らし、ただの少女のように。


従者達は、今目の前で何が起きているのか理解出来ない者が大半であろう。

誰1人として声を上げる者はおらず、ただただ王を見据えるしか出来ないでいた。


「……わ……わたしは、クラウンネームを失った!

お前達を縛る鎖は、もう今は存在しない!


お前達の目には、わたしの姿はどう映る!

ただの幼い少女にしか映らないだろう!


わたしは……わたしは非力だ……

王を名乗る事は許されないかもしれない……


こんな未熟な王が治める国などと、見限る者がいても当然の事。

わたしはその者を止めはしない。


……だけど……だけどわたしは王で在りたいと願う!


こ……こんなわたしでも、まだ王と呼んでもらえるのだろうか……」


目からは大粒の涙が流れ落ち、カルミナの声は次第に弱々しくなり、最後には声もかすれ消え入りそうなほどであった。


話し終えるとカルミナは、顔を両手で覆い嗚咽を漏らし泣きじゃくっていた。

大広間にはカルミナの鳴き声だけが響き渡り、従者達は完全に沈黙してしまっていた。


その暫くの沈黙を破る男。

勿論、俺。では無かった。


「ガッハッハ!! カルミナ王よ!! 何を心配なさる必要がおありか!!

クラウンネームがどうとか関係有りませぬ!

我らが主はカルミナ王以外にありえません!」


沈黙を豪傑な笑いで打ち破ったのは、第2騎士団団長ジャックさんだった。


あ、あれ!? ジャックさん病室で寝てたはずじゃ?


「傍若無人の荒くれ者だったワシを拾ってくれた御恩は決して忘れる事は出来ません!

勿論、他の者にワシの意見を押し付ける訳ではありませぬ。

しかし、ワシにとっての王は世界中の何処を探そうともカルミナ王以外にはいないでしょう!!」


そう言い切るとジャックさんは、1人静かにその場に膝をつきカルミナに対し頭を下げた。


ここで初めて俺が発言する事になる。

最後まで黙っていても良かったのだが、ジャックさんの言葉に少し感動してしまい突き動かされてしまった感もあったかも知れない。


「あ、あの!! みなさんにとって新参者の俺が何か言うのも違う気もするんだけど、言わせて下さい!

カルミナは間違い無く王の器だと思います!

カルミナは本当に心優しくて、この国の人達を心から愛しています!


俺は、こ、婚約者としてカルミナを命を懸けて守っていきます。そこでお願いです。

俺に……いや、カルミナに力を貸して貰えませんか!

お願いします!!」


壇上からお願いするのには、頭が高すぎると思いその場に両膝を付き、土下座のような体勢で頭を下げる。


しかし、俺はお願いをしたはずなのだが、予想していた展開とは全く違う反応が返って来た。

俺の考え過ぎ、取り越し苦労だったのかもしれない。


「小田様が頭を下げる必要などありません!」


「お願いなどなされなくとも、我らの主は1人です!」


「元よりこの命、カルミナ王の為に!」


カルミナ王に忠誠を誓う者が続々と、声を高らかに上げその場に膝を付き頭を下げてゆく。


元より誰1人カルミナ王に対する考えが変わった者などは居なかったのだ。

クラウンネームが無くなろうとも、王は王。


さながら将棋倒しでも観ているかのように、次々と従者達がその場に平伏していった。

そして大広間に再び静寂が訪れた時、全ての従者がカルミナ王に頭を下げているという壮大な光景が広がって居た。


「……み、みんな……ありがとうっ。」


カルミナは溢れる涙を裾で拭っていた。

そこで俺も土下座の体勢から、カルミナの方に向き直り片膝を立てた。


「ハハッ、やっぱり王様なんだよ、カルミナは。」


今度はちゃんとカルミナの耳に届いたと思う。

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