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Chapter58 王の器


楽しかった面会時間もあっという間、医師による回診の時間が近付いて来たみたいなので、邪魔になってはと俺は病室を名残惜しくも後にした。


しっかしあの2人が姉妹ねぇ……確かにいきなり俺の事を圭といきなり呼び捨てにする所も同じだったな。


元の世界ではモテなどという言葉とは無縁の人生だったから、今の立ち位置がモテに近い気がしていい気分にはなるのだが、非モテの先輩たる俺はデスメガネ君を少し応援したい気持ちもあるし、アイリはやらんぞみたいな親心に似たような感情が芽生えていた。


通路をゆっくりと歩きながら考える。

カルミナを元気付けるにはどうしたらいいものか。

10日もの間、国王たる人物が誰とも接していないなんてまさに異常事態である。


無理矢理にでも人前に連れ出すべきか?


それではカルミナの俺に対する評価が思い切り下がってしまう。

カルミナが納得、もしくは妥協でもいい。

自らの意思で王室から出て人前に出ると言う選択を取ってもらうにはどうしたらよいか。


王の覇気か……

確かにクラウンネームによる覇気は無くなった。

しかし、カルミナだって伊達に何年も王をやっている訳では無いんだろう?

本来王の覇気なんてもんは、王個人に宿る才能や素質みたいなもんだ、今のカルミナならば自力で覇気ぐらい備えているんじゃあないのか?


カルミナが人前に出たがらないのは、能力を失ってしまった自分を、能力で従わせた国民が能力を失った王を見た時の反応が怖いのだろう。


まだ幼く、ひ弱な少女。

国民は幻滅し、自分の下から離れて行くのではないのだろうか。

俺がカルミナの立場ならばそう考える。


今のカルミナ自身に、一国の王として国民を突き動かし忠誠を誓わせる力があるのかは試す価値がある。

それがカルミナの自信になるはずだから。


それが少し強引な策だろうとしてもだ。


俺は通路ですれ違った若い騎士を呼び止めた。


「悪いんだけど、この城の全騎士、全従者が今から全員大広間へと集まるように伝言を触れ回って欲しいんだけど。

もちろんカルミナ王の命令だ。」


「ハッ!! 了解致しました!!」


あー、俺余計な事してるのかなぁ……

いや、これはカルミナの為なんだ。

心を鬼にしてでも実行してやるぜ!


後は主役の説得だ。ここが1番の最難関であろう。


王室の前まで帰って来た俺は意を決して扉を開く。


「ただいまー、みんな元気そうだったよ。」


「おかえりっ! そう、よかったぁ。」


王室へと入るとカルミナはテーブルの前の椅子へと腰掛け、少し元気無さそうにお茶を啜っている。

そこで、俺は対面の椅子へと腰掛けた。


「なぁ、カルミナは今のクラウンネームを持たない自分をみんなに見られるのが怖いか?」


席に着くや否や俺はいきなり確信へと踏み込んだ。


「……うん。凄く怖いよ……。」


カルミナの顔が一気に曇るのが一目瞭然だった。

やはり予想通り、カルミナが人前に出たがらないのはそう言う理由で間違い無さそうであった。


「1つ聞かせてくれ。先代の国王はカルミナのお父さんだったって事でいいのか?」


「え? うん、そうだけど……」


「じゃあ、国王でありお父さんさんはクラウンネームを持っていたのか?」


「……持って……なかったよ。」


国王はクラウンネームを持っていなければならないなんて事は無いはずだ。

事実カルミナのお父さんは能力も無しに一国を纏め上げていたはず、お父さんに出来て娘に出来ない事は無い……事も無いか。


「本来、国王の覇気なんてもんは能力なんてもんじゃあ無いんだ。その人の才能や素質、迫力なんかが加わって覇気って括りになってるんだと俺は思ってる。


クラウンネームなんかに頼らなくても、カルミナには充分にその素質があると思うんだ。

このイルム王国の王はカルミナだ。

その事実はどうあっても変わらないし、俺が変えさせない。


みんなに全てを話そう……カルミナ。」


「……Kがそこまで言うなら……

分かった。わたしみんなにお話しするよ。」


カルミナが勇気を出し、決心してくれた後に実はもう大広間へと集まってもらうように頼んでいると伝えると、驚きはしたものの、すぐに冷静な態度でありがとうと言い笑顔を見せてくれた。


本当に16歳とは思えない。

俺が16歳だった頃どんなだっただろう……

親に参考書買うからお金くれと言い、ゲームを買って毎日夜遅くまで……

全くロクでも無いな、比べてごめんなさい。


2人で王室を出て廊下を歩くが、てんで人の気配が感じられなかった。恐らくすでにこの城の全ての人間が大広間へと集まっているに違い無い。


大広間へと向かう間、やはり怖いのか少し前を歩く俺の袖をチョンと掴みながら歩くカルミナの手が少し震えているようだった。


この角を曲がれば大広間だという所でカルミナが立ち止まった。


「……ねぇ、K?」


「どうした? やっぱり怖いか?」


「んーん、大丈夫。……ありがとう。」


そう言うと、再び歩き出し城の人間全てが集まった大広間へと2人並んで入って行く。


大広間は少しざわついていた。

無理も無い、何せ王が10日ぶりに姿を現したのだ。

多くの人間が神楽との闘いを目撃した訳では無い、時間にすればほんの1時間あるかないかだ。


カルミナが襲われたという事実は広まれど、どんな怪我を負ったのかなどは知らない人間のほうが大多数だったのだから。


その王が今、元気な姿で目の前に現れた。

国民にすれば歓喜する場面であろう。


カルミナが俺の一歩前を歩き、壇上へと向かう。

俺は壇上手前で止まろうとしたが、カルミナに袖を掴まれたまま引っ張られていた。


え? 俺も壇上あがんの!?


上がりきった所でようやく俺の袖は解放された。

カルミナは玉座へと腰掛け、足を組み手を組んだ。


そこで16歳の少女とは思えない迫力で。


「私の名はカルミナ レオ イルム!!

この国の王だ!! 異議のある者はおるか!!」


オオォォォォォッー!!

我らが王よ!!

御無事で何よりで!!

カルミナ王ーッ!!


至る所からカルミナを慕う歓声が上がり、大広間には大勢の従者の声が響き渡っていた。


「ハハッ、やっぱり王様なんだよカルミナは。」


カルミナの横で俺は小さく呟いた。その声は歓声に掻き消されカルミナの耳には届かなかっただろう。


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