Chapter57 姉妹
ディアンとアイリが実の姉妹だって!?
そんな馬鹿な、全然似てはいないではないか。
目はパッチリとどちらかと言えばツリ目で背が高く、気性も荒めのディアンに対し、いつも眠たそうな目で背丈は小さく、おっとりとしたアイリ。
共通点を上げるとするならば、2人とも髪色が金髪だって事ぐらいしか見当たらないのだが……
まぁ、それが事実だって言うのならば、それ以上俺が何かをつっこむ訳でも無いんだが。
「つまり、お前はツンデレでシスコンという2つの属性を持っているって事なんだな。」
なんと言うか、ただでさえ団長としてキャラがあるのに更にツンデレとシスコンという属性までも持ち合わせているディアンに俺は嫉妬していた。
どんだけキャラを立たせる気なんだ。
「ツ、ツン!? な、何を言うか貴様!! わ、私は確かにアイリを愛している!! それは認めよう。だが、ツンデレなどと言う自覚は決して無い!!」
ディアンは顔を真っ赤に染め、照れているのか激昂しているのかよく分からない表情をしている。
ん? そう言えば、ツンデレとシスコンはこちらの世界でも通じる言葉なのか?
ディアンは理解しているようだし……不思議だ。
「アイリ、怪我はもういいのか?」
「……うん。もう平気。」
「な、何故私を無視するのだッ!?」
よかった、2人共無事そうだな。ディアンもこんだけ元気に騒げるのならばもう心配いらないだろう。
後ろをふと振り返ると、ジャックさんのベッドから爆音のイビキが鳴り出した。
大きな鼻提灯を作り気持ち良さそうに眠る姿を見て、俺はまた1つ安堵した。
「……圭殿、もうお身体はよろしいので?
助太刀に入ったものの、お力になれず面目無い。」
「ヴァイスさん……俺はこの通りピンピンしてますよ! そんな事言わないで下さい! 俺だってギリギリだったんですから。」
ゆっくりとベッドから身体を起こしたヴァイスさんの右手には、痛々しいほどの包帯が巻かれ血が滲み出しているようだった。
「それはそうと圭殿、あの闘いの最中に見せられた天使族のようなお姿は一体何だったのですか?」
「そうよ圭ッ! 貴様は一体何者なのだ!?」
「……あれは圭のチカラ?」
うーん……説明するのが非常に面倒臭い……
アイリは俺が別の世界きら来たって事は知ってるみたいだが、他の人は知らないんだよなぁ……
適当に説明してもボロが出て色々突っ込まれるのも嫌だし。
「ま、まぁ、そんな所だ。クラウンネームとは違うんだけど俺の特殊能力ってやつだな。」
3人共思う所はあるだろうが、俺の言葉になるほどと頷いてくれているようだった。
しかしアイリだけは、やはり鋭いのか俺の背後から疑いの視線を送っていたが目を合わせないよう誤魔化す。
すると、この部屋へと1人の若い兵士が早足で駆け込んで来た。
「アイリちゃん! お見舞いに来たよ!」
俺が若い兵士の方へと身体を向けると、アイリはくるりと身を翻しまたまた俺の背後へとしがみ付いた。
「……チッ、ウザいのが来た。」
あれ? 今アイリ舌打ちした? えーと……
そんなキャラだったっけ?
「今日はお花を持って来たんだよ。早く元気になって僕とデートしようね!」
若い兵士は一輪の花を持ち、満面の笑みを浮かべていた。
この若い兵士、恐らく騎士では無いだろう。
俺が知るこの国の騎士は、身に付ける鎧も剣も綺麗で一目でただの兵士では無いと分かる。
こう言っては何だが、この若い兵士は少し見すぼらしく感じる。恐らくただの兵士。
縦社会で言えば平社員のような男であろう。
「……だまれ、くそメガネ。」
アイリが俺の背中にしがみ付いたまま顔だけを出し、とても小さな声で兵士を罵倒する。
い、いやいや、確かにこの若い兵士は黒縁のメガネを掛けてはいるけど……
「んー、アイリ今日も可愛いねぇ! リハビリに少し外でも歩くかい? 手なんか繋いじゃってさ!」
しっかしこの男、全く周りが見えて無いんだろうなぁ、アイリしか眼中に無いって感じだ。
「……殺すぞ、デスメガネ。」
怖ッ! あのおっとりとしたアイリから殺すぞって言葉が出て来たぞ!? って、デスメガネって……
死のメガネってなんだよ……
「毎日毎日私のアイリに対し貴様……
1度斬らねば分からんようだな……」
傍らに置いてあった剣に手を伸ばし鞘から抜いた。
いやいや、斬ったらダメでしょう!?
ディアンも落ち着けよ!! って、お前のアイリって訳でも無いからな!
「ま、まぁまぁ君、今日はアイリの調子が良く無いみたいなんだ、また明日にでも来てやってくれよ。」
「そうですか……わかりました! また明日朝1で来ます! それじゃあ失礼します!」
若い兵士はとても礼儀正しく深々とお辞儀をした後、再び早足で病室を後にした。
なんだ? 凄い好印象な感じしかしなかったけどな。
「あの馬鹿者やっと帰ったか。礼を言うぞ圭。」
怒りに震える手で剣を鞘へと納めたディアンは、ようやく一息ついているようであった。
「……デスメガネ、次来たらメガフレア当てる。」
背後にいたアイリを振り返ると、気付かないうちに魔法陣を作り出し今にも放たんとする所であった。
マジでデスメガネ君を殺すつもりだったのか!?
しかし、よっぽど嫌われてんなぁデスメガネ君……
アイリはトコトコとディアンのベッドの横へと歩き出し、2人でデスメガネの悪口に花を咲かせているようであった。
そんな仲の良さそうな2人を後ろから見ていると、本当に姉妹だという事も頷けてくるようであった。