Chapter55 守護天使のチカラ
「悪りぃな神楽、俺もこのチカラの使い方よく分かってねぇんだ、やり過ぎちまうかもな。」
「ハッ！ ほざけ!! テメェは俺の強さを知らねぇだろがぁ、すぐに後悔させてやんからよぉ！」
きっとこのチカラ、大天使ルシフェルのチカラならば、きっと神楽には負けない。
絶対勝てるとは言わないが、負けない自身だけはある。
確証は無いが、何故だかそう思えるほどのチカラが漲ってくる。
天使降臨では無いからなのか、名前を思い出したからなのかは定かでは無いが、以前とは比べ物にならないほどのチカラを感じていた。
「じゃあ、いきなり全力で行かせてもらうわ。」
足に力を込め、神楽に駆け寄った。
それはほんの一瞬の出来事、自分の身体が移動したはずなのに自分の視力が全く追い付いていない。
気付けば神楽がすぐ目の前に居て、自分で驚いた。
「なッ!?」
「うらぁぁぁぁあッ!!」
もちろん神楽の視力も俺の動きには着いてこれてはいないようだった。
怯む神楽に対し、長剣をまるで子供が扱うオモチャのように振り下ろす。
「まッ、魔障壁!!」
神楽は咄嗟に自分の頭上へと手を掲げ、黒い魔法陣のような盾を作り出した。
その魔障壁へと、俺の一撃は撃ち込まれる。
長剣の勢いは完全に止まったものの、神楽の作り出した魔障壁はガラスのように砕け散り割れてしまった。
「バッ、バカな!! なんで物理攻撃でコレが……」
神楽は心底驚いていた、恐らくこの技が1度も破られた事が無かったのであろう。
そんな事は御構い無しに、身を翻しさらに斬りかかる。
「チッ!!」
しかし、接近戦では武が無いと判断したのか、舌打ちをした後、大きくバックステップをし距離を置いた。
「……ケッ、予想以上にやるじゃねぇか小田ァッ!!
じゃあ、コレならどうだッ!! 暗黒牢!!」
神楽が俺に手の平を向け、魔力を込めた。
すると、俺の足元と頭上に黒い魔法陣が現れ、そこから黒い光が現れて上下に繋がり、黒いカプセルのように俺は閉じ込められてしまっていた。
「うおッ!? な、なんだコレ!? クッ、出られねぇ……
……お、俺の剣が……!?」
黒い壁を叩いてみても、長剣で斬りかかってみても、
黒い壁は一向に壊れない。
それどころか、俺の長剣がみるみる朽ちてゆく。
「ギャッハッハ！ そのまま朽ち果てちまいなぁッ!!」
な、なんだ!? 閉じ込めた相手を朽ち果てさせる魔法なのかよ！ 趣味悪過ぎんだろぉ……
あぁ……剣が完全に風化しちまった……
何とか出来ねぇもんかな、そういえば天使って聖力ってのがあるんだよな。
今の俺にも聖力があるのだろうか……
天使のチカラの使い方などは分からない。
誰かにならった訳でも、見た事すら無い。
右手を黒い壁に当て眼を閉じ、神経を研ぎ澄ます。
こうか？ いや、違う……何処に力を入れれば……
これなら！ お？ なんかイケそうな気がする……
力を込めるんじゃなく、心を込める感じだな……
うぉぉッ!! なんか出やがれぇー!!
……え？
「な、なんか出たぁぁぁぁぁあああッ!!」
俺の右の手の平が白く輝き出し、黒い壁の中を縦横無尽に乱反射している。黒い空間の中を光が充満してゆく。
「うわぁぁぁぁぁああー！」
充満し膨張した光は、黒い空間の許容範囲を超えていた。
それは爆発にも近い形で、黒い壁を粉々に破壊した。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……じ、自分が出したよくわからんヤツで死ぬかと思ったぞ……」
「クッ、ククッ、ギャーッハッハッ!!
マジかよ!! 暗黒牢まで破んのかよテメェ!!
気にいったぜ、小田ァッ俺の部下になれよ。
いい夢見させてやんぜぇ〜？」
暗黒牢を破り外に出た俺を、悔しがる訳では無い。
神楽はむしろ喜んでいるように見えた。
「は、はぁ!? ふざけんなッ!! 絶対にお前は俺が」
「だよなぁ〜？ そお言うと思ったぜ、テメェなら幹部扱いにしてやっても良かったんだけどよ……
まぁいい、目当ての品は手に入れた。
今日はこの辺で引き上げてやるよッ!!」
神楽はとても笑顔だった。とは言ってもそれはそれは不気味な笑顔で俺の目を見つめていた。
「おい！ まさかこのまま逃げ」
「バーカ、戦略的撤退だぁッ!! 本来のラスボスの立場に戻んだよ！ お前が俺まで辿り着くのを1番奥で待っててやんよ……ククッ……
……それに今回はテメェの負けだッ!!
俺は目的を果たした、テメェは仲間を守れなかった。
ギャッハッハ!! じゃあなッ!!」
「ま、待てッ！ 神楽ぁッ!!」
俺は神楽に掴みかかろうと、一瞬で近付き手を差し伸べるが、神楽を掴む事は出来なかった。
神楽は黒い霧となり、消えるように居なくなってしまったのだった。
「ハハッ……すれ違わなかったのはそのせいか……」
俺はその場に膝から崩れ落ちてしまった。
疲れからでは無い、悔しかった、悔しくて仕方がなかった。
側から見れば、俺の勝利で終わったようにも見える。
城内に侵入した輩を力で追い出したのだ、賞賛されても可笑しくは無いだろう。
だが、神楽の言う通り完全に俺の負けだった。
門兵と冒険者達は、いとも簡単に殺された。
ジャックさん、ディアン、アイリがそれぞれ大怪我を負い、ヴァイスさんに至っては、今後剣も握れないかも知れない。
俺が1番許せなかったのは、いや、神楽をでは無い。
自分が自分を許せなかった。
カルミナを守ってやる事が出来なかった。
あれだけ俺が守る、と自分に誓った事を、こうも容易く守れないなんて、自分自身が許せなかった。
「……みんな、俺のせいでゴメン……
……カルミナの能力奪われちまった……本当にゴメン……情けねぇよ……俺……」
俺の目からは悔し涙が流れ落ちていた。
そして、身体から天使が抜けていく気配を感じとった。
身体に自分の身体の感覚が戻って来た事を感じると同時に、目の前が真っ白になり、
そのまま倒れるように意識を失ってしまった。
